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<概要>
 米国電力研究所(EPRI)が主催するACE計画は、過酷事故(シビアアクシデント)の影響評価とアクシデントマネジメント対策の検討に必要な大型実験を国際協力により実施し、格納容器ベントフィルタ、格納容器内ヨウ素挙動、溶融炉心コンクリート反応および格納容器内溶融炉心の冷却性に関する有用な知見を提供した。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1. はじめに
 原子炉の過酷事故(シビアアクシデント)の影響を評価するとともに、シビアアクシデントの影響を軽減するためのアクシデントマネジメント策の有効性を検討するためには、シビアアクシデント環境下における核分裂生成物FP)の放出・移行挙動および現有または設置可能な工学的安全施設が果たし得る機能を充分に評価しておく必要がある。米国電力研究所(EPRI)が主催するACE(Advanced Containment Experiments)計画は、シビアアクシデントの影響評価とアクシデントマネジメント対策の有効性の検討に必要な大型実験を国際協力により実施し、格納容器ベントフィルタ、格納容器内ヨウ素挙動、溶融炉心コンクリート反応および格納容器内溶融炉心の冷却性に関する有用な知見をわが国を含む計画参加国に提供した(わが国からは日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)が参加)。
2.計画内容と主な成果
 シビアアクシデント時の格納容器圧力の上昇に対し、格納容器ベントフィルタにより減圧して格納容器の破損を防ぐとともに、FPエアロゾルをフィルタによって除去することがヨーロッパを中心に設置されている。ACE計画では、各国で用いられている8種類の格納容器ベントフィルタについて、エアロゾル除去性能を実験により調べた。その結果、いずれの格納容器ベントフィルタも設計性能が満足されていることを確認した。
 シビアアクシデント時に放射線が存在する場合、放射性ヨウ素は人体への影響が大きい有機ヨウ素に変換され得ることが知られている。ACE計画では、格納容器内の放射線場におけるヨウ素の挙動を大規模から小規模までの装置を用いて実験的に調べた。図1に格納容器内ヨウ素挙動実験の概要を示す。実験の結果、冷却水が酸性の場合にヨウ素の気相中への移行が増大するとともに、格納容器内壁の塗料との反応により、揮発性の高い有機ヨウ素が生成されることが明らかになった。
 シビアアクシデント時に原子炉圧力容器を貫通した溶融炉心が格納容器床のコンクリートと反応した場合、コンクリートが熱分解により侵食されるとともに、反応により発生する水素や二酸化炭素などの非凝縮性ガスが格納容器内に蓄積し圧力が上昇する。いずれも格納容器の健全性にとって脅威となる。ACE計画では、酸化ウランを含む実炉を構成する物質を用いた溶融炉心コンクリート反応に関する大規模実験を実施した。図2に溶融炉心コンクリート反応実験の概要を示す。実験の結果、種々の条件下におけるコンクリートの侵食速度、発生するガスの発生量、エアロゾル核種と粒径分布等に関する実験データを得た。
 溶融炉心コンクリート反応中にアクシデントマネジメントの一つとして、上から注水し、溶融炉心を冷却することにより、シビアアクシデントを終息させることが提案されている。ACE計画では、酸化ウランを含む実炉を構成する物質を用いて溶融炉心コンクリート反応中に注水することによる溶融炉心冷却性に関する大規模実験(MACE実験)を実施した。図3に格納容器内溶融炉心の冷却性に関する実験の概要を示す。実験の結果、溶融炉心上部のクラスト(溶融炉心の固化層)に形成される亀裂等への冷却水の侵入やクラスト上への溶融炉心の噴出が、溶融炉心の冷却に関与する可能性が高いことが明らかとなった。
 ACE計画で得られた成果は、原子力安全委員会におけるアクシデントマネジメントの検討、産業界における「次世代型軽水炉の原子炉格納容器設計におけるシビアアクシデントの考慮に関するガイドライン」(民間自主基準)の策定に役立てられた。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
<図/表>
図1 ACE計画における格納容器内ヨウ素挙動実験の概要
図1  ACE計画における格納容器内ヨウ素挙動実験の概要
図2 ACE計画における溶融炉心コンクリート反応実験の概要
図2  ACE計画における溶融炉心コンクリート反応実験の概要
図3 ACE計画における格納容器内溶融炉心の冷却性に関する実験の概要
図3  ACE計画における格納容器内溶融炉心の冷却性に関する実験の概要

<関連タイトル>
PSF計画 (06-01-01-18)
CSARP計画 (06-01-01-20)
RASPLAV計画 (06-01-01-22)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:原子力安全研究の現状 平成11年(1999年10月)
(2)日本原子力研究所:原子力安全研究の現状 平成9年(1997年11月)
(3)杉本ほか:軽水炉シビアアクシデント時の伝熱流動、伝熱研究、34(133),p52-59(1995)
(4)Proc. Second OECD(NEA)Specialist Meeting on Molten Core Debris-Core Interactions,Karlsruhe,Germany,1992(1992)
(5)Proc. Third CSNI Workshop on Iodine Chemistry in Reactor Safety,Tokai-mura,Japan,1991(1992)
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