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磁場をつかって高温
プラズマを保持する磁場核融合の炉と、強力なレーザなどを使って極短時間の
爆縮を繰り返えす
慣性核融合炉と、大きく2つの形式があるが、核融合反応で発生した中性子とアルファ粒子のエネルギーを熱に変換して、高温高圧の蒸気でタービンを回して発電する、という出力側が共通である。慣性核融合はまだ入力と出力が等しい臨界プラズマ条件が出来ていないことや高繰り返し爆縮の技術的な難しさから、少なくも最初に核融合炉になるのは磁場核融合、それもトカマク型磁場の核融合炉であるというのが世界の共通認識である。2004年夏現在、トカマク型の核融合実験炉である
ITER(
国際熱核融合実験炉)の建設地に関する交渉が行われているが、約10年間の建設を終えてITERの運転が始まると、その後の核融合炉の姿もより具体的に見えてくるものと期待される。
1.プラント構成
(1)超高温プラズマの発生
磁場核融合では、プラズマを保持するために強力な磁場が必要であり、それを発生するために
超伝導コイルを使う。超伝導でない銅などのコイルでは、コイルの電線からのジュール発熱が過大で、大きな電源容量を必要として、エネルギー的にプラスにすることは不可能である。また、発熱が大きいので長時間の燃焼維持ができず、事実上、発電炉とすることができない。超伝導コイルは、マイナス270度C程度の極低温で使うので、常温の外部との熱遮蔽が極めて重要で、かつ、この熱遮蔽物を介してコイルに働く強大な電磁力を支えなければならない。大きなコイルなどを極低温に冷却する大容量で効率の高い冷凍機も重要な要素である。また、磁場核融合では、極めて希薄な、1気圧大気の数十万分の一の密度の燃料をつかうので、極く少量の不純物も有害であり、超高真空の技術が不可欠である。プラズマを1億度以上の超高温にするには、1MeV程度で大出力の粒子ビーム、あるいは、大出力の電波(高周波)を使う。粒子ビームの電流は数十アンペア以上であり、
加速器などの粒子ビーム(ミリアンペア以下)と比べて桁違いである。高周波には、100kHz程度、数GHz、100GHz程度の3種類があり、それぞれ大出力の発信、伝送などの技術が開発されている。
慣性核融合では、磁場が不要であり、また超高真空も不要というメリットがある。その代わり、ナノ秒以下で直径1、2mm程度の燃料体(ターゲット)を加熱して爆縮させる強力なレーザが必要である。粒子ビームも研究されてはいるが、現在までの研究ではもっぱらレーザが使われている。レーザ光を発生して増幅し、直径50−100cm程度のビームにして、最後に直径1mm程度に集光してターゲット上の所定の部分に
照射することは超高度な技術である。そのようなレーザ・ビームが数十本から200本程度という各種のレーザ核融合炉の設計がある。また、核融合炉では、爆縮を1秒間に10回程度繰り返す必要があるが、十分の一秒で反応で生じた排ガスを除去して、ふたたび強力なレーザ光をターゲット上に集光できるようにすることも高度な技術である。実際、1気圧の大気中に集光前の太いレーザ光ビームを通しても、大気がプラズマ化してエネルギーを伝えることが出来ないので、レーザ・ビームは真空にした管の中を進むようにしてある。このように、磁場や超高真空は不要だが、その代わりにレーザ核融合特有の難しさがある。
(2)核融合エネルギーの取り出し
ここからあと、すなわち、発生した核融合出力を外部に取り出して利用するための核融合炉の構成は、磁場核融合でも、慣性(レーザ)核融合でも共通である。
DT核融合反応の出力は中性子とアルファ粒子の運動エネルギーの形で発生し、その8割は中性子が持っている。中性子は磁場の影響を受けないので、そのまま超高温プラズマを取り囲む厚い壁(ブランケット−毛布−と言う)の中に飛び込む。中性子は電気的に中性なので壁を構成する物質の
電子や原子核とも相互作用が少なく、ステンレスなどのブランケットの中を1m程度も侵入する。その間に減速されて、ついには吸収される。減速されるときに運動エネルギーは熱エネルギーに変換されてブランケットの温度が上昇する。それをブランケットの中に配管した冷却水で取り出す(
図1参照)。すなわち、冷却水が高温高圧の蒸気になって出てくるので、これでタービンを回して発電する。発電した電力の一部分は、プラズマを加熱するための粒子ビームや高周波、あるいはレーザ・ビーム装置などに所内電力として使用される。所内電力の割合は今の発電所よりも相当に高く、今後さらに研究を進めて効率の高い核融合炉とすることが必要である。残り20%のエネルギーはアルファ粒子が持って出てくる。アルファ粒子は
