<本文>
フルスコープ保障措置(NPT保障措置協定に基づく)では、当事国におけるすべての核物質が保障措置の対象とされるとともに、核物質を取り扱うすべての施設(「その他の場所」を含む。注:「保障措置の対象となる物質と施設」参照)が、
査察側(IAEA)に申告される。また、保障措置の対象となる核物質は輸送中の核物質を除き、設定された個々の物質収支区域(MBA:Material Balance Area)に存在する。保障措置ではMBAにおいて施設側の実施した計量管理活動を査察側が検認(査察側の独立した測定を含む)することを基本としている。
1.MBAの定義
MBAは次のように定義されている。
「IAEAの保障措置の目的のために物質収支を算定するため、次のことを行うことができる施設内又は施設外の区域。
(a)その区域の内へ又は外への核物質の移転毎にその量を量定すること。
(b)必要に応じその区域における核物質の実在庫を定められた手続きに従って量定すること」
2.MBAにおける施設側の活動
MBAにおける核物質の計量のための施設側の活動は次の通りである。
−各MBAに保持される核物質の量を記した記録を保管すること。
−あるMBAから他のMBAへの核物質の移転(国際間又は国内間)を含む核物質の移動もしくは核的生成又は核的損耗による核物質の存在量の変化をすべて測定し、かつ記録すること。
−実在庫の確認の実施により各MBAに存在する核物質の量を定期的に確定すること。
−実在庫確認から次の実在庫確認までの期間にわたり、物質収支を閉じ、かつ当該期間に対する在庫差(MUF)(*1)を計算すること。
−測定および校正の正確さ並びにソース・データおよびバッチ・データの記録に誤りのないことを決定するための測定管理計画について規定すること。
−誤差限界に対しMUFを検定し、検知されない損失の有無を調べること。
−測定されない損失、事故損失、および測定されない在庫(ホールドアップ)の記録に含まれる間違いについての原因と大きさを決めるために、計量データを分析すること。
3.MBAにおける査察側の活動
一方、査察側は次に掲げるような査察方法を用いて、核物質の量および所在を独立に検認する。
−計量記録と操作記録の検査、
−計量報告と記録との比較、
−帳簿在庫の更新、
−在庫および在庫変動の検認、
−独立の測定、
−計測器およびその他の計測制御装置の操作および校正の検認、
−可能性のあるMUFの発生原因、受払間差異および帳簿在庫の不確かさに関する情報の検認、
−保障措置協定に規定されているその他の活動。
4.払出時および受入時の検認活動
払出しが予定される核物質については、施設側によってMBAで計量されるとともに査察側はこれを適切な適時性探知目標内に、それぞれの核物質のタイプに応じた探知確率と欠損試験をもって検認する。一方、これを受け入れた施設では、受入れ側による計量が行われ、査察側により払出し時の検認と同様に受け入れられた核物質が検認される。払出施設による核物質の払出報告(在庫変動報告:ICR)は、その受入施設による受入報告(同)と照合される。また、払出側の報告した核物質量と受入側の施設側が実測したその量との差は、受払間差異(SRD:Shipper/Receiver Difference)として報告(同)され、物質収支期間中のすべてのSRDの合計値が大きい場合には、査察側によりその統計的有意性が評価されるとともにその原因が究明される。
戦略的価値の高い核物質(例えば
プルトニウム)の移転(輸送)については、査察側が払出施設において
輸送容器に封印を取り付け、受入施設においてその輸送容器と封印の健全性と同一性を検証することにより、核物質の輸送中に転用がなかったことを保障する手段も採られている。
なお、協定には、国際間で移転される核物質を核物質の当事国外への移転の前に、又は、当事国への移転の際に当該核物質の量を同定すること、並びに可能な場合にはその核物質の量および組成を検認することが規定されている。さらにIAEAが、当該核物質に封印を行うために特定査察(Ad hoc Inspection)を行い得ると規定されている。
5.輸送中の核物質の保障措置
移転にともない輸送される核物質は、輸送期間中に査察側によって直接検認されることはないが、払出施設(払出MBA)および受入施設(受入MBA)それぞれにおいて当該核物質が検認されることおよび必要に応じて特定査察がなされることによって、輸送中に転用されていないことが担保される。
また、フルスコープ保障措置では、「保障措置の対象となる核物質を1実効キログラム以上の輸出入の場合、若しくは、同一国へ又は同一国から3か月以内に継続して輸出入を行う場合であって、1回の移転量が1実効キログラム以下であるがその合計が1実効キログラムを超える場合は、事前にこの予定される移転をIAEAに通告する。」と規定している。したがって、この事前通告を基に大量の核物質が移転される場合には、これらの核物質が(払出および受入時の)査察の対象となるように査察側で査察スケジュールが計画される。
以前用いられていたIAEA保障措置評価基準(IAEAの内部基準)では、原子炉以外の施設に対してのみ受入検認の基準があったが、1991年から導入された保障措置クライテリア1991−1995(同)では、新たに国内移転および国際移転の検認基準が規定された。この基準は直接利用核物質(直接利用核物質とは、そのままで
核爆発装置の製造に使用できる核物質で、例えばプルトニウム238を80%未満含有するプルトニウム、高濃縮
ウランおよびウラン−233とこれらの化合物である)、特に未照射直接利用核物質に集中しており、物質収支期間におけるこれらの核物質の内、未検認移転物質量が0.3SQ(*2)未満でなければならないことを規定している。
追加議定書により、従来保障措置の対象外であった原料物質についても、その輸出、輸入および利用について報告することとなった。また、当該物質を取り扱う施設に対して補完的アクセスを行い、未申告核物質および未申告活動のないことを確認することができることとなった。
[用語解説]
(*1)MUF:Material Unaccounted For.在庫差。物質収支区域における帳簿在庫と実在庫の差をいう。
(*2)SQ:Significant Quantity.
有意量。1個の核爆発装置の製造の可能性を排除し得ない、核物質のおおよその量で、プルトニウム:8kg、ウラン233:8kg、ウラン235(濃縮度20%以上):25kgなどと定められている。
(前回更新:2001年3月)
<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
査察とその現状 (13-05-02-02)
保障措置の対象となる物質と施設 (13-05-02-03)
<参考文献>
(1)IAEA/SG/INF/1、IAEA保障措置用語集
(2)IAEA/SG/INF/3、IAEA保障措置−核物質の国内計量管理制度の指針−
(3)IAEA/SG/INF/6、IAEA保障措置−核燃料サイクル施設における実施−
(4)保障措置用語の概念の解説:核物質管理センター(平成2年)
(5)(財)核物質管理センター:核物質管理センターニュース(核物質管理センター発行の月刊ニュース)
(6)日・IAEA保障措置協定への追加議定書