<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> EU
<タイトル>
EUのエネルギー政策(エネルギーの安全保障) (14-05-15-03)

<概要>
 欧州では、エネルギー供給源の分散化策を積極的に取り入れ、日本及びその他アジア諸国と比べて、特定の国にエネルギー供給を依存する度合いは圧倒的に低い。石油とガスは欧州域内にある英領北海の供給が生産の中核を担ってきたが、2000年以降減少傾向にあり、ロシアからのエネルギー供給量が増加し、域外依存度の上昇が懸念されている。EU全体のエネルギー供給源の分散化と、安定的なエネルギー確保、環境負荷の低減を達成するため、方策の実現に向けての加盟国の協力体制が進められている。
<更新年月>
2015年01月   

<本文>
1.概略
 EU(欧州連合)加盟各国のエネルギー政策は、資源賦存状況、地理的条件など独自のエネルギー事情を背景に、各国のエネルギー政策が優先される政策領域だが、EU域内における市場の自由化が進むなかで、気候変動問題やエネルギー安全保障問題を契機に、EUレベルでの共通エネルギー政策の必要性を求める動きが進んでいる。
 EU諸国は旧ソ連邦諸国の崩壊が決定的になると、欧州エネルギー憲章を制定し、近隣諸国からのエネルギー供給の確保を目指して、政治的な安定性を維持する最大限の努力を払ってきた。欧州委員会EC)は2000年11月、2020年から2030年のEUエネルギー政策に関する抜本的な見直しの基礎となる「グリーンペーパー」(Towards a European strategy for the security of energy supply)を発表した。「グリーンペーパー」では、現状認識として(1)今後のエネルギー需要の伸びに対する域内エネルギー供給の脆弱性と域外地域への供給依存の増大、(2)1999年以降の原油価格高騰による域内経済への影響など、エネルギー政策上の課題、(3)京都議定書によるEU内での温室効果ガス削減目標達成、地球温暖化や市場の自由化など、欧州エネルギー市場の新局面を踏まえている。そして、今後の優先課題として、(1)域内市場の完成や道路輸送部門、建設部門での省エネルギーの推進などを内容とするエネルギー需給抑制、(2)再生可能エネルギーの促進、備蓄の強化、中東・ロシアなど産油国との関係強化・供給ネットワークの強化などによる域外からの供給確保、などを掲げた。
 また、2007年に打ち出した「エネルギー行動計画」では、1)気候変動問題、すなわち二酸化炭素削減目標をEU全体で掲げ、各国に削減目標を設定、2)エネルギー単一市場の形成、EU各国の電力・ガスを自由化し、単一市場を形成して持続可能な競争力ある市場を目指す、3)エネルギー供給の安全保障、を採択し取り組むとしている。
 経済的には、EU加盟国中12カ国が2002年1月から自国の通貨を永久に放棄して、単一通貨「ユーロ」を採用し、通貨統合は比較的順調に推移して、2015年1月現在のユーロ圏は計19カ国に拡大している。EU加盟国は2004年5月から中東欧諸国を加え、2013年7月にクロアチアを加えて欧州諸国28カ国に拡大したが、欧州域外からのエネルギー供給にある程度依存せざるを得ないという構造に変化はない。
 また、EUは競争力のある知識集約型の経済構築と失業問題、貧困の解消を目指している(リスボン戦略)。その基盤として、エネルギー分野(電力・天然ガス)についてはTEN-E(Trans-European Networks)が策定された。TEN-Eは、EU域内の電気・天然ガスの移送(送電)を対象に、(1)単一市場の完成、(2)供給の安全性強化、(3)共同体の経済的・社会的結束強化、を目的としている。財源は、ERDB等の構造基金(EU域内の地域格差是正を目的とした基金であり、主に後進地域等への財政的補助をプロジェクト・ベースで行うもの)や欧州投資銀行貸付金、欧州投資基金等のEU予算により賄われている。
 欧州は域内の石油とガス生産が一定程度維持されており、エネルギー供給の域内自給率も高いが、2000年10月にロシアとエネルギー・パートナーシップを締結して以来、石油・天然ガスを大量にロシアから輸入しており、エネルギー依存度はかなり高くなっている。しかし、2006年と2009年にロシア−ウクライナ間の供給交渉の決裂によるEU全体の天然ガス供給の危機に直面したことや、2014年に発生したクリミヤ半島の帰属問題を基点とするウクライナ危機によるロシアからのエネルギー供給の不安化、再生可能エネルギー拡大による電気料金の上昇、気候変動対策に影響を与える福島第一原子力発電所事故に起因する原子力発電開発の遅延など、問題が山積している。
