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<概要>
 超伝導コイルは、トカマク型核融合炉においてプラズマを閉じ込めるための磁場を発生するためのものであり、プラズマ電流との相互作用でドーナツ状の磁気面を形成するトロイダル磁場(TF)コイル、平衡位置形状制御を行うポロイダル磁場(PF)コイル、およびプラズマ中に電流を発生させ、プラズマを点火させる中心ソレノイドコイル(CS)に大別される。これらのコイル技術では、高磁界・低交流損失・大型化に付随した技術開発が主な課題である。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
 超伝導コイル技術は従来から重点的に幅広く研究開発が進められてきており、しかも比較的大きなプロジェクトを経験しているので、技術集約型の装置でありながら関連する技術課題の解明は着実になされてきている。特に、国際熱核融合実験炉(ITER)用超伝導コイル(図1)をターゲットととした開発が精力的に進められ、超伝導コイル技術は大きく前進した。
1.トロイダル超伝導コイル
 トロイダル磁場(TF)コイル技術に関しては、優れた高磁場特性を有するニオブ・スズ化合物超伝導導体を用いた直径1.5m規模のコイル(日本原子力研究所:原研(現日本原子力研究開発機構))で12.2T(テスラ、1テスラ=10E4ガウス)の強磁場発生に成功し、世界に先駆けて高磁場化を達成している。また、IEA−LCT(Large Coil Task)国際共同計画では、5m規模の6個のD型コイルを用いての総合試験においてニオブ・チタン合金系超伝導導体を用いたコイルで9Tの発生に成功している。近年、ITERの工学技術開発を通じて、12.5Tで動作可能な60kAのニオブ・アルミ超伝導導体が開発され、この導体を用いてニオブ・アルミ・インサートコイルが製作された。このコイルは13Tの外部磁界の中で試験される。ニオブ・アルミは高磁場特性に優れていることに加えて、導体に加わる歪みによって超伝導特性が大きく劣化してしまうニオブ・スズの技術的問題を解決する新材料として、世界的にも注目を集めている。
2.ポロイダル超伝導コイル
 ポロイダル磁場(PF)コイル技術に関しては、蓄積エネルギー20MJ規模の実証ポロイダル・コイル試験(原研)により、ニオブ・スズ化合物系超伝導導体を用いて7T(導体電流17kA)の磁界、14T/秒のパルス磁界を達成する成果を上げた。これまで、超伝導コイルは交流損失が大きいため、パルス運転は苦手としていたが、ケイブル・イン・コンジット型導体の発明と超伝導素線間をクロム被覆することが開発されたことにより、パルスコイルの研究開発は飛躍的に進み、ポロイダルコイルが実現できる状態になった。
3.超伝導コイル・システム
 TRIAM(Tokamak of Research Institute for Applied Mechanics)−1Mでは、小型ながらニオブ・スズ超伝導導体を用いたトカマク型超伝導コイル・システムとしての技術開発がなされ、信頼性の高い運転が行われている。また、大型ヘリカル・コイル(LHD)では、ヘリカルコイルとポロイダルコイルの全てのコイル・システムを超伝導コイルで製作し、長時間でのプラズマ実験が実現している。このように、超伝導コイルは高性能な核融合炉の実現になくてはならない構成物としてその存在を示すようになってきた。
4.国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計活動
 国際熱核融合実験炉(ITER:International Thermonuclear Experimental Reactor)計画が4極(日本、欧州、米国、ロシア)の共同作業として進められている(2000年4月から日本、欧州、ロシアの3極になった)。この工学設計活動において最も重要な開発課題として、実験炉の超伝導コイルの設計の妥当性を実証するために最大磁場13T、運転電流値46kA、蓄積エネルギー640MJの超伝導モデル・コイル(CSモデル・コイルまたはCSモデルコイル)の開発が行われた。中心ソレノイド(CS)コイルは、ポロイダルコイルの一つであり、プラズマ電流を発生させる重要な役割をもつ。図2にそのCSモデルコイルを示す。このコイルの導体は0.81mm径のニオブ・スズ超伝導線を1152本撚り合わせ矩形の管に挿入したケイブル・イン・コンジット型導体である(図3および図4参照)。1999年にコイルは完成し、2000年から通電試験が行われ、目標である0.4T/sの励磁速度で13Tの磁界を安定に達成する事に成功した。その後の実験で励磁速度0.6T/s、減磁速度1.2T/sを達成した。この成果はこれまでの超伝導コイル技術を大幅に飛躍させた(図5)。実験炉で要求される超伝導コイル性能とこれまで達成した超伝導コイル性能の比較を表1に示す。
