<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> EU
<タイトル>
EU共通エネルギー政策 (14-05-15-06)

<概要>
 世界的な経済情勢の変化に伴い、石油をはじめとする資源の価格が急騰している。また、エネルギー生産やエネルギー消費による温室効果ガスの排出量も上昇が続いている。このような国際的状況下で、EUの石油・ガスの輸入依存度は増加傾向にあり、将来的にエネルギーを安定的に供給することが緊急の課題となる。
 そこで、欧州委員会は、2006年3月8日、EU加盟国25か国共通の中期的なエネルギー政策の策定に向けて、グリーンペーパーを作成した。グリーンペーパーでは、EU域内のエネルギー市場統合、地球温暖化防止、エネルギー・セキュリテリー等の観点から、(1)EUエネルギー市場の完全統合、(2)EU加盟国の連携強化、(3)EU域内全体のエネルギー・ミックス、(4)地球温暖化対策、(5)新たなエネルギー技術の開発、(6)EU域外からの資源輸入に対する共通政策を重要6分野としている。
<更新年月>
2006年11月   

<本文>
1.EU共通エネルギー政策の背景と現状
 世界的な経済情勢の変化に伴い、石油をはじめとする資源価格が急騰し、エネルギー生産やエネルギー消費による温室効果ガスの排出量も上昇が続いている。このような国際的状況下で、欧州連合(EU)では域外からのエネルギーの輸入依存度が高く、原油価格の高騰にもかかわらずエネルギー輸入量は増大している。何らかの対策が講じられなければ、20〜30年後には域内のエネルギー需要の70%近く(現在は50%)を輸入に依存しなくてはならなくなる(図1参照)。しかも、これらの資源確保には政情が不安定な国々からの輸入も多い。EUで消費される天然ガスの約50%は、僅か3か国(ロシア、ノルウェー、アルジェリア)からの輸入である。
 また、近年、欧州は寒波に見舞われ、暖房のためのエネルギー消費が増える傾向にある(図2参照)。間接的にではあるが、2006年1月には、欧州はロシアによる天然ガスの供給停止という事態に直面した。これはロシアのガス供給事業者ガスプロム社とウクライナ政府が2005年4月、ガス供給契約更新交渉にあたり、ロシア側から1000立方メートルあたりの改定料金を現行50.0ドルから160.0ドル(交渉過程で230.0ドルに上昇)とすることが提示され、交渉が決裂したことが発端である。2006年1月1日、ロシアはEU諸国向けの供給量からウクライナ向けの供給量の30%を削減した。しかし、ウクライナ側はこれを無視する形でガスの取得を続けたため、パイプライン末端にある欧州連合諸国へ提供されるガス圧は低下し、大混乱となった。これは国際問題に発展したことから、ロシア、ウクライナ間は急速に歩み寄りを見せ、1月4日に95ドルの価格設定で供給を再開した。欧州における天然ガスパイプラインを図3に示す。
 加えて、EUはエネルギー需要の増加に対応して古くなったインフラの整備を進めなくてはならず、今後20年間で1兆ユーロあまりの投資が必要となると予想される。その上、京都議定書の目標達成には二酸化炭素の排出削減が必須となっている。欧州委員会(EC)は、2006年3月8日、EU加盟国25か国共通の中期的なエネルギー政策の策定に向けて、「安全で競争力があり、持続可能なエネルギーのための欧州戦略(COM(2006)105)」(GREEN PAPER ON A EUROPEAN STRATEGYFOR SUSTAINABLE, COMPETITIVE & SECURE ENERGY)と題したグリーンペーパーを公表した。
 かつて「エネルギー政策」は、「石炭鉄鋼共同体」や「原子力共同体」の設立を促す欧州統合の中核であった。また最近では電気・ガス、再生可能エネルギーの単一市場の形成など、1つの「共通エネルギー政策」を確立するという方向に向かっている。この「共通エネルギー政策」は2003年に採択された、欧州の競争力の向上を目指したEUの長期戦略「リスボン戦略」に定められた「成長を促し、雇用を促進する」という目標にも当てはまる。
