<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子力に関する基礎事項
<タイトル>
原子炉・核融合炉材料の照射損傷 (03-06-01-05)

<概要>
 電力源として利用できる原子核反応には、ウランなど重元素の核分裂反応と水素など軽元素の核融合反応がある。前者は既に原子力発電として利用されており、日本における電力出力は既に全体の30%以上を担っている。後者は、夢のエネルギー源として実現が期待されている核融合炉で、その開発研究は2004年現在実験炉建設の段階にある。ここでは、炉心周辺で使われる材料、圧力容器鋼(軽水炉)、燃料被覆管材料(高速増殖炉)及びブランケット材料(核融合炉)などに共通の問題である照射損傷(*1)について解説する。
 原子力材料は中性子照射によって損傷を受ける。中性子は、材料を構成する原子との衝突及び核反応によってその結晶を乱し脆化スエリング(体積膨張)など材料特性の劣化をもたらす。これらの変化は、中性子パラメータ(束密度、エネルギー)及び材料パラメータ(温度、結晶系、組織、不純物)に大きく影響される。一方、これまでの知見をベースに耐照射性に優れた材料の開発も進んでいる。
<更新年月>
2004年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 はじめに
 原子炉・核融合炉材料は必ずしも何か特別な材料というわけではない。中性子吸収が少ない材料として特別に開発された軽水炉用燃料被覆管材料のジルコニウム合金を除けば、ステンレス鋼など一般に使われている材料が原子力用に改良されて利用されている場合が多い。炉材料の研究開発では、大きなエネルギーを持つ中性子に如何に耐え得るかが重要な課題である。また、廃棄物処理処分の観点から、中性子照射で生じる誘導放射能が小さく且つ速やかに減衰する元素からなる材料の開発も大切である。
1.中性子照射による材料の損傷
1.1 損傷の素過程
 材料に衝突した中性子は電荷を持たないため、電気的な相互作用によってエネルギーを失うことなく、主として、原子核との弾性衝突によって多数の原子を格子位置から弾き出す。金属など規則的に並ぶ原子から構成されている材料の原子配列が、乱される様子を模式的に図1に示す。衝突した原子がその格子位置から弾き出されるためには、その原子は周りの原子との結合エネルギー(〜25eV)を上回るエネルギーをもらう必要がある。弾性衝突を近似すれば、質量Mの原子が衝突時にエネルギーEnの中性子から受け取る最大のエネルギーTmaxは〜4En/Mで与えられるので、弾き出されるに必要なエネルギー(Ed)を40eVとし、M=100とすれば、Enが〜1keVを超えると原子の弾き出しが起こるようになる。中性子エネルギーが十分大きくなると、最初に弾き出された原子がさらに他の原子を弾き出すようになる。また、Enが〜500keV以上になると、原子をカスケード的に弾き飛ばすようになる(図1参照)。以上の現象を総称して弾き出し損傷(*2)という。
 中性子はエネルギーがさらに大きくなると、原子核と(n,γ)、(n,α)、(n,p)などの核反応を引き起こす。(n,γ)反応では、γ線によって格子欠陥がつくられる効果は金属材料の場合それほど大きくはない。しかし、この反応は原子核を放射化する主な原因となる。(n,α)、(n,p)反応は、それぞれヘリウム(He)原子、水素原子になり、さらにそれらは集合して金属中に残り、金属の機械的性質に大きな影響を及ぼす。これらの反応断面積は中性子エネルギーEnに強く依存する。例えば、Heが生成する(n,α)、(n,p)反応断面積は、図2に示すように、Enが〜5MeVを超えると急激に大きくなる。他の核反応、例えば(n,2n)などの反応断面積のEn依存性も同様な傾向を持つ。従って、中性子エネルギーが大きい場合には、多量に材料中に生成されるヘリウムや水素ガス原子を含む異種原子が材料特性に大きな影響を与える。この現象を核変換損傷(*3)という。核分裂炉では、中性子エネルギーの実質上限値は0.1〜1MeVであるため、核変換損傷の影響は小さい。しかし、重水素Dと三重水素Tの反応を利用する核融合炉では、中性子の最大エネルギーが〜14MeVと大きくなるため、核変換損傷の影響が大きくなる。
