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<概要>
 国内の発電用軽水炉においてプルトニウムをウランと混ぜ合わせた混合酸化物燃料(MOX燃料)を利用していくことが1994年6月に原子力委員会により決定された。これを受けて、原子力安全委員会原子炉安全基準専門部会は軽水炉に取り替え燃料の一部としてMOX燃料を装荷する際の安全設計安全評価等について検討を行った。検討は、(1)燃料および装荷炉心の特徴、(2)燃料の使用実績と照射後試験結果、(3)熱・機械設計、(4)核設計、(5)安全評価等について行われた。その結果、取り替え燃料としてのMOX燃料およびそれを装荷した炉心についてはMOX燃料の特性、挙動はウラン燃料と大きな差はなく、MOX燃料およびその装荷炉心は従来のウラン燃料炉心と同様の設計が可能であり、安全評価についても従来のウラン燃料炉心の判断基準、並びにMOX燃料の特性を適切に取り込んだ安全設計手法安全評価手法を適用できると判断された。
<更新年月>
2010年03月   

<本文>
 1994年6月に策定された原子力委員会の「原子力の研究、開発および利用に関する長期計画」では、国内の発電用軽水炉においてプルトニウムをウランと混ぜ合わせた混合酸化物燃料(MOX燃料)を1990年代後半から利用開始し、2010年までに十数基程度の規模にまで拡大していくことが記載されている。これを受けて、原子力安全委員会原子炉安全基準専門部会は軽水炉に取り替え燃料の一部としてMOX燃料を装荷する際の安全設計、安全評価等について検討を行った。以下に検討結果の主なものを述べる。
1.検討範囲
 当面軽水炉において使用が予想されるMOX燃料を想定し、MOX燃料は取り替え燃料の一部として使用し、装荷した炉心の特性を従来のウラン燃料炉心から大幅には変えない設計方針のものとした。
・MOX燃料の基本構造:ウラン燃料と同一。
核分裂性プルトニウム富化度:約8%(プルトニウム含有率:約13%)。
燃料集合体最高燃焼度:45,000MWd/t以下。
・原子炉級プルトニウム使用。
 MOX燃料とウラン燃料の燃料集合体の基本仕様の比較を表1BWR)と表2(PWR)に示す。
2.検討結果
2.1 燃料および装荷炉心の一般的特徴
 熱水力特性:ウラン燃料と同一。炉心の諸特性をウラン燃料炉心と同等に設計可能。
 MOX燃料の核的特性、物性、照射挙動:ウラン燃料と異なるがその特性は把握されており、これまでのデータでは、安全性に係る問題を生じていない。しかし、以下のMOX燃料の特徴に注意が必要である。
(1)核的特性
ボイド係数、減速材温度係数、ドップラー係数:より負。
・制御材、可燃性毒物反応度価値:低下。
・中性子スペクトルの影響で局所的に出力が高くなる傾向あり。
・ペレット周辺部の出力分担:高。
即発中性子寿命:短。遅発中性子割合:小
・ヘリウム生成量:大。
(2)物性、照射挙動(軽水炉仕様のMOX燃料)
・ペレットの融点、熱伝導度:プルトニウム含有率が増すと低下。
・ペレットのクリープ速度:プルトニウム含有率が増すと増大。
FPガス放出:若干高め。
・プルトニウム含有率の製造時不均一の可能性。
2.2 燃料の使用実績並びに照射後試験結果
 軽水炉燃料では、装荷から取り出しまでの炉内滞在期間中発生する核分裂の約1/3が燃焼中に生じたプルトニウムによるものである。軽水炉におけるMOX燃料の使用実績を表3に示す。海外でのMOX照射は1960年代より実施され、これまでに5200体以上(2005年12月末現在)、燃料集合体の燃焼度約58,000MWd/tの使用実績あり。フランス、ドイツ、スイス等では現在実用規模で使用中であり、特異な燃料破損の報告はない。わが国では、新型転換炉ふげんでの実績があり、1981年以来500体以上が装荷された。集合体の最高燃焼度として約33,000MWd/tを達成し、燃料破損はない。また、軽水炉での少数体装荷試験が敦賀1号炉(BWR)と美浜1号炉(PWR)で実施され、照射後試験により全ての燃料が健全であったことが確認されている。
 以上の実績から、今後軽水炉において取り替え燃料の一部としてMOX燃料を使用する技術は確立されていると判断される。
2.3 熱・機械設計
