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<概要>
 オランダのマーストリヒトで1991年に開催されたEC首脳会議で欧州連合(European Union:EU)の設立が基本合意され、翌年の欧州連合条約マーストリヒト条約)の調印によって欧州連合が成立した。EU加盟諸国の経済統合の一環として電力市場の部分自由化が1997年2月にスタートした。さらに2002年11月には、条件付きながら、2007年7月に家庭用を含めた完全自由化とすることが合意された。加盟国数は1995年1月時点、西欧15カ国だったが、2004年以降は旧ソ連の影響が強い東欧10カ国の加盟が決まり、25カ国となった。さらに2007年と2013年に3カ国を加え、2015年1月現在EU加盟国は28カ国となっている。なお、ブルガリア、スロバキア、リトアニアのEU加盟に際しては、旧ソ連型の原子炉8基が閉鎖された。EUの原子力発電に対する考え方は、発電量の27%を供給している上、3億トンを超える二酸化炭素の排出抑制に貢献しているため、一部のEU加盟国が原子力発電から撤退しているものの、共通の安全基準やEU全体としての安全規制を設け、原子力を安全に利用していく方針を掲げている。
<更新年月>
2015年01月   

<本文>
1.EUの成立と加盟国
 1991年12月にオランダのマーストリヒトで開催された欧州共同体(European Communities:EC)首脳会議で欧州連合(European Union:EU)の設立について基本的な合意に達し、1992年2月に欧州連合条約(マーストリヒト条約)が調印され、1993年11月に発効し、欧州連合が成立した(図1参照)。
 欧州共同体の当初加盟国は、フランス、西ドイツ(現ドイツ)、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグの6カ国である。1973年1月に英国、アイルランド、デンマーク、1981年1月にギリシャ、1986年1月にスペイン、ポルトガル、EU発足後の1995年1月にオーストリア、スウェーデン、フィンランドが加盟し、加盟国は15カ国となった。この間、市場経済化が進行した東欧の旧社会主義国が加盟を申請し、EU側は加盟交渉を行った。2000年末には、EU拡大の制度改革を整備した新欧州連合条約である「ニース条約」を策定した。アイルランドは2001年6月にこの批准をいったん否決したが、2002年10月に改めて実施した国民投票の結果、同条約の批准を賛成多数で可決したため、全15カ国の批准が完了した。
 欧州委員会は2002年10月、EU加盟を希望する15カ国について加盟承認のための条件をとりまとめ、同12月に各国首脳が合意した。これにより、中東欧の10カ国(ポーランド、ハンガリー、チェコ、エストニア、ラトビア、リトアニア、スロバキア、スロベニア、マルタ、キプロス)が2004年5月に加盟し、加盟国は25カ国となった。さらに2007年1月にブルガリアとルーマニアが、2013年7月にクロアチアが加盟し、加盟国は28カ国となり、現在に至っている。なお、上記15カ国のうちマケドニアとトルコは「加盟候補国」の状態が続いている。拡大EUは、人口約5.07億人、GDP約12兆9450億ユーロの規模(2012年)となった(図2参照)。
2.エネルギー市場統合
 EU市場統合の一環として電力市場の自由化をめざすEU電力市場規制緩和指令が1996年に閣僚会議で可決され、翌1997年に発効した。この指令は、電力市場の段階的自由化を実現するため、加盟各国が2年以内に市場自由化を国内法化するよう義務付けるものである。自由化のプロセスは、2年以内(1999年2月まで)に年間電力消費量4000万kWh以上の需要家(EU全体の約26%)、2000年に2000万kWh以上(同約30%)、2003年に900万kWh以上(同約33%)に拡大することとしている。これ以降については、2002年11月の閣僚理事会において2004年7月に家庭用以外が自由化された後、検証を経て、2007年7月には家庭用を含めた完全自由化とすることが合意された。2000年5月に完了したルクセンブルクを最後に、全加盟国がEU指令をもとに国内法化を行った。ただ、実施状況を国別に見ると、ドイツのように完全自由化した国もあれば、フランスのように指令に定められた最低限(30%)に留まる国もあり、さまざまである。
