<本文>
第2部 原子力の研究、開発及び利用の将来展開(第2部目次については
表1 参照)
第1章 原子力の研究、開発及び利用に当たって
国は、原子力研究開発利用に係る基本的方針を明らかにするとともに、安全規制等の法的ルールの設定とその遵守の徹底や、平和利用を担保し事業の円滑な実施を図る国際的枠組みの整備を進めること、さらに、基礎的・基盤的な研究開発の推進と必要な人材の育成を図るなど所要の措置を講じることを基本的な役割としている。国は、将来の有力なエネルギー選択肢として原子力の潜在的可能性を探索し実用化を目指す研究開発や、大型
加速器等の開発を通じ、人類共通の知的資産を生み出す基礎的・基盤的研究開発など、長期的な研究開発について主体的に進めるべきである。実用化が望ましい研究開発成果が得られた場合、民間が実用化していく活動を支援することも重要である。また、国は適時適切な研究評価を実施し、その結果を研究開発計画や研究資源の配分に適切に反映させていくことが重要である。
第2章 国民・社会と原子力の調和
1.安全確保と防災(
表2 参照)
原子力事業者は、安全確保の第一義的責任を有しており、その責任は重大である。原子力事業者は、自主保安活動によって、安全確保の実効性を上げるとともに、原子力産業全体としての倫理の向上に努めることが期待される。さらに、国は厳格な安全規制を行う責務があり、そのために、常に最新の科学技術的知見を安全規制に反映させるとともに安全確保に必要な科学技術的基盤を高い水準に維持するため、安全研究年次計画に沿って、関係機関の連携を図りつつ研究を着実に推進することが必要である。
2.情報公開と情報提供(
表3 参照)
国民の必要とする情報について、明確な情報開示の基準の下、通常時、事故時を問わず、適時、的確かつ信頼性の高い情報公開を行うことが必要である。
3.原子力に関する教育
原子力に関する教育は、エネルギー教育や環境教育の一環として、また、科学技術、放射線等の観点から、体系的かつ総合的にとらえることが重要である。
4.立地地域との共生
国、原子力事業者は原子力発電によって電力供給を受けている電力消費地の住民と立地地域の住民との間の相互の交流活動等を充実させることが必要である。また、
原子力施設立地地域の住民の理解と協力を得るためには、原子力施設の安全確保や災害対策が適切になされていることや適切な情報公開等に加え、原子力施設の運転を通じて原子力事業者と地域社会が共に発展し共存共栄するという「共生」の考えが重要である。
第3章 原子力発電と核燃料サイクル
1.基本的考え方
原子力発電は、エネルギーの安定供給に貢献するとともに、エネルギー生産当たりの二酸化炭素排出量の低減に大きく寄与しており、引き続き基幹電源に位置付け、最大限に活用していくこととする。また、核燃料サイクル技術は、原子力が長期にわたってエネルギー供給を行うことを可能にする技術であり、国内で実用化されることによって、国のエネルギー供給システムに対する原子力の貢献を一層確かなものにすると考えられる。国民の理解を得つつ、
使用済燃料を
再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本的考え方とする。また、今後とも放射性廃棄物処分を着実に進めていく。
高速増殖炉サイクル技術は、ウラン資源の利用率を現状に比べ飛躍的に高めることができ、高レベル放射性廃棄物中に長期的に残留する放射能を少なくする可能性を有していることから、適時適切な評価の下にその研究開発を着実に進める。
プルトニウム利用を進めるに当たっては、平和利用に係る透明性の確保の徹底を図る。日本では、海外再処理委託及び国内再処理工場で回収されるプルトニウムは、当面のところ、プルサーマル及び高速増殖炉等の研究開発において利用される。
2.原子力発電の着実な展開
高経年原子力発電プラントの安定運転の維持は、機器や素材の経年変化を早期に検出する点検活動を重点的に実施するとともに、適切な予防保全活動を行っていくことが重要である。
3.核燃料サイクル事業
天然ウランの確保については、供給源の多様化に配慮しつつ、引き続き長期購入契約を軸とした天然ウランの確保を図ることが重要である。
ウラン濃縮に関しては、現在稼働中の六ヶ所ウラン濃縮工場については、より経済性の高い遠心分離機を開発、導入し、同工場の生産能力を1,500トン
SWU/年規模まで着実に増強しつつ、安定したプラント運転の維持及び経済性の向上に全力を傾注することが期待される。また、国内において研究開発を引き続き推進することが重要である。
軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)に関しては、2010年までに
原子力発電所の累計16基から18基において順次プルサーマルを実施していくことが電気事業者により計画されており、実現の緒についたところである。国内において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、国内で加工されるのが合理的である。そこで、民間事業者には、六ヶ所再処理工場の建設、運転と歩調を合わせて国内に
MOX燃料加工事業を整備することが期待される。
軽水炉使用済燃料再処理に関しては、わが国においては、軽水炉の使用済燃料は一部を除いて、海外の再処理事業者に委託され再処理されてきた。今後、使用済燃料の再処理は日本国内で行うことを原則としており、民間事業者は、わが国に実用再処理技術を定着させていくことができるよう、わが国初の商業規模の再処理工場を着実に建設、運転していくことが期待される。
使用済燃料中間貯蔵に関しては、わが国においては1999年に中間貯蔵に係わる法整備が行われ、民間事業者は2010年までに操業を開始するべく準備を進めているところである。
4.放射性廃棄物の処理及び処分(
表4−1 、
表4−2 および
表4−3 参照)。
放射性廃棄物処分は、これを発生させた者の責任においてなされることが基本である。 原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の一部については、既に埋設処分が進められており、それ以外の放射性廃棄物についても、処分方策の検討を行った結果、現在調査審議中のウラン廃棄物を別にすれば、基本的考え方が示されている
