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1.EUの成立と加盟国
欧州連合(EU:European Union)の構想は、第一次世界大戦後の復興期、米ソの台頭に対し、欧州諸国が結束して政治・経済力を維持するという政治的目的に基づいている。現在のEUの前身である欧州共同体(EC:European Communities)は、欧州石炭鉄鋼共同体、
欧州経済共同体、および欧州原子力共同体の3機関が統合して、1967年7月に発足した。このうち、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)は1951年4月パリ条約により成立し、石炭・鉄鋼を自由に流通させる国境を越えた共同市場の創設を目標とした組織である。欧州経済共同体(EEC)は1957年3月にローマ条約により成立し、労働力、製品とサービス、資本の移動の自由化による単一市場の形成を目標とした組織である。また、欧州原子力共同体(EURATOM)はEECと同時に成立し、原子力の平和利用・
原子力発電の共同開発を目標とした組織である。その後、EC時代の経済統合(第1の柱)に加えて、共通外交安全保障政策等(第2の柱)、司法・内務協力(第3の柱)へと、統合の分野が拡大され、1992年2月にマーストリヒト条約(欧州連合条約)が調印され、1993年11月にはEUが成立した。加盟国はECSC加盟国の6か国(フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)から、1995年には15か国(英国、アイルランド、デンマーク(1973年1月)、ギリシャ(1981年1月)、スペイン、ポルトガル(1986年1月)、オーストリア、スウェーデン、フィンランド(1995年1月))に達した。この間、市場経済化が進行した東欧の旧社会主義国が加盟を申請し、2000年末には、EU拡大の制度改革を整備した新欧州連合条約である
ニース条約を策定した。2003年4月には中東欧10か国(ポーランド、ハンガリー、チェコ、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、スロヴァキア、スロヴェニア、マルタ、キプロス)がEU加盟条約に調印、2004年5月以降は拡大EUとして25か国が加盟、2007年1月以降はブルガリアとルーマニアが新たに加盟して27か国となっている。これにより拡大EUは、総面積424万平方キロメートル、人口約4億9,285万人、GDP約11兆4,600億ユーロの規模(2006年)となった。なお、現在クロアチア、トルコ、マケドニアが加盟候補国である。
EUに新規加盟するための基準は1993年に欧州理事会で決定された「コペンハーゲン基準」とよばれる以下の基準が原則となっている。(1)民主主義、法の支配、人権および少数民族の尊重と保護を保証する安定した諸制度を有すること(政治的基準)、(2)市場経済が機能しておりEU域内での競争力と市場力に対応するだけの能力を有すること(経済的基準)、(3)政治的目標ならびに経済通貨同盟を含む、加盟国としての義務を負う能力を有すること(EU法の総体の受容)である。国内法に置き換えられたEU法が適正な行政・司法機構によって効果的に施行されていくよう、行政改革を通じて統合に必要な条件を整えることが要求されている。
図1にEU加盟国および加盟候補国を、
図2にEUの発展の経緯および基本条約を、
表1にEUの経済指標を示す。
2.EUの主要機関
EUは元首・政府首脳から成る欧州理事会、加盟国を代表する閣僚によって構成される
欧州連合理事会(閣僚理事会)、基本条約の守護者であり、共同体法を提案し実施する権限をもつ欧州委員会、民主的に選ばれた欧州議会、共同体法が遵守されるように図る欧州裁判所、そして、EUの財政管理を監査する会計監査院と、経済的、社会的、地域的な利益を代表するいくつかの諮問機関がある。また、EUプロジェクトの資金調達を円滑に進めるための欧州投資銀行が設立されている。EUにおける主要機関を以下に示す。
(1)欧州理事会(European Council);EU政治レベルの最高協議機関
加盟国首脳、欧州委員会委員長、理事会議長国首脳で構成される。年4回(前半2回、後半2回)開催される。6か月任期で輪番制の議長国が議長を務める。EUの政治指針を策定し、その決定は法的拘束力を持たないが、政治的な権威のあるものとして尊重される。
