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<概要>
 放射線業務従事者管理区域で非密封の放射性核種を取り扱う作業を行い、放射性核種を吸入あるいは経口摂取することにより体内汚染が生じた場合、あるいはそのおそれのある場合に内部被ばくモニタリングとして、体内放射能の測定が行われて内部被ばく線量が評価される。
 内部被ばくモニタリングは体外計測法およびバイオアッセイ法(排泄物分析法)により行われる。
<更新年月>
2005年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 放射線業務従事者が放射線管理区域で非密封の放射性核種を取り扱う作業を行い、飛散したり空気中に漏洩した放射性核種を吸入あるいは経口摂取することにより体内汚染が生じた場合、あるいはそのおそれのある場合に内部被ばくモニタリングと呼ばれる体内放射能の測定が行われて内部被ばく線量が評価される。
 内部被ばくモニタリングは作業者個人について行われる測定であり、フィルムバッジなどによる個人の外部被ばくモニタリングとを合せて個人モニタリングと呼ばれている。この内部被ばくモニタリングの結果は作業者個人に対する被ばく管理(法律に定められた個人線量の測定・記録の義務の遂行、線量限度の遵守)に用いられ、また、作業環境や作業方法の改善に役立てられることもある。
 内部被ばくモニタリングにおける測定の方法には、体内にある放射能から出るガンマ線を直接測定する体外計測法と排泄物の分析によるバイオアッセイ法とがある。内部被ばくモニタリングは、適切かつ効果的なモニタリング計画に基づいて実施することが必要である。
1.内部被ばくモニタリングが必要とされる状況
 ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告(Publication 35, 1982年)によれば、体内被ばくがALI(年総摂取限度)の10分の3を超えるおそれのある作業条件(作業条件A)の作業者については日常的な内部被ばくモニタリングの対象とすべきであり、その他の作業者(作業条件B)については通常は日常的なモニタリングを行う必要はなく、作業場所の日常モニタリングで十分であるとしている。経験から、内部被ばくの日常モニタリングが必要とされる作業として下記の作業があげられている。
(1)大量の気体状および揮発性物質、たとえば、大規模な製造工程と発光体製造におけるトリチウムとその化合物の取り扱いおよび重水炉中の酸化物として存在するトリチウムの取り扱い
(2)天然および濃縮ウランの処理または原子炉燃料加工で作業場所の汚染が頻繁に発生する状態にある作業
(3)プルトニウムおよび他の超ウラン元素の処理
(4)ウランの粉砕および精練
(5)大量の放射性核種の製造
 また、空気中放射能濃度の測定結果および過去の作業経験も内部被ばくモニタリングの必要性を検討するのに用いることができる。
 体内汚染を引き起こす作業場の汚染の状況には次に示す3つの状況が考えられる。
(a)きわめてまれに、通常は不規則に起こる事象が原因となって生じる作業場所の汚染
(b)平常作業の結果として、変化はするが本質的には連続している作業場所の汚染
(c)小さなまちがいの結果として生ずる、不連続ではあるがまれとはいえない作業場所の汚染
上記の(a)の状況では、作業者が年摂取限度の3/10を超える摂取の可能性があるかどうかを過去のモニタリング結果から判断できないため、経験に基づいて作業を検討することでモニタリングの必要性の有無が判断される。(b)および(c)の状況では、空気汚染モニタリングの結果より作業者が年摂取限度の3/10を超える摂取の可能性がなければ日常のモニタリングは必要とされない。
2.内部被ばくモニタリングの種類
 内部被ばくモニタリングには以下に示すように、日常モニタリング、特殊モニタリング、作業モニタリングおよび確認モニタリングの4種類がある。
(1)日常モニタリング
 日常モニタリングは、体内汚染を起こす可能性のある作業に継続して従事する作業者について、定期的に繰り返して実施する体内汚染の検査である。日常モニタリングの頻度および検査の方法は、作業内容および取り扱われている核種の種類とその化学形、および内部被ばく測定方法の感度などを考慮して決定される。通常は3ヶ月ごとの検査が一般的である。
(2)特殊モニタリング
 特殊モニタリングは、体内汚染が生じた場合、あるいはそのおそれのある場合に随時実施されるモニタリングであり、追跡測定を含む適切なモニタリングプログラムに基づいて体内放射能の測定が行われると共に、測定結果の解釈に資するため作業状況についての調査が行われる。内部被ばく線量の算定は、体外計測、バイオアッセイおよび空気中濃度等の利用可能なデータにより行われる。
(3)作業モニタリング
 作業モニタリングは、特定の作業(例えば放射性物質取り扱い施設の解体など)について体内汚染に係わる状況を知ることを目的として定期的あるいは随時に行われるモニタリングであり、その結果は内部被ばく管理と作業方法の改善などに反映される。
