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1.重水
熱中性子炉に必要な減速材として、現在主に使われているのは軽水、重水および黒鉛であり、その他にもベリリウムとその化合物、水素化物として金属水素化物、金属水酸化物があり。有機物も減速材になるが、
表1 に示すように、新型転換炉では最も減速材として優れている重水を使用している。
重水は天然の淡水中場所によって130ppm〜150ppm、海水中に160ppm前後存在する。工業的には淡水から、水分子中に含まれる水素同位体の違いによる化学平衡の差を利用した硫化水素/水系
二重温度交換法等により製造される。
原子炉に使用する重水には99.8% 程度の純度が要求される。
原子炉は、放射線分解等により重水素、酸素、
トリチウム、過酸化重水素その他の生成物や不純物を処理するためヘリウム純化系や重水浄化系を有している。また重水浄化系の
イオン交換樹脂の重水化により、純度の低下した劣化重水は重水精製建屋に移送され、電解法あるいは水−水素
同位体交換反応法によって99.8% 以上に純度が上げられる。
2.重水・ヘリウム系設備の概要
新型転換炉は、減速材の重水系と、重水の劣化を防ぎ重水の放射線分解ガスを再結合するためのヘリウム系とを持つために、
図1 に示すような重水ヘリウム系統設備を有する。
表2 に主要機器仕様を示した。この系統の機器配管は、重水中のトリチウムが外部に漏洩しないように、(1) ポンプ類は回転軸シールのない
キャンドローターポンプを採用した。(2) 弁類はボディとボンネットの接続部をシール溶接したベローシール弁を採用した。(3) 管継手は、可能な限り溶接式とし、フランジ継手にはシール溶接が可能な特殊フランジを採用した。重水中に発生する腐食生成物を減少させるため、機器配管の材料にはオーステナイト系ステンレス鋼を使用した。
(1)重水冷却系
この系統は、中性子の減速および
γ線により発生した重水の熱を除去し、
カランドリアタンク上管板、
カランドリア管および
制御棒を冷却するため重水を循環冷却する系統である。
重水はキャンドロータ式の重水循環ポンプで加圧され、重水冷却器で冷却された後、大部分は
制御棒案内管を通じて炉心タンクの下部に押し込まれる。一部はカランドリアタンクの上部管板よりカランドリア管外面を伝わって重水面に流れ込む。
炉心タンク上部より溢流した重水は、オーバーフロースペースを経てオーバーフロー管より
カバーガスであるヘリウムガスを巻き込みながら、重水ダンプタンクに流入する。重水ダンプタンク内で気液分離されたあと、重水循環ポンプ吸込側に戻される。
(2)重水浄化系
浄化系は、重水中の腐食生成物などの不純物の除去による重水の浄化および初期炉心において、
余剰反応度を吸収するために注入した液体
ポイズン(硼酸)の濃度を燃料の
燃焼度に応じて調整する。
本系統は、重水冷却器出口より重水を分流し、陰イオン交換樹脂によるポイズン除去塔と、陰イオンおよび陽イオン交換樹脂による混床式重水浄化塔により、重水を浄化して重水ダンプタンクに戻す。重水浄化およびポイズン除去に使用される新樹脂は、樹脂洗浄塔で洗浄し、重水浄化塔で樹脂中の軽水をあらかじめ完全に重水と置換して用いられる。
(3)ポイズン供給系
本系統は、粉末濃縮ホウ酸を重水で溶解して液体ポイズンにする加熱器、および攪拌機付のポイズン溶解槽を有する。液体ポイズンは重水ダンプタンクに送られ均質化され、カランドリアタンクに流入する。
(4)ヘリウム循環系
本系統のヘリウムガスは、カランドリアタンクのオーバーフロースペースから溢流する重水がヘリウムガスを巻き込んで重水ダンプタンクに流入することにより加圧され、循環力を得ると共に次の機能を有する。
(a)カランドリアタンクのオーバーフロースペースとダンプスペース間のヘリウムガス差圧を調整して、炉心タンク内の重水液面の水位を制御する。
(b)重水水位を保持しているカランドリアタンクのオーバーフロースペースとダンプスペースの間の差圧を零にすることにより、原子炉緊急停止機構としての制御棒による停止機能のバックアップとして、重水ダンプによる原子炉停止機能を有する。
(c)重水の放射線分解で生じる重水素と酸素はヘリウム循環系にある再結合器により再結合し、ヘリウムガス中の重水素濃度を抑制する。
(d)起動時の重水水位の上昇と重水ダンプ時のヘリウムガスの循環のためのエゼクターを有し、またヘリウムガスの補給のためのヘリウムサージタンクを有する。
(5)ヘリウム浄化系
ヘリウムガスの脱湿と不純物の除去をするため、冷凍装置、冷却器、水分分離器および脱湿器を有し、またガス純度が低下した場合にヘリウムガスの精製を行うため圧縮器、活性炭吸着精製器等を有する。
3.重水管理
わが国のATR原型炉「ふげん」での重水は、99.7wt%以上の高純度に維持され中性子経済を良くしている。劣化重水は、主に重水浄化系の樹脂交換時の樹脂の軽水化とその後の重水化によって発生する。発生した劣化重水は、
図2 に示すように高濃度劣化重水貯槽と低濃度劣化重水貯槽に分けて保管し、高濃度劣化重水( 約95%)は電解法による重水精製装置で、低濃度劣化重水( 約30%)は水−水素同位体交換反応法による重水精製装置で 99.8 wt%以上に
再濃縮して用いられる。
<図/表>
<関連タイトル>
新型転換炉の特徴 (03-02-02-02)
新型転換炉と軽水炉の相違 (03-02-02-03)
新型転換炉のプラント構成 (03-02-02-04)
新型転換炉の原子炉本体 (03-02-02-05)
新型転換炉の制御特性 (03-02-03-01)
新型転換炉開発の経緯 (03-02-06-01)
原型炉「ふげん」 (03-04-02-09)
新型転換炉実証炉計画 (03-02-06-02)
新型転換炉の研究開発 (03-02-06-04)
<参考文献>
(1)原子炉材料ハンドブック 昭和52.10.31 日刊工業新聞社
「ふげん」の開発実績と「実証炉」の設計 1979.11 動力炉・核燃料開発事業団
(2)動燃十年史 昭和53.12. 動力炉・核燃料開発事業団
(3)動燃二十年史 1988.10 動力炉・核燃料開発事業団
(4)動燃技報 No.69 「ふげん」特集 1989. 3. 動力炉・核燃料開発事業団
(5)動燃技報 No.73 1990. 3. 動力炉・核燃料開発事業団
(6)北山尚樹ほか:新型転換炉「ふげん」重水ヘリウム系の開発と重水取扱技術 実績、動燃技報、No.(1988.12)
(7)動力炉・核燃料開発事業団:新型転換炉原型炉「ふげん」技術成果の概要、 1991年8月
(8)J.J.Duderstadt.L.J.Hamilton(成田正邦、藤田文行(訳)):Nuclear Reactor Analysis(原子炉の理論と解析)、John Wilery & Sons(現代工学社、1981)