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<概要>
 使用済燃料から、再処理によって分離されたプルトニウムをウランと混ぜて、混合酸化物燃料「MOX(モックス)燃料」に加工し、原子力発電所軽水炉で使用することは「プルサーマル」といわれている。軽水炉で使用されるウラン燃料とMOX燃料には、燃料物性と核特性に違いがあるが、プルトニウム含有率の異なる燃料棒を適切に配置することにより、ウラン燃料のみの場合と同じような十分な安全余裕を持った炉心構成を設計することができる。MOX燃料の安全性、国内外の軽水炉での使用実績などから、電気事業連合会では、2010年度までに合計で16〜18基への導入を目指して取り組むこととしている。
<更新年月>
2009年03月   

<本文>
1.軽水炉用MOX燃料の特性
 「MOX(モックス)燃料」とは、使用済燃料から、再処理によって分離されたプルトニウムをウランと混ぜて、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(Mixed Oxide Fuel)に加工したもので、この燃料を軽水炉の燃料として使用することは「プルサーマル」(プルトニウム サーマル リアクター)といわれている。図1に、軽水炉MOX燃料のプルトニウム含有比率、このプルトニウムが燃料の物性および核特性に及ぼす影響を示す。プルトニウムとウランは化学的な特徴はよく似ているが、融点や熱伝導度が異なっている。その結果、プルトニウムの混合割合が増えるにしたがって、MOX燃料の融点が低下し、また熱伝導度が低下するため、MOX燃料の温度が上昇する傾向となり、冷却材喪失事故の際に問題となる可能性がある。しかし、実際にプルサーマルで使用するMOX燃料の混合量では、いずれの変化も小さく、実際のMOX燃料の温度は融点に対して十分な余裕を持っている。燃料の核特性では、プルトニウムはウランに比べて中性子を吸収しやすいため、制御棒の効きの低下、燃料出力を上昇させる傾向がある。しかし、制御棒の「核分裂停止」機能は、燃料の設計や原子炉の中での配置を工夫することによってウラン燃料のみの場合と同じように十分な安全余裕を持った炉心構成を設計することができる。
2.軽水炉用MOX燃料集合体の設計例
 軽水炉用MOX燃料集合体は、通常のBWRまたはPWR燃料と構造的には全く同一であるが、上記のような燃料物性、核特性を考慮して設計するので、燃料ペレットのプルトニウム含有率の異なった燃料棒を組合せて燃料集合体を構成する。具体的なPWRおよびBWRのMOX燃料仕様をそれぞれ表1表2に示す。また、プルトニウムの含有率の異なる燃料棒を適切に配置したPWRおよびBWRのMOX燃料集合体の構造例を、それぞれ図2図3に示す。
 BWRのMOX燃料については、ウラン燃料と同様、燃料集合体内の出力分布が適切なものになるよう(局所的な出力ピーキングを抑え、出力分布を平坦化させるよう)MOX燃料集合体内で燃料棒毎の濃縮度およびプルトニウムの含有率(富化度)を適正化している。
 PWRのMOX燃料については、MOX燃料がウラン燃料と混在したときに、相対的に中性子スペクトルが柔らかいウラン燃料からMOX燃料へ熱中性子が流れ込み、MOX燃料集合体周辺部の燃料棒出力が高くなる。これを軽減するために、従来、ウラン燃料では比較的均質な設計としていたのに対し、MOX燃料ではMOX燃料集合体内で中心部から周辺部へ高・中・低と3段階の富化度分布を設けることとしている。
3.軽水炉MOX燃料使用の安全性および使用実績と実施計画
 プルサーマルは、海外では昭和30〜40年代(1960年代)に開始され、その後、商業利用も行われている(これまで57基での導入実績)。プルサーマルに用いるMOX燃料については、わが国においても少数体ではあるが日本原子力発電敦賀1号機(1986年から989年)や関西電力美浜1号機(1987年〜1991年)での実証試験および軽水炉と類似の新型転換炉(ATR)「ふげん」(昭和54年(1979年)〜平成15年(2003年)の24年間でMOX燃料を772体、1基当たりの装荷体数では世界最高)における使用実績がある。世界の軽水炉における使用実績と実施状況を図4図5に示す。
