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<概要>
 米国スリーマイルアイランド原子力発電所2号機(TMI)事故の経験を我が国の原子力安全確保に反映させるため、原子力安全委員会原子炉安全専門審査会において調査審議した結果、安全審査、設計及び運転管理にあたり考慮すべき事項ないしは基本的考え方を「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」(審査、設計及び運転管理に関する事項<基準関係の反映事項は除く>)としてまとめたものである。ここでは抜粋を示す。
(昭和55年6月23日 原子力安全委員会決定、一部改訂 平成2年8月30日)

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている安全確保対策に反映させるべき事項については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力安全委員会は、昭和54年9月13日の原子力安全委員会決定に基づき、「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」について(審査、設計及び運転管理に関する事項<基準関係の反映事項は除く>)の件について昭和55年6月10日付けで原子炉安全専門審査会から〔別添〕のとおり報告を受けた。同報告書で示された内容については、妥当なものと考えるので、今後の安全規制に採り入れるものとする。この決定は、昭和55年6月23日になされ、平成2年8月30日に一部改定された。
〔別添〕
 安全審査等にあたり考慮すべき事項ないしは基本的な考え方〔抜粋〕
1.審査関係
(1)原子炉停止系、工学的安全施設等の自動作動
  安全保護系の信号により原子炉停止系、工学的安全施設等が確実に自動作動するよう設計されているかどうか、さらに慎重に審査を行う必要がある。また、手動操作を要求されるものは、ヒューマン・クレジットを考慮し、確実に作動するかどうか、さらに慎重に審査を行う必要がある。
 (2)技術的能力及び運転管理体制
  原子炉主任技術者、当直長、運転員等がプラントの安全確保上職務を適確に遂行し得る体制にすることは必要である。この点については、設置許可の段階から審査を行っているところであるが、その方針をその後の運転等の段階でさらに十分に確認する必要がある。
 (3)制御室への接近可能性及び居住性
  事故時における制御室への接近可能性及び居住性の確保上重要な制御室の遮蔽、換気等についてさらに慎重に審査を行う必要がある。
 (4)事故時に必要とする機器等
  格納容器内モニタリング及び格納容器内水素濃度制御のあり方、また、長期冷却系及びサンプリング系の遮蔽などのあり方についてもさらに慎重に審査を行う必要がある。
2.設計関係
2.1 小破断事象時の安全性
  原子炉冷却材圧力バウンダリの小破断事象時の安全性をさらに詳細に確認するとともに、加圧器気相部からの冷却材喪失現象に対処する上での安全性をより向上させるための措置について検討する必要がある。
 PWRプラント
 (1)安全性をより一層向上させるための措置として、原子炉圧力低と加圧器水位低の信号一致(「P+L」)回路を有する2、3ループプラントについて原子炉圧力異常低信号(「P’」回路)を設置することは適当である。
 (2)更に長期的観点にたって進めている1次系小破断事故時の熱除去機能に関する研究の結果を反映させる。
 BWRプラント
 (1)TMI事故以後TMIを模擬した事象の解析を実施したが、設計に反映させるものは特にないと考える。
 (2)更に長期的観点にたって進めている中小破断事象に関するより詳細な研究の結果を反映させる。
 2.2 原子炉冷却材の状態の監視方式
  事故時又は異常な過渡変化時に原子炉冷却材の状態及び炉心冷却の状態をよりよく把握するための手段、例えば、加圧水型軽水炉の1次冷却材がサブクール状態にあることを運転員が常時監視できる装置(ディスプレイ等)の設置などの検討を行う必要がある。
 PWRプラント
 (1)新設プラントの対応
  a. サブクール計の設置
    炉心(出口側)での1次冷却材のサブクール条件に対する余裕を連続指示するためサブクール計を設置することが適当である。
  b. 炉心出口温度計の測定レンジの拡大
    事故時の炉心の冷却状態を監視するため、炉心出口温度計を活用することを考慮し、測定レンジの拡大を図るものとする。また、LOCA環境下における炉心出口温度計の耐環境性を確認するため実施する実証試験の結果を反映させる。
