<本文>
1.本指針の位置付けと適用範囲
本指針は、「発電用軽水型原子炉施設に関する
安全設計審査指針 」及び「発電用軽水型原子炉施設の
安全評価 に関する審査指針」の定めるところにより、発電用軽水型原子炉すなわち、加圧水型(
PWR )及び沸騰水型(
BWR )原子炉の反応度投入事象を評価するためのものである。
本指針の基本的な考え方は、燃料の構造及び組成が類似する軽水型原子炉又は重水型原子炉の反応度投入事象の評価に準用することができる。
2.判断基準
反応度投入事象の解析結果は、次の判断基準を満足するものでなければならない。
(1)運転時の異常な過渡変化にあっては、
1)燃料エンタルピの最大値は、
燃料棒 内圧から冷却材圧力を差し引いた圧力(以下、「燃料棒内外圧差」という。)に依存して決定される
図1 に示す
燃料エンタルピー (以下、「燃料の許容設計限界」という。)を超えないこと。
2)原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力の 1.1倍以下であること。
(2)事故にあっては、
1)燃料エンタルピーの最大値は、230cal/g・UO
2 を超えないこと。
2)
原子炉冷却材圧力バウンダリー にかかる圧力は、最高使用圧力の 1.2倍以であること。
(3)運転時の異常な過渡変化及び事故にあっては、浸水燃料の破裂による衝撃圧力等の発生によっても、原子炉停止能力及び
原子炉圧力容器 の健全性を損なわないこと。
3.解析に当たっての要求事項
解析に当たって必要とされる事項を以下に示すが、各要求及び指定事項からはずれたものを用いて解析を行う場合には、適切な方法によって、その妥当性を示す必要がある。
(1)初期条件
1)炉心状態
解析初期条件としての炉心状態を示す冷却材温度、原子炉圧力及び出力分布等については、最も厳しい燃料エンタルピーを与えるように選定しなければならない。
事故時においては、被覆が破損する燃料棒本数が最大となるケースについても解析を行わなければならない。
また、浸水燃料の炉心存在比は、衝撃圧力の発生を大きく見積るように、適切に定めなければならない。
(2)動特性計算
1)
原子炉スクラム
原子炉を停止する原子炉スクラム信号を明らかにし、この場合のスクラム遅れ時間を適切に考慮しなければならない。また、この際に最大反応度効果を有する制御棒(クラスタ)1本が完全引抜位置にあり、挿入されないものとする。
スクラム速度は、実測データ等との比較によって適切な安全余裕を見込まなければならない。
2)
反応度添加率
抜け出す
制御棒価値 は、計算上の不確定要素を考慮して、適切な安全余裕を見込まなければならない。また、反応度添加率は、制御棒の微分価値と、抜け出す制御棒の位置対時間の関係より求め、もし、微分価値が使えない時は、それに代わる適切な手法を用いなければならない。
3)
実効遅発中性子割合 (βeff)及び
即発中性子寿命 (l*)
βeffとl*の計算は、摂動論から導かれる定義に基づいて行うものとする。
4)ウェイテング・ファクタ
3次元核計算から低次元動特性計算へ次元を縮約するに当たっては、ウェイテング・ファクタを適切に選定しなければならない。ウェイテング・ファクタは、時間依存で考えるのが妥当であるが、時間依存にしない場合は、判断基準に照らして厳しい結果を与えるように選定しなければならない。
5)燃料の物性値等
ペレット及び被覆管の物性値並びにギャップ熱伝達係数、被覆管表面熱伝達係数等については、解析する対象に応じて適切に選定しなければならない。
6)減速材温度係数
非断熱計算を行う場合、冷却材のボイド、圧力、温度、密度等の変化に伴う
反応度係数 を考慮してもよいが、選定した値が十分安全余裕を持ったものであることを適切な方法で示さなければならない。
上記
反応度フィードバック のうち、正になるものがある場合には、これを安全側に評価し計算しなければならない。
また、3次元解析をしない場合には、適切なファクタを乗じ、結果が厳しくなるように計算を行わなければならない。
7)
ドップラー係数
ドップラー係数は、ダンコフ効果の修正を含む実効共鳴積分に基づいて計算するとともに、利用できる実験データとの比較によって、適切な安全余裕を見込まなければならない。ドップラー効果の評価に当たっては、燃料温度予測の不確定要素もあわせて考慮し、適切な安全余裕を見込んだものとしなければならない。
