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ブランケットは、
核融合炉において炉心プラズマを取り囲んでいる毛布の部分をいう。ブランケットは、リチウム(Li)単体またはその化合物で構成されており、リチウムは、核融合反応で発生した中性子との
核反応によりトリチウムを生成する。また、中性子の持つ運動エネルギーはブランケット内で熱エネルギーとなり、取り出されて発電などに利用される。さらに、中性子や
γ線に対する遮蔽の役割も果たす。ブランケットの方式については、種々提案されているが、リチウムを含む物質の形態により、固体増殖材方式と液体金属増殖材方式とに大別される。
1.トリチウム増殖
核融合炉の燃料であるトリチウムは天然に存在しないため、核融合反応で発生する中性子の核反応によってトリチウムを生産する方式が合理的である。
プラズマ内での
重水素(D)とトリチウム(T)の核融合反応では、1個のトリチウムが消費されて1個の中性子(n)が生成される。すなわち、
D+T→ n(14.1MeV)+He(3.5MeV) (1)
つぎに、ブランケット内に入射した中性子のLi−6及びLi−7とのトリチウム生成反応は、次式で示される。
Li−6+n → T+He+4.8MeV (2)
Li−7+n → n’+T+He−2.5MeV (3)
ここで、式(2)及び式(3)で生成されるトリチウムの数と式(1)で消費されるトリチウムの数の比をトリチウム増殖比(TBR)と呼び、1より大きい(自己充足性が高い)ことが要求される。式(3)の反応は、中性子エネルギーの高い領域でしか起らない、かつ吸熱反応であるが、中性子の数を減らさないのでトリチウム生産の観点からは好ましい。
一方、式(2)の反応は、中性子エネルギーが低いほど反応断面積は大きくなる。天然のリチウムには、Li−6は7.5%しか含まれていないので、実際にはLi−6を数十%濃縮したブランケットを用いた設計が多い。式(3)でトリチウム生成とともに生成された中性子は、再びLi−6と反応してトリチウムを生成するので、TBRは見掛上1以上になるが、中性子は必ずしも上記の反応のみに使われるのではなく、他の構造材や冷却材等に吸収されたり、表面に吸着されたりする。また、ブランケットの設置領域が制限されるため、正味のTBRを1より大きくするのは容易ではない。
これに対し、中性子をLi−6と反応させる前に、ベリリウム(Be)、鉛(Pb)などの中性子増倍反応を利用して、中性子を増加させる方法がある。これらの中性子増倍反応は次式で示される。
Be−9+n → 2n+2He−2.5MeV (4)
Pb(A)+n → 2n+Pb(A−1)−7MeV (5)
このように、最近の核融合炉の設計ではベリリウム等の
中性子増倍材をブランケット内に設置して、トリチウムの増殖比の向上を図っている。
ブランケット内で生産されたトリチウムは、できるだけ速やかに回収することが望ましく、核融合炉を運転しつつトリチウム回収ができることが必要とされている。固体増殖材の場合には、増殖材間にスイープ・ガスを流し、それでトリチウムを回収する。液体金属増殖材の場合、増殖材自身を循環させてブランケット外に取り出し、そこでトリチウムを抽出するのが普通である。
2.ブランケットにおける核熱変換
式(1)で示したように核融合(D−T)反応により生成するエネルギーは4:1の割合で中性子と
α粒子(He)に分配される。中性子の持つ運動エネルギーを熱エネルギーに変換し利用可能にするのが、ブランケットのもう1つの大きな役割である。ところで、反応(2)は発熱反応であり、構造材原子が中性子を吸収する反応も一般的には発熱反応であるため、全体としてブランケット構造体から取り出し得るエネルギーは、中性子により運び込まれたエネルギーを上回る。その比をブランケットのエネルギー増倍率といい、1.3〜1.5程度である。発電への利用を考えると、取り出された熱エネルギーは高温であるほど質が高く、
軽水炉と同程度の約300℃が1つの目標となっている。
3.ブランケットの方式
トリチウム増殖材の形態から固体増殖材方式と液体金属方式に大別される。前者は、増殖材としてリチウムを含むセラミックスを用いるものであり、Li2O, Li2ZrO3, LiAlO2等が代表的な例である。一方、後者の例としては、液体リチウム、リチウム鉛合金を用いる設計がある。
従来の検討では、Li2BeF4等の溶融塩やLiOHに代表されるリチウム塩水溶液を用いた設計も提案されてきたが、前者では適切な材料選択が難しく、構造材の腐食等の問題があること、後者ではやはり高温条件下での腐食等が問題であり、発電ブランケットへの適用が困難であることから、現在は、設計上の検討は行われていない。
現在幅広く研究開発が行われている主な固体増殖材と液体金属増殖材及びその性質を
表1に示す。
4.ブランケットの開発ステップ
ブランケットの開発の目的は、
実用炉で想定される高い中性子照射に耐え、かつトリチウム増殖、発電及び遮蔽という機能を併せもった材料の創製にある。核融合炉の開発が
実験炉(
国際熱核融合実験炉:ITER)、
原型炉、
実証炉/実用炉という段階的な開発ステップを踏むのに合わせて、ブランケットの開発は、遮蔽ブランケット、増殖ブランケットというステップを経て、最終ターゲットである発電ブランケットへ向けて進められる。各種ブランケットに要求される機能と主要な開発課題を
図1に示す。
<図/表>
<関連タイトル>
核融合炉工学の研究開発課題(1)プラズマ加熱工学 (07-05-02-01)
核融合炉工学の研究開発課題(2)超伝導コイル (07-05-02-02)
核融合炉工学の研究開発課題(3)真空及び粒子制御 (07-05-02-03)
核融合炉工学の研究開発課題(4)第一壁工学 (07-05-02-04)
核融合炉工学の研究開発課題(6)材料工学 (07-05-02-06)
核融合炉工学の研究開発課題(7)中性子工学 (07-05-02-07)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
核融合炉工学の研究開発課題(9)炉構造・遠隔保守 (07-05-02-09)
核融合炉工学の研究開発課題(10)安全工学 (07-05-02-10)
核融合炉工学の研究開発課題(11)計測制御技術 (07-05-02-11)
<参考文献>
(1)斑目春樹:核融合炉の複合工学、核融合研究,Vol.56,p.389−408(1986年12月)
(2)田中知:核融合の原理−ブランケット−、機械の研究,47(1), p.90−93(1995年1月)
(3)高津英幸:核融合炉の研究開発と国際協力−ブランケット−、機械の研究,47(1), p.136−143(1995年1月)
(4)関 晶弘(編):「核融合炉工学概論−未来エネルギーへの挑戦」日刊工業新聞社(2002)
(5)近藤 育朗、栗原 研一、宮 健三:「核融合エネルギーのはなし」日刊工業新聞社(1996)