 電力市場自由化の進展に伴い、電力の取引市場も急速に発展した。電力取引市場には、1日前に翌日の電力需給などの基本的な契約を定める1日前電力取引や、時々刻々と需給調整を行うリアルタイム市場(あるいはインバランス市場)など、電力そのものを取引するスポット市場のほかに、電力価格変動のリスクを担保するために1週間から数カ月先の電力取引を先渡しで行う金融市場もある。北欧4カ国が参加するノルドプール(Nord Pool)はその代表例である。
3.原子力をめぐる動き
 EU加盟15カ国当時、原子力発電所をもつ国はフランス(59基)、ドイツ(17基)、英国(23基)、スウェーデン(10基)、スペイン(9基)、ベルギー(7基)、フィンランド(4基)、オランダ(1基)の8カ国(130基)であった。これら130基の原子力発電は、EU域内の総発電電力量の約35%を供給している。これに、2004年からは東欧諸国にある5カ国・17基の発電所が加わった。その内訳は、チェコ(4基)、スロバキア(6基)、スロベニア(1基)、ハンガリー(4基)、リトアニア(2基)である。(表1参照)
 このうち、いくつかの旧ソ連型原子炉がEU加盟の条件として閉鎖された。スロバキアでは旧ソ連製軽水炉(VVER)のなかでも第1世代にあたるVVER-440(V230)型のボフニチェ1・2号機(BOHUNICE、各44万kW)が2006年と2008年に、リトアニアではチェルノブイリ発電所と同タイプの黒鉛減速炉(LWGR=軽水冷却黒鉛減速炉、ロシアの略称はRBMK)であるイグナリナ1・2号機(IGNALINA、各150万kW)がそれぞれ2004年と2009年に閉鎖した。また、東欧諸国では第2陣のEU加盟国となったブルガリアが2002年12月にVVER-440(V230)型のコズロドイ1・2号機(KOZLODUY、各44万kW)を閉鎖、3・4号機(各44万kW)も2006年12月に閉鎖した。一方、チェコではドコバニ発電所1〜4号機(DUKOVANY、VVER-440(V213))に加え、テメリン1・2号機(TEMELIN、VVER-1000(V320))が国際安全基準を満たしているとして2004年営業運転に入った。
 欧州委員会(EC)は2001年6月に、原子力発電に関するEUの方針は、安全基準や放射性廃棄物の処理・輸送という問題に明確な回答を示すことができるか否かにかかっているとの考え方を示している。原子力発電はEU全体の発電電力量の約27%が供給しているだけでなく、3億トンを超える二酸化炭素排出量の抑制に貢献しているため、一部のEU加盟国が原子力発電からの段階的撤退や開発の凍結(モラトリアム)を決定しているものの、共通の安全基準やEU全体としての安全規制を設け、原子力を安全に利用する方針を掲げている。また、エネルギー需要自体がさらに増大する見込みがあることを認識し、再生可能エネルギーの利用の拡大と省エネに努めなければならないと指摘している。
4.福島第一原子力発電所事故(2011年3月)の影響
4.1 EU域内発電所のストレステスト(耐性評価)
 2011年3月25日、欧州理事会(EU首脳会議)は、東日本大震災に伴い福島第一原子力発電所で重大事故(シビアアクシデント)が発生したことを受けて、EU域内のすべての原子力発電所に対するストレステスト(耐性評価)を実施し、包括的かつ透明性の高いリスク評価に基づき安全性を見直すことを表明した。ストレステストは、原子力発電所の設計時や建設認可時の想定を上回る極端な状況が発生し、現状の基準を満たしている安全対策の機能が損なわれた場合に、各発電所がどのように対処することができるのか、即ち原子力発電所の安全が確保され得る余裕の度合い(safety margins)を再評価するものである。
 ストレステストは、EU加盟15カ国とスイスとウクライナを加え、欧州委員会(EC)と欧州原子力安全規制機関グループ(ENSERG)により、2011年6月から実施された。参加17カ国は原子力発電事業者の事前評価と国別評価のプロセスを終え、2011年12月までにENSERGに対し国別報告書を提出した。2012年1月以降、ストレステストはピアレビューの段階に移行し、24カ国80人の専門家による17カ国の国別報告書の査読と、38の原子力関連施設における現地調査が行われた。欧州委員会が2012年10月に発表したストレステストの最終報告書では、原子炉の安全性の確保は重要な政策課題であると指摘するとともに、欧州の原子力発電所は概して高い安全基準を有するものの、更なる改善を必要とし、改善の費用は原子炉1基あたり平均約2億ユーロ(約250億円)、最大で250億ユーロ(3兆750億円)との見積もりを示した。なお、EUにおける原子力の安全性確保に関する枠組みは、2009年に公布された「原子力施設の安全性確保のための欧州共同体枠組みを制定する2009年6月25日の閣僚理事会指令」(Council Directive 2009/71/Euratom)で定めているが、原子力安全規制と原子力情報公開に関して、加盟国間の政策的相違により、制裁手続きの合意には至っていない。欧州連合理事会は2014年5月に、安全規制強化のための原子力安全指令の改正に合意している。
