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<概要>
 新型転換炉は、減速材重水を用い、原子炉容器の構造が圧力管型であり、燃料にウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)を使用している。このため、炉心、燃料、原子炉本体、原子炉冷却系、原子炉補助系、非常用炉心冷却系、計測制御系、燃料取扱系等に軽水炉とは異なった特徴がある。特に原子炉補助系は、「ふげん」特有の系統で、この中に重水系、ヘリウム系、炭酸ガス系がある。一方、原子炉の冷却は沸騰軽水によるため、設備上はBWRに似ている点が多い。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 新型転換炉の原型炉「ふげん」(電気出力165MW)は順調に運転され、貴重な運転経験とデータの蓄積が進んで、核燃料の有効利用に役立つことが明らかになった。次の段階の実証炉計画については、新長期計画の中で電源開発(株)(電気出力約600MW)が青森県大間町に2000年代初頭の運転開始を目標に建設計画を進めることとなっている。原型炉「ふげん」も実証炉計画もプラント構成は同様であるので、新型転換炉のプラント構成の例とし原型炉「ふげん」を採り上げる。主要諸元を 表1 に、主要系統図を 図1 に、主要建屋断面図を 図2 に示す。
 「ふげん」は、原子炉本体、原子炉冷却系、燃料交換装置等を収容する原子炉建屋を中心として、原子炉補助建屋、タービン建屋、および燃料貯蔵プール建屋、廃棄物処理建屋が隣接して配置されており、それぞれの建屋に各系統のプラントが収容されている。
 原子炉建屋の中の大部分は原子炉格納容器が占めている。原子炉格納容器は上下部半楕円鏡板を有する円筒形鋼製で、PWRの格納容器に似ている。
1.原子炉
 原子炉本体概念図を 図3 に示す。原子炉本体は格納容器のほぼ中央に設置され、カランドリアタンク、圧力管、鉄水遮蔽体等で構成される。カランドリアタンクは、正方格子に配列された多数(「ふげん」では224本)のカランドリア管を取りつけた縦型円筒タンクであり、減速材の重水が満たされている。それぞれのカランドリア管には圧力管が挿入されており、各圧力管には燃料集合体を1体収容し、軽水の冷却材の通路となっている。燃料集合体は、圧力管下端部より圧力管内に出し入れを行うため、圧力管下部には遠隔自動で着脱できるシールプラグが装着されている。
 カランドリアタンクの周囲は、炉心からの中性子やγ線を遮蔽するために、鉄板と水の多層構造の鉄水遮蔽体で囲まれている。カランドリアタンク、圧力管および燃料集合体により炉心部を構成し、炉心高さ3.7m、直径4.05mで、周囲の半径方向、軸方向にそれぞれ約 0.4mの重水反射体がある。初装荷炉心の炉心構成図を 図4 に示す。
2.原子炉冷却系
 原子炉冷却系のプラント運転状態図を 図5 に示す。原子炉冷却系は、224本圧力管群を122本ずつに分割した独立2ループ構成である。それぞれのループには蒸気ドラム1基、再循環ポンプ2台、下部ヘッダ1基と配管・弁がある。原子炉冷却水は、下部ヘッダから122本の入口管(径50mm)に分かれて各圧力管の下部より入り、炉内で沸騰し二相流の気水混合体となり、122本の上昇管(径75mm)を経由して蒸気ドラムに流入する。蒸気ドラム内のセパレータで気水分離された蒸気は蒸気タービンへ、飽和水はタービン系から戻ってきた給水と混合して下降管を経由して再循環ポンプに戻り、再び炉心に送られる。
3.重水系
 重水系は、カランドリアタンク内でγ線および中性子の減速により発生した熱の除去、重水中の腐食生成物およびその他の不純物の除去と重水中の硼酸濃度の調整を行う。重水はカランドリアタンクの上部よりオーバーフローし、ダンプタンク、重水循環ポンプを経て重水冷却器により冷却された後、炉内の制御棒案内管を経て、カランドリアタンクの下部に戻る。また、一部の重水を重水浄化塔に通して腐食生成物等を除去している。
 「ふげん」では、初期炉心や燃料取替初期の余剰反応度を抑制するために、重水中に硼酸を溶解している。燃焼に伴う反応度の補償やゆるやかな出力上昇には、重水中の硼酸を除去する。このため、重水系にはポイズン供給設備とポイズン除去用イオン交換塔を設けている。
4.ヘリウム系
