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<概要>
 再処理によって抽出されたプルトニウムは、ウランと混合しMOX燃料として軽水炉で燃やすことができる。将来的には、高速増殖炉でこのプルトニウムを利用することにより、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めると期待されるが、実用化にはまだ時間がかかる。 MOX燃料の軽水炉への利用(プルサーマル)は、既にフランス、ドイツなどで実施されてきており、わが国でも敦賀1号機や美浜1号機で先行照射試験が実施され、技術的には問題のないことが確認されており、九州電力玄海発電所などでプルサーマルが開始されている。
 ここでは、MOX燃料の特性及び燃料製造時の課題について述べるとともに、わが国のプルサーマル計画について触れる。
<更新年月>
2010年10月   

<本文>
1.はじめに
 軽水炉にMOX燃料を利用するプルサーマルは、世界的に現時点で最も確実なプルトニウム利用方法であり、今後数十年にわたりプルトニウム利用の柱になると考えられている。
 MOX燃料の軽水炉への利用は、1960年代から開始された。フランス、ドイツ、スイス、ベルギーにおいては、1980年代から利用が本格化し、2008年12月末で、全世界の軽水炉での使用実績は、燃料集合体で6,350体に達している(図1参照)。このうち、フランス、ドイツの実績は群を抜いている。また、この時点でMOX燃料を装荷している原子力発電所は、フランス22基、ドイツ15基、アメリカ7基、スイス3基、ベルギー3基などとなっており、わが国においては日本原電敦賀原子力発電所1号機で2体、関西電力美浜発電所1号機で4体の使用実績があり、また、軽水炉以外に型転換炉「ふげん」で770体を超える使用実績がある。
 わが国では、原研(現日本原子力研究開発機構)JRR-2、NSRRを用いた基礎照射試験、海外GETR、ハルデン炉、Saxton炉を用いた確性照射試験に続き、1980年後半から敦賀1号機(BWR)及び美浜1号機(PWR)において少数体先行照射が実施され、その照射された燃料についてサイト及びホットラボにおいて詳細に検査、分析が行われ、MOX燃料の健全性が実証されている。
 敦賀1号機においては、表1に示した仕様の燃料集合体2体が1986年7月から1990年1月までの3サイクルに装荷、照射され、集合体平均燃焼度約26.4GWd/tを達成した。その後、照射後試験が日本核燃料開発(株)及び動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)大洗工学試験センターにおいて実施され、燃料の健全性が確認されるとともに、表2に示したMOX燃料の照射挙動に関するデータが取得されている。
 また、美浜1号機においては、表3に示した仕様の燃料集合体4体が1988年4月から1991年12月までの3サイクルに装荷、照射され、集合体平均燃焼度約23.3GWd/tを達成した。その後、同様に照射後試験がニュークリア・デベロップメント(株)において実施され、燃料健全性が確認されるとともに、MOX燃料の照射挙動に関するデータが取得されている。
2.MOX燃料の特性
 MOX燃料ではUO2中に少量のPuO2が添加されているが、その結晶構造はウラン燃料と同じ蛍石型面心立方格子であり、ウラン原子の一部がプルトニウム原子に置き換わる形で固溶している。したがって、その物性はプルトニウムの含有量に応じて滑らかに変化する。
 MOX燃料棒の照射下のふるまいは、基本的にはUO2燃料棒と同じであるが、その核特性や物性の差から多少の違いも見られる。これらMOX燃料の物性(融点、熱伝導率、熱膨張率、クリープ特性など)及び燃料挙動(FPガス放出、スエリングプルトニウムスポットなど)に関しては、ATOMICA「ウラン燃料とプルトニウム燃料の相違<04-09-01-04>」(<関連タイトル>参照)に記述があるので、ここでは省略する。
 MOX燃料の損傷もUO2燃料と同様、極めてわずかである。その破損機構については、MOX燃料の被覆管や燃料集合体構造がUO2燃料と同じであることから、MOX燃料とUO2燃料で特に異なる要因はないと考えられる。また、破損したMOX燃料のふるまいもUO2燃料と同等であり、放出放射能レベルもUO2燃料より悪くなることはなかったと報告されている。
3.燃料製造方法の影響
 MOX燃料では、PuO2の含有にともなう物性変化とともにMOX燃料の製造方法に起因するペレット微細組織変化の影響について留意する必要がある。MOX燃料の製造においては、ウラン粉末とPuO2粉末を機械的に混合した後に通常のウラン燃料と同じようにペレット成型、焼結されるので、この機械混合時に粉末の不均一さが生ずる。これは焼結後のペレットでもPuO2の濃度が高い領域(プルトニウムスポット)として確認されている。このような領域では、周りの均一なマトリックス(母体)との核的特性の違いにより、核分裂が多く起こり、そこでの燃焼度が高くなり、例えばFPガス放出挙動が異なってくる。各MOX燃料メーカーは、粉末混合工程を工夫して均一性を向上させ、照射挙動等への影響が少ないペレットを製造している。
4.わが国のプルサーマル計画
 1.はじめにの項でも述べたように、わが国ではこれまでに、敦賀1号機及び美浜1号機で先行照射試験を行い、プルサーマルに関して技術的に問題のないことを確認している。1997年2月4日、プルサーマルを早急に開始することが必要であるとする閣議了解が行われ、電力会社は1999年から順次プルサーマルを実施し、2010年までに累計で16〜18基の軽水炉でプルサーマルを実施する具体的な計画を立てた。
 この計画は、利用目的のないプルトニウムを持たないという国の方針のもと、全国で16〜18基のプルサーマルをできる限り早期に実現することを大前提にして、各電力会社が立地地域の意見や、MOX燃料の製造スケジュール、海外からの輸送工程など最新の状況を踏まえて検討が行われた。その結果、2009年6月12日にこれまでの工程を見直して、「遅くともMOX燃料加工工場が操業開始する2015年度までに、全国で16〜18基の原子炉でプルサーマルの導入を目指す」という新たな計画を立て、その実現に向けて引き続き業界を挙げて取り組んでいくこととなった(表4参照)。
 2010年8月時点におけるプルサーマル計画の進捗状況を図2に示す。
 このような取り組みから、2009年11月に九州電力玄海原子力発電所3号機、2010年3月に四国電力伊方発電所3号機及び2010年9月に東京電力福島第一原子力発電所3号機がプルサーマルによる発電を開始した。また、関西電力高浜発電所3号機が2010年12月に、中部電力浜岡発電所4号機が2011年1月にプルサーマルによる発電の開始を予定して
<図/表>
表1 敦賀1号機先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表1  敦賀1号機先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表2 敦賀1号機先行照射燃料照射後試験、主要項目
表2  敦賀1号機先行照射燃料照射後試験、主要項目
表3 美浜1号機先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表3  美浜1号機先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表4 わが国のプルサーマル計画
表4  わが国のプルサーマル計画
図1 世界の軽水炉におけるMOX燃料の使用実績
図1  世界の軽水炉におけるMOX燃料の使用実績
図2 プルサーマル計画の進捗状況
図2  プルサーマル計画の進捗状況

