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<概要>
 1950年ころに英国、ソ連(当時)、米国で秘密研究として開始された核融合の研究は1955年に公開の研究となり、政治的に冷戦の時代にも東西間の情報交換、研究協力を盛んに行いながら進展を遂げてきた。わが国も世界とほぼ同時に、1955年ころに核融合の研究がはじまり、1958年以降は原子力委員会のもとに研究開発が進められてきた。核融合は研究開始の最初からエネルギー源とすることを目標としており、自然のエネルギー源にめぐまれないわが国にとって重要な意味をもつ。JT−60の成果などをもとにして1988年に日米欧ソの国際協力計画で開始したITER国際熱核融合実験炉)計画が2004年夏の時点で建設場所などの交渉の最終段階に至っているが、大型の超伝導コイルや本格的なDT燃焼を初めて実験するITERが予定の成果を出せば、その後の核融合炉までの見通しは極めて明白になる。従来は2050年ころとされていた核融合の実用化の時期を2030年ころに早めることができないかという検討も行われている。
<更新年月>
2004年07月   

<本文>
 核融合炉を目指した研究開発は、超高温プラズマに関する科学と、大型の核融合装置に関する工学技術が有機的に結合されて成り立つものである。
プラズマに関する科学の分野では、超高温プラズマを生成して長時間保持するための多くの課題、分野がある。歴史的に並べると、プラズマの発生、プラズマの加熱、プラズマ中の不純物の低減、プラズマの安定な保持、保温特性(閉じ込め特性)の改善、などである。超高温プラズマの計測自体も重要な研究開発課題であったし、今後もそれは続く。これからも続く研究の内容は、核融合炉の効率化、経済性向上のためのベータ値(*)の向上に関する研究、長時間(定常)プラズマ維持のための研究、そして今まで殆ど未着手のDT燃焼プラズマに関する研究である。
 核融合炉の工学技術の分野では、大型の超伝導コイル、それに電流を流すための大電力高精度制御電源技術、超高真空技術、大パワー粒子ビーム技術、大パワー高周波技術、高熱流機器技術、高中性子束機器技術、大型大重量遠隔操作技術、中性子工学技術、材料技術、等々である。核融合炉に必要なほとんど全ての工学技術の要素はITERのための技術開発(R&D,研究開発)によって大幅な進展が得られた。ITERではこれらの要素技術を総合して核融合炉に必要な機能を備えていることを確認し、さらに改良のための研究開発を行う。ただし、核融合出力による発電は、ITERで初期的な試験は行うが、本格的な発電は行わないので、発電用の高温高圧の蒸気を発生する発電ブランケットに関する研究開発はITERと並行して別途進められる計画である。低放射化材料の研究開発はそのために中心的に重要なものである。
 以上は磁場核融合を想定した記述であるが、慣性核融合については、1秒に約10回の高繰り返し爆縮のための研究開発を行う。その内容は、コストの低いターゲットの開発、高精度高速の照準、制御の開発、何千万回もの爆縮に耐える寿命の長い工学部品の開発など、極めて高度な技術開発が含まれる。
 なお、磁場核融合でも慣性核融合でも、計測がますます難しくなるので、地球シミュレーターのような高性能計算機を駆使したシミュレーターが、研究開発の進展を決める重要なものとなる。
 第三段階核融合研究開発基本計画では21世紀中ごろに核融合の実用炉第1号を作ることを想定しているが、最近、それを2030年ころに早めることができるか、という早期開発計画(Fast Track)の検討が日本とEUでそれぞれに開始された。まだ検討中であるが、ITERが運転を開始した数年後に核融合発電実証プラントの設計を開始して、2030年にその運転を開始しようという案が検討されている。
 なお、核融合は1968年に原子力委員会の原子力特定総合研究になったが、それを第一段階核融合研究開発基本計画とし、1975年からはJT−60を中核とする第二段階計画、そして1992年に核融合実験炉を中核とする第三基本計画が原子力委員会で決められている(図1参照)。1996年にはITERをわが国の核融合実験炉に正式に位置づけ、1998年には小型化した設計のITERを核融合実験炉に位置づけた。トカマク型核融合炉の開発概念図を図2に示す。

[用語解説]
(*)ベータ値:磁場の等価圧力に対するプラズマの圧力の比。磁場の等価圧力は磁場強度の二乗に比例し、プラズマの圧力はプラズマの粒子密度と温度の積に比例する。すなわち、ベータ値が高いほど同じ磁場強度で高い密度、高い温度のプラズマを保持できる。
<図/表>
図1 核融合炉の開発計画(原子力委員会の第三段階核融合研究開発基本計画)
図1  核融合炉の開発計画(原子力委員会の第三段階核融合研究開発基本計画)
図2 トカマク型核融合炉の開発概念図
図2  トカマク型核融合炉の開発概念図

<関連タイトル>
核融合炉の概念 (07-05-01-02)
核融合研究開発の経過 (07-05-01-03)
トカマク型核融合装置の研究開発 (07-05-01-06)
ヘリカル型核融合装置の研究開発 (07-05-01-08)
ミラー型核融合装置の研究開発 (07-05-01-09)
慣性核融合装置の研究開発 (07-05-01-10)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所核融合計画室・那珂研究所(編):核融合炉をめざして−核融合研究開発の現状1997年、日本原子力研究所(1997年11月)
(2)原子力委員会核融合会議 「核融合エネルギーの実現に向けた総合的な開発戦略について」 
(3)狐崎晶雄、吉川庄一:新。核融合への挑戦、講談社ブルーバックス(2003年)
(4)関昌弘監修:核融合炉工学概論、日刊工業新聞社(2001年)
(5)J・ヴァイス、本多力訳:核融合エネルギー入門 白水社クセジュ文庫(2004年)
(6)近藤育朗、栗原研一、宮健三:核融合エネルギーのはなし、日刊工業新聞社(1996年)
(7)Kikuchi,M. Inoue,N. Role of Fusion Energy for the 21st Century Energy Market and Development Strategy with International Thermonuclear Experimental Reactor 、World Energy Council, 18th Congress, Buenos Aires, Oct.2002 (www.worldenergy.org/wec−geis/publications/default/tech_papers/18th_Congress/Index/h_k.asp)
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