<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 核融合反応に必要な超高温(1億度以上)の水素の同位体プラズマを充分な時間保持するための磁気閉じ込め型核融合装置のうち、円環状(ドーナツ状)の磁気容器から成る装置系を総称してトーラス型装置と呼んでいる。その内でも“ら旋状コイル”(ヘリカルコイル)を用いるトーラス型装置を特にヘリカル型装置と称する。1950年代末から1960年代にかけて、世界各地で各種のヘリカル装置の建設と実験研究が活発に進められ、当時は主にステラレータと呼ばれた。Stellar(星の)を語源とし、太陽や恒星で起こっている核融合反応を起こす装置、という意味である。これらのヘリカル型装置による研究は、特にその初・中期において、ボーム拡散をいかに克服するかが課題であったが、現在までにこの問題も解決された。わが国独自のアイデアに基づくヘリカル型装置にヘリオトロン(これも太陽、ヘリオスを語源とする和製造語)があり、下記のように大型の研究プロジェクトが進行中である。現在、わが国はこの分野で世界の最先端を歩んでいる。
<更新年月>
2004年07月   

<本文>
1.トーラス型閉じ込め装置の原理
 磁気容器によって高温プラズマを閉じ込める場合、プラズマ粒子(正の電気をもつイオンと負の電気をもつ電子。DT核融合の燃料である重水素と三重水素=トリチウムのイオンは電子をもたない裸の原子核であることが特徴)は、磁力線に朝顔のつるのように巻き付いて運動するので、磁気容器を構成する磁力線が、容器の両端で開いた構造では、プラズマ粒子がこの両端部から流失して失われてしまう。この本質的な欠陥を解決する一つの方法として提案されたのが”トーラス型”装置である。
 トーラス型の原型は、図1に示すような単純な形状で、多数の円形(あるいはD形)のコイル(このコイルを「トロイダル磁場コイル、あるいは単にトロイダルコイル」と呼ぶ)を円周上に等間隔に配置し、このコイルに電流を流したときに多数のコイルの中心の穴の部分をつらぬくドーナツ型の空間に発生する環状の閉じた磁力線をプラズマの閉じ込めに使う方式である。しかし、この単純トーラスではプラズマをうまく閉じ込めることができない。その理由は、ドーナツ状に配置されるトロイダルコイルによってできる磁界は、容器の内部で一様にならず、ドーナツの内側では磁界が強く、外側に行くに従って弱くなっていることによる(図1参照)。すなわち、プラズマを閉じ込める領域に内側から外側に向かう磁界の勾配が生じ、この磁界勾配によって、プラズマの粒子であるイオンと電子が上下逆方向に磁力線を横切って動き出し、それによって生じる電場の作用でプラズマのドーナツの直径がふくれて、プラズマが保持できないからである。この問題を解決する方法は、磁力線を”ら旋状”(ヘリカル状)にねじり、ドーナツのまわりに巻き付かせることによって磁界の強いところと弱いところをつなぎ全体としてその強弱を無くしてしまうことにあった。磁力線を”ら旋状”に変形することによって、単純トーラスの場合の磁気勾配によるプラズマの粒子の流出を平均として抑え込むことができる。
 どうやってドーナツ状の磁力線をヘリカル状にひねるかの方法によって、ヘリカル型装置とトカマク型装置に区別される。つまり、磁力線のレベルで見るとヘリカル型装置もトカマク型装置もほとんど同じであり、中で起こっている現象も共通点が多く、研究の成果はお互いに益となり、助け合い、補い合えるものである。
2.ヘリカル型装置の原理
 ヘリカル型のトーラス装置のヘリカルコイルには複数の型式があり、ヘリカルコイルの本数およびこれらのコイルに流す電流の向きを変えることによって、プラズマの断面形状が楕円形(L=2)、三角形(L=3)などの区別が、また、ドーナツの1周に何回同じ形をくりかえすか(この回数をmで表す)により、種々のヘリカル型核融合装置ができる。トロイダルコイルを使うか否かの区別もある。図2に示すように、ステラレータ型は、トロイダルコイルと偶数本(図では6本)のヘリカルコイルを備えており、ヘリカルコイルに流れる電流を隣同士逆向きにすることによって必要な磁場配位を作り出している。ヘリオトロンは、トロイダルコイル系を補助的に使うこともできるが、ヘリカルコイルに流す電流の向きを全て同じにすることにより、ヘリカルコイルによってトロイダル磁場も作り出せるところに特長がある。