(1)
地層処分を行う廃棄物
わが国では、再処理で使用済燃料からプルトニウム、ウラン等の有用物質を分離した後に残存する高レベル放射性廃棄物は、安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分をすることとしている。
高レベル放射性廃棄物に含まれる
半減期の長い放射性物質を分離し、これを
原子炉や加速器を用いて半減期の短いあるいは放射性でない安定な物質に変換する技術は、まだ研究開発の初期段階であるが、処理及び処分の負担軽減、資源の有効利用に寄与する可能性がある。
(2)管理処分を行う廃棄物
管理期間内に人の生活環境に影響を与えないレベルにまで放射能が減衰する放射性廃棄物は、基本的には
人工バリアと天然バリアを組み合わせて処分し、処分後には放射能の減衰に応じた管理を行う。
商業用発電炉、試験研究炉、核燃料サイクル施設等の原子力施設の
廃止措置は、その設置者の責任において、安全確保を大前提に、地域社会の理解と支援を得つつ進めることが重要である。
放射性廃棄物については発生量低減や有効利用が必要であり、そのための研究開発を積極的に推進していく必要がある。
5.高速増殖炉サイクル技術の研究開発の在り方と将来展開(
表5−1 、
表5−2 参照)。 わが国では、エネルギーの長期的安定供給に向けて資源節約型のエネルギー技術を開発し、技術的選択肢の多様化に取り組んでいくことが重要である。高速増殖炉サイクル技術はその中でも潜在的可能性が最も大きいものの一つとして位置付けられる。
高速増殖炉サイクル技術の研究開発に当たっても、その実用化段階において、安全性の一層の追求と併せて軽水炉や他電源と比肩し得る経済性を達成するという究極の目標を設定しておくことが重要である。また、研究開発に当たっては、幅広い選択肢を検討し、柔軟に取り組む。技術的に核兵器拡散につながり難い選択肢を開発する。
「もんじゅ」については、発電プラントとしての信頼性の実証とその運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立という「もんじゅ」の所期の目的を達成することは他の選択肢との比較評価のベースとなるから、同目的の達成にまず優先して取り組むことが特に重要である。このため、早期の運転再開を目指す。
(実用化に向けた展開と研究開発評価)
高速増殖炉サイクル技術の研究開発に当たっては、社会的な情勢や内外の研究開発動向等を見極めつつ、長期的展望を踏まえ進める必要がある。そのため、高速増殖炉サイクル技術が技術的な多様性を備えていることに着目し、選択の幅を持たせ研究開発に柔軟性をもたせることが重要である。
第4章 原子力科学技術の多様な展開(
表6 参照)
1.基本的考え方
科学技術には、基礎研究と応用目的を有する研究開発という二つの側面があり、原子力科学技術もこの二つの側面を有している。加速器や高出力レーザーは、基礎研究の観測手段として重要なものであり、核融合や革新的な原子炉の研究開発は、将来のエネルギーの安定供給の選択肢を与え、経済、社会のニーズに答えるものである。これらの研究開発を進めるに当たっては、創造性豊かな研究を育む環境を整備し、これらを支える基礎・基盤研究との均衡ある発展を図りつつ、効率的に進めることが重要である。
2.多様な先端的研究開発の推進
加速器については大強度加速器計画を適切に進める。核融合については燃焼状態の実現と炉工学総合試験を進める。革新的原子炉については、研究開発について検討する。基礎・基盤研究に関しては将来のシーズを生むものとして進める。
原子力分野においても、基礎研究と応用研究の連携協力を強化すること、研究活動の相互乗り入れ、ネットワーク化を進めること、国内外の人材の流動性の向上、多面的な知のネットワークの構築等が必要である。
国は、研究開発課題及び研究機関について適時適切な評価を実施し、評価結果を資源の配分や計画の見直し等に反映することが重要である。
第5章 国民生活に貢献する放射線利用
1.基本的考え方
放射線については、分かりやすい情報の提供と積極的な情報公開により国民の理解を得ながら、今後も、医療、工業、農業等の幅広い分野で活用できるように、研究開発を進めつつ放射線利用の普及を図っていくことが重要である。また、国民に放射線利用や放射線についての正確な知識をもってもらうための努力が必要である。
また、放射線利用の普及に伴い、放射線や放射性物質を取り扱う施設や機会などが増加することから、その際発生する放射性廃棄物の処分を含めた適切な管理や、防護に関する教育訓練の充実等が重要である。
2.国民生活への貢献(
表7 参照)
今後、医療の重要性が高まると予想される。また、食料増産や食品保存のため放射線利用の必要性が高まると考えられる。さらに、社会のニーズにこたえる新素材や新しい製造プロセスの開発、利用等、産業の様々な場面で放射線利用の拡大が期待される。低線量放射線の人体影響については、疫学研究、動物実験、細胞・遺伝子レベルの研究、解析等、様々な研究手法を用いて、より広い視野の下で関連機関の連携を図りつつ、基礎的な研究を総合的に推進することが必要である。放射線利用を支える技術者等の質と層の充実を図るため、関係機関が連携を取りつつ効果的な人材育成に取り組む必要がある。
第6章 国際社会と原子力の調和ならびに第7章 原子力の研究、開発及び利用の推進基盤(
表8 、
表9−1 、
表9−2 、
表10−1 および
表10−2 参照)
原子力を将来とも利用し、人類共通の知的資産としていくためには、これを支える様々な課題に対する適切な取組が重要である。
<図/表>
<関連タイトル>
長期計画策定に当たっての配慮事項(平成6年原子力委員会) (10-01-01-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)総論 (10-01-05-03)
<参考文献>
(1) 原子力委員会(編):原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画、大蔵省印刷局 (2000年11月24日)