<本文>
「改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について」(平成11年6月28日、原子力安全委員会了承)の報告書の概要はつぎのとおりである。
1.はじめに
原子炉安全基準専門部会は、発電用軽水型原子炉施設(以下「軽水炉」という)に取替燃料の一部としてプルトニウムをウランに混ぜ合わせた混合酸化物燃料(以下「MOX燃料」という)を装荷することに係る安全審査の際の指標として、MOX燃料の炉心装荷率1/3程度までを検討範囲とした調査審議を行い、「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について(平成7年6月19日、原子力安全委員会了承)」(以下「1/3MOX報告書」という)を取りまとめている。現在、取替燃料の一部としてMOX燃料を装荷する計画に加えて、平成7年8月25日の原子力委員会決定により、改良型沸騰水型原子炉(以下「ABWR」という)の全炉心にMOX燃料を装荷することを目指した計画が進められている。このような状況に鑑み、ABWRに炉心装荷率1/3を超えて全炉心までMOX燃料を装荷することに係る安全審査の際の指標を作成する観点から、安全設計、安全評価及びその他関連事項について検討を行った。
2.検討範囲
今回検討の対象としたABWRプラントは、先行ABWRから基本的なプラント構成上の変更がないものとし、その基本仕様を
表1 に示す。MOX燃料集合体側の炉心装荷率は、初装荷炉心で1/3程度まで、取替炉心で全炉心までとした(このようなABWRプラントを「フルMOX-ABWR」という)。また、MOX燃料を装荷した炉心の特性を従来のウラン酸化物燃料(以下「ウラン燃料」という)を装荷した炉心のそれと大幅に変えない設計方針のものとした。MOX燃料としては、具体的には以下に示す「1/3MOX報告書」に示されている検討範囲内のものを対象とした。
表2−1 、
表2−2 にフルMOX-ABWR燃料の基本仕様例を示す。
(1) MOX燃料の基本構造は、これまで十分な使用実績のある高燃焼度8行8列型ウラン燃料集合体(以下「高燃焼度8×8ウラン燃料」という)と同一とした。
(2) 核分裂性プルトニウム富化度(*1)は、最も高いペレットで8%までとした。
(3) プルトニウム含有率(*2)は、最も高いペレットで13%までとした。
(4) MOX燃料の集合体最高燃焼度は40,000MWd/t(ペレット最高燃焼度は約58,000MWd/t)までとした。
(5) 使用するプルトニウムについては、原子炉級プルトニウム(*3)で、軽水炉の使用済ウラン燃料から得られるもの相当を対象とした。
なお、MOX燃料集合体と混在するウラン燃料集合体は9行9列型ウラン燃料集合体(以下「9×9ウラン燃料」という)とした。
3.検討結果
3.1 「1/3MOX報告書」以降の技術的知見
「1/3MOX報告書」取りまとめ以降に、熱・機械設計、核設計及び安全評価について以下のような知見が得られている。
(1) 熱・機械設計
「1/3MOX報告書」以降、国内外で公表されたMOX燃料挙動に係る
照射・
照射後試験の結果は、いずれもMOX燃料の照射挙動が基本的にはウラン燃料のそれと変わらないとする同報告書の結論を裏付けている。
(2) 核設計
「1/3MOX報告書」以降、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)TCAでの臨界試験データ及びフランスEOL炉でのEPICURE臨界試験データを用いた、MOX燃料装荷炉心に対する核設計手法の検証が行われている。これらの検証結果は、「1/3MOX報告書」で妥当性が確認された「燃料集合体核特性計算コード」等がMOX燃料体系においてもウラン燃料体系と同程度の精度で適用できることを示している。
(3) 安全評価
日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)NSRR、フランスのカダラッシュ研究所にあるCABRI炉における燃料試験の結果では、ペレット/被覆管機械的相互作用を原因とする破損(以下「PCMI破損」という)の
しきい値のめやすを超える条件を与えても
燃料破損が生じていないことから、原子炉安全基準の専門部会報告書「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料の取扱いについて」のPCMI破損のしきい値のめやすを変える必要は認められない。
3.2 MOX燃料利用の状況