(2)EU理事会(旧閣僚理事会)(Council of the European Union);決定機関、ブリュッセル
欧州統合の第1の柱(経済分野)において欧州議会と共に立法機関としての役割を果たしており、欧州委員会から提案された法案や政策を検討・採択。メンバーは、各加盟国の各分野を所掌する閣僚(例えば、総務・対外関係理事会であれば各国外相など)である。また、第2の柱(共通外交安全保障政策(CFSP)と欧州安全防衛政策(ESDP))、第3の柱(司法・内務協力)においては、理事会がEUの主要な政策決定機関の役割を果たしている。年に4回首脳レベルで開催されるサミットは「欧州理事会」と呼ばれ、EUの基本方針などについて議論・決定する。常駐代表委員会(
コレペール)によって補佐され、同委員会は、理事会の指示に従って下部委員会や作業部会を設置し、特定事項の準備・調査を進める(
図3参照)。
(3)欧州委員会(European Commission);執行機関、ブリュッセル
主に第1の柱の経済分野について、法案(規則、指令、決定)の提案を理事会と欧州議会に対して行い、その適用を監督する任務を持つ、EUの行政府。また、第3の柱の司法・内務協力についても、加盟国と並ぶ提案権を有している。2007年1月以降は1国1委員制で、委員の数は加盟国の数と同じ27人、任期は5年、省庁に相当する「総局」にわかれる。
図4に欧州委員会の組織構成を示す。
(4)欧州議会(European Parliament);諮問・共同決定機関、ストラスブール
各加盟国から直接選挙により選出された議員(定員785人)で構成される。議員選出方法は、国によって異なり、また各国の議員数はその国の人口に配慮し配分される。議員数の上位国はドイツ、フランス、イタリア、イギリス。当初は諮問機関であったが、1992年マーストリヒト条約により、第1の柱の分野において理事会との共同決定事項(欧州議会が拒否権を持つ)の増加に伴い、特定分野の立法における理事会との共同決定権、EU予算の承認権、新任欧州委員の一括承認権等を有する。任期は5年。
(5)欧州裁判所
EU法体系の解釈を行う欧州連合の最高裁。憲法裁判所、国際裁判所、行政裁判所、労働・普通裁判所としての機能を併せ持つ。加盟国の合意により任命される27名の裁判官と9名の法務官(いずれも任期6年)により構成。
3.欧州連合の政策
3.1 経済統合
(1)関税同盟と共通農業政策(CAP)
加盟国間の貿易に対する関税・数量制限を撤廃し、域外に対する共通関税率と共通通商政策を適用する。農業分野では域外との貿易に対する輸出補助金、域内での市場介入等を通じ農産品の域内価格の安定化を図る。農家への直接所得補償を導入など、農村開発政策を強化している。
(2)域内市場統合の完成
域内市場統合白書(1985年)と単一欧州議定書(1987年)に基づき、人・モノ・サービス・資本の移動が自由な単一市場を完成させるため、1992年末までに物理的・技術的・財政的障害の除去を目的とした約270項目の自由化・共通化のためのEU法令を採択している。
(3)経済通貨統合(EMU)
加盟国間の外国為替相場の変動率を一定の幅に抑えるため、1979年からの欧州通貨制度(EMS)をさらに一歩進め、各通貨間の相場の固定と単一通貨の導入を行っている。単一通貨ユーロは13か国で導入されている。
3.2 政治統合
欧州政治協力(EPC)を単一欧州議定書により初めて明文化。1993年の欧州連合条約(マーストリヒト条約)には将来の防衛分野での協力も視野に入れた共通外交安全保障政策(CFSP)、加盟国国民に共通の市民としての基本的な権利(地方自治体選挙権等)を認める欧州市民権の導入、司法・内務分野の協力等が盛り込まれ、主要な国際問題に関する共通の行動や、移民、国境管理、テロ・麻薬対策などに関する協力を行っている。
3.3 司法・内務協力
政府間協力の枠組みで実施されてきた司法・内務分野における協力がマーストリヒト条約において成立。2001年9月11日の米国における同時多発テロ発生以降、同分野での協力が急速に進展している。
3.4 域外国・地域との関係
EUは多国間通商ルールの策定、市場開放、途上国の世界貿易システムへの統合およびWTOの機能強化を目指す共通通商政策を基本に、加盟国に代わり欧州委員会が通商協定の交渉にあたり、EU全体の利益を代表する。
(1)EFTA・EEA