 グリーンペーパーは中期的なエネルギー政策の策定に向けて、広く関係者からの意見を諮問するための提案文書であり、EU域内のエネルギー市場統合、地球温暖化防止、エネルギー・セキュリテリーなどの観点から、今後EUレベルで推進すべき6つの優先分野が盛り込まれている。(1)欧州における雇用と成長の手段として、競争力のあるエネルギー市場を確立すること・・・EUエネルギー市場の完全統合(電力、ガス)、(2)EU加盟国の連携連帯に基づく、エネルギー安定供給を保証する域内市場の形成、(3)EU域内全体での持続可能かつ効率的で多様なエネルギー源の確保(エネルギー・ミックス)、(4)気候の温暖化に関連する課題に取り組むための統合的アプローチ、(5)新たなエネルギー技術開発の奨励:戦略的なエネルギー技術のための計画、(6)EU域外からの資源輸入に対する対外共通エネルギー政策の策定、である。
 「エネルギーの安定供給」と「持続可能な発展」を保証する多様なエネルギー源の選択権は各加盟国が有する。しかし、隣接する欧州加盟国の場合、EU全体のエネルギー供給の安全に影響を及ぼす可能性がある。欧州委員会は、再生可能エネルギーから原子力までの様々なエネルギー源の利点、問題点を分析する「EUエネルギー政策の戦略的分析」を通じて、「持続可能かつ効率的で多様なエネルギー源」を確保できると説いている。また、欧州委員会は、持続可能なエネルギーの使用、競争力の確保、エネルギーの安定供給という3つの目標間のバランスをとる“総合戦略目標”の設定を勧めている。表1図4にEU25か国における発電電力量の推移を示す。
2.安全で競争力があり、持続可能なエネルギーのための欧州戦略(COM(2006)105)
2.1エネルギー市場完全統合
 電力・ガス市場における加盟国間の送電網の拡充と接続に伴う託送システムなど、ルールの整備、発電能力増強のための投資、発電と配電事業の分離、市場の完全自由化など。
2.2EU加盟国の連携強化
 EU域内全体でのエネルギー・セキュリティ強化のため、需給パターンを監視する「欧州エネルギー供給監視機構」を設立。石油・ガス緊急備蓄に対するEUのアプローチの再考と混乱の防止。
2.3EU域内全体のエネルギー・ミックス
 再生可能エネルギー(風力、バイオマス、バイオ燃料、小型水力発電など)から石炭火力、原子力などあらゆる電源を分析検討し、EU全体でエネルギー輸入依存度の高まりを防ぐ、最適なエネルギー・ミックスの達成。
2.4地球温暖化対策
 エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの利用拡大、二酸化炭素の回収・固定など地球温暖化対策の実施。
 欧州委員会はエネルギー効率についてEUのエネルギー使用量は2020年までに最大20%、金額にして600億ユーロの節約が可能であるという考えを打ち出した。これを具体化するため、エネルギー節約行動計画を提案している。
 また、EUは2010年までに再生可能エネルギーの域内電力消費に占める割合を21%、石油およびディーゼル消費量に占めるバイオ燃料の比率を少なくとも5.75%にすることで合意している(2001年および2003年)。グリーンペーパーでは、政策の枠組みを支援的なものにすると同時に、再生可能エネルギーの発展と設備投資に対する長期的なコミットメントが必要として、再生可能エネルギー・ロードマップの作成を促している。
 二酸化炭素回収・固定はクリーンな化石燃料技術とともに、エネルギー資源として石炭を引き続き利用する道を選ぶことを可能にするもので、コスト引下げが課題となる。
2.5新たなエネルギー技術の開発
 地球温暖化対策関連技術の戦略的開発の推進。EUの技術開発プログラム「第7次研究枠組み計画(FP7、2007年−2013年)」としては、再生可能エネルギー技術、クリーンコールと二酸化炭素捕捉および二酸化炭素封じ込めの工業化の実現、経済的に実用可能なバイオ燃料の製造、水素など新しいエネルギー媒体および環境に優しいエネルギーの利用とエネルギー効率、より進んだ核分裂とITER 協定(国際熱核融合実験炉工学設計活動協力協定)の実施を通じた核融合の開発など幅広い種類の技術が取り上げられている。
2.6EU域外からの資源輸入に対する共通政策
 パイプラインやLNG備蓄庫などインフラの整備に努める。EUへの最大の資源供給国であるロシアに対してはEU全体として「ワン・ボイス」で望む。以下に対象となる分野を示す。
(1)多様化したエネルギーの安定供給政策
 天然ガス供給インフラの整備(ガス・石油パイプラインやLNGターミナル、現存パイプラインへの第3者のアクセスなど)として、カスピ海地域、北アフリカ、中東からの独立したガスパイプラインによる直接供給、ウクライナ・ルーマニア・ブルガリアを経由してカスピ海の石油をEU に供給するための中欧石油パイプラインの建設、アフリカ間のエネルギーシステムの相互接続を盛り込んだEU−アフリカ戦略など。