表3 に、各国における沸騰水型軽水炉(以下「BWR」という)でのMOX燃料使用実績を示す。BWRにおけるMOX燃料の使用については、これまでの実績から、安全上の問題点は特に見い出されておらず、その基本的な技術は確立されているものと判断する。
3.3 熱・機械設計について
フルMOX-ABWRで使用するMOX燃料の基本構造が、MOXペレットを使用すること及び
FPガス 放出量の増大を考慮しプレナム体積を大きくしていること以外はこれまで良好な使用実績を有する高燃焼度8×8ウラン燃料と同一であるので、「1/3MOX報告書」の検討範囲内である。このため、燃料の照射挙動は基本的には変わらないが、燃料の熱・機械設計上特に留意すべきことは、炉内の中性子エネルギスペクトルがより硬くなることによる影響を受けることである。
しかし、検討対象としたMOX燃料の集合体最高燃焼度は40,000MWd/tと高燃焼度8×8ウラン燃料(集合体最高燃焼度50,000MWd/t)及び9×9ウラン燃料(集合体最高燃焼度55,000MWd/t)より低く設定しており、被覆管が寿命中に経験する高速中性子照射量はこれらのウラン燃料より小さくなり(
表4 参照)、MOX
燃料被覆管の照射挙動はウラン燃料とほぼ同等と見なしうる。また、MOX燃料集合体の炉心装荷率が1/3の炉心とMOX燃料集合体のみが装荷された炉心(以下「全MOX燃料装荷炉心」という)でMOX燃料ペレット内の発熱分布の違いは小さく、その影響は問題にならない程度であると考える。
これらのことから、MOX燃料の照射挙動はウラン燃料と基本的には変わらないものと判断する。フルMOX-ABWRのMOX燃料の基本仕様は「1/3MOX報告書」の検討範囲内であり、燃料の照射挙動はウラン燃料の場合と基本的には変わらないことなどから、フルMOX-ABWRにもMOX燃料に関する設計の考え方、判断基準等について「発電用軽水型原子炉の燃料設計手法について」、「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」等に示される手法を適用することは妥当であると判断する。
3.4 核設計について
現行の核設計手法のMOX燃料及びMOX燃料を装荷した炉心に対する検証は、ベルギーVENUS炉での臨界試験、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)TCAでの臨界試験、フランスEOL炉での臨界試験、敦賀1号炉でのMOX燃料少数体装荷のデータに基づき行われており、
出力分布、
ボイド反応度、動特性パラメータ等はMOX燃料体系とウラン燃料体系で同程度の解析精度を有することを確認した(
表5−1 、
表5−2 参照)。また、MOX燃料の燃焼に伴うプルトニウム同位体の組成変化についても、ドーデバルト炉照射のMOX燃料の解析値は測定値をよく再現していることを確認した(
図1 参照)。以上のことから、現行のウラン燃料のみが装荷された炉心(以下「ウラン燃料装荷炉心」という)に対する核設計手法は、フルMOX-ABWRにも適用することは妥当であると判断する。
3.5 熱水力設計について
検討対象としたMOX燃料集合体は、
燃料棒の寸法、配列等の基本構造が高燃焼度8×8ウラン燃料と同一であることから、MOX燃料集合体にも、高燃焼度8×8ウラン燃料と同じ圧力損失計算式及び沸騰遷移相関式を適用して差支えないと判断する(
表6 参照)。
3.6 動特性について
ウラン燃料装荷炉心に対して適用している現行の各種安定性解析手法は、入力値にMOX燃料及びMOX燃料装荷炉心の特徴を適切に取り込むことができるので、フルMOX-ABWRにも適用することは妥当であると判断する(
表7 参照)。
3.7 安全評価について
先行ABWRから基本的なプラントの構成上の変更はなく、軽水炉としての特徴は変わらない。燃料被覆管と冷却材間の熱水力持性は高燃焼度8×8ウラン燃料と変わらない。炉心パラメータは、入力値にMOX燃料及びMOX燃料装荷炉心の特徴を適切に取り込むことができるので、プラント挙動はウラン燃料装荷炉心と大きく変わることはないものと判断する(
図2 、
図3 、
図4 および
図5 参照)。さらに、今回の検討範囲でのMOX燃料の挙動はウラン燃料の挙動と大きくは変わらないことから、安全設計の基本方針の妥当性を確認するために「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(以下「安全評価審査指針」という)に示された事象及び判断基準等を適用することは妥当であると判断する。
3.8 被ばく評価について
