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新型転換炉(ATR)原型炉「ふげん」(電気出力16.5万kW)は、
重水減速沸騰軽水冷却
圧力管型炉として、動燃事業団(現、日本原子力研究開発機構)により1967年から開発が進められた。「ふげん」は1970年に福井県敦賀市において建設が開始され、世界で初めて
ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を本格的に使用する発電用熱中性子炉として、1979年本格運転を開始して以来20年以上にわたり安定運転を続けている。「ふげん」開発の経験および運転実績を通じて、プルトニウム利用技術およびATR型炉のシステム技術が実証され、広汎な技術分野にわたり成果があげられている。
「ふげん」の2000年度末現在の総発電電力量(累計)は約207億kWh、平均
設備利用率は64.0%に達している。「ふげん」プラントの主要諸元を
表1に示す。原型炉「ふげん」は、1998年10月の法令改正により、2003年に停止して廃止措置に移行する計画である。
1.原子炉の概要
「ふげん」原子炉のプラント概念図を
図1、原子炉炉心断面図を
図2に示す。原子炉の炉心部は重水減速材を満たした竪型円筒状のカランドリア・タンク、24cmピッチの正方格子状に配列されたカランドリア管、および同管内に挿入され圧力管(この内部に燃料集合体が装荷されており、同時に冷却材チャンネルとなる)から構成される。圧力管、カランドリア管には、熱中性子吸収が少なく、強度と耐蝕性にすぐれた材料として、それぞれジルコニウム−2.5%ニオブ合金、ジルカロイ−2が使用されている。なお高温の圧力管からの熱損失を軽減するため、カランドリア管との間隙は15mmの炭酸ガス絶縁層となっている。
燃料集合体は、28本の燃料棒の3層同心円状配列のクラスター型構造で、その全長は約4.5m(燃料有効長3.7m)である。燃料として、MOXまたは同一構造の微濃縮
ウランが使用される。燃料集合体の構造を
図3に示す。
原子炉冷却系は冷却系の単純化と事故時の局限状態の両者を勘案し、炉心を2分割した独立2ループ構成を採用している。それぞれのループに
蒸気ドラム1基、再循環ポンプ2台、下部ヘッダと配管、弁が設けられている(
図4参照)。
原子炉補助系として重水系、重水のカバーガスとして使用するヘリウム系、および圧力管とカランドリア管との間隙の熱絶縁等のための炭酸ガス系が設けられている。
制御棒は炉心の外周部を除き、燃料集合体4体当たり1本の割合で、49本が配置されており、電動機駆動ワイヤドラム方式により、重水を満たしたカランドリアタンク内に設けられた制御棒案内管中を上下し、その位置は連続的に調整することができる。
燃料交換は圧力管下部の
シールプラグを取り外して行われる。燃料交換装置は中央制御室から遠隔操作できる。
工学的安全防護システムとしての炉心緊急冷却系(
ECCS)は、急速注水系、高圧注水系および低圧注水系の3系統より構成され、配管破断事故時には下部ヘッダまたは蒸気ドラムに注水する。
以上述べた原子炉の主要設備および機器類のほとんどは、原子炉格納容器内に設けられ、蒸気ドラムで分離された蒸気は、主蒸気管により格納容器外の蒸気タービンに導かれる。
この型の原子炉では核分裂に必要な中性子が主として低温の重水減速材中で減速され、熱中性子となって圧力管内の燃料に供給されるので、プルトニウムの共鳴吸収の影響を受け難く、MOX燃料もウラン燃料と同一の集合体形状、寸法で効率よく燃やせる特徴を有している。また熱中性子吸収の大きい軽水冷却材量は、炉心内では必要最小限に抑えており、冷却材ボイド率が増加した場合、中性子減速の効果および熱中性子吸収の効果が減少するが、その影響は小さく、冷却材
ボイド反応度係数としてはほぼゼロ近傍の値を示し、プラントの安定な制御が可能となっている。
2.運転実績および技術成果
「ふげん」プラントは1978年起動試験を開始し、発電用原子炉としてのプラントの制御特性、負荷遮断などのプラント異常時の過渡応答性および連続出力運転特性について確認試験を行い、設計性能を満足することが確認された。「ふげん」開発の経緯を
図5に示す。
1979年本格運転を開始して以来、20年以上の運転実績と16回の定期検査を通じて新型転換炉システム技術の開発と実証を図ってきている。1980年原子炉冷却系の
応力腐食割れ(
SCC)の発生による補修工事のための約10ケ月間の停止を除けば、
