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トカマク(Tokamak)の語源はロシア語で、円環(toroidal)あるいは電流(tok)、容器(kamepa)、磁場(magniyunne)、コイル(katushuki)の短縮語として成り立っている。この方式は旧ソ連の物理学者A.SakharovとI.Tammによって1950年始めに発明された。トカマク装置では中心にドーナツ(円環)状の真空容器があり(
図1参照)、円環状の強い磁場(トロイダル磁場)とトロイダル磁場に垂直な面に磁場(ポロイダル磁場)を形成するコイルが配置される。さらに円環状のプラズマの中を流れるプラズマ電流の作る磁場が加わる。プラズマ電流はその周りに電流と直交するポロイダル磁場を形成する。
トロイダル磁場コイルのつくる円環状磁場とプラズマ電流のつくるポロイダル磁場の合成は螺旋(ヘリカル)状の磁力線となってドーナツを周回する(
図2参照)。プラズマの粒子、すなわちDあるいはTの
原子核(イオン)と
電子は磁力線に朝顔のつるのように巻きついて運動するので、磁力線がドーナツ状に閉じているので、プラズマ粒子はいつまでもドーナツにそってまわっていて外部にはもれない原理である。
円環状のプラズマの圧力が上昇すると、主半径方向の膨張力が発生するが、プラズマの位置をもとへ戻す力が
ポロイダル磁場コイルの発生する磁場とプラズマ電流の相互作用で得られる。ポロイダル磁場によってプラズマの断面形状を制御することもできる。
プラズマは有限の電気抵抗値をもつので、その中に電流を流すとオームの法則で加熱される。この加熱法は抵抗加熱とか
ジュール加熱とも呼ばれる。プラズマが高温になるとプラズマの電気抵抗は急速に小さくなるので抵抗加熱には限界がある。さらにプラズマを高温にするために高速の中性粒子ビーム入射や種々の
高周波加熱が開発されてきた。これらは最初の電流によるジュール加熱に対して第二段加熱と呼ばれることもある。
図3にトカマク型核融合装置の研究の進展を示す。1960年代に旧ソ連のT-3トカマクによる当時としては驚くべき成果により、米国はそれまで実験していたステラレータC装置を急遽STトカマク装置に改造して1970年から実験を開始した。日本では日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)のJFT-2が1972年から実験を開始している。ソ連以外で当初からトカマクとして設計、建設された装置の最初のもののひとつであった。その後、ALCATOR(米)、TFR(仏)、DITE(英)、ISX(米)、FT(伊)、等が建設された。これらはいずれも主半径1m、プラズマ体積1m
3規模で抵抗加熱を主加熱手段として磁場構造の物理特性を検証することを目的としていた。
1975年には主半径1.5m、プラズマ体積およそ4m
3のPLT(米)が実験を開始し、中型トカマク装置の時代となった。このクラスの装置にはT-10(ロ)、PDX(米、後にPBXに改造)、DOUBLET-III(米、後にDIII-Dに改造)、ASDEX(独、後にASDEX-Uに改造)、TEXTOR(独)、JFT-2M(日)などがある(
表1参照)。これらの装置は抵抗加熱を上回る第二段加熱、D型断面・ダイバータ磁場等によるプラズマ安定性の向上や不純物対策、プラズマ断面内の詳細な物理情報の取得と制御によるH−モードの発見等の性能向上、高温プラズマの安定な継続運転等の技術基盤を形成し、大型化への経験的比例則を得た。1988年には主半径が2mを超えるニオブ・チタンの
超伝導コイルを使用したトカマク装置tore-Supra(仏)が実験を開始している。わが国の九州大学にある超伝導とカマクTRIAM-1Mは小型ながら高磁場用のニオブ・スズの超伝導線を使用して、3時間以上の連続運転を実証するなど世界に先駆ける成果を出している。