1958年の欧州経済共同体(EEC)の発足に伴い、EECの枠外にあった欧州7か国(英、オーストリア、デンマーク、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、スイス)は
欧州自由貿易連合(EFTA)を設立。1972年にEECとEFTAは自由貿易協定(FTA)を締結。さらに、1972年末のEC域内市場統合完成をにらんで、リヒテンシュタインおよびアイスランドとの広範な共同市場を目指す欧州経済領域(EEA)を1994年に発足させた(EFTAの現在の加盟国はスイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン。このうちスイスのみEEAには不参加)。
(2)地中海、アフリカ、中南米
地中海諸国との間で、1995年バルセロナ会議において政治・経済・文化面での協力を謳った「地中海宣言」を採択。アルジェリア、エジプト、イスラエル、ヨルダン、レバノン、モロッコ、パレスチナ自治区、シリアおよびチュニジアとは欧州・地中海連合協定を締結している。また、南アフリカ共和国との貿易開発協力協定(TDCA)。トルコとは関税同盟を創設。アフリカ、カリブ海、太平洋の旧植民地諸国(ACP諸国)との間では2000年6月の
コトヌ協定に加え、経済パートナーシップ協定(EPA)を締結。途上国の貿易能力向上のために、実質的な技術支援や援助を提供している。中南米諸国との間では将来の自由貿易地域創設を目指し交渉中である。
(3)北米
米国との間では1990年に政治・経済面での関係強化を謳った「米国・EC関係に関する宣言(大西洋宣言)」を発出(カナダとの間でも同様の宣言を発出)、年2回の首脳協議を実施している。1995年「新大西洋アジェンダ」および「共同行動計画」に署名、1998年には米・EU間で経済協力を推進する「大西洋経済パートナーシップ」が合意された。
(4)アジア
欧州・東アジア間の関係強化をはかるため、1996年バンコクにおいて欧州およびアジア25か国と欧州委員会の首脳による「
アジア欧州会合」(ASEM)が開催された。その後ほぼ2年おきに首脳会合が開催されている。
(5)日本
日本とEUは基本的価値を共有し国際的課題に協力して対処するパートナーして、1991年、オランダのハーグにおいて日本と欧州共同体、およびその加盟国との間で「日・EC共同宣言」が調印された。2006年4月の日・EU定期首脳協議では環境、エネルギー、知的財産権保護等、地球規模の課題に対し、対話と協力を促進することとなった。
4.エネルギー市場統合
2010年までに世界で最も競争力のある知識集約型の経済構築と、失業問題や貧困の解消という社会的結束の双方の実現を目指し(
リスボン戦略)、その基盤となるエネルギー分野(2007年7月からは原則として電力・天然ガスは完全自由化)ではTEN−E(トランス・ヨーロピアン・ネットワーク)を策定、エネルギー分野における単一市場の完成と安定供給を目指している。
欧州委員会は2006年3月、欧州連合25か国共通のエネルギー政策策定に向け、グリーンペーパーを発表した。その中でEU域内のエネルギー市場統合、
地球温暖化、エネルギー・セキュリティなどの観点から重点項目6分野を発表している。
また、EUレベルの研究開発では、各加盟国独自の研究開発を補完し、共同研究を推進する「研究開発枠組み計画」が実施されている。現在、
再生可能エネルギーと省エネルギーの研究開発を中心とした第7次枠組み計画(2007年〜2014年)を推進中である。
(前回更新:2004年9月)
<図/表>
<関連タイトル>
欧州原子力共同体(Euratom) (13-01-01-09)
EUの市場統合と原子力 (14-05-15-02)
EUのエネルギー政策(エネルギーの安全保障) (14-05-15-03)
EUの再生可能エネルギー政策 (14-05-15-04)
EUの放射性廃棄物管理に関する世論調査およびPA (14-05-15-05)
EU共通エネルギー政策 (14-05-15-06)
<参考文献>
(1)駐日欧州委員会代表部:欧州連合基礎知識
(2)駐日欧州委員会:europ winter2003
(3)外務省:欧州連合(EU)、EU事情と日・EU関係
(4)欧州委員会:
http://ec.europa.eu/index_en.htm
(5)日本原子力産業協会:原子力年鑑2007年(2006年10月)、p.179−181
(6)外務省:欧州連合(EU)、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/