 MOX燃料はMOXペレットを使用すること以外はウラン燃料と基本的に変わらない。MOXペレットも基本的にはウラン燃料と似ているが、上記2.1項で述べた要因については燃料設計において適切に反映する必要がある。MOX燃料ではUO2中に少量のPuO2が添加されているが、軽水炉用MOX燃料では PuO2の割合は小さく、その物性値や照射挙動については、これまでの研究で十分に把握されている。UO2-PuO2系の状態図を図1に、MOX燃料の熱伝導率のPuO2含有率依存性を図2に示す。今回検討した燃料設計手法では、MOX燃料の物性や照射挙動の特徴が適切に考慮されている。
 以上のことから、MOX燃料についてもウラン燃料と同様の燃料設計手法等を用い、そこにMOX燃料の特性を適切に取り込むことにより挙動を評価することが可能であり、MOX燃料に関する設計の考え方、判断基準等については、これまでウラン燃料に適用されていた指針類を適用することは妥当と判断される。
2.4 核設計
 MOX燃料を装荷することにより2.1項で述べたように核的特性が変化するため、炉心の核設計においてこれらを適切に考慮する必要がある。BWRでは、MOX燃料集合体および炉心の核設計方針はウラン燃料のものと同様であり、PWR燃料では、MOX燃料集合体内のプルトニウム富化度に分布を持たせて従来の手法を改良したもの、または新手法を採用している。これらの核設計手法には、詳細な核データライブラリを通じてプルトニウムの影響が取り込まれ、プルトニウム富化度分布や集合体相互間の影響も評価できる。これらの設計手法をMOX燃料およびその装荷炉心の設計評価に適用することは妥当と判断される。MOX燃料集合体の装荷率が1/3程度であれば、ウラン燃料炉心と同等の特性を持つ炉心設計は可能と考えられる。なおプルトニウムの同位体組成については適切に考慮する必要がある。同位体組成による影響は、プラント設計にも依存するため、個別プラントの安全評価を行う場合には詳細な検討が必要である。
2.5 安全評価
 今回検討したMOX燃料の装荷については、燃料棒の熱水力特性はウラン燃料と変わらず、プラント挙動についてもMOX燃料の装荷率に応じて炉心パラメータがウラン炉心から連続的に変化する。したがって原子炉施設の安全評価の妥当性を確認するために想定すべき代表的な事象についても「安全評価審査指針」に示された事象をそのまま用いることができる。
 原子炉冷却材喪失事故については、原子炉冷却材圧力バウウンダリや非常用炉心冷却系統等は従来と同一であること、MOX燃料の崩壊熱がウラン燃料より小さいこと、MOX燃料の被覆管等の基本構造はウラン燃料と同じであり、燃焼度もウラン燃料を超えない範囲であり、照射後試験等の結果からMOX燃料の被覆管の照射挙動はウラン燃料と同様であるため、これまでのウラン燃料に対する原子炉冷却材喪失事故時の指針に示された判断基準等を適用することは妥当である。
 反応度投入事象については、ペレット径方向出力分布、融点の変化(図1)、熱伝導率(図2)やプルトニウム含有率の不均一性が燃料挙動に与える影響等について評価した。ペレット径方向分布についてはその影響は十分小さいことを確認した。融点の低下による燃料の破損エンタルピの低下は想定しているプルトニウム濃度では十分小さく、これまでの反応度投入事象時の評価指針の安全裕度および評価上の保守性の範囲内であると判断した。また、プルトニウム含有率の不均一性については、プルトニウムスポットに着目し実際より厳しい条件でも燃料破損への影響がないことを確認した。これらのことから、従来の反応度投入事象指針に示される判断基準等を適用することは妥当である。
 その他の事象についても、「安全評価審査指針」をウラン燃料炉心と同様に適用できる。炉心内の核分裂生成物の蓄積量についても、その差異は現行の安全評価手法の保守性の範囲内であることを確認した。また、平常運転時の線量評価も従来と同様として良い。
2.6 MOX燃料の使用実績
 軽水炉におけるMOX燃料の使用実績を表3に示す。これまでに燃料集合体で5200体以上、燃料集合体燃焼度で約58,000MWd/tまでの使用実績が報告され、ウラン燃料と異なる燃料破損の事例は報告されていない。なお、表3は、「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」(平成7年6月19日原子力安全委員会了承)に係る追加データ等の整理の一環として、平成19年7月24日に原子力安全委員会原子力安全基準・指針専門部会で了承された資料に掲載されたデータ(財団法人エネルギー総合工学研究所による調査報告書に基づく)である。また、日本では軽水炉のほか新型転換炉ふげん発電所で累計500体以上装荷され、すべて健全に使用されている。
