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<概要>
 第一壁とは、核融合炉においてプラズマに面する壁の総称であり、プラズマと直接作用することにより大きな熱・粒子負荷を受ける(英語のFirst Wallの直訳である。第二壁があるわけではない)。第一壁は、この条件下で十分な寿命を有するとともに、壁から発生する不純物がプラズマに与える影響を可能な限り低く抑える必要がある。この観点から、第一壁工学では、熱疲労、除熱、不純物放出、プラズマ粒子リサイクリング、表面侵食、照射損傷等に関して総合的な評価が必要とされる。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
 第一壁は、プラズマに直接対向しており、磁場によるプラズマの閉じ込めは完全でないので、漏れ出した高温のプラズマによる厳しい熱・粒子負荷を受ける。この環境下でプラズマに悪影響を与えることなく構造健全性を維持し、プラズマと周囲の構造物の接点となることが、第一壁に要求される機能である。第一壁の受ける各種負荷と構造健全性の関連を図1に示す。広義の第一壁としては、プラズマに対向する各種機器全般を意味し、ダイバータ、ブランケットの表面(プラズマに面する部分)第一壁、リミター等を含む。
 第一壁は、高熱負荷を受けることから、耐熱応力・耐熱衝撃性に優れていなければならない。特にダイバータには、高い熱負荷が流入するため、熱機械・熱流動的条件は厳しい。固体壁に高エネルギーのプラズマ粒子が入射すると、スッパタリングなどのプラズマ・壁相互作用を生じ、これによる超高温プラズマ部分への不純物の混入を避けることも極めて重要である。DT核融合反応で生ずる14MeV中性子は第一壁を通過するが、その際にスウェリングやぜい性劣化(金属が粘りを失ってもろくなる現象)等の照射損傷が生じる。これらの現象が核融合炉の構造健全性に影響しないような材料の開発、設計の開発が今後の(ITERの次の段階の)炉工学の中心的開発項目である。
 ブランケット、第一壁については、多数の冷却管のある分厚い構造であるため、自重を支えることも簡単ではない部分もあるが、それ以外に、冷却材の圧力や、プラズマや制御コイルの電流の変動によってブランケットや第一壁の内部に誘起される電流が強い磁場と相互作用して生じる強力な電磁力にも耐えるような設計が不可欠である。炉全体の安全については、ブランケットや第一壁すべてを包み込む真空容器を十分強度のある設計として、安全を確保するが、修理や保守の観点から、ブランケットや第一壁自体の健全性も極めて重要である。
 さらに、第一壁は様々な制約条件の下に置かれる。例えば、プラズマ電流の立ち上げを阻害しないように、トロイダル方向の一周電気抵抗は十分高くなければならない。中性子吸収の大きい物質をたくさん用いて、ブランケットのトリチウム増殖に悪影響を与えてはならない。第一壁には冷却材その他の接する材料との両立性も要求される。貴重な燃料であるトリチウムを吸着することは好ましくなく、冷却材へのトリチウム透過も場合によっては阻止しなければならない。このように第一壁は構造物とプラズマとの接点に位置し、両者からの厳しい要求を満たす設計が必要である。
 第一壁材料としては、不純物混入によるプラズマの温度低下を阻止する観点から低原子番号材料が好ましく、現在稼働中の大型トカマク装置では、金属構造材の表面に炭素系材料やベリリウムの保護材を設置する方式が採用されており、良好な結果が得られている。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)が、ITER(国際熱核融合実験炉)用に開発を進めているダイバータ板は、0.5kW/平方センチ(1平方メートルあたり1kWの電気ストーブ5000台の熱量)に耐えてプラズマの排気を行うために、炭素繊維で強度・熱伝導性を高めた黒鉛材料をプラズマ対向面に、内部の冷却管には熱伝導性の良い銅材料を用いた構造になっている。図2にITERダイバータ板を模擬した試験体を示す。一方、実用炉については、工学的な観点(例えば、寿命、ガス吸蔵等)から、金属材料(タングステン等)の開発が行われている。
 第一壁工学を含むITER工学に関する開発課題を図3に示す。
<図/表>
図1 第一壁の受ける負荷と構造健全性の関係
図1  第一壁の受ける負荷と構造健全性の関係
図2 ITER(国際熱核融合実験炉)ダイバータ板模擬試験体
図2  ITER(国際熱核融合実験炉)ダイバータ板模擬試験体
図3 7項目のITER(国際熱核融合実験炉)工学開発課題
図3  7項目のITER(国際熱核融合実験炉)工学開発課題

<関連タイトル>
核融合炉工学の研究開発課題(1)プラズマ加熱工学 (07-05-02-01)
核融合炉工学の研究開発課題(2)超伝導コイル (07-05-02-02)
核融合炉工学の研究開発課題(3)真空及び粒子制御 (07-05-02-03)
核融合炉工学の研究開発課題(5)ブランケット工学 (07-05-02-05)
核融合炉工学の研究開発課題(6)材料工学 (07-05-02-06)
核融合炉工学の研究開発課題(7)中性子工学 (07-05-02-07)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
核融合炉工学の研究開発課題(9)炉構造・遠隔保守 (07-05-02-09)
核融合炉工学の研究開発課題(10)安全工学 (07-05-02-10)
核融合炉工学の研究開発課題(11)計測制御技術 (07-05-02-11)

<参考文献>
(1)斑目春樹:核融合炉の複合工学、核融合研究,Vol.56,p.389−408(1986年12月)
(2)関昌弘、荒木政則:第一壁・ダイバータ、機械の研究,Vol.47,p.85−89(1995年1月)
(3)日本原子力研究所核融合計画室・那珂研究所(編):核融合炉をめざして−核融合研究開発の現状 1996年−、p.39−40、日本原子力研究所(1996年11月)
(4)日本原子力研究所核融合計画室・那珂研究所(編):核融合炉をめざして−核融合研究開発の現状 1995年−、p.8−11 & 40−42、日本原子力研究所(1995年11月)
(5)関 晶弘(編):「核融合炉工学概論−未来エネルギーへの挑戦」日刊工業新聞社(2002)
(6)近藤 育朗、栗原 研一、宮 健三:「核融合エネルギーのはなし」日刊工業新聞社(1996)
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