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<概要>
 保障措置の目標(目的)は、有意量の転用を定められた時間内に探知することおよび早期探知の危惧を与えることにより転用を抑止することであり、本目標を達成する保障措置を実施する為の具体的な技術的手段としては、基本手段としての「核物質計量管理」とその重要な補助手段としての「封じ込め・監視」および現場活動としての「査察」がある。また、従来の保障措置の強化の為に発効された追加議定書で規定されている、新たな目標である未申告の核物質および原子力活動がない事を確認する為の新しい手段として、「拡大申告」とその完全性と正確性を確認する為の「補完的アクセス」がある。
<更新年月>
2006年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.保障措置の目標(目的)
 日本と国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)の包括的保障措置協定には、保障措置手続きの目的は「有意量の核物質が平和的な原子力活動から核兵器その他の核爆発装置の製造、あるいは不明の目的のために転用されることを適時に探知することおよび早期探知の危惧を与えることによって、このような転用を抑止すること」と記載されている。この目標を実現するため、核物質の“有意量の転用”を“適時”にある“探知確率”と“誤警報確率”をもって探知できるよう考慮した“探知目標”が設定される。各々の用語は次のように定義されている。
(1)有意量(SQ:Significant Quantity)
 有意量とは、「関連する転換工程を全て考慮しても、核爆発の可能性を排除し得ない核物質のおおよその量」を指し、現在定義されているその値は表1のとおりである。
(2)探知時間(Detection Time)
 適時の探知(Timely detection)は保障措置上重要な要件である。探知時間とは、実際の転用があってからIAEAの保障措置によって、それが探知されるまでの時間の最大値である。したがって、転換時間(核物質を最適な条件下で核爆発装置の金属構成要素に転換するために必要な時間)と探知時間は対応している必要がある。
 転換時間は、核物質の種類や形によって大きく異なるが、現在では表2の数値が用いられている。探知時間は、探知目標に対応する時間であり、査察の頻度を決定する際の重要な因子の一つである。しかしながらIAEAでは現実的な査察目標を定めており、探知時間に係る適時性目標を以下のように設定している。
 (a)未照射の直接利用核物質に対しては1か月以内
 (b)照射済の直接利用核物質に対しては3か月以内
 (c)間接利用核物質に対しては12か月以内
 なお、直接利用核物質、間接利用核物質の区別については表1を参照されたい。
(3)探知確率(Detection Probability)
 一定量の核物質が転用された場合に、検認活動によってそれを探知できる確率をいい、核物質の検認の為のサンプルサイズの計算に用いられる。封じ込め手段として封印(Seal)が適用されている場合には、当該核物質に必要な探知確率で封印が検認される事になる。また、単一(Single)の封じ込め・監視手段(C/S:Containment・Surveillance)が一年以上核物質に適用されている場合には、当該核物質を10%の探知確率で再測定する必要がある。しかしながら、2重にC/S(Dual C/S)が適用されている場合はこの限りではない。
(4)誤警報確率
 実際は転用がなかったのに、測定の不正確さから予想されるよりも大きな量の核物質が失われたと統計解析が示唆する確率で、通常0.05またはそれ以下が用いられる。
2.保障措置の技術的手段
 1.の目標を達成するための技術的手段として包括的保障措置協定では、「保障措置の目的を達成するため、“核物質の計量管理”を基本的に重要な保障措置の手段とし、重要な補助的手段として“封じ込め”および“監視”をともに用いる」と定めている。手段の内容については協定の中に、また個々の施設に対するさらに詳細な具体的実施方法は“補助取極”に含まれる「施設付属書」の中に規定されている。国とIAEAはこれらの計量管理の報告などに間違いのないことを確認し、また封じ込め・監視の状況を調べるため、施設現場の“査察”を行い、その結果と計量管理報告から帳簿在庫量と実在庫量との差(在庫差)を求め、これらから核物質の転用について評価する。