2.7 その他
(1)安定性については、基本的には、ウラン燃料炉心と同じであるが、出力分布、反応度係数等については、個別プラント毎に評価する必要がある。
(2)燃料の取り扱いおよび貯蔵については、MOX燃料の核的特性、燃料の発熱、表面線量率等を考慮する必要がある。
3.結論
 軽水炉で利用が予定されるMOX燃料の特性および挙動はウラン燃料と大きな差はなく、また、MOX燃料およびその装荷炉心は従来のウラン炉心と同様の設計が可能であると認められるため、安全評価に当たって、従来ウラン燃料炉心に用いている判断基準並びにMOX燃料の特性を適切に取り込んだ安全設計手法、安全評価手法を適用しても差し支えない。すなわち、MOX燃料の特性、プルトニウムの組成変動およびMOX燃料の装荷率等を、評価モデル、入力値等に適切に取り入れることにより、安全設計および安全評価ができる。この指針は、今後のMOX燃料についての知見の蓄積をもとに、今後さらに充実したものになるよう、MOX燃料の拡大使用に先立って見直しがなされるものとする。
(前回更新2000年3月)
<図/表>
表1 MOX燃料とウラン燃料の基本仕様の比較(BWR)
表1  MOX燃料とウラン燃料の基本仕様の比較(BWR)
表2 MOX燃料とウラン燃料の基本仕様の比較(PWR)
表2  MOX燃料とウラン燃料の基本仕様の比較(PWR)
表3 軽水炉におけるMOX燃料の使用実績
表3  軽水炉におけるMOX燃料の使用実績
図1 UO2-PuO2系の状態図
図1  UO2-PuO2系の状態図
図2 MOX燃料の熱伝導率のPuO2濃度依存性
図2  MOX燃料の熱伝導率のPuO2濃度依存性

<関連タイトル>
ウラン燃料とプルトニウム燃料の相違 (04-09-01-04)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-01-10)
改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について (11-03-01-28)

<参考文献>
(1)原子力委員会:「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」、(平成6年6月24日)
(2)原子力安全委員会原子炉安全基準専門部会:「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」(平成7年5月)、http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19950501001/t19950501001.html
(3)市川ほか、「わが国におけるMOX燃料の照射実証及び照射後試験」、日本原子力学会誌,39,93-111(1997)
(4)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂9版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版 (1998)
(5)M. G. Adamson et al., ”Experimental and Thermodynamic Evaluation of Melting Behaviour of Irradiation 0xide Fuel”, J. Nucl. Mater., 130(1985)349-365
(6)R. L. Gibby,”The Effect of Plutonium Content on Thermal Conductivity of(U, Pu)O2 Solid Solutions ”, J. Nucl. Mater., 38(1971)163-177
(7)「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」(平成7年6月19日原子力安全委員会了承)に係る追加データ等の整理について、原子力安全委員会原子力安全基準・指針専門部会了承(2007)
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