(4)確認モニタリング
 確認モニタリングは、作業者の作業条件について、その状況を確認するために実施するモニタリングである。確認モニタリングの対象者は通常は各作業グループより選出される。もしも、確認モニタリングで汚染が検出された場合には、該当作業について調査をすると共に残りの作業者全員について体内汚染検査が実施される。
 上記のモニタリングの結果は、いずれも個人に対するモニタリングの結果として記録して登録される。
3.体内放射能の測定方法
 内部被ばくモニタリングにおける体内放射能の測定方法として、体外計測法およびバイオアッセイ法、のどれを採用するかは体内に取り込まれた核種の種類およびモニタリングの実行の容易さ等により決定される。一般にガンマ線を放出する核種には体外計測法が適用され、アルファ線またはベータ線のみ放出する核種にはバイオアッセイ法が適用される。体外計測法およびバイオアッセイ法の特徴の比較を表1に示す。
(1)体外計測法
 体外計測法は人体の外側においた検出効率の高い検出器により、体内の放射能からのガンマ線を直接測定する方法である。測定の間、被検者を拘束することになるが、直接的な測定であるために得られるデータの信頼度は高く、個人内部被ばくモニタリングの手段としては非常に有効なものである。人体の形をした模型(ファントムと呼ばれる)の中に既知の放射能を入れて測定したデータに基づき測定データから体内の放射能が評価される。
 体外計測の測定誤差は通常20%〜50%が見込まれている。体外計測器には原子力事業所などで広く利用されている全身カウンタをはじめ甲状腺モニタ、肺モニタなどがある。全身カウンタは全身の放射能を精度良く測定する装置であり、甲状腺モニタは甲状腺中のヨウ素を効率的に測定する装置、肺モニタは肺に沈着したプルトニウムを測定するための装置である。
(2)バイオアッセイ法
 バイオアッセイ法は、人体の排泄物中に含まれる放射能を測定し、標準とする既知の体内放射能と排泄の関係から体内放射能を推定する方法である。主に尿を試料とするが、糞、鼻汁、唾液、痰、呼気なども試料とする場合もあり、また、血液、頭髪などを試料とすることもある。日常モニタリングにおいては通常は尿が試料として用いられる。採取した試料は有機物の分解などの前処理に続いて化学分析の後、試料中の放射能が測定される。これらの手順は核種によって異なる。バイオアッセイでは微量の放射能を分析しなければならないので、試料採取時には表面汚染からの放射能汚染の混入を起こさないように十分な注意が必要である。バイオアッセイでの汚染の検出は体内に汚染が取り込まれていたことを示している。
4.調査レベルと記録レベル
 内部被ばくモニタリングから得られる情報の多くは、作業状況が満足なものであり、どのような対策も必要としないことを単に確かめるだけにすぎないことが多い。バイオアッセイ結果の解釈を容易にするため、モニタリングの結果詳細な調査を開始することが適当であるかどうかを判断するための便宜的なレベルとして調査レベルを考える。
 ICRPは、日常のモニタリングが一定間隔で行われている場合の調査レベルとして、ALI(年摂取限度)の3/10を1年間のモニタリング回数nで除した値を示している。また、随時に実施される特殊モニタリングの調査レベルとしてALIの1/10の値を示している。これとは別により実行しやすい値が設定されることもある(例えば、実効線量で2mSv、等価線量で20mSv)。
 記録レベルは、測定結果がそれを超えたなら記録の保管に値する重要性を持つレベルである。従って、記録レベルを超えない結果はすべて規定された記録レベル以下であるとした記述で十分であり被ばく線量を計算する必要はない。記録されなかった結果は、被ばく線量を算出する上でゼロとして取り扱われる。ICRPは記録レベルを調査レベルの1/3としている。
<図/表>
表1 体外計測法およびバイオアッセイ法の特徴の比較
表1  体外計測法およびバイオアッセイ法の特徴の比較

<関連タイトル>
ICRP勧告(1990年)による個人の線量限度の考え (09-04-01-08)
線量限度 (09-04-02-13)
年摂取限度(ALI) (09-04-02-14)
全身カウンタ (09-04-03-11)
甲状腺・肺モニタ (09-04-03-12)
バイオアッセイ(排泄物等分析による体内放射能評価) (09-04-03-13)
内部被ばくの評価 (09-04-04-04)
モニタリングの種類 (09-04-05-02)
空気汚染モニタリング (09-04-06-03)
個人モニタリング (09-04-07-01)

<参考文献>
(1)ICRP Publication 35、”作業者のための放射線防護のためのモニタリングの一般原則”、和訳、日本アイソトープ協会、(1982)
(2)”内部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル”、(1988)、原子力安全技術センター
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