<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子力に関する基礎事項
<タイトル>
原子核と核反応 (03-06-01-03)

<概要>
 全ての物質は、原子からできている。原子は半径ほぼ2×10-8cmの大きさで、中心に原子核という硬い粒子があり、その周りを電子の雲が取り巻いている。原子核は中性子陽子が硬く結びついてできている。中性子は電荷を持たないから原子核と自由に相互作用(核反応)をする。核反応には散乱、捕獲(吸収)及び核分裂がある。ウラン235のような核分裂性核種は核分裂を起こし、その際、核分裂生成物とエネルギーを発生する。中性子と原子核の衝突の際に種々の反応を起こす。確率(微視的断面積)は原子核に固有で、中性子のエネルギーに依存して複雑な挙動を示す。中性子の振る舞いが主要な働きをする原子力利用では、中性子と物質との核反応の割合を知ることが重要となる。このため「評価済み核データファイル」が作られ、広いエネルギー範囲で必要な全ての原子核について断面積データが用意され、利用に供されている。
<更新年月>
2004年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子と原子核
 空気、机、人間等全ての物質は、原子という、構成要素からできている。原子は他の原子と結合して、分子という複合体を造る。地球には現在、115種類(天然90、人工25)の元素がある(図1)。2004年9月には、113番元素が合成されたとの報道があり、今後、人工元素の数は増える可能性がある。物質1cc中の原子の個数を原子の個数密度という。例えばアルミニウムの個数密度は6.024×1022原子/ccである(表1に原子核の表示、個数密度、核半径、単位系について示す)。
 原子の中心には原子核があり、その周囲を電子の雲が取り巻いている。原子核は、+の電荷をもつ陽子と、電荷をもたない中性子の2種類の粒子が硬く結びついてできており、陽子の数(Z)は原子の種類(元素という)に固有である。電子の雲を構成する電子の数は、原子核を構成する陽子の数(Z)に等しい。中性子の数(N)は陽子との安定な結合が保てる範囲で変動している。天然に存在する原子では、中性子の数の異なる原子核が混在しており、その混合の割合は、元素に固有で、天然存在比(natural abundance)と呼ばれる。中性子と陽子の数の合計を質量数(A)と呼ぶ。天然に存在する原子核は約280種類ほどであるが、現在までに、加速器等で人工的に合成された原子核を含めると約2800種類を超えている。原子核を陽子数、中性子数に従って並べた図を、核図表という。図2に、これまで実験で確認されている原子核の核図表を示す。図形の中で赤い色の部分が天然に存在する安定な原子核である。赤以外で示された原子核は放射性壊変する。
 例えばウランを例にとると、核分裂を起こすウラン235は陽子数が92で質量数が235(中性子数は143)の原子核をもつ原子である。天然に存在するウランの殆どは、質量数238のウランである。同じ陽子数のものは、化学的な性質が同じため同じ化学記号(ウランの場合は、U)で示されるが、質量数が異なっているもの(同位体と言う)は、235U、238Uのように質量数を表示して区別している。原子番号と質量数で区別される原子(又は原子核)の種類を核種という。
 原子の大きさは電子の雲がはっきりした境界を持っていないために、はっきりと決めることは難しい。特に軽い原子を除くと、原子の大きさはほぼ一定で半径2×10-8cmである。
 原子核の大きさは通常10-13cmの単位で表される。原子の大きさの単位の10-8cmの10万分の1、原子を100mの大きさとすると1mmの大きさのものが原子核ということになる。表2に、原子核の質量、エネルギーの単位、質量欠損結合エネルギー、中性子数対陽子数比について記す。図3に原子番号6までの原子核の核図表を示す。青と緑が天然に存在する原子核を示している。青の箱の中には天然存在比が示してある。表3には核分裂・核融合に関係する原子核の属性(質量、存在比、質量欠損、天然の元素の質量)と核分裂エネルギーの例を示してある。
2.中性子と原子核との相互作用
 核反応は、原子核(標的核)に中性子、陽子や他の原子核が衝突し、原子核が変化する反応である。原子核は、陽子と中性子から構成され、陽子は正の電荷を持ち、中性子は電荷がゼロである。このため、陽子と中性子からなる原子核は、正の電荷を持つ。核反応を起こすには、正の電荷を持っている原子核に陽子や中性子、他の原子核を衝突させることになるが、陽子や他の原子核も正の電荷を持ち、正の電荷同士では互いに反発し合うため、非常に大きなエネルギーを与えなければならない。このために加速器を用いて衝突させる粒子等に大きなエネルギーを与え、核反応を起こさせる。
 一方、中性子は、電荷がなく、標的核に衝突させるために、エネルギーを与える必要はない。原子炉では、核分裂で生じた中性子は周りの原子核と比較的自由に反応することが出来る。この核反応の種類としては、標的核にあたった後、跳ね返される「吸収」、標的核に取り込まれる「吸収」、標的核が分裂する「核分裂」などがあり、原子炉内の中性子の反応としては、これら3種類が主である。
(1)散乱