2.エネルギー市場の自由化
 EUは市場統合の一環として電力・天然ガス市場の自由化を目指して「EU域内電力市場自由化指令」(96/92/EC)及び「EU域内ガス市場自由化指令」(98/30/EC)を発効した。この指令により加盟国は、(1)2003年までに発電部門を自由化すること(許可制又は入札制の導入)、(2)段階的に小売市場を32%まで自由化すること、(3)第三者に対して送配電系統の利用機会を与えること、(4)発送配電を独占する垂直統合型の電力会社から機能・会計分離すること、などが求められた。
 EU電力指令はさらに改定され、2003年には送電系統運用者を法的に別会社として分離すること(資本関係があることは許容される)、2007年7月までに小売市場を全面自由化することなどが求められ、これを契機に、各国では電力自由化の導入、発電・送電・配電各社の民営化や再編などが行われた。これにより、フランスのEDF、ドイツのE.ON及びRWE、スウェーデンのVattenfall AB(ヴァッテンフォール)、イタリアのENELなどの巨大パブリック・ユーティリティ企業が次々と誕生し、世界市場へ進出した。3.エネルギー安全保障
3.1 欧州の電力・エネルギーの事情
 EUはEU域外からのエネルギー輸入依存度の低下や、エネルギー源の多様化、加盟国間での相互性の向上を通じ、エネルギーの安全保障を高めることを目標としている。EU28カ国は2020年までのターゲットとして、温室効果ガス(GHG)の排出量削減、再生可能エネルギーの割合の増加、エネルギーの高効率化に関する以下の政策目標を宣言している。
 1)1990年と比較し、温室効果ガスの排出量を20%削減する。
 2)エネルギーの消費量に占める再生可能エネルギーの割合を20%まで高める。
 3)エネルギーの消費量を現在の予測値よりも20%削減する。
 さらに加盟各国でも定量目標を掲げ、自国のエネルギー供給状況や優先順位を反映しながら、電力開発計画が採択されている。EU域内では欧州各国が国境を接しているか、海に隔てられていても地理的に近接しているため、国際的な送電網が発達し、電力の国際取引が盛んである。たとえば、フランスは自国の総発電量の約16%にあたる857億kWhを周辺諸国に輸出している。そのため、EU諸国を含む欧州全体で電力が供給不足になることはないが、発電電力の電源構成や電力消費量の増加率は各国で異なる(図1参照)。2012年の発電電力量の電源構成では、ドイツは石炭火力が最も高く総発電量に占める割合は45.6%、フランスは原子力が最も高く75.4%、イタリアは天然ガスが43.1%を占める。東欧諸国の電源構成はポーランドでは石炭が84.2%、ハンガリーでは原子力が45.7%を占める。EU全体では様々な発電種類がバランスよく用いられている。また、電力消費量の増加率はドイツと英国では年率0%〜1%程度で推移するが、ポーランドやスペインなどでは3%〜4%である。
 EU各国は石油危機を契機に、石油輸入依存度を低下させる政策の一環として原子力開発計画を推進してきた。EU域内の原子力発電所の設備容量は、1980年の4,500万kWから2000年には1億2,500万kWにまで増加し、2015年には1億2,800万kWに達している。しかし、1979年3月のTMI事故、1986年4月のチェルノブイリ事故、2011年3月の福島第一原子力発電所事故と相次ぐ原子力発電所の事故により、脱原子力政策を推進する国もある。これらの国々では、エネルギー自給率が低く、電気料金が高くなる傾向にある。2012年における主なEU加盟国のエネルギー自給率は英国61.1%、フランス53.3%、ドイツ39.5%、スペイン26.7%、イタリア20.1%で、ちなみに日本は6.27%であった。
3.2 一次エネルギーの需給バランス
 EUの2012年の一次エネルギー供給量は石油換算16億4,400万トンであり、世界のエネルギー総消費量の約12%を占めている。一次エネルギー供給量の構成は石油が32.1%、天然ガスが23.9%、石炭が17.9%、原子力が14%、再生可能エネルギーを含む水力が12.1%であった(図2参照)。石油がエネルギー源の主体であるが、ここ10年間に限れば天然ガスの伸びは大きい。一方、2012年の一次エネルギー供給量は石油換算7億9,894万トンで、供給量の48.6%であった。一次エネルギー生産量のうち石油及び天然ガス生産量は1995年頃をピークに減少傾向にある(図3参照)。