<関連タイトル>
日本におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-03)
海外におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-04)
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)
ウラン燃料とプルトニウム燃料の相違 (04-09-01-04)
日本のプルトニウム燃料製造施設と生産量 (04-09-01-05)
海外のプルトニウム燃料製造施設 (04-09-01-06)
混合酸化物(MOX)燃料の製造加工工程 (04-09-01-07)
日本のプルトニウム利用計画 (04-09-02-11)

<参考文献>
(1)原子力安全協会(編集・発行):実務テキストシリーズ No.3、軽水炉燃料のふるまい 第4版(平成15年7月 第2刷)p.297-306
(2)市川逵生ほか:我が国におけるMOX燃料の照射実証及び照射後試験、原子力学会誌、Vol.39、No.2(1997)
(3)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 1998/1999年版(1998年12月)p.190-195
(4)電気事業連合会(編集・発行):原子力Q&A、コンセンサス 1998-99、p.20-21
(5)通産省資源エネルギー庁公益事業部(編集):1998原子力発電 −その必要性と安全性−、日本原子力文化振興財団(1998年3月)p.83-86
(6)原子力委員会:電気事業者等により公表されたプルトニウム利用計画における利用目的の妥当性について(案) 第17回原子力委員会資料第1号(平成22年3月23日)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2010/siryo17/siryo1.pdf
(7)東京電力株式会社プレスリリース 2010年:定期検査中の福島第一原子力発電所3号機の発電開始について(平成22年9月23日)、http://www.tepco.co.jp/cc/press/10092301-j.html
(8)電気事業連合会 でんきの情報広場:プルサーマルの現状
(9)電気事業連合会 でんきの情報広場:電事連会長 定例会見要旨 プルサーマル計画の見直しについて(資料1)、2009年6月12日、http://www.fepc.or.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2009/06/12/kaiken_0612.pdf
(10)資源エネルギー庁:プルサーマルのしくみと安全性 プルサーマル計画の進捗
(11)電気事業連合会:「原子力・エネルギー図面集2010」第7章 [原子燃料サイクル]7-24(2010年3月23日)
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