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<概要>
 軽水炉は、代表的な単位体燃料取扱施設である。核燃料物質は、新燃料貯蔵庫から原子炉を経て使用済燃料貯蔵プールに至るまで、単位体(燃料集合体)のままで動くので、容易に観察でき、検認も比較的容易である。計量管理のためには、通常、施設全体を1つの物質収支区域とし、受入れ、払出しおよび在庫を管理する。核燃料物質の検認は、燃料集合体を非破壊分析法(NDA)で測定することにより行われ、原子炉設備、新燃料貯蔵庫、使用済燃料貯蔵プール等には封じ込めおよび監視の手段が適用される。日本に対しては、2004年9月から統合保障措置が適用されており、低濃縮ウラン燃料(LEU)の場合、20%の確率でランダムに選択された施設において、年に1回の中間査察がランダムに選択された日に行われるとともに、原子炉の定期検査時には棚卸し査察が行われる。また、混合酸化物(MOX)燃料の場合は、3か月に1回の中間査察が行われる。IAEAによる国内の軽水炉の1基当たりの年間査察回数は、従来6回であったが、統合保障措置に移行して約2.4回に減少し、大幅に効率化された。
<更新年月>
2006年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.軽水炉への保障措置適用の特徴
 IAEAが保障措置(Safeguards)実施の経験を最も多く積んできたのが軽水炉(LWR)である。2004年末現在世界で223の発電用原子炉が、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に基づくIAEAの保障措置を受けているが、その大部分は軽水炉である。軽水炉は、代表的な単位体燃料取扱施設であり、核燃料物質は、新燃料貯蔵庫から原子炉を経て使用済燃料貯蔵プールに至るまで、大型単位体(ここでは燃料集合体のこと)のまま流れるので容易に観察でき、比較的検認し易い。したがって、核物質の計量管理手段の適用も概して容易である。原子力発電所内に燃料集合体がある間は、燃料集合体は、同定、員数勘定、非破壊測定(NDA)およびチェレンコフ光の観察(使用済燃料の場合)によって検認でき、また燃料の組成変化は、計算によって評価する。これは原子炉内で燃料が燃焼してウラン235が損耗する一方、ウラン238の一部がプルトニウム239に変化するが、発電所内ではこの組成変化を計算でしか評価できないからである。しかしながら、燃料集合体の健全性が保たれている限り、その存在と動きは封じ込めおよび監視(Containment and Surveillance:C/S)手段によって検認できるので問題はない。使用済燃料集合体の核物質の量と組成は、その後の再処理の段階で溶解後に確定される。
 ほとんどの軽水炉は、封じ込めおよび監視手段を適用し易い設計になっており、この手段を積極的に用いて保障措置の効率化を図っている。即ち、原子炉圧力容器は、これ自身が封じ込めの役をなしており、これへの接近は例えば上部のミサイル遮へい(遮へいプラグ)の封印によって監視される。燃料の交換時にはこの封じ込めが破られるので、光学監視装置を設置して監視を行う。使用済燃料貯蔵プールは、自動監視システム(自動カメラ、閉回路テレビ等)によって常時監視されている。MOX燃料集合体の受入れおよび使用済燃料集合体の再処理施設への払出しには封印を適用する選択肢と適用しない選択肢とがあり、適用する場合にはいずれか一方の施設でNDA等による検認を行うが、適用しない場合には両方の施設でNDA等による検認が必要である。
 一般に、軽水炉の新燃料は低濃縮のウラン235しか含んでいないが、混合酸化物(MOX)の新燃料および使用済燃料(Irradiated Fuel)にはプルトニウムが含まれているので、これらの燃料の核戦略的な価値は高い。しかし、統合保障措置では、未申告の原子力活動のないことが補完的アクセスなどによって保証されるので、これらの燃料の保障措置上の重要性が従来に比べて著しく低下することとなった。現在では、MOX燃料に対してのみ、やや多くの査察業務量が割り当てられているに過ぎない。
 典型的な軽水炉は、12〜18か月のサイクルで原子炉の運転を停止し、燃料の交換と配置替が行われる。この停止期間は約6週間であり、この間に棚卸し査察(PIV:Physical inventory verification)が行われる。年間を通じて原子炉の運転が継続される場合には、前回のPIVから1年以内に「等価棚卸し査察(PIV-equivalent inspection)」が行われるが、この場合、原子炉圧力容器が開けられることはない。
 2004年9月に統合保障措置が導入されたため、中間査察が大幅に変更された。即ち、中間査察を行う施設が、日本の軽水炉全体を母集団として20%の確率でランダムに選択される。選択された施設においては、ランダムに選択された日に中間査察が実施される。
2.物質収支区域等の設定