 「散乱」には2種類ある。一つは「弾性散乱」といい、もう一つは「非弾性散乱」といわれる。「弾性散乱」は、散乱過程において標的核の内部状態が変化しない散乱である。これに対し、「非弾性散乱」は入射中性子のエネルギーの一部が標的核に与えられ、その内部状態が変化する散乱である。このとき、原子核に与えられたエネルギーは、ガンマ線となって放出される。「弾性散乱」は運動エネルギーと運動量保存法則にしたがった散乱過程で、標的核の内部状態は変化しないが、入射中性子のエネルギーの一部が原子核の運動エネルギーになり、中性子は運動エネルギーの一部を失う(図4)。
(2)吸収
 「吸収」反応は、標的核に衝突した中性子が標的核に捕われ、標的核から出てこなくなる反応である。このとき、陽子、アルファ粒子等が出てきても、中性子が出てこないため吸収反応に分類される。さらに炉心核設計の分野では、中性子は一旦核に吸収された後、核分裂して新たな次世代中性子を発生すると考える。そのため、核分裂も吸収に含めて考える。
 純粋に入射中性子が標的核に入り、他の粒子が出てこない反応は「捕獲」といわれる。このとき、捕獲された中性子のエネルギーは、ガンマ線となって放出される。したがって、「捕獲」反応では中性子が失われることになる。
(3)核分裂
 「核分裂」は、中性子が標的核に入ることにより、標的核が二つに壊れる反応である。壊れて出来るのが核分裂生成物である。このような核分裂を起こす核種は核分裂性核種といい、ウラン235が有名である。図5に核分裂で生成される核分裂生成物の収率(生成割合)の例を核分裂生成物の質量数毎に示す。この図は、ウラン235と熱中性子が反応した場合の収率である。このように核分裂で生成される核分裂生成物は1種類ではなく、様々な核種が生成される。これは、核分裂過程が確率過程であることを示している。核分裂でエネルギーが発生するのは、反応前の原子核の結合エネルギーと核分裂で生成される原子核の結合エネルギーの違いによる(すなわち、反応前の原子核と中性子の質量の和と核分裂生成物の質量の和に違いがあるためである)。図6に原子核の核子当たりの結合エネルギーを示すが、質量数が約60付近で最大となり、その前後では次第に減少する。ウランが核分裂し質量数が100程度の二つの原子核になった場合、二つの原子核の結合エネルギーともとの原子核の結合エネルギーの差が放出エネルギーとなる。逆に質量数が約60以下の場合は、分裂するよりも融合する方がエネルギーが放出される。これを利用したのが核融合である。ウラン235の核分裂の場合、核分裂で核分裂生成物の収率が質量数140と95の付近で大きい。仮に、核分裂生成物が93Rbと143Csで代表されるとするとこれから求められる核分裂エネルギーは186MeVとなる。実際には、核分裂片はこの収率曲線の様に分布しており、中性子が、直接出てくる場合もあるから、単純な評価で求まるものではない。核分裂で放出されるエネルギーは約200MeVと測定されている。そのエネルギーの大部分(約84%)は、核分裂生成物の運動エネルギーとなる。この核分裂生成物は重いため、すぐに止まり、運動エネルギーは熱となって放出される。なお、200MeVのエネルギーの大きさは、たった5×10-12cm、70kgの人を持ち上げる程度である。しかし、1gのウラン235には、2.6×1021個の原子核があり、これらが全て核分裂を起こすとすると、70kgの人は1.3×108mも飛び上がることになる。月を超えて太陽近くまで飛び上がることになる。
 なお、核分裂により新たに中性子が発生するが、その個数は、ウラン235の場合、約2.4個(熱中性子による核分裂のとき)で、入射した中性子より多くの中性子が生み出され、これらがウラン235に入射すれば次々と核分裂がおこることになる。これが核分裂の連鎖反応である。
3.核反応の確率(断面積)
 核反応の確率は、入射する粒子のエネルギーや種類により異なっている。中性子の場合、核分裂で生まれる中性子のエネルギーは最大で約20MeV(平均で約2MeV)であり、様々な物質との衝突でエネルギーを失い、いわゆる、熱中性子となる。図7に核分裂で生成される中性子と熱中性子となった中性子のスペクトルを示す。熱中性子は、周りの物質を構成する原子の熱運動と平衡に達した中性子で、常温では0.025eV付近に分布する。従って、原子炉内の中性子は、この核分裂で生じた中性子のスペクトルから熱中性子のスペクトルに変わる状態のスペクトルが重なり合っており、約20MeVから0.01eV程度までの広いエネルギーを持っており、それぞれの原子核の特定の核反応は、中性子のエネルギーに対応して反応の割合が異なっている。
 核反応の割合は、反応の確率を表す「断面積」で示される。その単位は、バーン(1バーン=10-282)で表される。この次元は長さの二乗であり、「面積」と同じ次元である。つまり、標的核の見かけの大きさを表している。図8に、中性子のエネルギー毎の断面積の例を示す。この図はウラン235の断面積の図で、「弾性散乱」(Elastic)、「非弾性散乱」(Inelastic)、「捕獲」(Capture)、「核分裂」(Fission)とそれらの和である「全断面積」(Total)が示されている。この図のように断面積は、入射粒子のエネルギーによって大きく異なっている。あるエネルギーのときに、著しく面積が大きくなっているのは、原子核内の中性子のエネルギー状態と入射中性子のエネルギー状態がよく合い、断面積が大きくなっている場合で、「共鳴」と呼ばれる。また、ウラン235では核分裂の断面積が中性子のエネルギーが小さい方が大きくなっており、効率的に核分裂を起こすには、核分裂で生じたエネルギーの高い中性子のエネルギーを低くして核分裂を起こしやすくする必要があり、原子炉ではこのような工夫が施されている。なお、ウラン238では低エネルギーの中性子では核分裂が起きず、ある程度エネルギーが高くなって初めて核分裂が起きる。このように断面積の振る舞いは核種によって大きく異なっている。
