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<概要>
 1987年策定の原子力開発利用長期計画の見直しが1994年に行われたが、高速増殖炉研究開発の遅れや新型転換炉研究開発からの撤退などによって、日本のプルトニウム利用は、軽水炉へのMOX燃料の使用(プルサーマル)が当面の主流とならざるを得なくなった。
 原子力委員会は、1997年1月に当面の核燃料サイクルの具体的な施策を決定した。この趣旨を踏まえ、プルサーマル計画を中心とする核燃料サイクルの推進に関する方針が、2月に閣議了解された。電気事業連合会は、全電力のプルサーマル計画を公表し、2000年までに4基、2000年初頭に5基、2010年までに7〜9基の計16〜18基の導入計画を示した。しかし、1997年3月11日に発生した動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)東海再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故、1999年9月30日に東海村で発生したJCO臨界事故、さらには1999年9月〜12月にかけて発覚したイギリス原子燃料会社(BNFL)のMOX燃料データ不正問題、続いて2002年の東京電力原子力発電所の自主点検データの不正問題、2004年8月9日に関西電力美浜原子力発電所で起きた死亡事故などにより、プルサーマル計画の実施は遅れ、その前途は不透明な状況となっている。
<更新年月>
2005年01月   

<本文>
 プルトニウムをMOX燃料として軽水炉に利用していくプルサーマル計画は、世界的に1960年代から開始され、成熟した商業技術となり、現時点で最も確実なプルトニウム利用方法として世界的に広く受け入れられている。フランス、ドイツ、スイス、ベルギーにおいては1980年代から本格化し、2002年12月末現在、全世界の軽水炉でのMOX燃料使用実績は、集合体約4,000体に達した(図1)。このうち、フランス、ドイツの実績は群を抜いている。MOX燃料を装荷している軽水炉は、フランス21基、ドイツ14基、アメリカ6基、スイス3基、ベルギー3基、日本2基など合計55基になった。
 今や成熟した商業技術とみなされ、最も確実なプルトニウムの利用方法となっている。2002年12月現在、3,998体のMOX燃料が使用されている。使用済みMOX燃料については、多くの国で当面中間貯蔵していくことになっている。
1.軽水炉によるMOX燃料の利用(プルサーマル)計画の経緯
 わが国においては、1987年策定の原子力開発利用長期計画の見直しが1994年に行われたが、その後の高速増殖炉研究開発の遅れや新型転換炉研究開発からの撤退などによって、日本のプルトニウム利用は、軽水炉へのMOX燃料の使用(プルサーマル)が当面の主流とならざるを得なくなった。原子力委員会は、1997年1月に当面の核燃料サイクルの具体的な施策を決定した。この趣旨を踏まえ、プルサーマル計画を中心とする核燃料サイクルの推進に関する方針が、同年2月に閣議了解された。
 同年2月14日に近岡科学技術庁長官(当時)及び佐藤通商産業大臣(当時)から、さらに2月27日には橋本総理大臣(当時)から、福島、新潟及び福井の三県の知事に対して上記閣議了解の説明・協力要請がなされるとともに、国においては、国民の理解を得るため、地元自治体・議会での説明等を積極的に実施して行く旨を伝えた。
 電気事業連合会(電事連)は、全電力のプルサーマル計画を同年同月に公表し、2000年までに4基(関西電力2基、東京電力2基)、2000年初頭に5基(東京/中部/九州電力で各1基、原電で2基)、2010年までに7〜9基(東京電力0〜1基、関西電力1〜2基、北海道/東北/北陸/中国/四国電力および電源開発で各1基)の導入計画を示した(表1)。
 しかし、その後、1997年3月11日に発生した動力炉・核燃料開発事業団(元、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構))東海再処理施設アスファルト固化処理施設においての火災爆発事故、さらに、1999年9月30日に東海村で発生したJCO臨界事故、1999年9月〜12月にかけ発覚した英国原子燃料会社(BNFL)のMOX燃料品質管理データ改ざんの不正問題、2002年に発覚した東京電力(株)の発電所自主点検データの不正問題などによって、当初のプルサーマル計画の実施は延期されて行った。
 2003年8月、原子力委員会が核燃料サイクルの全体方針をあらためて示し、電力事業者に実施スケジュールの策定を求めた。電気事業連合会は、同年12月電力9社と日本原子力発電、Jパワー(電源開発)、日本原燃の社長で構成する「プルサーマル推進連絡協議会」を開催し、2010年度までに合計16〜18基の原子力発電所でのプルサーマル実施を目指している現行目標の堅持を確認したと発表した。あわせて、実施へ向けた各社別の取り組み状況と今後の予定を公表した。関西電力が2007年度、日本原子力発電が2008年度までに開始するとしたほか、各社ともおおむね2010年度までに実施を目指し、立地地域などの理解が得られるよう努める方針が示された。Jパワーは、大間原子力発電所(世界初の全炉心MOX燃料装荷ABWR、138万8000kW)で2010年度にMOX燃料を装荷し、2011年度に運転開始する予定を示した。
 2004年4月、福井県知事は関西電力高浜3,4号機のプルサーマル計画を了承する意向を伝えた。しかし、その矢先8月9日に関西電力美浜3号機で起きた死亡事故で、福井県が一時凍結を表明したことで、関西電力のプルサーマル計画の推進は不透明な状況となっている。高浜発電所同様、福井県内の日本原子力発電敦賀2号機のプルサーマル計画の実施は不透明である。
2.MOX燃料の安全性確認
 軽水炉によるプルトニウム利用が本格化する計画を踏まえて、下記のような種々の検討を行ない、安全審査指針等が見直された。
 先ず、MOX燃料装荷に関わる安全審査指標(基本的考え方)が、原子力安全委員会・原子炉安全基準専門部会で1995年6月に示された。MOX燃料を3分の1程度装荷した軽水炉炉心は、通常のウラン燃料とほぼ同等の燃焼度約4万5000MWd/tの範囲内であれば、ウラン燃料炉心に用いる判断基準や、MOX燃料の特性を適切に取り込んだ安全設計評価手法が適用でき、特段の技術的問題はないとしている。
 現状の世界各国の安全解析・許認可では、MOX燃料装荷率3分の1(ドイツは最大2分の1)、プルトニウム含有量約13重量%まで、燃焼度はウラン燃料より低めに制限することで、原子炉システムや安全基準を変更することなく、MOX燃料体の商用軽水炉への装荷が可能としている。MOX燃料の高燃焼度化約7万MWd/tをめざした研究開発がフランスを中心に行われており、核分裂性ガスの放出評価やこれを抑制する燃料開発、高燃焼度領域での反応度事故時の燃料破損解析が行われている。
 原子力安全委員会は、プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウム目安線量(プルトニウム指針)を検討し、1998年7月にMOX燃料の装荷率3分の1までの軽水炉および「ふげん」では、指針の適用は免除してよいが、高速増殖炉については適用が妥当と結論した。
 また、原子力安全委員会では、原子炉安全基準専門部会がまとめた「改良型BWRにおけるMOX燃料の全炉心装荷について」の妥当性を1999年6月に了解した。さらに同委員会は、フルMOX−ABWRの安全審査について、MOX燃料の特性、全炉心までのMOX燃料装荷率、プルトニウム組成変動等を安全設計手法に適切に取り込めば、現行の「発電用軽水炉安全設計審査指針上「安全評価審査指針」等の指針類を変更せず、そのまま適用できるとしている。ただし、フルMOXの経験がないため、初号機では最初にウラン燃料も使い、徐々にMOX燃料を増やしながらデータを取得し安全性を確認しつつ実施する必要があるとしている。
3.高速増殖炉によるプルトニウム利用計画
 高速増殖炉(FBR)は、ウラン資源の利用効率が既存の軽水炉の約60倍に増大でき、核燃料の資源問題を根本的に解決することができる。さらに使用済み燃料の蓄積を抑制し、プルトニウムや長寿命のアクチニド元素を効率よく燃焼でき、高レベル放射性廃棄物の処理をより適正化できるため、環境負荷を低減することができる。
 わが国では、核燃料サイクル開発機構が、官民一体のナショナル・プロジェクトとして、1967年ナトリウム冷却型FBRの開発を開始し、その後高速実験炉「常陽」、高速増殖原型炉もんじゅ」の建設・運転を進めてきた。「もんじゅ」は1994年4月臨界、95年8月初併入(発電)を達成した。しかし、95年12月8日、起動試験中にナトリウム漏洩事故が発生した。放射能漏れを伴う事故ではなかったが、発表が的確でなかったことなどから社会的な事件に発展した。この事故以来、「もんじゅ」の運転は停止している。
 2000年11月に発表された原子力開発利用長期計画では、「もんじゅ」をFBRサイクル技術の中核と位置付け、早期運転開始をめざす、としている。
 2004年現在、海外でFBRの運転はフランス、ロシア、インドで続けられいる。また中国でも、FBR実験炉の建設が計画されている。