  c. 炉心水位計の実現可能性の研究開発
    炉心水位計の必要性、設計条件、測定方式、問題点等広範囲な検討を行った結果を反映させる。
 (2)既設プラントの対応
  a. サブクール計の設置
    定検時においてサブクール計を設置することが適当である。
  b. 炉心出口温度計の耐環境性等の改善
    新設プラントでの改善策、測定レンジの拡大、実証試験結果等を踏まえ、改善を可能な範囲で図ることが適当である。
  c. 炉心水位計
    新設プラントにおける実現可能性の研究開発に加え、改造の技術的可能性等も勘案し、検討した結果を反映させる。
 BWRプラント
   BWRの原子炉冷却材の状態の監視方法は現状で問題ないと考える。なお、念のために水位検出の他の方法が炉心冷却把握の手段の向上となる可能性があるかどうか研究した結果を反映させる。
 (3)ガス対策
   原子炉冷却系内におけるガス発生量を把握する手段及びトラップされたガスを除去する方法について検討する必要がある。
 (4)制御室のレイアウト等
   運転制御をより一層しやすくするため、制御室におけるプラントの主要なパラメーターの表示のあり方について検討し、また制御盤等のレイアウトに関して人間工学的観点からも検討を行う必要がある。
 (5)弁の信頼性
   弁の開固着という現象に鑑み、弁の材料の品質、弁の機能の信頼性の向上について検討を加える必要がある。
3.運転管理関係
  TMI事故以後、各項目毎に以下に述べるような措置が講ぜられ、または講ずることにしたことは適当である。
 (1)保修時における点検頻度等
   保修規定に明記されている保修時における保安に関する事項、特に保修時における点検頻度に対する考え方の見直しを行い、整合を図る必要がある。
 (2)手動弁の管理方式
   数多い手動弁の管理方式について、例えば、鍵管理の方式、保修作業中における中央制御室での系統図上の表示方式などについて、さらに改善を加えるべき要素があるかどうか検討する必要がある。
 (3)運転員の長期養成計画
   運転員の資質の向上、余裕をもった運転員の配置、補充を図るため、運転員の養成計画に関し、長期的観点からの検討を行う必要がある。
 (4)運転員の誤操作防止対策
   運転員の誤判断、誤操作を少なくするため、現行の誤操作防止対策の向上、誤操作防止に関する教育、訓練の方法等について検討する必要がある。また、運転員が事故時に誤判断を起こしやすいと思われる異常事象について可能な限り検討を行い、運転操作要領等をさらに充実する必要がある。
 (5)プラントの運転管理体制
   原子炉主任技術者の位置づけ及びその権限と責任に関し、特に緊急時について検討する必要がある。また、運転直長を技術的に援助する体制を検討する必要がある。
 (6)報告すべき異常事象
   TMI-2の場合、今回の事故の前に同種の異常事象が発生しており、異常事象の把握は極めて重要である。現在、規制当局によってささいな異常事象も報告徴収が行われているが、報告すべき異常事象の具体的内容、様式等をさらに整備するとともに、これらの技術情報を集積、評価し、設計、運転管理面に反映できるように検討する必要がある。
 (7)緊急時の放射線測定器及び防護用機材の点検、整備
   緊急時において施設内の放射線レベルを把握するため、高線量率測定器(遠隔測定可能なものを含むことが望ましい)、高線量まで直読可能な個人被曝線量計(個人アラームメータ等)、及び手などの局部被曝線量計等緊急時用の測定器を点検、整備するとともに、緊急時の作業に従事する者の被曝を適切に防護するための防護具類を点検、整備することが必要である。
<関連タイトル>
米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の概要 (02-07-04-01)
TMI事故の我が国における対応 (02-07-04-06)
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-01-10)
発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針 (11-03-01-23)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会 安全審査指針集、大成出版(1994)
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