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1.はじめに
わが国は、二度に及ぶ石油危機を経て、石油代替エネルギー対策や省エネルギー対策等、エネルギーの需給安定に最優先に取り組んできた。しかし、石油を始めとするエネルギー資源の大部分を海外に依存していること、エネルギー供給の約5割を石油が占め、しかも中東への依存度が9割近くに達していること等、脆弱なエネルギー供給構造が依然として解決されていない。近年、地球環境問題への対応が重要な課題として顕在化し、また、経済活動の国際化の進展を踏まえた効率性の確保も課題となっている。アジア諸国を中心とするエネルギー需要の急増等により国際的にエネルギー需給が逼迫、石油等のエネルギー価格が上昇している。このような状況において、資源獲得競争の激化と資源産出国による資源の国家管理・外資規制や原子力推進の動きが活発化し、国内外で、エネルギーの安定供給確保が重要な国家戦略として認識されている。さらに、
京都議定書が発効し、エネルギー問題と気候変動問題を始めとする環境問題の一体的解決や、アジアおよび世界のエネルギー問題克服のためにわが国が主体的な役割を果たす必要性が増大している。このような現状認識のもと、経済産業省において「
新・国家エネルギー戦略(新戦略)」(平成18年5月)が策定され、経済成長戦略大綱(平成18年7月)等において、新戦略等を踏まえた資源・エネルギー政策の戦略的展開を図るとしている。これらを踏まえ、
1)自立した環境適合的なエネルギー需給構造を実現するため、
原子力発電の積極的推進および
新エネルギーの着実な導入拡大
2)石油等の化石燃料安定供給に向けた資源外交の積極的展開、強靱なエネルギー企業の育成等戦略的・総合的な取組の強化
3)世界のフロントランナーとして、省エネ政策の一層の充実強化と地球温暖化問題に係る実効ある国際的な枠組作りの主導
4)技術による国内外のエネルギー・環境問題の制約をブレークスルーするため、技術力の一層の強化とその戦略的活用
を中心に2003年10月に策定されたエネルギー基本計画を見直す。なお、エネルギーの供給や利用を進めるに当たっては、安全の確保がその前提となる。「エネルギー基本計画改定のポイント」を
図1、「エネルギー基本計画改定(目次の新旧対照表)」を
表1に示す。
2.エネルギーの需給に関する施策についての基本的な方針(第1章)
「安定供給の確保」、「環境への適合」、「市場原理の活用」という「エネルギーの需給に関する施策についての基本的な方針」を
表2に示す。
如何なるエネルギーであっても、その供給に当たっては、安全の確保がすべてに優先されなければならない。国および事業者は、エネルギー供給に伴う災害や供給支障等を発生させないよう、エネルギーの性質に応じて必要な安全確保がなされるための適切な方策を講じることの重要性について十分な認識と責任ある取組が必要であり、製造、供給のみならず、消費の段階までの安全確保が必要である。
地球温暖化対策については、京都議定書目標達成計画に沿って推進するとともに、米・中・印等すべての主要排出国が最大限の削減努力を行う実効ある枠組みの構築に向けて国際的な議論を主導する。さらに、京都議定書を補完する多国間の取組に積極的に協力・貢献を行うことにより、エネルギー問題と環境問題の一体的解決を図り、持続可能な成長基盤を確立する。わが国の実情に適合する形での市場原理の活用策を設計することが重要で、その際、安全の確保や省エネルギー対策等の需要面での取組の推進が重要となる。
3.エネルギーの需給に関し、長期的、総合的かつ計画的に講ずべき施策(第2章)
3.1 エネルギーの需給に関する施策の基本的な枠組み(第1節)
エネルギー安全保障の確立に向けて、(1)省エネルギー対策を中心とする需要面での効率化を図る取組と同時に、供給面においては、原子力、新エネルギー、ガス体エネルギーの開発・利用等の対策を講じ、エネルギー源の最適な組合せを確保するといった需給両面における取組により、一層柔軟かつ強靱なエネルギー需給構造を構築、(2)石油等の安定供給確保のため、資源外交およびエネルギー・環境協力の総合的な推進、(3)
石油備蓄制度等緊急時対応策の充実・機能強化、(4)これまでの制度改革の評価も踏まえ、電気事業・ガス事業制度改革に係る制度設計・運用および原子力発電の安全・安心の確保等安定的な電力供給システム実現を図る。国は、エネルギー技術開発および高度利用の促進、公的規制による各主体の行動の規律、地方公共団体等に対する政策誘導、情報の積極的提供等の施策を講じるとともに、長期的なエネルギー需給見通しを提示する。
3.2 エネルギー需要対策の推進(第2節)
