<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子核の物理
<タイトル>
原子核物理の基礎(3)核反応 (03-06-03-03)

<概要>
 原子炉物理の理解のための前提条件として原子と原子核についての基本的な知識と、原子から放出される放射線と物質の相互作用について知ることが必要である。この分野を原子核物理と呼んでいるが、本タイトルは原子核物理の基礎としての「原子核の構造」<03-06-03-01>に始まる一連の内容についてシリーズ形式で記述したものであり、シリーズ物が総合されてサブタイトルの「原子核の物理」編として完結する。
<更新年月>
2006年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1 核反応
 陽子、α粒子などの荷電粒子を高エネルギーに加速して標的となる原子核のクーロン障壁を越えて標的核内に飛び込ませる(核力の働く10-14m程度にまで近づける)ことができれば)新しい原子核(生成核)をつくることができる。このとき反応に伴って放出される粒子を放出核という。入射粒子に中性子を用いれば、クーロン障壁がないので、容易に標的核内に入って新しい核が生成される。また高エネルギーの光子も核反応を起こしうる。入射粒子と放出粒子が同じで、入射粒子の運動エネルギーの一部が標的核を励起するのに使われることもあり、運動エネルギーが完全に保存される場合もある。前者を非弾性散乱、後者を弾性散乱と呼ぶ。入射粒子が標的核(ターゲット核)の近くでその方向やエネルギーに変化を受けた場合を含め広く核反応と呼んでいる。以下、原子炉物理における核反応の中心を占める中性子と核との反応を中心に核反応について説明していく。
1.1 核反応のQ値
 人工的に荷電粒子のエネルギーを上げる(加速する)装置である加速器が開発される以前は入射粒子として、自然放射性核種から放出されるα粒子が用いられてきた。
 たとえば14NにRaC’(214Po)からのα線をあてると17Oができて陽子がとびだしてくることがラザフォード(Rutherford )により発見された。(表1の(1)式(1.1)を参照)14Nが標的核、αが入射粒子、17Oが生成核、pが放出粒子である。
 核反応を起こす前と、起こした後の反応に関係した粒子の質量を比較してみると一般に異なる。今の例の場合14N(14.003074u)、4He(4.002604u)、17O(16.999133u),1H(1.007825u)であるから、反応前の質量の和は18.005676u、反応後の質量の和は18.006958uであって、反応後の方が0.00128uだけ大きくなっている。これはMeV単位に直すと1.2MeVである。このことは、表1の(1)式(1.1)という核反応を起こすには4Heが1.2MeV以上のエネルギー)を持っていることが必要なことを示している(214Poからのα粒子のエネルギーは7.687MeVなのでこの条件を満たす)。この逆反応、表1の(2)式(1.2)を考えると、この反応では1.2MeVのエネルギーが放出されることになる。この1.2MeVのエネルギーを反応のQ値といい、核反応式において表1の(3)式のように表わす。
 化学反応にならってQ>0のとき発熱反応、Q<0のとき吸熱反応という。この結果で、表1の(5)式(1.4)の反応はQ>0であるから、陽子のエネルギーがゼロでも反応が可能であるが、核も陽子も正の電荷を持っておりクーロン力による反発を受けるので、実際には陽子はこのクーロン障壁を越えて核に近付けるだけの速さを持たねばならない。
1.2 中性子と原子核との反応
 中性子は原子核に束縛されているが、これを核反応を利用して取り出し自由な中性子を作ることができる。たとえば9Be にα粒子(4He)をあてると表1の(4)式(1.3)の反応により、中性子がでてくる。自由な中性子は11.7分の半減期でβ壊変をして陽子と電子とになる。中性子は電荷を持たないので原子核にいくらでも近づくことができ、核に10-14m程度にまで近づけば核と相互作用する。この中性子と核の相互作用を散乱反応と吸収反応に大別することができる。
(1)散乱反応
 散乱反応では、散乱後に再び中性子が放出されるが、その中性子は一般に入射した中性子とは異なるエネルギー、方向を持って現れる。散乱反応はさらに2つに分けられる。一つは弾性散乱であって、この反応では、中性子と原子核の運動エネルギーと、運動量が保存される。その結果、入射した中性子の運動エネルギーの一部が標的核に移り、放出される中性子のエネルギーと運動方向が変わる。さらに弾性散乱は、中性子が原子核に取り込まれずに核のポテンシャルで散乱されるポテンシャル散乱と、中性子が一旦核に取り込まれ複合核というものを作った後に、中性子がもとのエネルギーを失わずに放出される共鳴弾性散乱とがある。