 ヘリウム系は、重水の劣化を防ぐため重水表面上にヘリウムガスを満たしており、重水の放射線分解によって生じた重水素と酸素はヘリウムガス中に放出され蓄積されてくるので、再結合器に通して重水素濃度を抑制している。
 ヘリウムガスの循環は、重水がカランドリアタンクからオーバーフローする時にヘリウムガスを巻き込み、重水・ヘリウムガスの混合流となって重水ダンプタンクに流れ落ちる時にヘリウムガスが加圧され循環する方式を採用している。
 カランドリアタンクの重水水位は、カランドリアタンクの重水オーバーフロースペースとダンプスペース間のヘリウムガス差圧を調整し制御している。緊急時には、ヘリウム連通弁を急開してカランドリアタンク内のヘリウムガス差圧を無くすことにより、重水水位を急激に低下させて原子炉を未臨界にする重水ダンプ機能を有している。
5.非常用炉心冷却系
 非常用炉心冷却系については、別タイトル「新型転換炉の工学的安全防護システム」の中で詳述しているので参照されたい。
6.プラント制御系
 制御系系統図を 図6 に示す。「ふげん」では炉心に49本の制御棒が原子炉の反応度の制御および出力分布の調整のため設けられている。このうち4本は、出力調整用として出力の自動制御に使用する。原子炉の出力制御は、炉心内に配置された中性子検出器の出力信号により原子炉出力を計測し、あらかじめ設定した出力に一致するよう4本の出力調整用制御棒の位置を調整して行っている。
 なお制御棒が燃料集合体の外の重水中にあるため、燃料の局部的出力ピークが発生しないため出力の検出が良くなり、その結果出力の追従性が良くなる。
 蒸気ドラムの水位制御は、蒸気流量、給水流量、蒸気ドラム水位の3要素制御により給水流量調節弁の開度を調整している。タービン設備の入口圧力を制御するため、主蒸気加減弁、タービンバイパス弁の開度を電気油圧式制御装置(EHC)を介して調整している。
7.燃料取扱系
 燃料取扱設備が図2の「ふげん」主要建屋断面図の一部に示してあるが、別タイトル「新型転換炉の燃料交換システム」に詳述しているので参照されたい。
8.タービン・発電機
 二次系(給水・蒸気系)系統図を 図7 に示す。高圧タービンを出た蒸気は、湿分分離器で湿分を取り除いて低圧タービンに入ってタービンを回転させた後、復水器に入り海水で冷却されて水となる。復水器から蒸気ドラムに戻る水は、復水ポンプおよび給水ポンプで昇圧され、低圧タービンおよび高圧タービンから一部抽気された蒸気によって加熱され蒸気ドラムに戻る。
 発電機で発生した電力は、2回線の275kV 送電線を通して送電系統へ連係している。
<図/表>
表1 「ふげん」プラントの主要諸元
表1  「ふげん」プラントの主要諸元
図1 「ふげん」の主要系統図
図1  「ふげん」の主要系統図
図2 「ふげん」主要建屋断面図
図2  「ふげん」主要建屋断面図
図3 「ふげん」原子炉本体概念図
図3  「ふげん」原子炉本体概念図
図4 「ふげん」炉心構成図(初装荷炉心)
図4  「ふげん」炉心構成図(初装荷炉心)
図5 「ふげん」原子炉冷却系のプラント定格運転状態図
図5  「ふげん」原子炉冷却系のプラント定格運転状態図
図6 「ふげん」の制御系統図
図6  「ふげん」の制御系統図
図7 「ふげん」の給水・蒸気系統図
図7  「ふげん」の給水・蒸気系統図

<関連タイトル>
新型転換炉と軽水炉の相違 (03-02-02-03)
新型転換炉の原子炉本体 (03-02-02-05)
重水減速材 (03-02-02-06)
新型転換炉の冷却システム (03-02-02-07)
新型転換炉の燃料集合体 (03-02-02-08)
新型転換炉の燃料交換システム (03-02-02-09)
新型転換炉の制御特性 (03-02-03-01)
新型転換炉の工学的安全防護システム (03-02-03-02)
新型転換炉実証炉計画 (03-02-06-02)

<参考文献>
(1)動燃技報:No.69 1983. 3. 「ふげん」特集
(2)「ふげん」の開発実績と「実証炉」の設計:動力炉・核燃料開発事業団 1979.11.
(3)動力炉・核燃料開発事業団:「ふげん」特集、動燃技報、No.69(1989.3)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1994年版、平成6年11月
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