(3)燃料挙動解析
1)燃料棒内圧
当該事象の初期条件としての燃料棒内圧は、燃料の燃焼に伴う核分裂生成ガスの発生による内圧上昇を考慮しなければならない。
2)ピーキング・ファクタ
燃料の熱点解析を行う場合、中性子束分布に関するピーキング・ファクタは、安全余裕を持って選定しなければならない。
3)炉心出力分布
炉心出力分布を直接計算しない場合は、被覆が破損する燃料棒の本数決定の観点から、安全余裕を持ったものであることを適切な方法で示さなければならない。
4)燃料の物性値等
(2)−5)項に同じ。
(4)圧力サージ計算
PWRにあっては、圧力サージ計算は、燃料から冷却材への熱伝達、金属−水反応、冷却材中での熱発生に基づいて行う。
体積サージを用いて圧力トランジェントを計算する際には、原子炉冷却材系統内の流体の移動、
蒸気発生器 での伝熱及び加圧器安全弁の作動を考慮に入れてよいが、制御棒駆動機構圧力ハウジングの破損による減圧効果は見込んではならない。
(5)浸水燃料の破裂による機械的エネルギ発生・応答解析
浸水燃料については、燃料エンタルピが、ピーク出力部(
図2 参照)の断熱計算で65cal/g ・UO
2 を超える燃料棒の被覆は破裂したものとし、発生する機械的エネルギの影響を評価しなければならない。
○用語の定義
(1)反応度投入事象:臨界又は臨界近傍の原子炉に、原則的に1
ドル 以上の反応度が急激に投入されることによって、原子炉出力の上昇とそれに伴う原子炉燃料のエンタルピー増大が生じる事象をいう。
(2)燃料エンタルピー:燃料ペレットのエンタルピー半径方向平均であって、初期エンタルピと当該事象の解析によって付加されるエンタルピを加えた値で、基準を0℃として評価した値をいう。
(3)ピーク出力部:ピーク出力部についての定義を
図2 に示す。当該事象発生の初期出力POとピーク出力PPの平均値(PO+PP)/2に相当する部分のパルス幅をthとする。パルスのピークがあらわれる時点をtpとし、te=tp+thでteを定義する。ピーク出力部は、事象発生時点からteまでの時間(
図2 で斜線を施した部分)として定義する。
(4)浸水燃料:浸水燃料とは、
燃料被覆管 にピンホール等が存在することにより、燃料棒内部に水が存在することが考えられる燃料棒をいう。
<図/表>
図1 反応度投入事象における燃料の許容設計限界
図2 反応度投入事象におけるピーク出力部の定義
<関連タイトル>
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-01-10)
我が国の安全確保対策に反映させるべき事項について (11-03-01-18)
発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料の取り扱いについて (11-03-01-29)
<参考文献>
(1)石川 迪夫:「反応度事故に対する安全性研究」、日本原子力学会誌 Vol. 12、No.5、pp.276-283 (1970).
(2)Ishikawa,M. and Shiozawa,S. :“A Study of Fuel Behavior under Reactivity Initiated Accident Conditions-Review”,J.Nucl.Mater.,Vol.95,pp.1-30(1980).
(3)Fujishiro,T.,et al.:“A Study on Pressure Generation Caused by Actual Fuel Failure in the NSRR Experiment”,Proceedings of the 4th OECD/CSNI Specialist Meeting on Fuel−Coolant Interaction in Nuclear Reactor Safety (Bournemouth,U.K.,1979).
(4)大西 信秋、他:「軽水動力炉の反応度事故条件下における浸水燃料の破損挙動」、日本原子力学会誌、Vol.24,No.4,pp.289-300 (1982).
(5)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会 安全審査指針集、大成出版(1994)