 わが国は、包括的保障措置協定を受けて原子炉等規制法の改定を行うとともに国内核物質計量管理制度(SSAC:State’s System of Accounting for and Control of Nuclear Material)および国内保障措置検査制度(この両方の制度を合わせて国内保障措置制度という)を制定した。これによって核物質を使用する者(施設者)は計量管理規定を定めるとともに、協定で定められた核物質管理上必要な情報、すなわち核物質の在庫変動報告書、物質収支報告書および実在庫明細書を定められた期限内に国に通知・報告することとなった。また、国は予め必要な原子力施設の設計情報などをIAEAに提出しておくとともに、これら施設者からの報告を随時IAEAに送っており、保障措置手段を実施する上での現場活動として、保障措置対象施設に対する国内保障措置検査官(または、国によって認定された保障措置検査員)による国内査察(国内法上は、保障措置検査と称す)と、IAEA査察員による国際査察を実施している。
(1)核物質計量管理の方法
 核物質計量管理の方法とは、先ず核物質を使用あるいは保有している原子力発電所、核燃料加工施設、再処理施設等の“施設”はもちろん、保障措置の適用を受けている“その他の場所(施設外施設)”において、核物質の物質収支区域および主要測定点を設定し、この区域および測定点についての核物質の流れと在庫の量を測定・記録するとともに計量管理報告としてまとめることである。
 (A)物質収支区域(MBA:Material Balance Area)とは保障措置の目的のため、物質収支を確定できるような施設内または施設外の区域をいい、
 a)MBAへのまたはMBAからの核物質の移転ごとに、その量を量定し、
 b)必要に応じ、その区域内の核物質の在庫量を定められた手続きに従って量定する。
 (B)主要測定点(KMP:Key Measurement Point)とは核物質の流れと在庫量を測定する場所(点)をいい、普通MBAの境界に核物質の流れ用の、またMBAの中に在庫量測定のためのKMPが設定される。
 図1原子炉、再処理施設、燃料加工施設について、MBAとKMPの代表的な設定例を示す。なお、包括的保障措置協定でいう“施設”でない施設または場所については普通1つのMBAを設定する。
 (C)計量管理データの報告:計量管理報告については規則(国際規制物資の使用に関する規則)に従って、
 a)在庫変動報告書(ICR:Inventory Change Report)を、その発生した月の月末から15日以内に
 b)実在庫明細表(PIL:Physical Inventory List)および
 c)物質収支報告書(MBR:Material Balance Report)を実在庫確認(棚卸し、PIT:Physical Inventory Taking)の行われた日から15日以内に国に提出することが義務づけられている。
 1999年の報告件数とそれらに関連するデータ処理件数は表3のとおりである。
 (D)在庫差(MUF:Material Unaccounted For):MUFとは棚卸しにより実在庫量が確定した時に次式で定義されるものである(図2参照)。
 MUF=帳簿在庫量(BI:Book Inventory)−実在庫量(PI:Physical Inventory)
 すなわち、帳簿上あるべきはずの量から実際にあった量を差し引いた値である。ただし、帳簿在庫量を確定する時に、例えば燃料加工工場の場合、加工による損失や消耗、計量時の誤差等は規定に従って引算される。このMUFがいわゆる転用の可能性を含む量といえる。MUFは、次式で表させる。
 MUF=BIe−PI=(BIi+ΣR−ΣS−ΣW)−PI
 ここでBIiは期首の帳簿在庫量、BIeは期末の帳簿在庫量、Rは受け入れ量、Sは払出量、Wは廃棄・損失量である。
 MUFについては施設、国、IAEAがそれぞれ独立に計量管理報告と査察結果報告に基づいて普通、年1回解析・評価を行うが、その量が“ある量”例えば“有意量”を超えない場合には問題がなかったとされる。“ある量”を超えた場合には、さらに厳しい検討が加えられ、結果によっては特別報告が求められるとともに警告が発せられることがある。
 核物質計量管理の一環として、記録・報告等の検討のほか、現場査察時に核燃料棒などの実物確認や核物質の非破壊測定、また査察時に収去した核物質試料の破壊分析などが国とIAEAによって実施され、これらの結果が施設側の申告値と相異ないことが検認される。
(2)封じ込め・監視
 封じ込め・監視は、核物質の計量管理を補完する重要な保障措置手段で、主に核物質や機器等の移動および保障措置関連データの健全性を検認する目的で用いられる。封じ込めには、密閉室や容器等への施錠、封印等が用いられ、監視には、核物質の移動をモニターするなどの目的で自動カメラやテレビ等が用いられる。その多くは、査察官が不在の期間中、知識の連続性を維持する目的で適用される。
・査察官が核物質の流れや在庫を検認している時に、間違って重複してアイテムを計上していないこと、または試料の健全性が常に保持されていること等を確かめる(アイテムとは、例えば燃料棒、燃料集合体のような独立して計数できるものをいう)。
・IAEAの装置、機器、用紙や備品に対して不正な変更が行われていないことを確かめる。
・以前に検認されたアイテムを再測定する必要性を減らし、以前の測定結果の有効期間を延長できるようにする。
