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1.「新・国家エネルギー戦略」策定の経緯
経済産業省では、原油価格高騰をはじめ昨今の厳しいエネルギー情勢にかんがみ、エネルギー安全保障を核とした「新・国家エネルギー戦略」の策定を進め、2006年3月30日に中間とりまとめを公表した。その後、総合資源エネルギー調査会総合部会(部会長・黒田昌裕 内閣府経済社会総合研究所 所長)における議論等を踏まえつつ、戦略項目の具体的な内容を最終的にとりまとめ、5月31日に行われた経済財政諮問会議において経済産業大臣から報告された。
2.「新・国家エネルギー戦略」の概要
戦略によって実現を目指す目標は、以下の3点となる。
1)国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立
現在の石油価格の高騰は、わが国経済全般に対して、石油ショック当時のような大きな混乱をもたらしていないものの、わが国のエネルギーを取り巻く環境は、引き続き
リスクの高い状態にある。このため、世界最先端のエネルギー需給構造の構築に向けた取り組みを強化すると同時に、対外的な戦略の強化によって多様化・多層化を続ける様々なリスクの発生を食い止め、併せて緊急時においても混乱を最小化する取り組みを強化することによって、エネルギー安全保障の確立を図る。
2)エネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基盤の確立
2005年7月に英国で開催されたグレンイーグルズ・サミットでは、エネルギーと気候変動問題を一体的に対処することの重要性について、首脳レベルで共通の認識が得られ、「気候変動、クリーンエネルギーおよび持続可能な開発に関する
グレンイーグルズ行動計画」が合意された。この合意に見られるように、地球環境問題は、エネルギー政策と表裏一体の関係にあるとの理解が深まっている。エネルギー安全保障の確立に向けて、多様化・多層化するエネルギー供給制約への対応を進めるに当たっては、気候変動問題をはじめとする地球環境問題を一体的に克服していくことを視野に入れて取り組む必要がある。また、そのためには、化石燃料への依存度を可能な限り下げていく(いわゆる脱炭素化)等の技術面における中長期的な取り組みが不可欠である。
3)アジア・世界のエネルギー問題克服への積極的貢献
国際エネルギー市場は、資本市場動向を含めた世界経済全体の動向と連動している。加えて、わが国の産業・経済は、先端的な産業群を中心に、既にアジアを中心とした稠密な国際分業ネットワークに組込まれている。こうした実態を踏まえると、わが国におけるエネルギーの安定供給確保を図ることを第一義的目標として、国内対策、対外対策を含め総力を挙げて取り組むに当たっては、取り組みの結果、国際的な資源獲得競争を煽らないようにしなければならない。そのためには、アジア、世界経済との共生という基本的立場の下、わが国の持つ技術力、エネルギー問題に取り組んできた経験などを国際的な場で活かして、アジア、世界とともに歩み、課題を克服し、発展のための基盤を形成するという地球レベルの視野に立った目標が、「新・国家エネルギー戦略」の重要な基本姿勢とならなければならない。
具体的には、「新・国家エネルギー戦略」における目標達成の基本的視点を以下の3点に置き、
図1に示す具体的な取り組みを行っていく。
(1)世界最先端のエネルギー需給構造の確立
エネルギー資源に乏しい一方、資源消費大国であるわが国にとって、多様化・多層化を続けるエネルギー供給上のリスクに対応していくための最も確実な対策は、エネルギーの利用効率の向上、エネルギー源の多様化・分散化、エネルギー供給余力の保持などにより、世界最先端のエネルギー需給構造を確立することである。中でも、供給安定性に優れ、発電過程においてCO
2の排出のない原子力にわが国のエネルギー供給の一定比率を依存することは不可欠である。その推進に当たっては、品質保証を核とする安全の確保に万全を期すことが重要である。
目標:およそ50%ある石油依存度を、2030年までに40%を下回る水準とする(
図2)。
対応:以下の4つの計画に取り組む。
1)
省エネルギーフロントランナー計画
目標:2030年までに更に30%、エネルギー効率の改善を目指す(
図3)。
対応:これからの省エネを支える技術戦略の策定、優れた省エネ技術を認定するトップランナー基準の整備とトップランナーに対する支援の強化、中長期的な省エネ型社会システムの検討などにより、技術革新とそれを受け入れる社会システムの好循環を確立する。
