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<概要>
 真空及び粒子制御系は、燃料ガス(重水素D及びトリチウムT)の給排気装置を駆使してプラズマの安定燃焼制御を行うものである。速度の異なる燃料ガスをプラズマに供給することによって所定の温度、密度分布を維持することができるので、燃料ペレット入射装置では、高速(1.5km/sec以上)のペレットの連続的な加速技術の開発が主な課題である。燃料排気では、クライオ・ポンプあるいはターボ型真空ポンプ等の真空ポンプによって未燃焼燃料ガス及び不純物を排気するものであって、大容量(数Pa・m3/sec)のターボ型真空ポンプの開発が課題である。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
 重水素とトリチウムを燃料とする核融合炉では、炉心の高温プラズマ中でこれらの原子核同士が衝突して核反応を起こし、アルファ粒子と呼ばれるヘリウムイオンが生成される。
 プラズマ中に反応生成物のヘリウムが蓄積すると燃料の濃度が低下するので、核融合炉では炉心の燃料の補給とヘリウムの除去が不可欠である.図1は、炉心周辺の燃料の流れを示した図である。
 炉心プラズマからのへリウムの除去については、プラズマからヘリウムだけを選択的に取り除くことが難しいので、周辺プラズマの荷電粒子をダイバ−タ板に衝突させて中性化し、ヘリウムガスとその10倍以上の未反応の燃料ガスを同時に真空ポンプで排気する。真空排気装置に使用される真空ポンプには、多量のガスを排気する能力とそれを1気圧に圧縮する機能を有し、しかも、強磁場、放射線、高温粒子などが存在する厳しい環境に耐えることが要求される。核融合炉用の真空排気装置を実現するために、(1)極低温の板にガスが凝縮や吸着することを利用した種々のクライオポンプを用いる設計が提案されている。しかし、クライオポンプにはトリチウム等の燃料が多く滞留するので安全上の問題があり、また、頻繁にこれを離脱させるための再生を行わなけれぱならないという運転上の複雑さがある。このため,(2)高速回転翼でガスを一方向に輸送するターポ型ポンプ等の機械式真空ポンプのみで構成される、燃料滞留量の少ない真空排気装置の開発に期待が寄せられている。
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)では、このようなポンプの一つとして大型のターボ分子ポンプの開発を進めてきた。このポンプは、直径1m近くもある大型の回転翼を毎分8,000回転の速度で回して、低い圧力の気体を圧縮・輸送でき、ポンプの容量は,市販品の最も大きなもののさらに5倍である。このポンプには、300kgの大型回転翼を磁石の力で浮上させる磁気軸受を採用しており、ポンプ内にプラズマを汚染する潤滑油等は一切使用していない。
 炉心のプラズマへの燃料補給には、(a)プラズマ周辺部に燃料ガスを注入する方法(ガス注入)、(b)中性粒子入射装置(NBI)を用いる方法、(c)燃料ガスを冷却して固体のペレットをつくり、これを加速してプラズマの内部に打ち込む方法(ペレット入射)等が考えられる。これらの中で(c)は、大部分の燃料がプラズマ内に入るばかりでなく、プラズマの閉じ込め特性の改善にも役立つことがわかり,近年注目されるようになった。
 燃料粒子制御技術では、この燃料ペレットを速度1.5〜5km/secの範囲で自由に変えながら、1秒に1〜2回の間隔で連続的に炉心プラズマに入射できる新しい装置の開発を進めている。この装置は、空気銃方式で燃料ペレットを発射し、さらに電磁力を利用したレール銃(2本のレールの間にプラズマを生成し、レールとプラズマに数十kAの電流を流して、電磁力でペレットを加速する装置)を採用している。予備試験で得られた水素ペレット(約4mg)の速度は、最高でおよそ1.4km/secであった。
<図/表>
図1 炉心周辺の燃料の流れを示す図
図1  炉心周辺の燃料の流れを示す図

<関連タイトル>
核融合炉工学の研究開発課題(1)プラズマ加熱工学 (07-05-02-01)
核融合炉工学の研究開発課題(2)超伝導コイル (07-05-02-02)
核融合炉工学の研究開発課題(4)第一壁工学 (07-05-02-04)
核融合炉工学の研究開発課題(5)ブランケット工学 (07-05-02-05)
核融合炉工学の研究開発課題(6)材料工学 (07-05-02-06)
核融合炉工学の研究開発課題(7)中性子工学 (07-05-02-07)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
核融合炉工学の研究開発課題(9)炉構造・遠隔保守 (07-05-02-09)
核融合炉工学の研究開発課題(10)安全工学 (07-05-02-10)
核融合炉工学の研究開発課題(11)計測制御技術 (07-05-02-11)

<参考文献>
(1)村上義夫:真空工学、機械の研究 、Vol.41, p.190(1995年1月)
(2)村上義夫:核融合研究と核融合炉開発における真空技術の役割、核融合研究、Vol.68, p.467−479(1992年11月)
(3)日本原子力研究所核融合計画室・那珂研究所(編):核融合炉をめざして−核融合研究開発の現状 1993年−、p.41−42、日本原子力研究所(1993年11月)
(4)日本原子力研究所核融合計画室・那珂研究所(編):核融合炉をめざして−核融合研究開発の現状 1995年−、p.34−39、日本原子力研究所(1995年11月)
(5)関 晶弘(編):「核融合炉工学概論−未来エネルギーへの挑戦」日刊工業新聞社(2002)
(6)近藤 育朗、栗原 研一、宮 健三:「核融合エネルギーのはなし」日刊工業新聞社(1996)
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