 原型炉「ふげん」(重水減速沸騰軽水冷却圧力管型炉、電気出力16.5万kW)は、核燃料サイクル開発機構により福井県敦賀市に設置され、世界で初めてMOX燃料を本格的に使用する発電用熱中性子炉として1979年本格運転を開始した。プルトニウム利用技術及び新型転換炉のシステム技術が実証され、また2000年度末でMOX燃料の装荷体数は726体に達した。2003年3月29日運転を終了し閉鎖した。
<図/表>
表1 日本のプルサーマル計画
表1  日本のプルサーマル計画
図1 世界の軽水炉におけるMOX燃料使用実績
図1  世界の軽水炉におけるMOX燃料使用実績

<関連タイトル>
混合酸化物(MOX)燃料とその軽水炉への利用 (04-09-02-03)
東海再処理工場における火災爆発事故 (04-10-02-01)
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)各論 (10-01-05-04)
プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量 (11-03-01-04)
発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について (11-03-01-27)
改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について (11-03-01-28)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2005年版 総論(2004年10月)、p.32−36
(2)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2004年版 各論(2003年11月)、p.133−139
(3)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2000/2001年版(2000年10月)、p.144−147
(4)電気事業連合会:原子燃料サイクルについて、プルトニウムの利用
(5)電気事業連合会:パンフレット 図表で語る エネルギーの基礎 2003−2004(2003年12月)、p.44
(6)電気事業連合会:パンフレット 電力事業の現状 2003−2004、p.11
(7)原子力委員会(編):原子力白書 平成15年版、大蔵省印刷局(2003年8月)、p.143−144
(8)原子力委員会(編):原子力白書 平成10年版、大蔵省印刷局(1998年8月)、p.187−194
(9)原子力委員会(編):原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(1994年6月24日)
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