 軽水炉施設は、一般に、1つの物質収支区域(MBA:Material Balance Area)として取扱われ、通常次のような枢要箇所(SP)に主要測定点(KMP)や封じ込めおよび監視の手段が設定される。
(i)主要測定点
 ・在庫KMP−新燃料貯蔵庫、原子炉炉心、使用済燃料貯蔵プール
 ・流れKMP−新燃料受入れ、使用済燃料払出し、バッチの作り直し(新燃料集合体の解体が可能な場合)、核的生成および核的損耗等
(ii)封じ込めおよび監視
 ・封印と自動監視システム−原子炉設備、新燃料貯蔵庫、使用済燃料貯蔵プール
3.転用仮定
 軽水炉における転用経路(Diversion path)、隠蔽方法(Concealment method)、対応する異常事象(Anomaly)およびこれらに対応するための査察活動の例を表1(軽水炉における転用分析の例)に示す。
4.査察目標
 IAEAの査察目標の主なものは、報告されない中性子照射によって生成したプルトニウムのような特殊核分裂性物質および有意量(用語解説参照)の核物質の転用を、以下の時間内に探知できることである。なお、一般に、軽水炉の1燃料集合体の中に含まれるウラン量は有意量を超えない。
 ・混合酸化物の新燃料については3か月以内(日本に対しては、統合保障措置に移行したため、従来1か月だったのが3か月に延長された。)
 ・低濃縮の新燃料については12か月以内
 ・使用済燃料については12か月以内(日本に対しては、統合保障措置に移行したため3か月から12か月に延長された。)
5.通常査察(Routine Inspection)
 軽水炉におけるIAEAの典型的な1年間の査察計画を表2に示す(本表は、従来の査察計画の例である。統合保障措置下では、査察頻度の変更、等価棚卸し検認の追加などの変更がある)。原子力発電所が燃料を交換することなく1年を超えて稼動する時は、炉心を含む実在庫検認は、本来は1年に1回の筈の所を、運転停止後実施する。その代わりに、原子炉圧力容器を開かないで行う「等価棚卸し検認」が50%の施設をランダムに選んで行われる。通常の棚卸し検認は、原子炉圧力容器が開かれる前と閉じられた後とに行われる。また、原子炉圧力容器が開いている間に、20%の確率で設計情報の検認が行われる。中間査察については、従来3か月毎に行われていたが、統合保障措置に移行したため、20%の確率で選択された施設において、ランダムに選択された日に、無通告査察又はそれと等価な方法で行われる。即ち、日本に対しては、査察の通告は査察予定日の24時間前に行われ、通告から査察実施までの間に転用隠蔽行為が行われていないことを保証するため、上書きモードで稼動する監視カメラが設置される。低濃縮ウラン燃料を使用する場合であって、正常な運転状態の軽水炉に対しては、ほぼ年2.4回の査察が行われる(1回の査察当り1〜2人・日の業務量)。保障措置協定に定める方式に従って算定される最大通常査察業務量は年間50人・日程度であるが、実際には、これよりもはるかに少ない査察業務量となっていることが分かる。
6.国内における例
 国内における保障措置には2種類ある。その一つは、日本とIAEAとの間で結ばれた「保障措置協定(Safeguards Agreement)」(日・IAEA保障措置協定)とこれに付属する「補助取極(Subsidiary Arrangement)」および施設ごとに取決められる「施設付属書(Facility Attachment)」に従って実施されるものである。この枠組みの下では、IAEAの査察は、原則として、IAEAの査察員が国の査察官による国内査察を観察することを通して実施されることとなっている。しかし、これを実現するための諸条件が整わないため、現在のところ、IAEAの査察員と国の査察官が相互に協力しながら、それぞれの査察を実施している。他の一つは、日米等の2国間協定によって規制を受ける資材、核物質、設備および構成部分に対するものである。これらは、国際規制物資として国内法に従う国内保障措置の対象となる。即ち、供給当事国別の管理を行い、協定相手国へ報告書を提出しなければならない。国内の代表的な沸騰水型軽水炉(BWR)を例に説明する。
(1)計量管理(Material Accountancy)
 国内で計量管理を行うべき国際規制物資には、核燃料物質としては原子炉燃料と中性子検出器があり、設備・構成部分としては、原子炉の完成品、原子炉圧力容器、原子炉燃料交換機、原子炉制御棒、原子炉一次冷却材ポンプおよびこれらの構成部分がある。この内IAEAの保障措置の対象となるのは、核燃料物質のみであり、設備・構成部分については2国間の原子力協定によるものである。日米原子力協力協定では、協定に基づき移転された核燃料物質ばかりでなく、生産されたもの、移転された設備等の中で使用されたものも協定の対象となる上、それぞれの核燃料物質が受ける規制の内容も異なる。このため、どのような種類の核燃料物質であるかが管理される。
 中性子検出器に使用されている核物質は、原子炉燃料とは別に計量管理される。原子炉燃料のためのMBA(物質収支区域)とKMP(主要測定点)は図1のように設定される。
