減速材が中性子を吸収することなく減速させる能力を示す尺度であり、減速能を巨視的吸収断面積で除した概念である。核分裂で発生する高エネルギーの中性子を減速する時に、減速能の大きな減速材を用いると効率的に減速できるため、核分裂性物質の濃度の低い燃料を用いて臨界状態を維持できる。しかし、天然ウランのように核分裂性物質の濃度のきわめて低い燃料を用いるためには、核分裂で生まれた中性子を吸収で失うことなく、できるだけ効率的に次の核分裂に役立てる必要がある。重水は軽水に比べると減速能では劣るが、中性子の吸収が少なく(巨視的吸収断面積が大きく)、減速比は軽水よりも大きい。そこで、重水を減速材に用いた原子炉では、天然ウランをそのまま燃料とすることができる。黒鉛(炭素)は重水よりもさらに減速能が劣るが、巨視的吸収断面積が小さいために減速比が軽水の2倍以上の値となり、重水と同様に天然ウラン燃料の原子炉の減速材として用いることができる。