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<概要>
 核融合炉における各種の材料は、核融合(DT)反応によって生成される14MeV中性子の重照射を受けるだけでなく、ディスラプション時や通常運転時に高い熱負荷を受ける。材料工学では、各種構造及び機能に対する既存材料の適用性を検討するとともに、低誘導放射化等を目指した新たな材料開発を目的とする。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
 核融合炉材料工学が取り扱う対象は、大きくブランケット・第一壁構造材料、ブランケット材料(トリチウム増殖材、中性子増倍材)、プラズマ対向材料、および機能材料に分けられる。
1.ブランケット第一壁材料
 ブランケット構造材料の中でも特にプラズマに面する側(第一壁)は炉心から強い負荷を受け最も厳しい使用条件となる。この負荷は、熱負荷による効果と粒子線照射効果として材料に影響を与える。熱負荷には、放射、荷電・中性粒子等による表面の熱負荷とブランケットにおける中性子エネルギーの熱エネルギーへの変換があり、これらの除熱設計と材料の使用条件とは大きく関連している。特に、表面近くの材料に関しては、熱的な特性(高い熱伝導率、小さい線膨張係数)が重要な要素となる。
 粒子線照射効果としては、表面近傍でのプラズマからの水素同位体、ヘリウムの注入、内部での14MeV中性子照射効果が上げられる。14MeV中性子照射は材料内部で原子の格子位置からのはじき出しと各種の核変換をもたらす。これらにより材料が寸法変化、強度劣化を起こすことが重大な問題となっており、この耐照射性が材料開発、材料選択における重要な要素である。
 このほか、材料選定には、冷却材・トリチウムとの共存性、低誘導放射能も考慮する必要がある。また、大型構造物の製作という観点からは、加工性、接合性、工業基盤、資源、コスト等も重要な要素である。
2.ブランケット材料
 ブランケットにおけるトリチウム増殖材の特性として第一に重要なのは増殖性能であり、リチウムを多量に含みかつ中性子の吸収の少ないことが必要である。また、トリチウムの吸蔵・放出特性も材料選択の重要因子となる。その他、材料特性として、除熱の必要性から熱伝導が良好で熱膨張が小さいことも必要である。また、構造材、冷却材との両立性、耐照射性(寸法・組織安定性)、化学的安定性、低誘導放射能等の特性も望まれる。
3.プラズマ対向材料
 プラズマ対向材料は文字通りプラズマに直接対向しており、最も厳しい熱・粒子負荷を受ける。したがって、耐熱応力・耐熱衝撃性に優れていなければならない。また、入射粒子はスパッタリング等を引き起こしプラズマへの不純物源となるため、これらプラズマとの相互作用の観点からも悪影響の少ない(低原子番号、低スパッタリング率等)材料が望まれる。
4.研究開発課題
 実用炉への適用を考慮すると、いずれの材料に対しても耐重照射特性が要求される。重照射用の強力中性子源については、IAEAの国際協力で国際核融合材料照射施設(IFNIF)の概念設計(CAD)が終了したところであるが、当面は他のシミュレーション照射に頼って照射実験データ・ベースを拡充していく必要がある。表1には核融合炉環境との比較の上で考慮すべき代表的な因子からみた各種シミュレーション照射の特徴を示す。
 材料の中性子照射損傷を的確に評価するには、これらの照射施設を組み合わせた試験を実施するとともに、試験結果を相互に関係づける必要がある。重照射試験に対しては混合スペクトル炉高速炉が有力である。特に、14MeV中性子によるはじき出し損傷と核変換によるヘリウム生成の比率が核融合炉の条件に近い同位体調整実験(ニッケルを含む合金を用いた混合スペクトル炉照射)は核融合炉条件の模擬として有力である。また、重照射を受ける原子炉用ブランケット第一壁等の構造材料の開発及び試験評価のためには14MeV中性子照射施設が不可欠となろう。
<図/表>
表1 各シミュレーション照射手段の特徴
表1  各シミュレーション照射手段の特徴

<関連タイトル>
核融合炉工学の研究開発課題(1)プラズマ加熱工学 (07-05-02-01)
核融合炉工学の研究開発課題(2)超伝導コイル (07-05-02-02)
核融合炉工学の研究開発課題(3)真空及び粒子制御 (07-05-02-03)
核融合炉工学の研究開発課題(4)第一壁工学 (07-05-02-04)
核融合炉工学の研究開発課題(5)ブランケット工学 (07-05-02-05)
核融合炉工学の研究開発課題(7)中性子工学 (07-05-02-07)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
核融合炉工学の研究開発課題(9)炉構造・遠隔保守 (07-05-02-09)
核融合炉工学の研究開発課題(10)安全工学 (07-05-02-10)
核融合炉工学の研究開発課題(11)計測制御技術 (07-05-02-11)

<参考文献>
(1)室賀健夫ほか:核融合研究、56,205(1986)
(2)香山晃:核融合炉の原理−材料と設計−、機械の研究、47(1),79−84(1995)
(3)松井秀樹:核融合炉の基本設計−先進的材料−、機械の研究、47(1),161−167(1995)
(4)菱沼章道、野田健治:原子力工業,39(8),8(1993)
(5)菱沼章道:プラズマ核融合学会誌、70(7),697(1994)
(6)実川資郎:日本金属学会シンポジウム「照射環境における材料機能評価、予測と関連照射技術」、p38(1994)
(7)IFMIF CDA TEAM:”IFMIF International Fusion Materials Irradiation Facility Conceptual Design Activity Final report”,ENEA Report,ISSN/1220−5563(1996)
(8)近藤達男:プラズマ核融合学会シンポジウム「IFMIF−核融合材料開発のための中性子照射施設」(1997)
(9)関 晶弘(編):「核融合炉工学概論−未来エネルギーへの挑戦」日刊工業新聞社(2002)
(10)近藤 育朗、栗原 研一、宮 健三:「核融合エネルギーのはなし」日刊工業新聞社(1996)
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