日本では1975年からJFT-2の次の世代の装置としてJT-60の設計・建設が着手された。米国では1982年に大型装置TFTRが実験を開始、JET(EU)、JT-60(日)がその後、運転を開始し、大型トカマク時代の幕開けとなった。1989年にはJT-60で全プラズマ電流の80%をプラズマ自身が流す「自発電流」の実証に成功し、この成果から定常核融合炉概念を創出する道を開き、自発電流の多い(小半径方向電流分布の凹状化)による革新的炉心プラズマ概念が生まれた(
図4参照)。1991年にはJETはDDプラズマでQ=1に相当する臨界プラズマ条件の達成、1997年にはJETで実際に
重水素(D)と三重水素(T)の混合ガスを用いて1秒以下の短時間ではあるが16MWの核融合出力を確認した。1997年にはJT-60で1.5E21keV・秒/m
3の
核融合積の世界最高値を実現した。1998年にはJT-60でプラズマ電流の半径方向分布を凹状にすることによりプラズマ性能改良に成功し(負磁気シアモード:凹型のプラズマ電流密度分布の形成)、やはり世界最高のエネルギー増倍率(
D-T等価Q値)1.25を達成した。さらに、2000年には約80%の自発電流による負磁気シアモードを数秒間維持することに成功して高性能定常炉への道を開いた。このように、トカマク型装置の弱点であった連続運転については見通しが得られた。もう1つの課題である急速電流遮断現象(ディスラプション)については、回避制御、ソフトランディング制御などの研究が進められているが、基本的に設計による対応が可能であり、JT-60でも今まで何の問題もなく、ITERでも対応できている。
大型および中型トカマク装置ではいずれも重水素や三重水素の核融合反応等からでる
中性子や三重水素を取り扱うので、
放射線を取り扱う核融合炉としての安全技術、あるいは炉工学技術も著しく進展したといえる。三大トカマクの技術経験をもとに自己点火条件ー長時間燃焼の実現と各種の炉工学試験を行う、いわゆる実験炉の構想が具体化されている。ゴルバチョフ(ソ連)とレーガン(米国)との会談で始まった国際協力計画として実験炉ITER(国際熱核融合実験炉)の設計が行われた。T-3トカマク装置の成果を英の計測チームが協力して検証した国際協力の伝統は実験炉の設計に受け継がれているともいえる。
エネルギー源として核融合が成立するためには、環境・安全性の向上、経済性の成立が重要な課題となるこの観点から、
実用炉での低放射化材料の開発、実用炉の出力エネルギー密度の向上やコンパクト化のための研究開発が重要となる。
DIII-D(米)、START(英)、NSTX(米)等はプラズマの回転運動等までを考慮した先進トカマク装置の物理領域開拓をめざして研究開発をつづけている。
<図/表>
<関連タイトル>
核融合研究開発の経過 (07-05-01-03)
核融合炉開発の展望 (07-05-01-04)
核融合反応装置の形式と作動原理 (07-05-01-05)
三大トカマク装置の特徴と研究成果 (07-05-01-07)
慣性核融合装置の研究開発 (07-05-01-10)
<参考文献>
(1)日本原子力研究所核融合計画室・那珂研究所(編):核融合をめざして−核融合研究開発の現状1997年(1997年11月)
(2)日本原子力研究所那珂研究所(編):核融合炉をめざして−核融合研究の進展と拡がり−平成12年度(2000年11月)
(3)日本原子力研究所 那珂研究所ホームページ
(4)狐崎晶雄、吉川庄一:新。核融合への挑戦、講談社ブルーバックス(2003年)
(5)関昌弘監修:核融合炉工学概論、日刊工業新聞社(2001年)
(6)J・ヴァイス、本多力訳:核融合エネルギー入門 白水社クセジュ文庫(2004年)
(7)近藤育朗、栗原研一、宮健三:核融合エネルギーのはなし、日刊工業新聞社(1996年)