4.評価済み核データファイル
 原子炉等の中性子の振る舞いが主要な働きをする原子力利用では、中性子と物質との核反応の割合を知ることが重要となる。しかし、中性子のエネルギーは約20MeVから0.01eV程度まで広がっており、反応の確率は複雑な変化をする。このため、広いエネルギー範囲で断面積データを用意しておく必要がある。このためには、実験データや理論的な考察から、最も確かであると思われる断面積の値をエネルギー毎に与えなければならない。このように、必要とされる全てのエネルギー領域で断面積の値を与えるようにすることを「核データの評価」といい、評価して得られた数値データをファイル化し、原子炉の設計や安全評価に使えるようにしたものが「評価済み核データファイル」である。「評価済み核データファイル」は、様々な国等で原子力利用のために作成されている。世界三大ファイルとして現在認識されているものは、米国のENDF(Evaluated Nuclear Data File)、欧州のJEFF(Joint Evaluated Fission and Fusion File)、それに、日本のJENDL(Japanese Evaluated Nuclear Data Library)である。前掲の図8は、JENDLの最新版JENDL-3.3より取ったものである。
5.物質中での核反応率
 前掲の図8に示したのは、原子核一個に一個の中性子が衝突したときの核反応の大きさ「断面積」である。これは通常σと表され、「微視的断面積」と言われる。実際の物質には、先に1gのウラン235で示したように原子核は多数存在する。これらの原子核の数を考慮した断面積は「巨視的断面積」といわれ、通常Σと表される。今、単位体積当たりにN個(個数密度N)の原子核があるとすると、「巨視的断面積」Σは、Σ=N・σと表される。単位体積にn個の中性子が速さVで物質に衝突するときの核反応率は、これらを用いてn・V・Σとなる。 n・Vは、また、中性子束といわれ、通常φで表される。従って、単位体積当たりの反応率はφ・Σとなる。原子炉内の中性子の振る舞いは、このような反応率を様々な物質や中性子のエネルギー毎に得ることにより把握される。
<図/表>
表1 原子又は原子核の表示、個数密度、核半径、単位系
表2 原子の質量、エネルギーの単位、質量欠損と結合エネルギー、中性子数対陽子数比
表3 原子核の属性及び核分裂エネルギーの例
図1 周期表
図2 核図表
図3 核図表のZ<17、N<14の部分
図4 原子核による中性子の散乱
図5 核分裂生成物の収率(ウラン235が熱中性子で核分裂を起こした場合の例)
図6 原子核の核子当たりの結合エネルギー
図7 核分裂中性子と熱中性子のスペクトル
図8 ウラン235の断面積の図

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<関連タイトル>
原子燃料の基礎 (03-06-01-01)
原子炉の炉心核設計概論 (03-06-01-04)
原子核物理の基礎(1)原子核の構造 (03-06-03-01)
原子核物理の基礎(2)原子核の壊変 (03-06-03-02)
原子核物理の基礎(3)核反応 (03-06-03-03)
原子核物理の基礎(4)核分裂反応 (03-06-03-04)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力学会(編):原子力がひらく世紀(2004年3月)
(2)T. Nakagawa et al. (編),”Curves and Tables of Neutron Cross Sections in JENDL-3.3,JAERI-Data/Code 2002-020(2002)
(3)K. Shibata et al., "Japanese Evaluated Nuclear Data Library Version 3
Revision-3: JENDL-3.3," J. Nucl. Sci. Technol., 39, 1125-1136 (2002).
(4)Nuclear Criticality Safety Engineering Training;Developed for the U.S. Department of Energy Nuclear Criticality Safety Program by T.G. Williamson,Ph.D., Westinghouse Safety Management Solution Inc.,in conjunction with the DOE Criticality Safety Support Group.
(5)DOE Technical Standards Full-Text Documents:DOE HDBK-1019/1-93DOE Fundamentals:Nuclear Physics and Reactor Theory Volume 1,
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