 図3にステラレータおよびヘリオトロンのヘリカルコイルで作られた磁力線構造の断面(磁気面)を示す。ステラレータの場合、ヘリカルコイル4本のとき磁気面は楕円形(L=2)、6本のとき三角形状(L=3)の形となる(図では6本の場合を示した)。これがヘリオトロンの場合では、ステラレータの半分のコイル数で同様の磁気面ができる。
3.ヘリカル型トーラス閉じ込め装置の研究開発の経緯
 1951年スピッツア博士によって提唱されたステラレータ計画は、その本家である米国を始め、わが国、ロシア(旧ソ連時代)、ドイツ(旧西独)等で研究が精力的に進められた。装置の規模も研究の進展とともに大型化され、その間にステラレータの原理的な不備は、次々と改良が加えられて行った。1960年代に入って、米国では、世界最大のステラレータ−C装置が完成したが、プラズマ特性は思うようには向上しなかった。
 一方、ヘリカル型よりも遅れて旧ソ連で考案された同じトーラス装置のトカマクの研究はいくつかの困難を乗り越えて進展し、1968年旧ソ連から素晴らしい成果が発表され、研究者の間にセンセーションを巻き起こした。米国のステラレータ−Cは、トカマクの成果を追試験するためST(ステラレータ・トカマク)という装置に改造された。その後、現在までもトカマク型が他の磁場形式と大きく差をつけて高いプラズマ性能を出しているが、トカマク型装置ではコイルなどがすべて円形、軸対称形であり、製作、組立が高精度にできて、誤差磁場が小さいこと、軸対称の理論、計算との比較が容易なこと、プラズマの断面が大きい(プラズマが太い)こと、などが基本的な理由と考えられる。
 ヘリカル型の研究は、わが国、旧ソ連、西独、英国などで熱意を持って根気よく続けられた。その結果、ヘリカル型のプラズマの閉じ込め性能の異常な劣化の原因が次第に明らかにされることとなった。そのひとつは、閉じ込め用の磁力線のほんの僅かの狂い、誤差に敏感に反応して、プラズマの閉じ込めにとって重要な内部構造に乱れが生じて閉じ込めが大きく劣化する性質のあることが判ったのである。製作精度の高い新世代のヘリカル装置が1970年代に入って、日本(ヘリオトロンD)、旧ソ連(L−2)、西独(ヴェンデルシュタイン−VIIA)、英国(クレオ)で建設され、ボーム拡散の困難を見事に克服するという成果を上げた。わが国では、核融合研究がスタートした1950年代から独自に開発されたヘリオトロン計画が進展して来たことは特筆に値する。1980年代におけるヘリオトロン−E(日本、京都大学、R=2.2m、L=2、m=19)の成果は、トカマクには無い性質である無電流プラズマの良好な閉じ込めを達成するなど世界のヘリカル系トーラス研究のリーダー格としての役割を果たしたと言える。
 米国ではオークリッジ国立研究所でヘリオトロン型を模擬したATF(R=4.2m、L=2、m=12)が建設され、旧ソ連邦ウクライナのウラガン−3(R=1m、L=3、m=9)ロシアのL−2(R=1m、L=2、m=14)もヘリオトロン型(一部にはトルサトロン型と呼ばれることもある)である。文部科学省核融合科学研究所(岐阜県土岐市)は大型ヘリカル装置(LHD、R=8m、L=2、m=10)の実験研究を進めている。LHDはプラズマの直径が8mという世界最大の装置であり、超電導ヘリカルコイルやヘリカルダイバータを用いて定常運転実験を行うとともに、高温プラズマの輸送に関する研究や高ベータプラズマの安定な閉じ込めの達成を目標としている。1977年に予定通り完成したLHDは、順調に研究を進めており、2001年にはヘリカル型として世界最高の電子温度1億度(イオン温度は約3000万度)を記録した。イオン温度を高める実験では、7000万度(そのとき電子温度は2000万度)を得ている。プラズマのベータ値は3.2%(磁場0.5Tで。なお、トカマク型のJT−60では、磁場4Tで2.7%)が得られている。さらに高温高密度化を図り、ヘリカル型として世界でも初挑戦のプラズマ領域でプラズマ物理の解明を目指している。LHDの超電導ヘリカルコイルは核融合装置で世界最大の超電導コイルであり、この製作、運転を成功させたことはわが国の技術レベルの高さを証明するとともに、ITER計画の超電導コイル技術に大きな自信を与えたと言える。