1.2 損傷のメカニズム
 弾き出し損傷を受けた材料では、原子が格子位置から弾き出される結果、原子のない格子点と飛ばされた原子が格子の間に留まる(図1参照)。これらは、それぞれ空孔(Vacancy)と格子間原子(Interstitial atom)と呼ばれる。この弾き飛ばされる原子数は、中性子数(束)、ターゲット(標的となる物質)の原子密度、及び中性子エネルギーとターゲット原子の性質から決まる衝突断面積に比例する。例えば、高速炉の中性子束を〜2×1019n/m2(>0.1MeV)とすると、炉心材料が1年間に受ける中性子束は〜6×1026n/m2で、その損傷量は約30dpa相当になる。ここで、dpa(displacements per atom)(*4)は損傷量の単位で、原子当たりの弾き出された原子数を表す。これらの格子欠陥の多くは再結合して、または粒界や転位線などに消滅する。しかし、ある割合の格子欠陥は集合体を形成して格子中に残る。これらの集合体は照射下でさらに成長を続け、または合体して大きくなる。一般に、空孔は3次元的に集合してボイド(空洞)となり材料のスエリング(体積膨張)(*5)の原因となる。電子線照射されたステンレス鋼に観察されるボイドの電子顕微鏡写真を図3に示す(写真では白色または灰色がかったものとして示されている)。一方、格子間原子は2次元的に集合し転位ループを形成する。このループは、その周りを転位で囲まれているが、成長して転位線さらに転位網へと発達する。この現象が照射による硬化の主な原因となる。また、これらの格子欠陥の消滅過程で、材料を構成している元素の拡散の機構や速度の違いに起因する元素の偏析現象が起こる。この現象は、特に耐食性に大きな影響を与えることが知られており、ステンレス鋼の照射誘起応力腐食割れ(IASCC:Irradiation Induced Stress Corrosion Cracking)(*6)がその代表的な例である。さらに、エネルギーの大きい中性子照射を受ける核融合炉材料では、核反応で生じる異種原子、とくにガス原子の水素やヘリウム原子が上記格子欠陥の消滅過程に大きな影響を与えると同時に、ガス原子自身が集合しヘリウム脆化や水素脆化など材料特性の著しい劣化をもたらす。
1.3 照射による材料の特性変化
 中性子による損傷によって、引張特性、靭性の劣化やスエリングが起こる。例えば、工業材料として広く使われているオーステナイト系ステンレス鋼は、優れた延性材料として知られているが、中性子照射を受けて著しい降伏応力の増加と伸びの低下が起こる。330℃で中性子照射した場合では、図4に示すように、30%以上あった照射前延性が、照射後は1%以下にまで低下してしまう。いわゆる延性材料であっても、中性子照射を受けると脆くなり擬延性材料化する。この脆化現象は照射温度に強く依存する。例えば、照射温度60℃では、330℃に比べて脆化の程度は小さい。
 一方、Feに代表される体心立方金属では、延性脆性遷移温度(DBTT:Ductile to Brittle Transition Temperature)(*7)の上昇が典型的な現象である。これは破壊に要するエネルギーが照射によって小さくなるためである。この関係を図5に示す。一般に、降伏応力σyは温度依存性が大きいが、照射によってさらに上昇する。一方、破壊応力σfの温度依存性は緩やかで、照射による上昇も大きくない。このσyとσfの交点がDBTTを表しており、照射によるσyの上昇がDBTTの上昇(ΔT)をもたらし、ΔTはΔσyとほぼ比例関係があることになる。
 構造材料では上述の照射脆化が最も重要な現象であるが、使用条件によっては、前節1.2で述べたスエリング、さらには照射によって加速されるクリープや腐食現象がある。一定応力下で歪が増加する照射下クリープ現象は、熱拡散に起因する熱クリープとは違って弾き出し損傷の結果起こることから、より低温領域で起こることになり構造材料としては大きな関心事となる。また照射下腐食も弾き出し損傷の過程で起こる照射誘起偏析現象に付随して促進されることになる。今後の課題としては、構造材料として重要な特性の一つである疲労特性に及ぼす照射効果や核融合特有のヘリウム、水素などのガス原子と弾き出し損傷との相乗効果に関する理解を深める必要がある。