 もう一つの散乱反応は非弾性散乱で、この場合、もとの中性子の持っていた運動エネルギーの一部が標的核の内部エネルギーを上げる(励起)のに使われる。このため、この反応は入射中性子のエネルギーが、標的核の最低の励起エネルギーより大きくなければ起こらない。
(2)吸収反応
 中性子が起こすもう一つの核反応が吸収反応である。中性子が核に吸収されると、まず、入射中性子の運動エネルギーと、中性子の核に対する結合エネルギーの和の分だけ励起された、質量数が標的核より一つだけ大きい新しい原子核が形成される。これを複合核という。吸収反応は、この複合核が形成される反応の総称で、複合核がその後どのような粒子を放出するかによって多くの反応に分類される。複合核からγ線のみが放出される反応を放射捕獲反応、荷電粒子(陽子、α粒子など)が放出される反応を荷電粒子放出反応という。核分裂反応や、入射中性子のエネルギーが高い場合に生ずる、2個以上の中性子を放出する反応、(n,2n)反応や(n,3n)反応なども吸収反応に含まれる。なお、複合核反応には、先に述べた再びもとのエネルギーの中性子を放出する共鳴弾性散乱反応もあるが、原子炉物理では、これは吸収反応に含めず、散乱反応として扱っている。
(a)放射捕獲反応
 この反応では、複合核はγ線を放出して基底状態に移る。すなわち表1の(5)式(1.4)で示される。
 たとえば59Coが中性子を吸収すると、60Coができ、その瞬間にγ線を放出する。このとき放出されるγ線を捕獲γ線という。このとき生成された核、表1の(6)は不安定であることも多く、60Coの場合は、5.2年の半減期でβ壊変して60Niとなり、1.33MeVと1.17MeV の2本のγ線を放出して基底状態に移る(図1参照)。
(b)荷電粒子放出反応
 軽い原子核のなかには中性子を吸収して荷電粒子を放出するものがある。また入射中性子エネルギーが高くなると、多くの核が陽子や中性子を放出するようになる。放出される粒子がα粒子である場合、この反応は表1の(7)式(1.5)のように書き表される。
 天然のボロンの約20%を占める10Bに中性子が吸収されると、7Liとα粒子が放出される。この反応は原子炉の制御にとって大変重要な反応である。また58Niに高エネルギーの中性子が吸収されると、55Feを生じα粒子が放出される。この反応は原子炉における材料の劣化に大きな影響を持つ。
(c)核分裂反応
 235U、239Pu、233Uなどの重い原子核に中性子が吸収されると、2つの核に分裂し、同時に2ないし3個の中性子が放出される。この反応を核分裂反応といい、表1の(8)式 (1.6)のように表わされる。
 天然に存在する核種のうち遅い(入射エネルギーの小さい)中性子に対して核分裂を起こすのは235Uのみであるが、天然ウランの99.3%を占める238Uも約1MeV 以上のエネルギーの中性子が入射したときには核分裂を起こす。これは核分裂を起こすには、核をある程度以上変形させることが必要であるが、238Uの場合、中性子の結合エネルギーだけでは、核分裂を起こすのに必要なだけ大きく核を変形させることができないのに対し、中性子が約1MeV以上のエネルギーを運動エネルギーとして核に持ちこめば核分裂できるだけ核を変形させることができるからである。核分裂反応は原子炉物理の中核を占める核反応であるので、改めて詳しく述べる。
(d)熱核分裂核種と親物質
 天然に存在する核種で、エネルギーが低い中性子に対して核分裂する核種(熱核分裂性核種fissileという)は235Uのみである。しかし、天然に存在する238Uや232Thに中性子を吸収させると、次のプロセスによって低いエネルギーの入射中性子に対しても核分裂を起こす239Pu、233Uが生成される。そのため238U、232Thを親物質(fertile)という。表1の(9)式にその生成過程を示す。
<図/表>
表1 数式等一覧表
図1 崩壊図の1例

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<関連タイトル>
原子核物理の基礎(1)原子核の構造 (03-06-03-01)
原子核物理の基礎(2)原子核の壊変 (03-06-03-02)
原子核物理の基礎(4)核分裂反応 (03-06-03-04)
原子核物理の基礎(5)断面積 (03-06-03-05)
原子核物理の基礎(6)放射線と物質の相互作用 (03-06-03-06)
原子核物理の基礎(7)関連用語一覧 (03-06-03-07)

<参考文献>
(1)平川直弘:原子炉物理入門、東北大学出版会(2003年12月)
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