 (A)封じ込め
 核物質および保障措置のための装置やデータ等を保護するための手段で、これによって核物質の存在する区域またはアイテムの物理的な健全性を確立することを可能にする。すなわち、容易に部屋に侵入したり、容器を開けて核物質に近付くことができないようにし、また容器の密封が破られたこと等が判るようにする手段である。例えば燃料貯蔵室、輸送容器、貯蔵容器などの施設、機器類がそれにあたり、また方法としては封印、施錠等が用いられる。
 (B)監視
 核物質の移動をモニターし、また上記の封じ込めに対する干渉や、保障措置用の装置やデータに不正な変更が加えられたかどうかを探知する目的で、自動カメラ、テレビ等により情報を収集・監視することである。これらの機器には他者によるフィルム抜き取りや情報改ざん等の妨害や干渉を受けないように、封印・施錠等の配慮がされる。
3.追加議定書で規定されている目標と技術的手段
 追加議定書での保障措置の目標は、未申告の核物質および原子力活動がない事の確認をする事であり、本目標を達成する保障措置を実施する為の具体的な技術的手段としては、第2条に規定されている「拡大申告」とその完全性および正確性を確認する為の現場活動である「補完アクセス」がある。
(1)拡大申告
 従来の包括的保障措置協定では申告が義務付けられていなかった、国によってIAEAに提出されるべき情報が第2条に規定されている。規定には、特定の設備および非核物質の輸出入に関する報告、原子力施設のサイトに関する情報、閉鎖または廃止措置された施設等の情報、保障措置開始以前の物質に関する情報、保障措置から免除されたまたは終了した物質に関する情報および核分裂性物質に関する濃縮、再処理または放射性廃棄物の処理に関する核物質を伴わない核燃料サイクル関連の原子力活動に関する情報がある。拡大申告の為の冒頭報告は2000年6月13日にIAEAへ提出されたが、その後毎年5月15日までに更新の為の報告をIAEAへ提出しなければならない。
(2)補完アクセス
 拡大申告の完全性および正確性を確認する為に実施される立ち入り検査で、選択的に使用される手段であって系統的または機械的に用いられるものではない。本アクセスは次の3つの目的で使用される。
 a)サイト、鉱山、選鉱工場並びに核物質が存在する申告されているその他の場所に未申告の核物質および原子力活動が存在しない事を確認する為、
 b)以前に核物質を保有していた原子力施設およびその他の場所のデコミッショニング状態を確認する為、
 c)当事国から提供された情報に関する疑義および不一致を解決する為
 通常査察等が実施されている施設を含むサイト内の補完アクセスは2時間前に、また、サイト外への補完アクセスは24時間前に事前通告する事により実施される。
<図/表>
表1 有意量
表1  有意量
表2 転換時間
表2  転換時間
表3 計量管理報告件数
表3  計量管理報告件数
図1 物質収支区域(MBA)と主要測定点(KMP)の設定例
図1  物質収支区域(MBA)と主要測定点(KMP)の設定例
図2 MUF(在庫差)の説明図
図2  MUF(在庫差)の説明図

<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
査察とその現状 (13-05-02-02)
保障措置の対象となる物質と施設 (13-05-02-03)
保障措置に用いられる手法の設計 (13-05-02-05)
保障措置の有効性評価手法の開発 (13-05-02-07)
保障措置技術開発と国際協力 (13-05-02-17)

<参考文献>
(1)(財)核物質管理センター(訳)、科学技術庁保障措置課(監修):IAEA/SF/INF/1(Rev.1)、IAEA保障措置用語集(1987)およびIAEA保障措置用語集 増補・改定版(1998)
(2)(財)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF3 IAEA保障措置−概論−(1987)
(3)(財)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF4 IAEA保障措置−目的、限界、功績(1985)
(4)(財)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF5 IAEA保障措置−保障措置技術および測定装置(1985)
(5)原子力委員会:原子力白書、平成10年版、大蔵省印刷局(1998年8月)
(6)(財)核物質管理センター:核物質管理センターニュース、核物質管理センター発行の月刊ニュース
(7)(財)核物質管理センター:核物質管理センター 30年史(2002年6月)
(8)(財)核物質管理センター:保障措置検査員研修プログラムテキスト1(2002年)
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