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ウィルスを除くすべての生物は細胞から構成されている。細胞は構造と機能の違いから、原核細胞と真核細胞とに分類され、また真核細胞の生物には単細胞生物と多細胞生物とがある。細胞の大きさは、鳥類の卵のように直径数cmのものから
細菌のように数μmのものまであるが、通常20μm前後のものが多い。動物の細胞構造を
図1 に、植物の細胞構造を
図2 に示す。
1.細胞の種類
(1)原核細胞
細菌及び藍藻は
原核生物と呼ばれ、その細胞を原核細胞という。原核細胞は細胞膜はあるが核膜や
染色体構造がなく、ほとんど裸のDNA分子が中心部にあり、構造的に細胞質と区別できない。細胞は二分割して
増殖する。細胞質には真核細胞のようにミトコンドリアや
葉緑体等の細胞小器官はなく、
原形質流動も見られない。
(2)真核細胞
細菌および藍藻を除いた全ての動物、植物は
真核生物と呼ばれ、その細胞を真核細胞という。真核細胞は、1つの細胞が1個体となっているアメーバやゾウリムシのような単細胞生物もいれば、多数の細胞から1個体が構成されている多細胞生物もある。多細胞生物では、生殖細胞(精子や卵)のような特殊な
分化した構造をとったり、種々の組織や器官を構成するそれぞれ独得な構造と機能に分化していたりしている。
細胞は細胞膜(原形質膜)によって取り囲まれている。細胞の中には核膜で取り囲まれた核があり、ここには遺伝子の本体のDNAが蛋白質と結合して入っている。細胞の中の核以外の部分は細胞質と呼ばれ、そこには水溶性の細胞質基質に浮遊している蛋白質、炭水化物、ビタミン等、多くの生体に必要な成分が含まれている。細胞質中にはミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、葉緑体、リソゾーム、ペルオキシソーム等の細胞小器官と呼ばれる膜に囲まれた構造物があり、各々エネルギー生産、物質代謝等の独自の働きを持っている。細胞膜、核膜、細胞小器官は、生体膜と呼ばれる脂質の二分子層により成る膜により他と区画され、この膜内及び膜に取り囲まれた内部に各々独自の酵素を含んでおり、その酵素の働きで各々の役割を果たしている。
2.細胞の構造と機能
(1)核
核は基本的には細胞1個当り1個であるが、多核の細胞もある。核は二層の膜に取り囲まれた袋状の構造をとり、中には遺伝子の本体DNAと塩基性の蛋白質が結合した
クロマチンと呼ばれるものがある。クロマチンは
細胞周期によって構造を変え、分裂期には染色体の構造をとるが、それ以外では核内に分散している。細胞機能は極めて多種類の酵素と蛋白質によって行われるが、この蛋白質を必要な時に必要な量だけ合成させるもとになる物質が遺伝子DNAである。まずDNAからメッセンジャー
RNAが合成され、このRNAは核膜を通過して細胞質に出て、細胞質にあるリボソームと呼ばれる蛋白質−RNA複合粒子と結合して蛋白合成が行われる。細胞質で蛋白合成が行われる時に必要な
アミノ酸を運ぶ役割をするのがトランスファーRNAで、これは核内にある核小体(仁)と呼ばれるDNAを含む部域で合成されて細胞質へ出て働く。核内にはこれらRNAやDNAの合成酵素、DNA複製酵素、DNAが障害を受けた時の修復酵素等が存在する。
核膜には内膜と外膜があって、二層の膜でできている。核膜には核膜孔と呼ばれる小孔が多数あり、この小孔を通して合成されたRNA等、種々の物質が核内外に移行する。
(2)ミトコンドリア
ミトコンドリアは内膜と外膜の二層の膜で取り囲まれた、細胞質中に存在する顆粒で1つの細胞に100〜2000個位ある。内膜には電子伝達系と呼ばれる酵素系と酸化的リン酸化に関与する酵素系があり、これらの系を介して生命活動に最も重要なエネルギー源である
ATPを合成している。
(3)小胞体
小胞体は一層の膜でできた偏平袋状の膜系である。粗面小胞体と滑面小胞体があり、粗面小胞体には蛋白合成の場となるリボソーム粒子が結合している。滑面小胞体はリボソームが結合していないものを言う。