ヘリウムの原子核であり、電荷を持っているので、物質と相互作用が強く、壁に当たると表面の極薄い部分で減速されて熱を発生する。磁場核融合炉では、アルファ粒子は磁場に捉えられて、燃料のプラズマを加熱してエネルギーを失ったあとに壁に当たるので、アルファ粒子による壁表面部分への熱負荷はそれほど大きくない。しかし、レーザ核融合ではアルファ粒子も減速されずに壁や集光用のレンズ(あるいは反射鏡)の表面に当たるので、レンズや壁の損傷が大きな問題となる。
ブランケットなど超高温プラズマに面する部分には、強い中性子束、熱流が当たるため、それらによっても特性が劣化しない特別な材料が必要である。いくつかの候補材料があるが、中でも
放射化の少ない低放射化フェライト鋼が有力である。これらの材料の特性を研究、改良することが今後の重要な研究開発課題である。
ブランケットなど、核融合炉の構成要素は、定期的に点検して保守、維持をするが、高エネルギー中性子のために放射化されているため、ロボットによる遠隔操作で点検、保守をすることが必要となる。そのための大重量、大型、かつ高精度なロボット技術の研究開発も進められている。
2.燃料と廃棄物
DT核融合炉の燃料は重水素と軽い金属であるリチウムである。三重水素は普通の水100ccに1億個含まれている、ありふれた放射性元素であるが、燃料として使うには希薄すぎるので、ブランケットの中にリチウムを入れておいて、中性子によってトリチウムに変換する。重水素は自然にある水の水素の五千分の一を占め、世界のどこでも容易に得ることができる。リチウムはそれほど広くは分布していないが、電気出力100万kWの核融合発電所でも1年間に使うリチウムの量は数トンであり、ウランのような規制物質でもないので、世界のどこへも容易に運搬することができる。重水素もリチウムも量的には十分豊富にあり、少なくとも数千年は世界の需要を満たせる。また、第2世代の核融合炉としてDD核融合炉が開発されるだろうが、そうなると海水中の重水素によって1億年も需要を満たすことができる。世界のどこへも容易に燃料を運搬できることと殆ど無尽蔵な量が、核融合炉が実用化されれば世界からエネルギーをめぐる争いがなくなるだろうと期待されるゆえんである。
燃料の半分を占める三重水素(トリチウム)は放射性元素で、そのベータ線は紙一枚で遮蔽できるが、取り扱いには高度な技術を開発し、研究開発の過程で高い密閉性を実証してきた。核融合炉施設には数kgのトリチウムを有するが、その大部分は吸蔵物質に吸蔵しているので、ガスの形で存在する量は極めて少量である。その上、トリチウムに関する装置は二重管にするなど外部に出ることのないように細心の注意を払っている。
核融合炉からは今の
原子炉のような使用済み燃料は出ない。また、
高レベル廃棄物も出ない。ただし、定期的に交換するブランケット(の一部、前面の部分など)や、運転期間を満了した核融合炉の中心部分は放射化によって
放射性物質となっている。しかし、核融合炉で発生する放射性原子核は厚い構造材料の中にゴマせんべいのゴマのように埋め込まれて発生するので、外部に出て行くことはまず考えられない。また、その放射性の減衰は比較的速く、100年程度で、大部分は再使用可能なレベルになり、その後も管理が必要なものは少量である。
3.運転制御
磁場核融合での燃焼制御にはいくつかの方法がある。燃料供給の量の制御、プラズマに注入している粒子ビームや高周波のパワーによる制御、磁場の形状や強さによる制御、外部から不純物を少量注入して燃焼を抑える、などの方法である。
なお、磁場核融合炉のプラズマは、非常に微妙な制御の上で燃焼を続けるので、なにか予想外のことが起こると保温特性が低下し、温度が低下して、自動的にDT燃焼は低下、停止する。核融合炉のプラズマの粒子密度は、1気圧大気の粒子密度の数十万分の一しかなく、大きな核融合実験炉ITERでもプラズマは1gもない。したがって、何かの原因で壁の表面が0.1g欠けてプラズマに混入したり、あるいは1気圧で1、2ccの空気がプラズマに混入するだけで、プラズマは大きな影響をうけて核融合反応は停止する。このように磁場核融合炉の燃焼には
固有の安全性が備わっている。
慣性核融合炉の場合は、1発1発の爆縮は、1億分の一秒で完了してしまうので、燃焼の途中で制御することはできないが、なにか予想以外のことがあったときに次の爆縮をとめることは容易である。
いづれも、核融合炉は制御は容易であり、かつ、安全性は極めて高い。
<図/表>
<関連タイトル>
核融合反応と熱エネルギー (07-05-01-01)
核融合炉開発の展望 (07-05-01-04)
核融合反応装置の形式と作動原理 (07-05-01-05)
トカマク型核融合装置の研究開発 (07-05-01-06)
慣性核融合装置の研究開発 (07-05-01-10)
<参考文献>
(1)狐崎晶雄、吉川庄一:新。核融合への挑戦、講談社ブルーバックス(2003年)
(2)関昌弘監修:核融合炉工学概論、日刊工業新聞社(2001年)
(3)J・ヴァイス、本多力訳:核融合エネルギー入門 白水社クセジュ文庫(2004年)
(4)近藤育朗、栗原研一、宮健三:核融合エネルギーのはなし、日刊工業新聞社(1996年)