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<概要>
 制御棒の逸出あるいは落下による反応度の投入によって運転時の異常な過渡変化あるいは反応度事故に至ったケースにおける燃焼の進んだ燃料について、燃料破損冷却材圧力バウンダリの健全性、破損燃料堆積物の冷却性および核分裂生成物の放出割合などの安全評価を行う際の基準および方法が原子力安全委員会原子炉安全基準専門部会高燃焼度燃料反応度投入事象検討小委員会で検討され、その検討結果が1998年4月13日、原子炉安全基準専門部会報告書として定められた。
 ここでは、この報告書の抜粋、すなわち、位置付けと適用範囲、判断基準および解析に当たっての要求事項を示す。
<更新年月>
2000年03月   

<本文>
1.本報告書の位置付けと検討範囲
 軽水炉の反応度投入事象時における燃焼の進んだ燃料の取扱いについては、1984年1月19日に原子力安全委員会で決定された「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針」(以下RIA指針と略す。RIA:Reactivity Initiated Accident)の解説において、当時入手可能であった実験データを基に規定されており、85cal/g・UO2をもって燃焼の進んだ燃料の破損しきい値とし、事故時における燃料破損本数の最大ケースを検討するとしている。しかしながら、この破損目安値は米国で実施された一回の実験(SPERT859実験)にのみ基づいていることなどから、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)のNSRR実験の成果を待って再検討を行うものとされていた。
 近年、燃焼の進んだ燃料を用いた実験の結果が数多く得られており、一方、国内の軽水炉においては、燃料の高燃焼度化計画が一層進められている。このため、RIA指針における燃焼の進んだ燃料の取扱いについて最新の研究成果に基づく検討を行った。検討対象は、国内において使用が予想される高燃焼度燃料とし、燃料集合体最高燃焼度55,000MWd/tを目標とした高燃焼度燃料(沸騰水型原子炉BWR)ではペレット最高燃焼度約75,000MWd/t,加圧水型原子炉(PWR)では同約71,000MWd/t)を装荷した軽水炉の安全審査を行うに当たって、特に留意すべき事項について調査、検討を行った。
2.検討結果
 燃料の燃焼が進むと、燃料被覆管の延性が低下するとともに、出力急昇時のペレット膨れ量が増加する可能性がある。このため、燃焼の進んだ燃料では、反応度投入事象の比較的初期の被覆管温度が有意に上昇する前に、ペレットの急激な膨張に被覆管が耐えられず、割れが生じて燃料が破損することが報告されている。このタイプの燃料破損は燃料ペレット/被覆管機械的相互作用(Pellet/Cladding Mechanical Interaction:PCMI)を原因とする破損(以下PCMI破損と略す)と認められる。このため、PCMI破損を生ずる燃料エンタルピのしきい値(PCMI破損しきい値)を定め、運転時の異常な過渡変化にあっては燃料エンタルピの増分がこのしきい値を超えないこと、事故にあってはこのしきい値を超えてPCMI破損を生じ、機械的エネルギや燃料ペレットの微細化が発生しても、原子炉の停止能力および冷却性並びに原子炉圧力容器の健全性を損なわないことを確認した。また、燃焼の進展に伴って生じるペレットの融点低下等の影響についても確認した。
2.1 燃焼の進んだ燃料の破損しきい値について
 安全評価に用いるPCMI破損しきい値を燃焼度に応じて以下のように定めた。なお、以下、単に「燃焼度」というときはペレット燃焼度を表すものとする( 図1 参照)。
(1) 燃焼度25,000MWd/t未満
 米国のPBF実験では燃焼度約5,000MWd/tの燃料においてPCMI破損に至るまでの燃料エンタルピが最も小さい値として140cal/g・UO2弱が報告されており、このときの燃料エンタルピの増分は少なくとも120cal/g・UO2以上であると推定されるので、この値に対して10cal/g・UO2の安全余裕を見込み、この範囲におけるPCMI破損しきい値を燃料エンタルピの増分110cal/g・UO2とする。
(2) 燃焼度25,000MWd/t以上40,000MWd/t未満
 この範囲のNSRR実験では、燃料エンタルピの増分125cal/g・UO2まで燃料は破損していない。一方、米国のSPERT 859実験では、燃焼度32,000MWd/tの燃料のPCMI破損に至るまでの燃料エンタルピの増分が最も小さい値として85cal/g・UO2が報告されている。このSPERT 859実験については、試験燃料ベース照射の条件などから、被覆管が破損しやすい状態にあったと考えられ、そのデータの取扱いには慎重を期す必要がある。しかし、実験データが必ずしも豊富とは言えないことから、この範囲におけるPCMI破損しきい値を燃料エンタルピの増分85cal/g・UO2とする。SPERT 859実験の特殊性およびNSRR実験等から見込まれる燃料破損の下限値を考慮すると、この値は既に十分保守的なものであり、更に安全余裕を見込む必要はないものと判断する。
(3) 燃焼度40,000MWd/t以上65,000MWd/t未満