 核融合科学研究所のコンパクトヘリカル装置(CHS、R=2m、L=2、m=8)では、局所磁気島ダイバータによるプラズマ粒子の排気を行い、この方式の有効性を立証した。また、20万ボルトの重イオンビームプローブを使用してプラズマ中の電位分布を測定し、プラズマ境界に電場の強いシアが存在することを明らかした。
 ヘリカル系トーラスの研究がわが国において古典的なステラレータからヘリオトロンへと発展した裏には、将来の核融合炉を想定した場合、古典的ステラレータでは工学・技術的面でその構造的な成立条件の達成が非常に厳しくなるという欠点を持っていることがあった。ステラレータでは、ヘリカルコイルに加わる電磁的な力は、極めて大きくなり、高精度のコイルの作成は技術的に難しくなる。一方、ヘリオトロンの場合には、このような電磁力は加わらず、さらには”フォースフリー”なコイルも設計が可能である。
 一方、ステラレータ型装置もその後別の道を進み、ドイツにおいてモジュラー型のコイルを使った新しいタイプの装置が現在、旧東独のグライフスバルトで建設中である(W7−X、R=11m、m=5、モジュラーコイル)。これは、ヘリカルコイルを用いる代わりに順次ねじられたコイルをら線に沿って並べる方式であり、高次の磁場のハーモニックスを含む分、任意の磁場配位を作りやすいメリットがある。
 日本における連続巻のヘリカルコイルを有するヘリオトロン型のLHDとドイツにおけるモジュラー型のW7−Xは、その研究手法において、コイル形状の差に基づく異なった物理を有する好対象の研究プロジェクトとなっている。
4.核融合炉への展望
 まず、ヘリカル型とトカマク型など磁場閉じ込めに共通な点として、予想外のことが起こると自然に核融合反応が停止するという超安全性がある。図1には「トーラス容器」(ドーナツ状の中空容器)が示されているが、これはプラズマを超高真空の中でつくる必要があるためで、核融合の関係者間では「真空容器」と呼んでいる。妙な名称であるが、これは、磁場で閉じ込めることのできるプラズマが燃料(重水素とトリチウム)以外の不純物に極端に弱いためである。それは、プラズマの質量が極端に小さいので、ほんの僅かのごみでも大きな影響を受けてプラズマが冷えてしまうからである。それを説明しよう。プラズマのようなガス体の圧力は温度と粒子密度の積に比例する。したがって、1気圧の空気を密度を保って1億度に加熱したら30万気圧以上になってしまう。磁場で閉じ込めることができる圧力はたかだか数気圧なので、核融合に必要な1億度を維持してプラズマの圧力を数気圧に下げるには、粒子密度を1気圧大気の10万分の1にしなければならない。これは50年前だったら真空と呼ばれるほどの希薄な粒子密度である。こんなに粒子密度が低いので、30−100m3もプラズマ体積がある大型の磁場核融合装置(LHDやJT−60)でもプラズマの質量は0.1g程度に過ぎない。ここに0.01g(10mg)でもごみ(不純物)が混入したら大変である。電子を2個以上持つ不純物がプラズマになると電子が原子核に残ったイオンとなり、電子のレベル間遷移によってエネルギーを電磁波として急速に散逸し、プラズマはすぐに冷えて消えてしまう。ちょっとした空気の流入でもプラズマはできなくなってしまう。そのために磁場核融合装置では超高真空の容器が不可欠である。これは磁場核融合装置の原理的な超安全性でもある。ちょっとでもなにか予想外のことが起こると不純物の混入によりプラズマは何もしなくても自然に消え、核融合反応も自動的に停止する。CO2による地球温暖化低減や将来のエネルギー源に加えて、これが核融合のもっとも大きな魅力であろう。