小胞体の役割は、核内DNAから遺伝子の情報を写し取ってきたメッセンジャーRNAを用いて蛋白合成を行う場になることである。
小胞体はステロイドホルモンの合成、脂質や糖の代謝なども行い、特に肝臓では、薬物や毒物など体外から侵入する無数の低分子有毒物質を代謝無毒化する薬物代謝酵素系が多量に存在していて、有毒高分子物質に対する防御系である免疫反応と並んで重要な、低分子に対する生体防御の役割を果たしている。発ガン物質などもここで分解される。
(4)ゴルジ体
小形や大形あるいは偏平な構造をした胞から成る。通常核の近傍にあり、小胞体膜と隣接している。合成された分泌蛋白質を化学修飾し、蛋白質が細胞外に分泌できるような構造にする役割を持つ。また、糖の合成反応も行う。
(5)リソゾーム
一層の膜で囲まれた小胞で、蛋白質、
核酸、多糖類、脂質等を酸性領域で加水分解する一群の酵素を含んでいる。細胞が細胞外から取り込んだ物質を含む小胞と融合してそれらの物質を加水分解し、細胞に必要な物質にして利用できるようにする。不必要になった細胞が自らリソゾーム中の分解酵素を放出して細胞分解を行うこともある。細胞内に取り込んだ物質が細菌である場合は、殺菌も行う。
(6)ペルオキシソーム
一層の膜で取り囲まれた小胞で、アミノ酸、アルコール、フェノール、蟻酸などを酸化する酵素を含む。また、尿酸の代謝や脂質の代謝も行う。
(7)葉緑体
藻類と緑色植物に存在し、動物など他の生物は持っていない。光のエネルギーを利用してATPを合成する光合成を行う顆粒である。植物にとっては、ミトコンドリアと共にエネルギーのもととなるATP合成の場としてきわめて重要である。
(8)
液胞
層の膜による袋状である。正常動物細胞では認められる例は少ないが、植物では細胞の老化に伴って大型化し、古い細胞では液胞が細胞の大部分を占めて、核と細胞質が周辺に追いやられる場合もある。内部には、糖、有機酸、色素、アルカロイド等を含む。液胞は、その吸水力によって膨圧を生じて、細胞壁の緊張状態を保たせている。
(9)細胞質基質
細胞質の細胞小器官の間を埋めている液相。種々の蛋白質や解糖の諸酵素、核酸、蛋白合成酵素、ビタミン等、多くの生命活動に必要な低分子高分子の成分が含まれている。粗面小胞体に結合しているリボソームだけでなく、膜に結合していないリボソームもここにあり、細胞に必要な蛋白質の合成を行っている。また、この液相はゾル−ゲル転換をして細胞運動の場となる。
(10)細胞膜(原形質膜)
細胞質の外表面を直接包む一層の膜構造。種々の糖鎖などの受容体が結合しており、外界からの情報や刺激に対応して細胞が反応する機構を持っている。膜の選択透過性、食作用、免疫応答、種々の物質の細胞内外の物質輸送など重要な役割を持つ。外界の情報は細胞膜を介して細胞内に伝達され細胞内代謝系が働いたり遺伝子の発現が生じたりする。それらの役割を担うのは、細胞膜に結合している受容体や、ATPアーゼを含む種々の膜内イオン輸送系などである。
(11)その他
細胞質中には他に、グリコーゲン顆粒、脂肪粒などの顆粒や分泌顆粒、あるいは中心小体や微小繊維、微小管などの物質が存在し、細胞機能を保っている。
これら細胞の各成分はそれぞれ独自の働きと役割を担いながら、かつ、相互に関連をもって機能することにより細胞活動を営んでおり、更にそれら細胞同士が相互に作用しあうことにより、より高次の組織、器官、個体のバランスがとれて、生命現象が正常に機能していく。生命現象の構造的機能的最小単位が細胞である。
<図/表>
<関連タイトル>
遺伝子と遺伝子暗号DNAの構成 (09-02-02-02)
染色体の構成 (09-02-02-03)
体細胞と組織構成 (09-02-02-04)
生殖細胞の構成 (09-02-02-05)
<参考文献>
(1)中村 桂子,松原 謙二(監修):大隅良典,小倉明彦,桂 勲,九野内 棣(監訳):「細胞の分子生物学」第2版,教育社(1990年)
(2)野田春彦,丸山工作,石川 統,山本啓一,三井恵津子(訳):「分子細胞生物学(上)(下)」東京化学同人 (1989年)