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<概要>
 米国原子力規制委員会NRC)が主催するCSARP (Cooperative Severe Accident Research Program)研究計画は、炉内燃料溶融進展、圧力容器健全性、格納容器内諸現象、格納容器健全性、核分裂生成物FP)の放出・移行挙動に関する大規模実験および過酷事故(シビアアクシデント)詳細解析コードやソースターム総合評価コードの開発を実施している。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 軽水炉の過酷事故(シビアアクシデント)時には、炉心の損傷、溶融に伴いFPが一次系を経て格納容器中に放出される。シビアアクシデントが環境に及ぼす影響を評価するためには、シビアアクシデント時の原子炉挙動とその規模を解明し、評価手法を確立する必要がある。米国原子力規制委員会(NRC)は1982年よりSFD(Severe Fuel Damage and Fission Products Source Term)計画を開始し、その後1993年からは国際協力的性格を強めたCSARP(Cooperative Severe Accident Research Program)計画として継続した。本計画では、原子炉を用いた大規模燃料溶融進展実験、原子炉圧力容器健全性、格納容器内諸現象、原子炉格納容器健全性、核分裂生成物(FP)の放出・移行挙動に関する大規模実験、およびシビアアクシデント詳細解析コードやソースターム総合評価コードの開発を実施してきた。表1に主な研究項目と研究実施機関を示す。本計画には18ケ国から26機関(2000年12月まで、わが国からは日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構))が参加している。
2.計画内容と主な成果
(1)炉心の損傷・溶融過程
 SFD計画の第1期および第2期計画では、燃料集合体の損傷・溶融過程を調べる総合実験がいくつかの研究用原子炉を用いて精力的に実施された。図1にアイダホ国立工学環境研究所(INEEL)で実施した出力逸走試験装置によるPBF/SFD1-4実験後の燃料体の断面図を示す。また、それらを補うための分離効果試験も炉外で実施された。これらの実験から、燃料集合体の損傷・溶融進展、ジルカロイ被覆管の酸化と水素発生、制御棒のふるまい、FPの放出と移行に関する基本的な知見を得て、シビアアクシデント時の燃料の損傷・溶融を集合体規模で評価解析するための解析コードの開発に役立てた。
(2)圧力容器の健全性
 原子炉圧力容器の健全性に関し、熱負荷と圧力負荷に起因する圧力容器下部ヘッドの破損を調べる実験が実施され、温度および応力の時間微分を考慮したクリープ構成式が必要であること、広範囲の歪みが貫通損壊を伴う圧力容器変形を起こす可能性が示された。
 溶融炉心が圧力容器内にある場合に原子炉キャビティに水を導入することにより、圧力容器を外部から冷却して圧力容器の健全性を確保する外部冷却方式がフィンランドの原子炉や将来型炉で検討されている。この手法の有効性を調べるための実験および解析が実施され、外部冷却が成立する条件が明らかにされた。
 TMI-2事故では約19トンの溶融物質が原子炉圧力容器下部ヘッド上に移動したが、下部には冷却材が十分あったこともあり、溶融炉心は十分冷却され下部ヘッドは健全であった。この溶融炉心の冷却メカニズムは既存の熱伝達モデルでは十分説明が出来なかったが、圧力容器内の溶融炉心冷却材相互作用に関する実験により、狭い流路における冷却メカニズムが明らかになった。
(3)格納容器内の諸現象
 原子炉圧力容器内部が高圧の状態で下部ヘッドが破損すると、原子炉格納容器内に噴出した溶融炉心は微細化され、格納容器雰囲気への効率的な熱伝達等により格納容器雰囲気が急激に加熱され圧力が上昇するいわゆる格納容器直接加熱が生じ得る。格納容器直接加熱に関する一連の実験を実施した。図2にサンディア国立研究所(SNL)で実施したSURTSEY装置を示す。その結果、一次系を減圧すれば格納容器雰囲気に運び出される溶融炉心の量を大幅に減らせること、一次系の減圧はかなりの確度で可能なこと等から、格納容器直接加熱により両原子炉の格納容器が破損する確率は極めて小さいとの結論を得た。
 溶融炉心が格納容器の床上に落下した場合、構造材であるコンクリートとの溶融炉心コンクリート反応が生じる。溶融炉心コンクリート反応によりコンクリートが侵食され、FPを含むエアロゾルや、水素、二酸化炭素等の非凝縮性あるいは可燃性の気体が生成される。溶融炉心コンクリート反応に関する一連の実験が実施され、コンクリートの侵食速度や発生するガスに関する知見が得られた。溶融炉心コンクリート反応が進展すると、格納容器床の溶融貫通、非凝縮性気体の蓄積による格納容器の過圧破損等が懸念される。そこで、アクシデントマネジメント方策として、溶融炉心を水で冷却し溶融炉心コンクリート反応を終結させることが考えられており、この有効性を調べる実験が実施された。