 この範囲においては、PCMI破損に至るまでの燃料エンタルピの増分が最も小さい値としてNSRR実験による60cal/g・UO2が報告されているので、この値に対して10cal/g・UO2の安全余裕を設け、燃料エンタルピの増分50cal/g・UO2を用いる。なお、燃焼度63,800MWd/tの燃料が燃料エンタルピの増分12cal/g・UO2で破損した仏国のCABRI REP Na−1実験については、軽水炉での使用中に被覆管外面の酸化膜が剥離したことなどにより、被覆管の水素吸収量が極めて大きく、また、水素化物の分布および配向が特異な状態となっていたため、判断材料から除外した。
(4) 燃焼度65,000MWd/t以上75,000MWd/t程度まで
 燃焼度64,300MWd/tの燃料に対するCABRI実験において、燃料エンタルピの増分88cal/g・UO2でも燃料は破損しなかったことなどから、この範囲におけるPCMI破損しきい値も、燃焼度40,000MWd/t以上65,000MWd/t未満の範囲と同様に60cal/g・UO2での破損事例に拠ることとした。ただし、燃焼が進むとともに被覆管の脆化が進行する可能性があり、燃焼度65,000MWd/t以上では実験データが得られていないことから、ここでは20cal/g・UO2の安全余裕を見込み、PCMI破損しきい値を燃料エンタルピの増分40cal/g・UO2とする。
 安全審査に当たっては、RIA指針の判断基準(1)−1)(許容設計限界)が規定する内圧破裂に加え、PCMI破損を検討することとする。なお、ここで定められたPCMI破損しきい値は、NSRR実験等による知見が一層蓄積された時点で見直されるべきものと考える。
2.2 事故時における許容燃料エンタルピの最大値
 RIA指針の判断基準(2)−1)に示す制限値(事故時の燃料エンタルピ最大値230cal/g・UO2)は、ペレットの溶融および蒸発に起因する燃料破損によってもたらされる機械的エネルギの発生防止を意図したものである。ペレットの融点が顕著に低下する場合には、その影響を考慮する必要があり、事故時の燃料エンタルピ最大値は、制限値230cal/g・UO2から、燃焼の進行、ガドリニア等の添加物、混合酸化物燃料中のプルトニウム存在比等の効果によるペレット融点低下分相当のエンタルピを差し引いた値を超えないこととするのが妥当である。
2.3 PCMI破損時の機械的エネルギの影響
2.3.1 衝撃圧力および水撃力による影響の評価
 NSRR実験においてPCMI破損を生じた場合には、圧力波および機械的エネルギの発生が測定されている。このため事故時において、浸水燃料の破裂に加えて、PCMI破損による圧力波等の発生を重畳しても、原子炉停止能力および原子炉圧力容器の健全性を損なわないか検討を行った。PCMI破損時に冷却材中に放出される燃料粒子の温度は、融点をはるかに下回っており、蒸気爆発による機械的エネルギ発生の可能性は無い。しかしながら、燃料が微粒子化し、燃料と冷却材との接触面積が大きくなっていることから、急速な伝熱に伴う蒸気発生などにより機械的エネルギが発生する可能性がある。PCMI破損に伴う機械的エネルギ発生については、NSRR実験などから得られた機械的エネルギ変換係数データが、未照射浸水燃料の破裂に伴う機械的エネルギ変換係数の評価曲線の1/2を下回っていることから、同評価曲線をPCMI破損に伴う機械的エネルギ変換係数に対しても使用することにより、十分保守性を持った安全評価結果が得られるものと考える( 図2 および 図3 参照)。
 PCMI破損を考慮する破損燃料の量は、PCMI破損しきい値に達したペレットが位置するスペーサ間(PWRではグリッド間)とするなど、十分な保守性を見込んで評価を行っているので、浸水燃料破裂による機械的エネルギと重畳しても原子炉圧力容器の健全性および原子炉停止能力の維持の観点から十分な安全余裕があることを確認した。
2.3.2 圧力サージの検討
 PWRにおいてPCMI破損時により燃料が放出される場合には、燃料と冷却材との接触に伴う蒸気発生により冷却材圧力バウンダリの圧力が上昇することが考えられるが、PCMI破損により冷却材中へ放出される燃料の量や蒸気発生効率等の評価条件に適切な保守性を持たせた評価を実施した結果、その影響が十分に小さいことを確認した。
2.4 破損燃料堆積物の冷却性の検討
 NSRR実験およびCABRI実験において、PCMI破損時に被覆管の破損口から微細化したペレットが冷却材中へ放出された。このため、事故時においては、PCMI破損および浸水燃料の破裂によって燃料が微細化し、冷却材中に放出されるものと考える必要があるが、放出される燃料は量が少なく、原子炉冷却材系各部に分散されると考えられるので、炉心の冷却性が問題になることはないと考えられる。しかしながら、念のため、放出された燃料の全量が圧力容器底部に堆積するものとして、その冷却性を検討した。冷却材中に放出される燃料の量や微粒子の粒径等に適切な保守性を持たせて評価した結果、発生熱流束はドライアウト熱流束(*1)より十分に小さく、破損燃料堆積物の冷却性に関して十分な安全余裕のあることを確認した。
2.5 核分裂生成物の放出割合
 NSRR実験の一部では、半減期の長いKr、Xeについて20%を超えた放出割合が測定されている。この測定結果から、高燃焼度化に伴う核分裂生成物放出割合の増加が被ばく評価に及ぼす影響についても検討を行った。その結果、反応度投入事象時に燃焼の進んだ燃料が破損した場合の被ばく評価においても、現行の安全評価で用いられている核分裂生成物の放出割合の仮定を用いることは保守的な評価となることを確認した。
