<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 生物効果の基礎原理
<タイトル>
体細胞と組織構成 (09-02-02-04)

<概要>
 生物体を構成する細胞の中で生殖細胞を除くすべての細胞は体細胞と呼ばれる。体細胞は受精卵に始まり、有糸分裂による細胞増殖と細胞分化を重ねて組織、器官を形成、個体の発生を完了させる。個体の誕生後も個々の組織に固有な体細胞の増殖と機能分化のサイクルは個体の成長を助け、個体の恒常的な生命活動を維持している。したがって、組織細胞(体細胞)の放射線感受性は、問題の組織における構成細胞の増殖と機能分化のサイクルに依存する。
<更新年月>
2002年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 生物体の中で、生殖細胞を除くすべての生体組織を構成している細胞を体細胞と呼ぶ。体細胞の始まりは精子(単相=染色体数n)と卵子(単相=染色体数n)の合体癒合によって生じる倍数体(複相=染色体数2n)細胞、すなわち受精卵である。動物の場合、卵は有糸分裂により細胞増殖を続け、3層の胚葉(外、中、内胚葉)を形成する初期発生から組織形成、器官形成を経て個体発生を完了する。個体の誕生後も個体の成長はすべて有糸分裂による体細胞の増殖によって達成され、増殖を終了した体細胞は分化して所属組織に必要な機能を果たして死滅する運命にある。この体細胞の死滅する時期は組織の特性により異なる。例えば、神経および筋肉細胞は胎児期に増殖を停止して分化すると、個体の生涯を通じて機能を果たし続けるが、損失による再生産は行われずに個体の死とともに死滅する。これと対照的に、機能的に細胞の消耗が激しい皮膚( 図1 )、血液、腸上皮などの組織では、幹細胞という分裂能を保持する特別な細胞が組織に内在し、その規則的な分裂活動による細胞増殖が消耗により失われた細胞損失量を補償する。このような組織を再生組織と呼ぶ。再生組織における損失細胞の交替率は組織により異なるが、たとえばヒトの皮膚では約1ヶ月、赤血球では120日、小腸上皮ではわずか数日で組織の細胞が入れ替わり、古い細胞は順次失われる。組織細胞の交替日数が短く、失われる細胞量が多い組織ほど頻繁にその損失補償、すなわち有糸分裂による細胞増殖が要求される。これらの再生組織ではほぼ毎日一定時間に幹細胞の定期的分裂がおこり、増殖した幹細胞の約半数が機能分化を果たすため、一定の機能細胞が補償されると同時に残りの半数は再び幹細胞として次の分裂に備える。故に幹細胞の細胞分裂は完全に調節され、細胞増殖と細胞の機能分化は一定の間隔で繰り返すサイクルを形成する。幹細胞といえば最近では、胚期のES細胞(Embryonic Stem cell,胚性幹細胞)が最近とみに話題となっているが、その繰り返しが可能な増殖能力と全ての組織細胞に機能分化し得る分化能力が、組織再生医学技術にとっては最大の魅力となる。その他の組織でも組織細胞の補充、交替、機能細胞層の維持は幹細胞の分裂能と機能分化能に依存するが、その増殖と分化のサイクルは組織によって完全に調節されており、それぞれ特異な調節機構が存在すると考えられている( 表1 )。
 個体の組織/器官の放射線感受性は、基本的に組織構成体細胞の分裂活動と機能分化活動に関連し、細胞の感受性は基本的に細胞の分化度にも依存する。分裂活性が高く,頻繁に細胞増殖が起こる再生組織では、分裂組織は放射線に弱いという”ベルゴニー/トリボンドーの法則”通りに放射線感受性は高く、中でも造血組織は最も感受性で、3〜8Gyの全身照射で造血作用は停止し、哺乳動物は所謂「造血死」と呼ばれる造血機能不全により照射後2週前後で半数以上が死亡する。したがって、この程度の線量域での放射線防護は、造血器官、すなわち骨髄、脾臓の遮蔽が有効となる。造血器官の遮蔽が有効であると、哺乳動物の被ばくによる致死線量は10〜20Gyに増加する。この線量域で顕著に見られる病理学的な組織障害は、皮膚または多くの上皮組織、とくに消化管の内面上皮組織の損傷である。放射線被ばくによって起こる効果は、ここでも一義的には幹細胞の分裂停止である。分裂停止期間は線量依存性であるから、分裂による新細胞の供給は一時停止から永久停止にまで進展する。供給が停止すると分化した機能的上皮細胞は一定の間隔で失われるだけとなるので組織は次第に機能細胞を失ってしまう。このとき幹細胞の分裂能が回復をしなければ、消化管の機能障害により個体は死に至る。これを「腸死」という。腸障害はその後80〜100Gyに及ぶ線量域の代表的な病理所見となるが、100Gyを越す被ばく線量では神経細胞の機能障害や致死が観察されるようになり、個体は被ばく後数時間以内に死亡する。これを放射線による「中枢神経死」または「分子の死」と呼んでいる。その意味で最も機能分化の進展度が著しく、生涯組織細胞の交替がない神経細胞とその組織である脳は最も放射線耐性と云える。
<図/表>
表1 組織において放射線に反応する標的細胞
図1 重層扁平上皮組織(皮膚など)の構造模式図

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<関連タイトル>
細胞の構成 (09-02-02-01)
生殖細胞の構成 (09-02-02-05)
放射線の細胞への影響 (09-02-02-07)
放射線の細胞系への影響 (09-02-02-08)
放射線の細胞分裂に及ぼす影響 (09-02-02-16)

<参考文献>
(1)新家 浪雄:細胞学、岩波書店 (1957年)
(2)和田 文吾、佐藤 重平:基礎細胞学、裳華房(1959年)
(3)伊藤 隆:組織学、南山堂(1977年)
(4)太田 次郎:生物のからだ、東海大学出版会(1980年)
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