フルMOX-ABWRは、先行ABWRから基本的なプラント構成上の変更がなく、また、全炉心にまでMOX燃料が装荷されても炉心パラメータがウラン燃料装荷炉心と大きくは変わらないため、事故時を含むフルMOX-ABWRのプラント挙動は先行ABWRと大きく変わることはないものと判断する。このため、フルMOX-ABWRの平常運転時、事故時及び重大・仮想事故時の被ばく評価における対象
核種、放出経路、想定すべき事象、評価条件等の基本的考え方は、先行ABWRと同様であり、「安全評価審査指針」、「発電用軽水型原子炉施設周辺の
線量目標値に対する評価指針」等に示されている手法等を適用することは妥当であると判断する。
3.9 MOX燃料の取扱い及び貯蔵について
燃料の取扱い及び貯蔵に係わる設計等に用いる貯蔵設備の未臨界性、燃料の発熱量及び放射線強度の計算手法は汎用性があるものであり、その特性を考慮した入力値を設定すればMOX燃料に対しても適用できると判断する。
4.結論
現在までに得られている技術的知見を基に、特に「1/3MOX報告書」以降に得られた新しい知見に留意して、MOX燃料集合体を初装荷炉心では1/3程度まで、取替炉心では全炉心まで装荷するABWR(フルMOX-ABWR)について、安全設計、安全評価及びその他関連事項について検討を行った。検討対象としたフルMOX-ABWRで用いられるMOX燃料は、その集合体の基本構造が高燃焼度8×8ウラン燃料と同一であること、燃料集合体最高燃焼度が40,000MWd/tであること、使用するプルトニウムについては原子炉級プルトニウムで、軽水炉の使用済ウラン燃料から得られるもの相当であること等、「1/3MOX報告書」における検討範囲内のものである。また、「1/3MOX報告書」取りまとめ以降、その結論の変更を要するような技術的新知見は見出されていないこと、さらに、全MOX燃料装荷炉心においても、従来のウラン燃料装荷炉心と大きくは変わらない特性を有する炉心設計が可能であると認められることから、「1/3MOX報告書」に示される結論と同様に、従来ウラン燃料装荷炉心に用いている判断基準並びにMOX燃料の特性、MOX燃料集合体の炉心装荷率、プルトニウム組成変動等を適切に取り込んだ安全設計手法及び安全評価手法を適用することは差支えないものと判断する。すなわち、現行の「発電用軽水型原子炉施設に関する
安全設計審査指針」、「安全評価審査指針」等を変える必要は認められず、今回検討の対象としたフルMOX-ABWRにそのまま適用できるものと判断する。ただし、核分裂生成物の炉心内蓄積量等の計算に用いる核分裂収率については、ウラン燃料装荷炉心と全MOX燃料装荷炉心を念頭に置いて、評価対象となる各事象について核種(希ガス、よう素)毎に
235Uの核分裂収率を用いる場合と
239Puの核分裂収率を用いる場合とを比較して、より保守的な結果を与える核分裂収率をそれぞれ選択して用いることとする。
本検討は、ABWRに全炉心までMOX燃料を装荷することに係る安全審査の際の指標を作成する観点から行ったものであり、MOX燃料の炉心装荷率1/3程度までの範囲に関して、「1/3MOX報告書」に変更を加えるものではない。また、MOX燃料が装荷される特定の炉心あるいは原子炉としての評価は、それぞれの原子炉の安全性に係る審査の際に行われるべきものであるが、その場合、原子炉設置許可申請(変更許可申請を含む)の内容が本報告書の検討結果に整合しない場合があっても、妥当な理由によるものであることが明らかにされればこれを排除するものではない。
[用語解説]
(*1) 核分裂性プルトニウム富化度:((
239Pu)+(
241Pu))/(全Pu+(
241Am)+全U)×100wt%
なお、
241Puは半減期約14.4年で核分裂性の
241Amに崩壊するため、全Puの重量には、
241Amを含めて考える。ここでは、この点を明確にするためあえて明示している(以下同じ)。
(*2) プルトニウム含有率:(全Pu+(
241Am))/(全Pu+(
241Am)+全U)×100wt%
ここではプルトニウム中の核分裂性プルトニウム割合が80%程度を超えないものをいう。
(*3) 核分裂性プルトニウム割合:((
239Pu)+(
241Pu))/(全Pu+(
241Am))×100wt%
<図/表>
<関連タイトル>
発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について (11-03-01-27)
発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料の取り扱いについて (11-03-01-29)
<参考文献>
(1) 内閣総理大臣官房原子力安全室(監修):改訂10版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(2000年11月)