表2に見るように順調に運転されている。2000年度末までの総発電電力量(累計)は約200億kWhに達し、本格運転開始以降の平均設備利用率は64.0%である。この間の運転を通じて、運転手法の確立を図り、圧力管等の枢要機器の信頼性を確認すると共に運転保守技術の高度化を行い、ふげんの発電プラントとしての設計成立性を実証してきた。
図6に2001年度までの設備利用率と累積発電電力量を示す。
「ふげん」の運転により得られた主な技術成果を次にあげる。
(1)
図7に「ふげん」におけるMOX燃料の使用実績を示すが、MOX燃料および二酸化ウラン燃料の破損または異常変形は全く発生していない。また
照射後試験などの結果、両者の照射挙動に差異は認められない。炉心へのMOX燃料装荷比率は最大で72%に達し、2000年3月までの累積装荷MOX燃料は726体に達するなど世界最高のMOX燃料集合体の使用実績をあげた。装荷されたMOX燃料には高燃焼度化を目標にした36本型照射用ガドリニア燃料も含まれていて、1997年1月で照射試験を終了し、MOX燃料として約40,000MWd/tの燃焼度を達成している。これにより核燃料利用の柔軟性を実規模で実証した。
(2)MOX燃料装荷炉心の
核特性や過渡変化時のプラント挙動を精度よく評価できる解析手法を確立した。
(3)重水の水質管理、重水精製技術を逐次改善し、重水取扱技術を確立した。
(4)保守点検を通じて、
圧力管集合体、シールプラグ、燃料交換装置などのATR特有設備・機器および国産化された原子炉再循環ポンプ、
主蒸気隔離弁などの重要機器の性能および信頼性が実証された。
(5)SCC対策のための原子炉冷却系の水素注入による水質改善技術を確立し、実証した。また、冷却系ループの化学除染及び再汚染防止のための亜鉛注入行い、優れた被ばく低減効果を実証した。
3.廃止措置計画
原型炉「ふげん」は、1979年3月から本格的に発電を開始し、20年以上にわたり運転を行って来た。これに引き続く実証炉は1995年8月の原子力委員会の決定により建設が中止されたが、その後も「ふげん」は運転を継続し、MOX燃料利用技術開発等を進めて来た。しかし、旧動燃事業団からサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)への改組に関する1998年2月の原子力委員会決定を経て、1998年10月にサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)法が制定され、新型転換炉開発業務は2003年までと定められた。
2003年3月29日、「ふげん」は運転を終了し、9月30日新型転換炉開発業務を終了した。このあと、廃止措置計画に移行した。
図8に示すような基本工程に基づいて、放射性核種濃度の評価、エンジニアリング支援システムの開発、解体手法の検討、廃棄物処理技術の開発等を計画的に進めるとともに、廃止措置に向けた諸準備(
図9)を行っている。
<図/表>
<関連タイトル>
新型転換炉の原子炉本体 (03-02-02-05)
新型転換炉の燃料集合体 (03-02-02-08)
新型転換炉の制御特性 (03-02-03-01)
新型転換炉の炉心冷却系の化学除染法の開発 (03-02-04-01)
新型転換炉開発の経緯 (03-02-06-01)
重水炉(新型転換炉)燃料の実例(原型炉「ふげん」用燃料) (04-09-02-06)
<参考文献>
(1)西村 弘ほか:「ふげん」の今後の活用、サイクル機構技報、No.1(1998年12月)、p.19?29
(2)動力炉・核燃料開発事業団:新型転換炉原型炉「ふげん」技術成果の概要(1991年8月)
(3)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1997年版(1997年10月)、p.126?128
(4)核燃料サイクル開発機構:
(5)動力炉・核燃料開発事業団:「ふげん」特集、動燃技報 No.69(1989年3月)
(6)新型転換炉「ふげん」発電所の現状、動燃社内資料(1990年3月)
(7)動力炉・核燃料開発事業団:「ふげん」の開発実績と実証炉の設計(1979年11月)
(8)核燃料サイクル開発機構:サイクル機構技報 No.16、JNC TN1340(2002年9月),p.64
(9)核燃料サイクル開発機構:ふげんの運転実績
(10)核燃料サイクル開発機構・ふげん発電所:ふげんの歩み、ふげん開発の経緯
(11)核燃料サイクル開発機構・ふげん発電所:廃止措置、廃止措置の進め方