 封じ込めおよび監視については、原子炉建屋最上階床にある原子炉本体のシールド(遮へい)プラグに国とIAEAの封印がされている。この封印は原子炉の定期検査終了時に取り付け、次回の定期検査開始時に取り外すことになっているが、原子炉の運転中に交換されることもある。監視カメラは原子炉建家最上階にIAEAと国のカメラが、原子炉と使用済燃料貯蔵プールを望める位置に設置されており、電子シャッターで任意の間隔で撮影が行われる。
 通常査察には、年20%の確率でランダムに行われる中間査察、燃料交換時の棚卸し査察(実在庫検認)、および原子炉圧力容器を開けないで行う等価棚卸し査察がある。また、査察とは言われないが、設計情報検認のための施設訪問がある。1978年に合意された査察業務量は(普通1回1人・日として)IAEAが年7〜9人・日、国が10〜12人・日となっていたが、現在では大幅に減っている。査察の内容は次のとおりである。なお、新燃料に混合酸化物燃料を用いる場合は中間査察が3か月毎となり、査察業務量も増える。しかし、監視機器に遠隔データ伝送機能を持たせることによって、査察のために施設へ出かけることを不必要とする選択肢も用意されている。
(i)記録の確認:計量記録と操作記録を確認する。
(ii)報告との照合:記録と報告とを照合する。
(iii)在庫確認:中間査察と棚卸し査察での在庫確認作業は表3のとおりである(「バッチ符号の照合確認」は、C/S手段の適用状況によって、適用されないことがある。また、「バッチ符号の照合確認」と共にNDAによる大量欠損検認が行われることがある)。
(iv)監視カメラ:ディジタルカメラの映像データの取り出しと電池の取り替え
(v)封印:定期検査の前後の「棚卸し前の査察」および「棚卸し後の査察」において遮へいプラグの封印の取替え
(vi)その他:使用済燃料輸送用キャスクのIAEAと国の査察官による封印は、それぞれ1986年と1989年から廃止された。
7.統合保障措置
 追加議定書に規定された新たな保障措置手段を含む保障措置強化・効率化策が導入されたことにより、在来の保障措置手段と新たに導入された保障措置手段を統合した統合保障措置が検討されてきた。2003年の日本におけるIAEAの保障措置活動の結果、核物質の転用がないことおよび未申告の核物質並びに原子力活動がないことの両者について肯定的な結論が得られたことから、2004年9月に統合保障措置が導入された。これにより、使用済燃料に対しては適時性目標値が1年に変更されるなどの効率化が行われ、年間査察業務量も大幅に減少した。
[用語解説]
 有意量(SQ:Significant Quantity)とは、1個の核爆発装置の製造の可能性を排除できない核物質のおおよその量で、プルトニウム:8kg、ウラン233:8kg、高濃縮ウラン(濃縮度20%以上):ウラン235量で25kg、低濃縮ウラン(濃縮度20%未満):ウラン235量で75kgと定められている。
<図/表>
表1 軽水炉における転用分析の例
表1  軽水炉における転用分析の例
表2 軽水炉のための年次査察計画の要約例
表2  軽水炉のための年次査察計画の要約例
表3 通常時(中間)査察と棚卸し査察における在庫確認
表3  通常時(中間)査察と棚卸し査察における在庫確認
図1 軽水型原子力発電所のMBAとKMPの例
図1  軽水型原子力発電所のMBAとKMPの例

<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
保障措置の対象となる物質と施設 (13-05-02-03)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
保障措置に用いられる手法の設計 (13-05-02-05)
核物質転用分析 (13-05-02-06)
保障措置の有効性評価手法の開発 (13-05-02-07)
転換施設および燃料加工施設を対象とする保障措置 (13-05-02-12)
輸送中の核物質を対象とする保障措置 (13-05-02-15)
放射性廃棄物中の核物質の測定技術 (13-05-02-16)
保障措置技術開発と国際協力 (13-05-02-17)

<参考文献>
(1)核物質管理センター(訳):IAEA保障措置用語集(2001年版)
(2)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF/6IAEA 保障措置−核燃料サイクル施設における実施−
(3)核物質管理センター:第9回保障措置セミナー資料集(1989年11月)
(4)核物質管理センター:核物質管理センターニュース(月刊)
(5)核兵器の不拡散に関する条約第3条1及び4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との間の協定(略して、「日・IAEA保障措置協定」)並びに当該協定への追加議定書
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