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<概要>
 次期大型核融合装置(核融合実験炉)の炉構造・遠隔保守では、主要構成機器である炉心構造系及びその保守・交換を行う遠隔保守系が対象となる。炉心構造系には、核熱、電磁力及び地震荷重下で充分な構造健全性を担保することが、また遠隔保守系には、強度なガンマ線環境下で安全に保守・交換する性能が要求され、高度な技術開発が必要である。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
1.炉心構造系
 炉心構造系は、プラズマのために高真空を維持する真空容器、超伝導コイルの断熱のためのクライオスタット及び支持構造などから構成される。現状では、JT−60(原研(現日本原子力研究開発機構))、TFTR(米国)、JET(EU)及びT−15(ロシア)などの大型トカマク装置での経験があるが、表1に示すように、核融合実験炉の場合には一層の大型化とDT燃焼に伴う機能の高度化が要求される。真空容器の場合には、中性子に対する遮蔽機能と核発熱に対する冷却性能が新たに追加されるため、薄肉二重壁の内部に遮蔽体及び冷却水を配置した二重壁構造などを採用する必要がある。また、支持構造の場合には、極低温で動作する超伝導コイルの熱収縮を考慮して、半径方向に高い自由度を持たせた構造・機構を用いる必要がある。
 炉心構造系の主要開発課題として、(1)大型構造物を高い精度で製作・組立する製作性の確立、(2)真空容器、超伝導コイル及び炉内機器(ダイバータ及びブランケット)などが一緒に組み上げられた複合構造物としての総合機能、特に核熱、電磁力及び地震荷重下での構造健全性の確保、及び(3)遠隔操作による保守・交換性などが挙げられる。表2は、日本、EU、米国及びロシアの4極協力で進めている国際熱核融合実験炉(ITER)における真空容器に対する主要な技術課題を示す。ITER工学の研究開発では、製作性及び遠隔操作による組立・保守性の開発・実証を目的として、実規模の真空容器セクタの製作・試験(図1参照)を進めている。また、構造健全性については、二重壁容器の構造強度及び地震などの動的荷重に対する複合構造体としての応答性を定量的に評価すると共に、免震装置などによる信頼性の向上を図る検討を進めている。
2.遠隔保守系
 核融合実験炉では、D−T反応による運転によって生体遮蔽内に配置される機器は放射化され、これらの機器の保守・交換は全て遠隔操作で行うことが必要となる。このため、遠隔保守装置には、強度なガンマ線環境(〜30kGy/h)の炉内空間にて重量物を精度良く取り扱う技術が要求され、これまでに経験の無い先進技術が必要となる。特に、プラズマからの高い熱・粒子負荷条件下で動作するダイバータ及びブランケットなどの炉内機器は、計画的な保守・交換を前提としており、遠隔保守装置には高い信頼性と高速性が要求される。
 表3にITERにおけるダイバータ及びブランケット保守の主な開発課題を示す。遠隔保守については、一般産業界及び原子力発電の分野で精力的に開発が進められており、これらの技術を基本としているが、取り扱う機器が大型で複雑であること、動作空間が限られていること、強度なガンマ線下にあること、及び高い精度が要求されることから、一層の技術開発が必要である。このため、ITER工学の研究開発では、表4に示すような遠隔保守機器及びツールの開発を進めている。特に、計画的な保守・交換を想定しているブランケット及びダイバータについては、ビークル型保守システム(図2参照)及びカセット式保守システム(図3参照)という新たな概念を開発し、保守・交換性能を実証するために実規模の遠隔保守装置の製作・試験を進めている。これらの遠隔保守については、実規模での保守・交換性能を実証すると共に、レスキュー性、制御の高度化などによりシステム性能及び保守時の信頼性、安全性を高めることが必要である。耐放射線性機器の開発では、表5に示すように、ITERの目標値(10〜100MGy)を満たす幾つかの部品・要素が開発されてきている。今後は、特に計測素子の耐放射線性の向上とマニピュレータなどに組み込んでのシステム性能の確認が必要である。
<図/表>
表1 炉心構造系現状技術と核融合実験炉での開発課題
表1  炉心構造系現状技術と核融合実験炉での開発課題
表2 ITER真空容器の技術課題
表2  ITER真空容器の技術課題
表3 ITER炉内保守の開発課題
表3  ITER炉内保守の開発課題
表4 炉内保守に係わるITER工学R&D
表4  炉内保守に係わるITER工学R&D
表5 耐放射線性機器の開発状況
表5  耐放射線性機器の開発状況
図1 ITER真空容器セクタの構造
図1  ITER真空容器セクタの構造
図2 ビークル型保守システム(ブランケット保守)
図2  ビークル型保守システム(ブランケット保守)
図3 カセット式保守システム(ダイバータ保守)
図3  カセット式保守システム(ダイバータ保守)

<関連タイトル>
核融合炉工学の研究開発課題(1)プラズマ加熱工学 (07-05-02-01)
核融合炉工学の研究開発課題(2)超伝導コイル (07-05-02-02)
核融合炉工学の研究開発課題(3)真空及び粒子制御 (07-05-02-03)
核融合炉工学の研究開発課題(4)第一壁工学 (07-05-02-04)
核融合炉工学の研究開発課題(5)ブランケット工学 (07-05-02-05)
核融合炉工学の研究開発課題(6)材料工学 (07-05-02-06)
核融合炉工学の研究開発課題(7)中性子工学 (07-05-02-07)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
核融合炉工学の研究開発課題(10)安全工学 (07-05-02-10)
核融合炉工学の研究開発課題(11)計測制御技術 (07-05-02-11)

<参考文献>
(1)多田栄介、柴沼清:国際核融合実験炉(ITER)の遠隔保守、プラズマ・核融合学会誌、第73巻、第1号、21−28(1997)
(2)角舘 聡ほか:炉内保守システムの開発、プラズマ・核融合学会誌、第73巻、第1号、29−41(1997)
(3)小原建治郎ほか:炉内計測・観察システムの開発、プラズマ・核融合学会誌、第73巻、第1号、42−53(1997)
(4)中平昌隆ほか:遠隔保守用ツールおよび機器の開発、プラズマ・核融合学会誌、第73巻第1号、54−68(1997)
(5)岡 潔ほか:耐放射線性機器の開発、プラズマ・核融合学会誌、第73巻、第1号、69−82(1997)
(6)関 晶弘(編):「核融合炉工学概論−未来エネルギーへの挑戦」日刊工業新聞社(2002)
(7)近藤 育朗、栗原 研一、宮 健三:「核融合エネルギーのはなし」日刊工業新聞社(1996)
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