 こうした国内外の実績等も踏まえ、専門家による検討を経て、原子力安全委員会はMOX燃料の安全性について検討を行い、その結果は「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」(平成7年6月19日(1995年)原子力安全委員会了承)にまとめられた。そこでは、既に燃料物性や核特性について上述したように、MOX燃料の特性とウラン燃料との差は大きくなく、MOX燃料の割合が炉心全体の1/3程度までの範囲ならば、特段の設備変更などを行うことなくウラン燃料の場合と同等な条件で、原子炉を利用できるとしている。また、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の全炉心にMOX燃料を装荷する計画に対処するため、「改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について」(平成11年6月28日(1999年)原子力安全委員会了承、一部改訂 平成13年3月29日(2001年)もまとめられている。ただし、MOX燃料受け入れ時の遮へい能力が充分な「専用取扱設備」と使用済MOX燃料の貯蔵時のピット内で「いかなる場合にも臨界にならないこと」および「充分な遮へい能力を有する」ように設備の一部変更を求めている。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 プルサーマル計画は、1972年6月にまとめられた原子力開発利用長期計画(原子力長計)の中でその実施が明記され、1994年の同計画では1990年代後半からプルサーマルを本格的に実施する計画が示された。電力各社はこの計画に基づき、2010年度までに16〜18基の発電プラントでのプルサーマルの実施を目指して取り組んでいる。
4.プルサーマルの経済性
 現在のウラン価格などを前提とすると、原子力委員会の小委員会における試算結果からは、直接処分した方が再処理するよりも「核燃料サイクルコスト」(発電コスト全体の2〜3割の部分)は4割程度安価になるという。また、リサイクルによるコストは約0.5〜0.7円/kWh(割引率2%:全量再処理と全量直接処分との差)となるが、これを一世帯あたりの年間負担額に換算すると、年間約600〜840円の負担となり、年間電気代の1%程度とされ、発電コストに与える影響は少ない。他方、わが国のエネルギー自給率は4%程度で、ウラン資源の可採年数も85年程度と見込まれているなか、プルサーマルの実施により、核燃料サイクルが確立することで、ウラン資源を1〜2割程度節約することとなり、燃料の安定確保に貢献することとなる。
<図/表>
表1 PWR-MOX燃料の基本仕様(泊3号機の例)
表1  PWR-MOX燃料の基本仕様(泊3号機の例)
表2 BWR-MOX燃料の基本仕様(島根2号機の例)
表2  BWR-MOX燃料の基本仕様(島根2号機の例)
図1 MOX燃料の特性
図1  MOX燃料の特性
図2 PWR-MOX燃料の構造
図2  PWR-MOX燃料の構造
図3 BWR-MOXX燃料の構造
図3  BWR-MOXX燃料の構造
図4 世界の軽水炉におけるMOX燃料の使用実績(2007年12月現在)
図4  世界の軽水炉におけるMOX燃料の使用実績(2007年12月現在)
図5 海外のプルサーマルの実施状況(2006年12月末現在)
図5  海外のプルサーマルの実施状況(2006年12月末現在)

<関連タイトル>
フルMOX-ABWRの炉心設計 (02-08-02-07)
プルトニウムの軽水炉への利用の必要性 (02-08-04-01)
日本におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-03)
海外におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-04)
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)
混合酸化物(MOX)燃料とその軽水炉への利用 (04-09-02-03)
日本のプルトニウム利用計画 (04-09-02-11)

<参考文献>
(1)資源エネルギー庁ホームページ:プルサーマルのしくみと安全性
(2)電機事業連合会ホームページ:プルサーマル
(3)原子力安全委員会:改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について平成11年6月28日原子力安全委員会了承一部改訂 平成13年3月29日
(4)発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」(平成7年6月19日(1995年)原子力安全委員会了承)
(5)泊発電所3号機でのプルサーマル実施計画について:
(6)島根原子力発電所2号機のプルサーマル計画について:
(7)泊発電所における原子炉施設の一部変更計画について(平成20年4月):
(8)中国電力(株):中国電力株式会社島根原子力発電所の原子炉設置変更許可申請(2号原子炉施設の変更)の概要、平成18年10月23日
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