「省エネルギー対策の推進と資源節約型の経済・社会構造の形成」の施策を
表3に示す。省エネルギー対策は、安定供給対策と地球温暖化防止の両面に資することに加え、経済活性化効果による「経済と環境の両立」に資する。エネルギー需要の伸びが著しい民生・運輸部門での省エネルギー対策の強化、省エネルギーを進める技術革新とそれを受け入れる社会システム側の変革との好循環の確立を
核にすべての部門での取組を強化する。
負荷平準化対策の推進として、
ヒートポンプ、
蓄熱システムや蓄電池、ガス冷房の普及に向けた環境整備、蓄電技術の技術開発等を進める。
3.3 多様なエネルギーの開発、導入および利用(第3節)
「原子力の開発、導入および利用」の位置付けと施策8項目を
表4に示す。原子力の安全の確保と安心の醸成については、透明性の確保と説明責任を果たしつつ、検査制度の定着と更なる安全水準向上のための制度の見直し、
高経年化対策、耐震安全対策の充実、
放射性廃棄物に係る安全規制制度の整備、安全確保に係る取組を確実に実施しているか、立地地域関係者に十分説明、検証、原子力防災対策の強化、原子力防災対策に万全を期す。
「運輸部門のエネルギー多様化」の施策3項目を
表5に示す。運輸部門は、ほぼ100%を石油に依存し、脆弱性が高く、エネルギー多様化に向けた早急な対応が不可欠である。
「新エネルギーの開発、導入および利用」の位置付けと施策4項目を
表6に示す。
天然ガスの導入および利用については、天然ガスは中東以外の地域に広く分散して存在するとともに、
環境負荷が小さいエネルギーであり、また、長期契約を主とするため、供給が概ね安定的に確保されるとともに、相対的に価格の変動が小さい。このため、ガス供給インフラ整備、海外からの安定的かつ低廉な供給確保等の流通・調達の円滑化に向けた取組を推進し、燃料転換、
分散型電源の導入等による需要拡大を図る。
LPガスは、環境負荷が小さいエネルギーであり、幅広い利用を促進する。
石炭は、供給安定性が高く、経済性にも優れているエネルギーであり、特に、長時間継続して運転を行い、安定的に電気を供給する電源として重要な役割を果たしている。産炭国との関係を強化し、供給源を多様化し、環境面での制約に対して、
クリーン・コール・テクノロジーの開発・普及を従来にも増して推進するとともに、低品位炭の有効利用のための技術開発・普及、石炭液化技術その他の環境面で優れた利用技術のアジア諸国等への普及を図る。
将来のわが国のエネルギー需給構造像を見渡した長期的視野の下、将来のエネルギーシステム(分散型、水素社会)実現のための取組を推進する。
3.4 石油の安定供給の確保等に向けた戦略的・総合的な取組の強化(第4節)
石油はわが国の一次エネルギー供給量の約5割を占めており、経済性・利便性の観点から今後も重要なエネルギー源である。官民一体となった政策を戦略的・総合的に推進し、特に国際競争力ある産業の育成に取り組む。「資源確保に向けた戦略的・総合的な取組の強化」の施策8項目を
表7に示す。
石油産業の国際競争力・経営基盤の構築については、開発から精製・流通、更には石油化学に至る収益体質の抜本的改善に取り組み、国際的な調達力と国内的な展開力を持った強靱な石油産業の育成に努めるとともに、アジア市場への石油製品の輸出等を見据えたわが国石油産業の国際競争力の強化に取り組む。石油精製業は、石油化学産業と連携した石油コンビナート全体の最適化による経営基盤の確立を図り、重質油分解能力の向上、バイオ由来の新燃料の導入等に対応するための精製設備の高度化等石油の効率的・高度利用技術の開発・普及、石油製品輸出による供給余力の有効活用等石油精製業の国際展開戦略を検討する。石油販売業は、事業の効率化・多角化、高付加価値サービスの提供等による経営基盤の強化、消費者に対する石油製品の適正な品質確保の取り組みを進め、国は地下タンク入替等土壌汚染防止に向けた取組や、高付加価値サービスの提供等による経営基盤強化に向けた前向きな取組を支援する。
3.5 エネルギー・環境分野における国際協力の推進(第5節)
エネルギー資源の大半を海外からの輸入に依存しているわが国にとっては、世界全体が抱えるエネルギー問題の解決に向けて積極的な役割を果たす。わが国に蓄積された技術・ノウハウといった強みを活用し、官民連携して、戦略的に対応し、資源外交、経済協力との連携を図る。
IEA等の国際機関や環境保全機関、東南アジア諸国連合等の地域枠組み、
国際エネルギーフォーラム等の多国間の枠組みを通じて、エネルギーの政策協調に向け議論を主導し、アジアとは、省エネルギー協力の戦略的な推進、太陽光発電、バイオマスエネルギー等の新エネルギー技術、石炭のクリーン利用技術、その他エネルギー分野における協力の推進、石油備蓄、原子力安全確保等に係るアジア諸国間の地域的協力を推進する。