3.結論
 高燃焼度燃料を装荷した軽水炉に関する安全審査を行うに当たって、RIA指針を適用する際に特に留意すべき事項について、現在までに得られている知見をもとに検討を行った。その結果、新たに定めたPCMI破損しきい値を用いることおよび事故時における燃料エンタルピの最大値については、ペレットの融点低下分相当のエンタルピを差し引いた値とするとの検討結果を得た。また、機械的エネルギの影響については、個別の安全審査において評価を行うことが適切であるが、本報告書に示した条件を満足している場合には、十分保守性を持った安全評価結果が得られたものとして差し支えないと考える。圧力サージの影響および破損燃料堆積物の冷却性については、十分な安全余裕があることを確認した。また、被ばく評価においても、現行の安全評価で用いられている核分裂生成物の放出割合の仮定を用いることは、保守的な評価となることを確認した。
 なお、今後の安全審査に当たり、原子炉設置許可申請の内容が本報告書に一部整合しない場合があっても、それが妥当な理由によるものである場合は、これを排除しない。また、本報告書は、燃焼の進んだ燃料を対象とする更なる反応度事故模擬実験の進捗、設計の改良、経験の蓄積など新たな知見が得られた場合には、必要に応じて適宜見直しがなされるべきものである。
[用語解説]
(*1)ドライアウト熱流束:水の供給が十分でないために伝熱面が乾き(ドライアウト)、伝熱面温度が上昇を開始する時の熱流束をいう。原子炉事故時の熱水力安全に関して、環状流の液膜蒸発、炉心水位の低下、デブリベッドにおける落水制限等により生じるドライアウトが重要である。
<図/表>
図1 PCMI破損による燃料破損しきい値
図1  PCMI破損による燃料破損しきい値
図2 PCMI破損時の衝撃圧力による機械的エネルギ変換係数と評価曲線
図2  PCMI破損時の衝撃圧力による機械的エネルギ変換係数と評価曲線
図3 PCMI破損時の水撃力による機械的エネルギ変換係数と評価曲線
図3  PCMI破損時の水撃力による機械的エネルギ変換係数と評価曲線

<関連タイトル>
発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針 (11-03-01-17)
発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について (11-03-01-27)
改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について (11-03-01-28)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):原子力安全委員会安全審査指針集 改訂9版、大成出版社(1998年7月) p.961
(2)MacDonald, P. E., et al.: ”Assessment of Light−Water−Reactor Fuel Damage During a Reactivity−Initiated Accident”, Nuclear Safety, Vol.21, No.5, pp.582−602, (1980).
(3) Fuketa, T., et al.: ”Behavior of High Burnup PWR Fuel Under a Simulated RIA Conditions in the NSRR”, Proc. CSNI Specialist Mtg. on Transient Behavior of High Burnup Fuel, Cadarache, France, September 12−14, 1995, NEA/CSNI/R(95)22, pp.59−85, (1996).
(4) Fuketa, T., et al.: ”NSRR/RIA Experiments with High−Burnup PWR Fuels”, Nuclear Safety, Vol.37, No.4, pp.328−342, (1996).
(5) Schmitz, F. and Papin. J.: ”High Burnup Effects on Fuel Behaviour Under Accident Conditions: the Tests CABRI REP−Na”, J. Nuclear Materials, Vol. 270, pp.55−64, (1999).
(6) Meyer, R. O. et al.: ”A Regulatory Assessment of Test Data for Reactivity Accidents”, Proc. 1997 Int. Topical Mtg. LWR Fuel Performance,Portland, Oregon, March 2−6, 1997, pp.729−744.
(7) Fuketa, T., et al.: ”Fuel Failure and Fission Gas Release in High Burnup PWR Fuels under RIA Conditions”, J. Nuclear Materials, Vol.248, pp.249−256,(1997).
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