 ヘリカル型の長所は、トカマク型のようにプラズマ電流を必要としないので連続運転、定常運転が原理的に可能なことである。参考のためにトカマク型では、ドーナツ型のプラズマ自身の中に電流を流して、この電流で生じる磁場を用いて磁力線をひねる。トカマク型では、形状が複雑なヘリカル・コイルがいらない代わりにその制御も研究対象である雲のようなプラズマの中に大きな電流を流さなければならない。また、電磁誘導(トランスの方式)ではプラズマ電流を続けて流すことができず、断続運転になってしまうこともトカマクの欠点であったが、近年この欠点を克服する研究が進展し、トカマク型でも定常運転ができる見通しが得られている。実際、九州大学の超電導コイルを使ったトカマク装置では、小型のプラズマではあるが、高周波を使って3時間以上連続運転することに成功している。
 連続運転、定常運転には、プラズマから出てくる熱と粒子を連続的に処理する必要がある。これにはタイバータという磁場構造をつかうが、ヘリカル型にはタイバータ磁場がもともと付随している。しかし、大きな熱流束や粒子流束を処理するためには耐熱板と冷却管をそなえたタイバータ機器をとりつける相当大きな空間が必要である。ヘリカル型装置の鳥瞰図を図4に示す。この装置では、図5のように単純円形に比べて複雑なヘリカル型コイルに接近してプラズマ空間があり、装置の大きさ(たとえば主半径)にくらべてプラズマの大きさ(プラズマの体積)が小さい。実際、LHD装置は主半径約4mでプラズマ体積約30m3であるが、トカマク型のJT−60では主半径3.4mでプラズマ体積約80m3である。また、ヘリカルコイルに沿って大きなタイバータ機器を設置するには相当の技術開発が必要であろう。
 ヘリカル型のプラズマ特性をトカマク型と並ぶ程度に向上させることが必要であるが、磁場によるプラズマ閉じ込めのメカニズムが同じだとすると、プラズマの厚み、太さがプラズマ特性の大きな要素となるので、上記のプラズマ体積の比較のように、ヘリカル型装置の大きさ(主半径)はトカマク型装置より相当に大きなものになるだろう。
 ヘリカルもトカマクも、それぞれに長所短所があるが、現状では総合的にトカマクが核融合炉に近いというのが世界共通の判断であり、そのために次世代の核融合実験炉ITERもトカマク型が採用されている。
 終わりに、これまでに技術開発が進められてきた各形式のプラズマ特性を図6に示す。
<図/表>
図1 単純トーラス装置
図1  単純トーラス装置
図2 ステラレータ、ヘリオトロン及びトルサトロンの装置図
図2  ステラレータ、ヘリオトロン及びトルサトロンの装置図
図3 ステラレータとトルサトロンの磁気面構造
図3  ステラレータとトルサトロンの磁気面構造
図4 大型ヘリカル装置(LHD)の鳥瞰図
図4  大型ヘリカル装置(LHD)の鳥瞰図
図5 大型ヘリカル装置(LHD)のコイルの写真、プラズマの形状
図5  大型ヘリカル装置(LHD)のコイルの写真、プラズマの形状
図6 磁場核融合の各形式のプラズマ特性
図6  磁場核融合の各形式のプラズマ特性

<関連タイトル>
核融合反応と熱エネルギー (07-05-01-01)
核融合炉の概念 (07-05-01-02)
核融合研究開発の経過 (07-05-01-03)
核融合反応装置の形式と作動原理 (07-05-01-05)
トカマク型核融合装置の研究開発 (07-05-01-06)
三大トカマク装置の特徴と研究成果 (07-05-01-07)
慣性核融合装置の研究開発 (07-05-01-10)

<参考文献>
(1)核融合科学研究所:http://www.lhd.nifs.ac.jp/
(2)田中裕二:原子力の基礎講座−8「核融合」、日本原子力文化振興財団(1996年)
(3)日本原子力産業会議:原子力年鑑平成9年版、(1997年10月)p.227−231
(4)狐崎晶雄、吉川庄一:新。核融合への挑戦、講談社ブルーバックス(2003年)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