 高温の溶融炉心と冷却水との接触による溶融炉心冷却材相互作用では、条件によっては水蒸気爆発を引き起こす恐れがある。水蒸気爆発は圧力容器内および格納容器内の両方で発生が問題となり得る。水蒸気爆発に対しても一連の実験が研究所や大学で実施された。これまでの研究により、水蒸気爆発に関するメカニズムやモデル化、原子炉格納容器への影響について多くの知見が得られた。
 水素燃焼に関しては、爆ごうを起こす水素濃度範囲や、爆燃爆ごう遷移について明らかにした。また、水素燃焼に関する研究と併せて、米国が次世代型軽水炉で採用を検討している受動的自触媒水素再結合器の試験が実施され、その有効性が確認された。
(4)格納容器の健全性
 格納容器は設計基準事象に対しては、余裕を持って健全性を維持できるように設計されているが、シビアアクシデント時の負荷に対しては、貫通部が破損したり、格納容器本体の変形により貫通部のシールから多量の漏洩(リーク)を発生し、格納機能を失う恐れもある。このため、シビアアクシデント時の格納容器の健全性を調べる一連の実験がSNLで実施された。
 強化コンクリート製格納容器の静的内部荷重に対する挙動を調べるため、1/6スケールの試験体を用いた加圧試験を実施した。窒素により段階的に加圧した所、1.03MPaで漏洩量が増加を始め、1.1MPaで多量の漏れのため実験を終了した。漏洩の主原因は配管貫通部の強化部付近の亀裂とされている。
(5)ソースターム挙動
 シビアアクシデント時のソースタームを評価するためには、損傷燃料からのFP放出、放出されたFPの原子炉冷却系内や格納容器内での移行や沈着等の挙動を調べる必要がある。 CSARP計画においては、このうち主に燃料からのFP放出挙動と原子炉冷却系内での挙動に注目した炉内実験および炉外実験を実施してきた。
 これらの実験から、希ガス、ヨウ素等を含むFPの放出挙動が明らかになった。これらの実験データを基に、各種のFP挙動やソースターム評価コードが開発されている。
(6)解析コードの開発と検証
 CSARP計画では、実験で得られた知見等に基づき、個別現象に対応した詳細解析コード、総合詳細解析コード、および確率論的安全評価用高速簡易コードを開発している。個別現象としては、一次系熱水力、水蒸気爆発、炉心からのFP放出、一次系内FP挙動、溶融炉心コンクリート反応、格納容器内熱水力、格納容器内水素燃焼挙動、格納容器内FPエアロゾル挙動等がある。総合詳細解析コードは、シビアアクシデント進展全体に渡る熱水力挙動と燃料挙動の結合を計算し、高速簡易コードは原子炉圧力容器の内外現象および熱水力とFP挙動を同時に首尾一貫して解析することができる。
3.おわりに
 CSARP計画は、原子炉を用いた大規模実験と同時に詳細大型解析コード開発を目指したこと、世界の原子力主要国がほとんど参加している国際協力計画であること、などに主な特徴がある。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)は1983年よりCSARP計画に参加してシビアアクシデントに関する知見を得ることにより、わが国のシビアアクシデント研究の発展と原子力安全委員会におけるアクシデントマネジメントの検討など国レベルのシビアアクシデント関連の検討、さらに産業界における「次世代型軽水炉の原子炉格納容器設計におけるシビアアクシデントの考慮に関するガイドライン」(民間自主基準)の策定等に有効に役立てた。また、各国において確率論的安全評価やアクシデントマネジメント策の整備などにその成果が適用され、将来型炉の設計への反映も行われている。
<図/表>
表1 CSARP計画における主な研究項目と研究実施機関
表1  CSARP計画における主な研究項目と研究実施機関
図1 PBF/SFD1-4実験後の燃料集合体断面図
図1  PBF/SFD1-4実験後の燃料集合体断面図
図2 SNLにおける格納容器直接加熱実験装置
図2  SNLにおける格納容器直接加熱実験装置

<関連タイトル>
PSF計画 (06-01-01-18)
ACE計画 (06-01-01-21)
RASPLAV計画 (06-01-01-22)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:原子力安全研究の現状(平成12年),JAERI-Review 2000-028(2000)
(2)日本原子力研究所:原子力安全研究の現状 平成11年(1999年10月)
(3)杉本ほか:シビアアクシデント研究に関するCSARP計画の成果、日本原子力学会誌、39(2),p123-134(1997)
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