 超伝導コイルは抵抗がゼロとなる超伝導転移温度より低い温度で安定に運転する必要がある。CSモデルコイルの試験においては、コイル技術と同様に重要な大型ヘリウム冷凍機に関する技術や関連した要素技術の開発も実施され、超臨界圧ヘリウムの最大供給能力1000g/secという世界最大の強制冷凍システム(原研)を完成させ、ITER−CSコイルは入口温度4.5k(−268.5℃)の超臨界圧ヘリウムで冷却されている(図6)。このように、実験炉に要求されるレベルの超伝導コイルの研究開発はほぼ達成された。
5.今後の研究開発課題
 発電システムをもつ将来の核融合炉は20Tの磁界を必要とする。また、エネルギー機関として成立するためにコイル・システムの建設及び運転コストを低減する必要がある。これらの高度な技術課題を解決するために、高温超伝導導体を用いて、20Kの温度で20Tの磁界を発生するコイルの研究開発が進められている。
<図/表>
表1 核融合実験炉での超伝導コイル主要諸元
表1  核融合実験炉での超伝導コイル主要諸元
図1 国際熱核融合実験炉(ITER)での超伝導コイル配置
図1  国際熱核融合実験炉(ITER)での超伝導コイル配置
図2 CSモデルコイル
図2  CSモデルコイル
図3 CSモデルコイルの導体
図3  CSモデルコイルの導体
図4 CSモデルコイルの導体構造
図4  CSモデルコイルの導体構造
図5 これまでの超伝導コイルとCSモデルコイルの比較
図5  これまでの超伝導コイルとCSモデルコイルの比較
図6 世界最大の超臨界圧ヘリウムポンプ(1000g/sec)
図6  世界最大の超臨界圧ヘリウムポンプ(1000g/sec)

<関連タイトル>
核融合炉工学の研究開発課題(1)プラズマ加熱工学 (07-05-02-01)
核融合炉工学の研究開発課題(3)真空及び粒子制御 (07-05-02-03)
核融合炉工学の研究開発課題(4)第一壁工学 (07-05-02-04)
核融合炉工学の研究開発課題(5)ブランケット工学 (07-05-02-05)
核融合炉工学の研究開発課題(6)材料工学 (07-05-02-06)
核融合炉工学の研究開発課題(7)中性子工学 (07-05-02-07)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
核融合炉工学の研究開発課題(9)炉構造・遠隔保守 (07-05-02-09)
核融合炉工学の研究開発課題(10)安全工学 (07-05-02-10)
核融合炉工学の研究開発課題(11)計測制御技術 (07-05-02-11)

<参考文献>
(1) 狐崎晶雄:解説核融合、JAERI−M 90−150(1996年5月)
(2) 島本進:核融合炉の原理−マグネット−、機械の研究、47(1)、94−98(1995)
(3) 辻博史:核融合炉の研究開発と国際協力−マグネット−、機械の研究、47(1)、149−155(1995)
(4) 日本原子力研究所・那珂研究所(編):核融合炉をめざして−核融合研究の進展とひろがり−平成12年度 日本原子力研究所成果報告会(2000年11月)
(5)関 晶弘(編):「核融合炉工学概論−未来エネルギーへの挑戦」日刊工業新聞社(2002)
(6)近藤 育朗、栗原 研一、宮 健三:「核融合エネルギーのはなし」日刊工業新聞社(1996)
(7) 日本原子力研究所・超伝導磁石研究室パンフレット:ITER中心ソレノイド(CS)モデルコイル及びCSインサート・コイル開発、日本原子力研究所、p.1(2000年)
(8) 日本原子力研究所核融合炉工学超伝導コイル技術ホームページ
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