<本文>
1.
核分裂反応
たとえば
235Uに中性子が吸収されると、複合核
236Uが形成される。低いエネルギーの中性子が吸収された場合、複合核
236Uのうち17%は
236Uのまま
γ線を出して基底状態におちるが、残りの83%は
核分裂する。ここで低いエネルギーの中性子とは、常温の環境温度(数100K)と熱平衡にある状態の中性子を意味し、これを
熱中性子と呼ぶ。293K(20℃)に対応する熱中性子のエネルギーは0.0253eVでその速さは約2.2x10
3m/sである。
核分裂反応における2つの核への分かれ方は様々であるが(そのため式(1.41)で2つの核をX’、X” と示しているが)たとえば
表1の(1) (1.44)のようになる。このとき分かれた2つの原子核(核分裂片という)は高い電荷をもち、かつクーロン力による反発により高スピードで反対方向に運動する。核分裂片は移動経路の近くにある原子と衝突して原子にエネルギーを与え、また周辺の原子から電子を奪って電荷を失い減速されていき、やがて静止する。この核分裂片の運動エネルギーとして核分裂で解放されるエネルギーの約80%が放出され、減速の過程で熱エネルギーに変換される。この静止した核分裂片を
核分裂生成物という。核分裂生成物が質量数に対してどのように分布しているかを
図1に示す。これを収率曲線という。注目されるのは対称な核分裂は少なく、質量数がおよそ95と140近くをピークとする2山になっていることである。また核分裂する
核種が変わると、上のほうの山はあまり変わらないのに対し、下の山が大きく変わるということである。なお入射中性子のエネルギーが上がると対称核分裂の割合が増す。
核分裂の瞬間に約4%のエネルギーがγ線の形で放出される。これを即発γ線という。核分裂生成物は、その質量数の核としてはN/Zの比が大きすぎる(つまり中性子が過剰である)ため、殆どの場合不安定で、何回かのβ壊変を行って安定な核へと移行するが、その際β線として約3.5%、それに伴うγ線として約3.5%のエネルギーを放出する。このエネルギーは様々な核の
半減期に相当する時間遅れを持って放出されるので、原子炉は停止後も長期間にわたって発熱する。これを崩壊熱という。この崩壊熱を除くため、原子炉では長期間にわたり冷却を確保する必要がある。
崩壊熱の見積もりのためにしばしば次に示すWay-Wignerの式が用いられる。この式は核分裂後10秒から10
6秒の範囲で妥当である。ただし、最近の事故解析では数表化された値(たとえば「原子炉崩壊熱とその推奨値」、日本原子力学会(1987))が用いられる。
(1核分裂してからt秒後にβ線、γ線として放出されるエネルギーの割合)
=2.66t
-1.2(MeV/s) (1.45)
熱中性子に対して
235Uは核分裂の際平均2.4個の中性子を放出する。核分裂で放出される中性子数は生成される核分裂片の種類によりかなり異なるが、原子炉物理では非常に多くの核分裂を対象とするので、その平均値(1核分裂当りに発生する平均の中性子数)のみが問題となる。これを通常νという記号で表わす。νの値は核分裂する核種と、入射中性子エネルギーの両方に依存し、入射中性子エネルギーとともに増加する。この様子を
図2に示す。核分裂に伴って発生する中性子のうちの1個を
235Uに吸収させて次の核分裂反応を起こさせることができれば、核分裂反応を限りなく(燃料のある限り)続けさせることができる。これを核分裂連鎖反応という。
核分裂で発生する中性子のエネルギーは熱中性子に比べてはるかに高く、
図3に示すようなエネルギー分布を持って現れる。その平均エネルギー2MeVである。
235Uに対してよく用いられるエネルギー分布を表わす式を次に示す。ここでχ(E)dEは核分裂中性子がE〜E+dEのエネルギーに現れる割合を示し、∫dEχ(E)=1に規格化されている。
χ(E)dE=0.453e
-1.036Esinh( √2.29E) dE (1.46)
核分裂中性子の殆どは核分裂が生ずると同時に(10
-14秒以内に)放出され、これを即発中性子という。しかし、ごく僅か(1%以内)の中性子がかなりの時間遅れ(数10秒まで)の時間遅れを持って放出される。これを
遅発中性子という。遅発中性子はその生成率がきわめて小さいにも拘らず原子炉の制御にとってきわめて重要な役割を占める。
核分裂に伴って放出される粒子とそれによって解放されるエネルギーとをまとめて
表2に示す。核分裂生成物のβ壊変に伴って約10MeVもエネルギーが中性微子として放出される。中性微子は原子炉内で殆ど相互作用をしないので、この分のエネルギーは原子炉内で熱に変わることなく外部に失われてしまう。したがって核分裂で発生するエネルギーのうち約5%は原子炉で利用できない。しかし、原子炉では核分裂で発生した約2.5個の中性子のうち次の核分裂連鎖反応に用いられる1個を除く1.5個が原子炉を構成する材料に吸収されて中性子の
結合エネルギー(約8MeV)に相当する捕獲γ線を放出するので、中性微子に持ち去られるエネルギーにほぼ相当するエネルギーが原子炉に与えられるため、最終的に1核分裂毎に約200MeVのエネルギーが原子炉内で熱として利用できることとなる。これは
200(MeV)x1.602x10
-13(J/MeV)=32.0(pJ) (1pJ=10
-12J ) (1.47)
のエネルギーに相当する。これを用いると、1Jのエネルギーを得るのに必要な核分裂数は
1(J)/(32.0pJ)=3.12x10
10個となる。また1gの
235U(=6.023x10
23/235=2.56x10
21個)が全て核分裂したとすると
2.56x10
21x32.0x10
-12=8.21x10
10J≒1MWD (1.48)
のエネルギーが放出される。1MWDは1MW(10
6W)の出力で原子炉を1日(86400秒)連続運転したときに放出されるエネルギー量で8.64x10
10Jである[1WD=1(J/s)×3600×24(s)=86400(J)]。
2.核融合
核融合は原理的には通常の水素中に0.015%含まれている重水素(
表1の(2))を用いて原子核を融合させてエネルギーを得るものであるが、核の持つ
クーロン障壁に打ち勝って大規模の
核融合反応を起こすには、原子を原子核と電子とがバラバラに存在するプラズマ状態として、イオンを10keV以上に加速する必要がある。現在最も実現の可能性が高いとされるのは
表1の(3)式(1.49)によるものである。トリトン(
表1の(4))は天然には殆ど存在しない半減期12.26年の水素の同位体であり、これは天然のリチウムからたとえば
表1の(5)式 (1.50)のような
核反応で作る必要がある(
核融合炉では炉心を取り巻くブランケットでこれを作ることとしている)。より高温が実現できれば、重水素のみで起こる
表1の(6)式 (1.51)の反応が利用できる。
<図/表>
<関連タイトル>
原子核物理の基礎(1)原子核の構造 (03-06-03-01)
原子核物理の基礎(2)原子核の壊変 (03-06-03-02)
原子核物理の基礎(3)核反応 (03-06-03-03)
原子核物理の基礎(5)断面積 (03-06-03-05)
原子核物理の基礎(7)関連用語一覧 (03-06-03-07)
原子核物理の基礎(6)放射線と物質の相互作用 (03-06-03-06)
<参考文献>
平川直弘、岩崎智彦:「原子炉物理入門」、東北大学出版会(2003年10月)