気候変動問題や核不拡散に関する国際的な枠組みへの協力・貢献については、すべての主要排出国が最大限の削減努力を行う実効ある地球温暖化問題に係る国際的枠組みの構築を目指す。グレンイーグルズ行動計画やアジア太平洋パートナーシップといった多国間の取組への協力・貢献、GNEP構想といった新たな国際的な枠組み作りへの協力・貢献に取り組む。
3.6 緊急時対応の充実・強化(第6節)
わが国のエネルギー安全保障上、石油備蓄制度の重要性はますます高まっている。わが国全体の備蓄水準の中長期的な引き上げ等石油備蓄の着実な推進を図る。また、LPガス備蓄は民間備蓄と国家備蓄により万全を期す。危機管理におけるエネルギー源の横断的な連携強化として、改めてエネルギー源全体を見渡し、需給状況等の特性を踏まえて点検し、エネルギー企業の危機管理体制の構築を図る。
3.7 電気事業制度・ガス事業制度の在り方(第7節)
改正電気事業法に基づく今後の電気事業制度運用の在り方について、これまでの制度改革に対する積極的評価を踏まえつつ、引き続き制度改革を推進し、発送電一貫体制により安定供給を図った上で、送配電ネットワークの公平かつ透明なアクセスの確保、託送制度の見直し等による広域的な電力流通の円滑化、全面自由化の検討に際しては、供給信頼度の確保、
エネルギーセキュリティや環境保全等の課題との両立等について十分慎重に検討する。電力供給システムの信頼性向上のため、原子力発電の安全・安心の確保等、一層安定的な電力供給システムの実現を目指すための必要な措置を実施する。
ガス事業制度について、これまでの制度改革に対する積極的評価を踏まえつつ、自由化範囲の拡大等供給システムの改革を推進、小売分野における自由化範囲の更なる拡大と託送制度の利便性の向上、導管網への公平かつ透明なアクセスを確保し、川上から川下まで一貫した体制による安定供給を図る。さらに、ガス導管網の整備促進、相互連携・第三者利用の促進、市場監視や紛争処理制度の活用による公正な競争環境の維持、全面自由化については、最終供給保障やユニバーサルサービスの確保等に配慮し十分慎重に検討する。
4.エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進するためのエネルギー関連技術研究開発と施策(第3章)
4.1 エネルギー技術戦略の策定(第1節)
わが国の強みである技術力・ノウハウ・経験を戦略的に活用し、地球温暖化問題等世界的な取組にもイニシアティブを発揮する。そのためには、官民一体となった軸のぶれない取組の推進を図ることが重要である。明確な政策目標の下、中長期的に求められる技術開発をロードマップの形で示し、資源投入の道筋を明確にした技術戦略を策定する。
4.2 研究開発のために重点的に施策を講ずべきエネルギー関連技術と施策(第2節)
「研究開発のために重点的に施策を講ずべきエネルギー関連技術と施策」の7項目を
表8に示す。
5.エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進するために必要な事項(第4章)
5.1 広聴・広報・情報公開の推進および知識の普及(第1節)
国民各層との相互理解を深めるため、広聴活動に努めるとともに、子供の教育を含め国民に正確な情報を提供するための取組を推進する。
5.2 地方公共団体、事業者、非営利組織の役割分担、国民の努力等(第2節)
「国、地方公共団体、事業者等、主体の責務、役割分担、国民の努力等」を
表9に示す。
5.3 今後の検討課題(第3節)
国際的に厳しさを増すエネルギー・環境制約を克服すべく、戦略性を有する確固たるエネルギー政策の構築と官民一体となった軸のぶれない取組を主導し、エネルギー安全保障を確立する。エネルギー安定供給の担い手として強いエネルギー関連企業・産業の形成に向けた民間の努力と国の適切な環境整備・支援を行う。イノベーションを軸に「経済と環境の両立」を図り、世界の範となる持続可能な社会の実現を目指して新たなエネルギー社会を構築する。
<図/表>
<関連タイトル>
エネルギー政策基本法 (01-09-01-06)
エネルギー基本計画 (01-09-01-07)
新・国家エネルギー戦略 (01-09-09-09)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁ホームページ:総合エネルギー調査会総合部会第7回会合(06.12.7)配布資料1「エネルギー基本計画改定案(新旧対照表)<要約>」
(2)資源エネルギー庁ホームページ:エネルギー基本計画(平成19年3月)、エネルギー基本計画改定のポイント