 また、EUの2012年の最終エネルギー消費量は石油換算11億3,925万トンであり、世界のエネルギー総消費量の12.7%を占めた。総じてEUはエネルギーの純輸入国であり、ECが発表した報告書「2020年までのEUのエネルギー展望」によると、2020年までのEUのエネルギー総需要量の2/3が輸入によって賄われるという。このため、EUは再生可能エネルギー指令(2001/77/EC)に従い、再生可能エネルギーの普及に力を入れるとともに、エネルギー効率の向上、省エネに努めている。
3.3 EUのエネルギー資源
 表1にEU加盟国が保有するエネルギー資源埋蔵量の概要を示す。石炭はドイツ、ポーランド、ブルガリアを中心に、石油は北海油田の一部を所有する英国を中心に資源を保有する。なお、デンマーク自治領フェロー諸島でも経済水域内の石油開発が行われている。
(1)北海油田の現状
 北海油田は北海の150余りの海底油・ガス田の総称で、英国、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、オランダの各経済水域にまたがる。しかし、大半の油田・ガス田は英国とノルウェーの経済水域の境界線付近に存在する。原油推定埋蔵量は130億バレルで、日産約600万バレルである。1960年に英国が開発を開始し、ノルウェーが続いた。しかし、北海油田の英国側における石油生産量が、1999年の290万バレル/日をピークとして減少が止まらなくなっており、2001年の生産量は250万バレル/日となった。石油の確認可採埋蔵量も、2000年末で50億バレル、2001年末が49億バレルであり、生産された分だけ減少し始めている。1981年末に148億バレル存在していた英国領北海の今後の埋蔵量の増大は不可能となっている。生産可能な年数も、現状の埋蔵量と生産量の比率から見ると、5.6年に止まる。英国は1980年代から石油輸出国となり、2014年現在でも、EU加盟国最大の原油生産国である。なお、隣国のノルウェーはロシアを除く欧州最大の原油生産国・輸出国で、2013年時点原油生産量は世界第16位、天然ガスに関しても世界第5位生産国である。2013年のEU加盟国への天然ガスの供給量はロシアが29%、ノルウェーが22%であった。
 英国領北海からのガス生産量は、2000年がピークで年間1,083億m3であったが、2013年には365億m3に減少し、回復する見通しはない。ノルウェーに関しては、2000年に入ってから、北海からノルウェー海、更に北のバレンツ海へシフトし、新鉱区の開発を進めている。北海域内では2010年に発見されたヨハン・スヴェルドルップ油田がこの世紀に入って最大のもので、約30億バレルの原油が埋蔵されていると予測されており、天然ガス生産量の増加を維持している。
(2)EU域外からの石油と天然ガスの輸入
 2004年5月、EUに新規に10カ国が加盟したが、そのうち8カ国が旧ソ連圏内である。共産主義体制のもと、ロシア(旧ソ連)からの安価な石油、天然ガス資源に依存してきた(図4参照)。拡大EUにとって、対ロシア政策が重要な課題となっている。将来のエネルギー源選択肢に与える影響などを考慮した上で、EUにおいては今後調和の取れたエネルギー政策が望まれている。
<図/表>
表1 EU-28カ国におけるエネルギー資源
図1 EU-28域内主要国の電源別発電電力量構成比(2012年)
図2 EU-28域内主要国のエネルギー源別一次エネルギー供給量構成比(2012年)
図3 EU-28カ国における一次エネルギー生産量の推移
図4 EU諸国の天然ガス輸入量とロシアへの依存度

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<関連タイトル>
主要国のエネルギー政策目標 (01-09-01-01)
欧州連合(EU) (14-05-15-01)
EUの市場統合と原子力 (14-05-15-02)
EUの再生可能エネルギー政策 (14-05-15-04)
EU共通エネルギー政策 (14-05-15-06)

<参考文献>
(1)EUROPE(EU):
(2)EUROSTAT欧州統計局:
(3)WORLD ENERGY COUNCIL:World Energy Resources 2013 Survey
(4)BP統計
(5)国際エネルギー機関(IEA):EuropeanUnion-28 Electricity and Heat for 2012、
など
(6)CEPS:Security of Europe’s Gas Supply: EU Vulnerability;
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