2)運輸エネルギーの次世代化
目標:石油依存度を、2030年までに80%程度とすることを目指す(
図4)。
対応:燃費改善、バイオ由来燃料やGTL等新燃料の導入促進、電気自動車・燃料電池車等の開発・普及促進の3つの柱で、目標達成に至るアクションプランを提示した。また、ブラジルや沖縄で開発・生産されているバイオ由来燃料活用促進、蓄電池の集中的技術開発による電気自動車、燃料電池車の早期導入などの具体策に取り組む。
3)
新エネルギーイノベーション計画
目標:太陽光発電コストを2030年までに火力発電並みに。
バイオマスなどを活用した地産地消型取り組みを支援し地域エネルギー自給率を引き上げる、等。
対応:技術力を磨き新たな産業として自立させるための支援策を提示。
新エネルギーなどを目で見て触れて理解できる、「次世代エネルギーパーク」の形成の促進、次世代蓄電池をはじめとした革新的なエネルギー技術の開発などの具体策に取り組む。
4)原子力立国計画
目標:2030年以降においても、発電電力量に占める比率を30〜40%程度以上にする。
核燃料サイクル早期確立、高速増殖炉早期実用化に取り組む(
図5)。
対応:供給安定性に優れ、運転中にてCO
2もほとんど排出しないクリーンなエネルギー源である
原子力発電を、安全確保を大前提に推進する。原子力発電推進に向けた投資環境整備、核燃料サイクルの早期確立、国際的な原子力の平和利用の推進などに取り組む。その詳細は、総合資源エネルギー調査会原子力部会の報告としてとりまとめ2006年8月に公表された。
(2)資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化
構造的なエネルギー需給の逼迫をはじめとして、多様化・多層化が進むリスクに対して、この発生を食い止め、また、その影響を最小限に抑えるべく、資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化を図ることが必要である。
1)総合資源確保戦略
目標:石油自主開発比率を、2030年までに、引取量ベースで40%程度とする(
図6)。
対応:ODAの積極的活用や投資交流の促進、様々なレベルでの人的交流の拡大など、資源国との総合的な関係強化を図る。このため、資源確保指針の策定を通じ、政策金融、貿易保険、経済協力など政府および関係機関が一体となった取り組みを進める。また、本枠組みの下、資源開発を担う中核的企業への支援を強化する。さらに、メタンハイドレードの開発利用、石炭のクリーンな利用など、世界最先端の化石燃料利用国となるための取り組みの支援に取り組む。加えて、レアメタルなどの鉱物資源についても、海外における資源開発、供給源の多様化等の施策を、政府および関係機関一体となって戦略的・総合的に推進する。
2)アジアエネルギー・環境協力戦略
目標:省エネをはじめエネルギー協力を展開し、アジアとの共生を目指す。
対応:エネルギー需要が急増しつつある中国、インド等アジア諸国に対し、省エネ分野、石炭の有効利用・生産保安分野、新エネ分野、原子力分野など、様々な分野でエネルギー環境協力を戦略的に展開する。
(3)緊急時対応の充実
わが国のエネルギー安全保障を抜本的に強化するためにも、緊急時対応能力
の向上について再検討することが不可欠である。石油ショック以降、わが国は石油の国家備蓄の導入をはじめとする石油備蓄制度の見直し・機能強化、天然ガスに関する緊急時対応体制の整備など緊急時対応の充実に取り組む。
(4)その他
官民連携した取り組みを促すため、2100年、2050年と言った超長期の視点から課題を遡及させることによって得られる技術のあるべき姿を踏まえつつ、2030年に向けて解決すべき技術開発課題を、エネルギー技術戦略の形でまとめる(
図7)。
<図/表>
<関連タイトル>
地球温暖化防止京都会議(1997年のCOP3) (01-08-05-15)
長期エネルギー需給見通し(1998年6月・総合エネルギー調査会需給部会) (01-09-09-05)
長期エネルギー需給見通し(2001年7月・総合資源エネルギー調査会) (01-09-09-06)
長期エネルギー需給見通し(2005年3月・総合資源エネルギー調査会需給部会) (01-09-09-08)
原子力立国計画(2006年8月、総合資源エネルギー調査会原子力部会報告) (10-02-02-15)
<参考文献>
(1)経済産業省ホームページ:新・国家エネルギー戦略(2006年5月)
(2)経済産業省ホームページ:新・国家エネルギー戦略の骨子