2.耐照射性材料の開発
 炉の安全性や経済性の向上を目指して耐照射損傷に優れた材料開発が進められてきた。照射損傷を避けるために、中性子と原子の衝突や核反応を抑えるには、表面を防護材料で覆う以外にない。照射損傷の材料特性への影響を少なくするには、生じた点欠陥(空孔及び格子間原子)を速やかに消滅させるか、それらが合体して成長することを防ぐことが重要になる。現在、材料の不純物元素の低減化、点欠陥と相互作用の強い元素の添加、加工熱処理によるミクロ組織制御などを利用した材料開発が行われている。以下に、耐照射損傷に優れた材料開発の例を示す。
2.1 軽水炉圧力容器鋼
 軽水炉の圧力容器鋼(例えば、A533B)では中性子照射による脆化が問題になっている。A533Bの主成分は、Fe−2.5%Crである。この材料は体心立方構造を有し、中性子照射を受けてDBTTが室温以上に上昇することが問題になっている。この分野の金属学的研究は、DBTTが鋼中に含まれる不純物、とくにCu、P、Sに強く影響されることを明らかにした。図6はA533BのDBTTが照射によって高温側にシフトする実験データの例で、そのシフト量はCuとPの含有量に強く依存することを明らかにしている。また、図7は、照射割れ感受性と照射脆化感受性がCu,P,Sの含有量の減少と共に弱くなることを示している。現在、材料の不純物レベルは、不純物制御・製鋼技術の格段の進歩によって、既に非感受性領域に入っている。このことは、圧力容器鋼の脆化の問題は新材料を使う限りほぼ解決したと言える。
2.2 高速炉燃料被覆管材料
 高温(〜550℃)で使用され、中性子経済がそれほど重要視されない高速増殖炉の燃料被覆管材料としては、一般工業材料として実績のあるオーステナイト系316ステンレス鋼が有力な候補材料である。しかし、この材料は高速中性子による弾き出し損傷を受けてスエリングが起きる。例えば、それは〜30dpa(1年間の照射量に当たる)の照射を受けると〜10%以上にもなり、耐スエリング性の克服が緊急課題であった。最近では、図8に例を示すように、Ti、Nbなどの微量添加元素の調整及びミクロ組織の制御によってステンレス鋼の耐スエリング性を克服し、100dpaの照射を受けてもほとんどスエリングしない材料開発に成功している。
2.3 核融合炉ブランケット材料
 核融合炉の炉心材料、プラズマを囲むブランケット構造材料は高エネルギー(〜14MeV)の中性子に晒される。ここで使用される材料では、弾き出し損傷に加えて核変換損傷が無視できない。特に、(n,p)、(n,α)反応で生じる水素、ヘリウムが材料中に残り、且つ集合して、水素脆性やヘリウム脆性を起こす。また、多量に使用される構造材料であることから、その放射性廃棄物としての処分を容易且つ安全にするために低放射化材料(*8)であることも強く要求される。現在、オーステナイト鋼の主構成元素であるNi(長半減期同位元素を持つ)を含まないこと、またHe脆性に比較的強く耐スエリング性や耐クリープ性にも優れていることから、Fe,Crを主成分とするフェライト鋼が有力候補となっている。これまでに開発された代表的な低放射化フェライト鋼F82Hの組成を、市販のフェライト鋼(T91、HT9)と共に表1に示す。F82Hでは、長半減期の同位元素を持つNi、Mo、Nbが比較的短半減期のW、V、Taなどで置換されているが、本来の性能は維持されているか、より優れたものになっている。

[用語解説]
(*1)照射損傷:材料が中性子やγ線などエネルギーを持った粒子線の照射を受けたときに生じる損傷または破損
(*2)弾き出し損傷:結晶性材料の原子が、中性子やγ線の衝突を受けてその格子位置から弾き飛ばされることによって起こる損傷
(*3)核変換損傷:中性子のエネルギーが大きい場合、中性子と材料の構成原子との非弾性散乱、核反応が起こり、それによって、水素、ヘリウムなどガス原子や異種原子が生じることに因る材料の損傷