(2)エネルギー生産国、中継国などとのパートナーシップの構築(対ロシア政策)
(3)近隣諸国とのエネルギー共同体の構築
 南東欧諸国やEU−マグレブ(アルジェリア、モロッコ、チュニジア)電力市場の創設、EU−マシュレク(エジプト、ヨルダン、レバノン、シリア)のガス市場の創設、そのほかトルコ、ウクライナ、アルジェリアとのエネルギーパートナーシップの構築。
3.各国の動向
 EU全体のエネルギー・セキュリテイを達成するためには、国境の概念を捨て、EU域内に縦横無尽に送電設備を建設する資金力を持った複数の巨大企業が競い合う状況が必要だとされる。また、ロシアと対等に渡り合い、新しいエネルギー関連技術を開発する力を持つ、EU全体を代表する巨大企業の出現を望む声もある。一方、エネルギー分野を中心に、EU内には自国優先の経済ナショナリズムの潮流も台頭してきた。
 たとえば、フランス政府はフランス・スエズ社とガス公社(GDF)との合併を強引に推進し、イタリア電力公社(ENEL)によるフランスのエネルギー・環境大手、スエズ社買収の動きを阻止している。また、スペイン政府も民営化を準備していたスペイン電力公社(Endesa)がドイツE−onに買収されそうになると、民営化方針を撤回して、外資導入を防ぐ規制を導入した。これは明らかにEUの市場統合の流れに逆行する。
 そのほか、直面したエネルギー危機奪回のため、原子力の利用がクローズアップされている。原子力利用推進派のフランスは、2006年1月、EU蔵相閣僚理事会でエネルギー政策に関する覚書を提出し、エネルギーの安全供給や気候変動対策における原子力の貢献をEUのエネルギー政策でも考慮することを求めるとともに、未来の原子力エネルギーの開発のためのEUの研究予算を増やすことを提案した。英国では放射性廃棄物処理の長期的解決策が未定などの問題を抱えたまま、2006年7月には原子力重視のエネルギー政策に転換した。
 2006年3月に開催されたEU首脳会議では、グリーンペーパーによる欧州委員会の提案を受けて、共通エネルギー政策の必要性をめぐる議論が行われた。首脳会議では、概ね、前述のグリーンペーパーに示された3つの目標と具体的政策提案を容認しており、エネルギー安定供給政策、中長期的なエネルギー効率化、再生可能エネルギー政策に関して、早急な対応が必要と強調した。首脳会議は一連のエネルギー関連課題の緊急性に鑑み、欧州委員会に対して、エネルギー効率化に関する行動計画、バイオマス行動計画の実施、電力・ガスの相互接続計画の優先順位の設定、主要な石油、天然ガス供給国であるロシアとの対話の強化、域内市場自由化計画の近隣諸国への戦略の立案、エネルギー需給の予測分析、天然ガス・石油備蓄量の透明性の改善に、優先して取り組むことを求めた。
<図/表>
表1 EU25か国における燃料別発電電力量の予測推移
図1 EU25か国のエネルギー輸入依存度の予測推移
図2 EU25か国における燃料別消費エネルギーの予測推移
図3 欧州における天然ガスパイプライン
図4 EU25か国における燃料別発電電力量の予測推移

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<関連タイトル>
欧州連合(EU) (14-05-15-01)
EUの市場統合と原子力 (14-05-15-02)
EUのエネルギー政策(エネルギーの安全保障) (14-05-15-03)
EUの再生可能エネルギー政策 (14-05-15-04)

<参考文献>
(1)EUROPE欧州委員会:
(2)EUROSTAT欧州統計局:
(3)欧州委員会:“Green Paper?: Towards a european strategy for the security of energy supply”:
(4)欧州委員会:GREEN PAPER ON A EUROPEAN STRATEGYFOR SUSTAINABLE, COMPETITIVE & SECURE ENERGY
(5)欧州委員会:INOGATE計画よりEurope − Natural Gas Pipelines
(6)欧州委員会エネルギー総局:
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