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核融合炉のプラズマ中でD−T核融合反応、
D + T → He(3.5MeV) + n(14.1MeV)
が進行する。この反応で消費されるトリチウムは天然にはほとんど存在しないので、この反応で生じる中性子をブランケット中に装荷されるリチウムで二つの核反応
Li−6 +n → T + He
Li−7 +n → T + He + n
を起こさせ、プラズマ中で消費される量に見合うトリチウムを生産する必要がある。ブランケットで生成されたトリチウムを燃料としてプラズマに注入するために回収精製する系をトリチウム回収系という。
他方プラズマ中では注入した燃料(重水素、トリチウム)の数%程度がD−T反応で消費されるだけであり、残りの90%以上の燃料はD−T反応で生成するヘリウムやプラズマに面する第一壁から発生する酸素や炭素等の不純物とともに排出されてくる。この排出ガスから不純物を取り除き、燃料として再生させてプラズマ中に再注入させる流れを燃料循環系という。これらの2つのトリチウムの流れを図1に示す。
これらのトリチウムサイクルを成立させることが核融合炉のトリチウム工学の主目的である。一方、トリチウムは放射性核種であり、その安全取扱技術が必要である。このトリチウム安全取扱技術には、トリチウムのモニター、雰囲気からのトリチウムの除去、冷却水からのトリチウムの除去などがある。またトリチウムを含む廃棄物の貯蔵、処理、処分に係わる技術の開発なども必要である。
トリチウム工学の課題は、トリチウムの生成、回収、精製、同位体分離、貯蔵、燃料調整、燃料注入、燃料ガス排気、測定、安全管理、廃棄物処理等の広い分野にわたっている。
トリチウムは水素の同位体であることから、水素同様高温の金属を透過しやすく、また人体を構成している水素と交換しやすいなどの特徴を有する。核融合炉では数kgオーダーのトリチウムを使用することになり、その安全取扱い、安全閉じ込め、環境への放出低減が重要である。トリチウムの安全取扱の基本方針は、
(1)トリチウムの各機器内における保有量をできるだけ小さくすること
(2)トリチウムの各機器からの漏洩を極力小さくすること
(3)トリチウムの環境への放出を極力小さくすること
である。
トリチウム工学の研究は、国の内外において、大学や国立研究機関などで基礎的研究から装置開発研究まで幅広く行われている。米国では核融合炉燃料サイクルの確立を目指したTSTA(Tritium Systems Test Assembly)がロスアラモス国立研究所に建設され、1982年より日米共同で研究が進められており、100g程度のトリチウムを使用している。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)でも、数10gのトリチウムを使用するトリチウムプロセス研究棟(TPL:Tririum Process Laboratory)が1988年からトリチウム工学の研究を進めている。また、1993年からはカールスルーエ研究所(ドイツ)においても数十gのトリチウムを使った研究が始められており、現在のところこれらの3つの施設が世界の核融合炉のトリチウム工学の研究開発をリードしている。イタリアでも1998年より同等なトリチウム取扱いに関する研究が開始される予定である。さらに、TFTR(トカマク核融合試験炉、米国)やJET(欧州共同トーラス装置)におけるD−T燃焼実験により、核融合実験装置を合体したトリチウム取扱い技術が蓄積されつつある。<図/表>