(*4)dpa:弾き出し損傷量を表す単位で、格子原子が何回弾き出されたかを示すもので、1dpaは材料を構成している全原子が平均して1回格子位置から弾き飛ばされたことに相当
(*5)スエリング(体積膨張):弾き出し損傷を受けて生じる空孔が集合したボイドの形成によって材料が膨張する現象
(*6)照射誘起応力腐食割れ(IASCC):材料の応力腐食割れ現象が照射によって加速されたり、また誘起されたりする現象
(*7)延性脆性遷移温度(DBTT):材料特性が温度の低下に伴って延性から脆性的特性に遷移する温度で、フェライト鋼など体心立方体の結晶構造を持つ材料に特有な現象
(*8)低放射化材料:中性子照射を受けて生じる放射性元素の誘導放射能が比較的短時間に減衰する半減期の短い元素だけで構成される材料
<図/表>
表1 低放射化フェライト鋼F82Hと市販フェライト鋼T91,HT9の組成(wt.%)
図1 中性子照射を受けた材料に起こる損傷の素過程(模式図)
図2 各種元素及びステンレス鋼の(n,α)、(n,p)反応断面積の中性子エネルギー依存性
図3 1MeVの電子線照射を受けたステンレス鋼に生じたボイドの電子顕微鏡写真
図4 中性子照射した316ステンレス鋼の引張特性の変化
図5 中性子照射によるフェライト鋼のDBTTの変化(模式図)
図6 圧力容器鋼(A533B)のシャルピー特性、照射量:6×1023-2(>1MeV)、照射温度:555K、(a)CuとPを制御、(b)CuとPを低レベルに改良
図7 圧力容器鋼の不純物元素の含有量と照射脆化感受性と腐食割れ感受性パラメータの相関性と年代推移
図8 ステンレス鋼の耐スエリング性の微量元素の添加による改良

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<関連タイトル>
原子燃料の基礎 (03-06-01-01)
原子炉の炉心核設計概論 (03-06-01-04)
軽水炉における照射誘起応力腐食割れ(IASCC) (02-07-02-21)
応力腐食割れの発生・成長機構と研究動向 (02-07-02-22)
軽水炉圧力容器鋼の脆化機構と研究動向 (06-01-01-30)

<参考文献>
(1)諸住 正太郎(編):原子力材料、日本金属学会(1989)
(2)石野 栞:照射損傷、東京大学出版(1979)
(3)菱沼 章道:原子炉用先進材料の開発、まてりあ 3巻(3号)p.328-331(1994)
(4)E. Teller,Fusion,vol.1 Magnetic Confinement part B,Academic Press,New York(1981)
(5)A. Hishinuma and S. Jitsukawa,Tensile Properties of 316 Stainless Steel after Low Temperature Neutron Irradiation,Annales De Physique C2,supplement au no3,vol22,juin p.C2-163(1997)
(6)J.R. Hawthone,J.J. Koziol,and R.C. Groescher,ASTM STP 570,p.83(1975)
(7)H. Nakajima,N. Nakajima,and T. Kondo,Proc. of Symp. on Nuclear Power Plant Life Extension,Paris,Feb.24-25(1987)
(8)立石 嘉徳ほか:日本原子力学会誌、Vol.30,No.11,p.1005(1988)
(9)M. Tamura,et al,Development of Potential Low Activation Ferritic and Austenitic Steels,J. Nucl. Mater.,141-143,p.1067(1986)
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