5.2 福島第一原子力発電所事故後の原子力政策の変化
 福島第一原子力発電所事故の後も、英国、ベルギー、オランダ、スペイン、スウェーデン、フィンランド、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、スロベニアではエネルギー安全保障の確保、地球温暖化対策の必要性等の理由から現行の原子力開発推進体制を維持している。そして、チェコ、フィンランド、ブルガリア、スロバキア、ルーマニアにおける原子力発電所の建設及び建設計画は、安全確認と設計変更を加えながら進行中である。
 一方、ドイツでは2022年までに国内のすべての原子炉17基を閉鎖するとの脱原子力法を2011年7月に可決した。また、イタリアはベルルスコーニ首相時代に原子力開発凍結解除方針を出していたが、2011年6月に行われた凍結解除に対する国民投票で90%の国民が反対を支持した。EU加盟国ではないが、スイスでもまた、5基の原子力発電所を2034年までに廃止する法案が2011年6月に国会で承認されている。そのほか、リトアニアではヴァイサギナス発電所の新規建設の賛否を問う国民投票が2012年10月に行われ、65%が反対を支持し、建設計画が見直されている。原子力立国フランスでは、2025年までに原子力依存度を現在の75%から50%に低下させる方針を2012年9月に表明しており、原子力以外の新たな電源開発計画が進み始めている。図3-1及び図3-2に福島第一原子力発電所事故後のEU域内の原子力発電所の状況を示す。
(前回更新:2006年5月)
<図/表>
表1 EU域内の原子力発電所一覧
表1  EU域内の原子力発電所一覧
図1 EUの深化と拡大
図1  EUの深化と拡大
図2 EU加盟国と加盟候補国
図2  EU加盟国と加盟候補国
図3-1 EU域内の原子力発電所の状況(西欧州)
図3-1  EU域内の原子力発電所の状況(西欧州)
図3-2 EU域内の原子力発電所の状況(東欧州)
図3-2  EU域内の原子力発電所の状況(東欧州)

<関連タイトル>
欧州連合(EU) (14-05-15-01)
EUのエネルギー政策(エネルギーの安全保障) (14-05-15-03)
EUの再生可能エネルギー政策 (14-05-15-04)
EUの放射性廃棄物管理に関する世論調査およびPA (14-05-15-05)
EU共通エネルギー政策 (14-05-15-06)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2014年版(2014年4月)
(2)世界原子力協会(WNA):Nuclear Power in the European Union、2014年12月、
http://www.world-nuclear.org/info/Country-Profiles/Others/European-Union/
(3)日本原子力産業会議:原子力年鑑、平成2003年版(2002年11月)
(4)日本原子力産業会議:原産マンスリーNO.77(2002年8月)、p.20-26
(5)(社)海外電力調査会:海外電力、2003年2月号、p.21-57
(6)EU MAG:歴史的EU拡大からの10年を振り返る、2014年5月、
http://eumag.jp/behind/d0514/
(7)経済産業省ウェブサイト「平成23年度発電用原子炉等利用環境調査(諸外国における原子力発電及び核燃料サイクル動向調査)、2012年3月」、
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002767.pdf
(8)外務省ウェブサイト「欧州連合(EU)(平成26年12月)」、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000018667.pdf
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