<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 わが国(日本)では、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の軽水炉への利用は敦賀1号機(BWR)および美浜1号機(PWR)で複数のMOX燃料集合体照射が行われ、特段の技術的問題点のないことが実証されている。新型転換炉(ATR)原型炉ふげん」では、2000年度末までに累積で726体のMOX燃料集合体が装荷された。
 今後、使用済燃料から国内または海外における再処理により回収されたプルトニウムを用いてMOX燃料を加工し、2010年度までに十数基の軽水炉でプルサーマル計画を実施することになっている。JCO臨界事故、英国原子燃料会社のMOX燃料データ不正問題の発覚等により、プルサーマル計画の実施は大幅に遅れているが、九州電力、四国電力、中部電力などにおいて、その実現に向けた着実な動きが見られ、国においても、地元におけるシンポジウムの開催等、住民の理解と協力を得るための取組が精力的に実施されている。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を受けて、定期検査で停止した原子炉の再稼働を見合わせることとなり、大飯3号機と4号機以外は、新たに発足した原子力規制委員会が定める安全基準を満たすことが確認されたものから再稼働を行うこととなった。上記事故の時点で4基の原子炉(福島第一3号機を含む)でプルサーマルが開始されていたが、計画の先行きは不透明な状況にある。
<更新年月>
2006年11月   

<本文>
1.プルサーマル計画とその現状
 プルサーマルとは、プルトニウムをウランと混合した酸化物燃料(MOX燃料)の形で、軽水炉での発電に利用することである。プルサーマルの実施により約1〜2割のウラン資源節約効果が得られ、供給の安定性に優れるという原子力発電の特性を一層改善することが見込まれる。プルサーマルは、1994年の原子力開発利用長期計画において、「1990年代後半にPWRおよびBWRそれぞれ少数基において利用を開始し、2000年頃に10基程度、その後、2010年までには10数基程度の規模にまで計画的かつ弾力的に拡大することが適当」とされている。このような背景に基づき、一部の電気事業者(東京電力、関西電力)は、海外で再処理されたプルトニウムを用いて、海外にMOX燃料の加工を委託している。また、電源開発(現、Jパワー)では、改良型沸騰水軽水炉(ABWR)の炉心全体にMOX燃料を装荷する、いわゆるフルMOXの計画を進めている。(ATOMICA:フルMOX-ABWRの炉心設計 <02-08-02-07> 参照)
 軽水炉でのMOX燃料利用は、海外において2004年12月現在、すでに4,894体の使用実績がある。わが国においても、少数体規模(6体)での実証試験において炉心特性、燃料挙動などに関して良好な成果が得られている。こうした国内外の実績等も踏まえ、専門化による検討を経て、原子力安全委員会がプルサーマルの安全性に関して報告書をまとめ、現在の軽水炉においてMOX燃料を利用することについては特段の技術的問題はなく、安全を確認し得ることが示されている。1997年2月に電気事業連合が公表したわが国のプルサーマル計画を表1に示す。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 しかし、1999年9月30日に発生したJCOの臨界事故の影響により、東京電力柏崎刈羽原子力発電所3号機および福島第一原子力発電所3号機でのプルサーマル計画の実施は延期された。また、関西電力では1999年定期検査時に高浜発電所4号機の燃料集合体(157体)に8体のMOX燃料を装荷する予定であったが、英国BNFL社製MOX燃料の品質データ改ざんの発覚によって、当初のプルサーマル計画の実施は延期された。さらに、2002年には東京電力(株)の発電所自主点検データの不正問題が発覚した。
 2003年8月、原子力委員会核燃料サイクルの全体方針をあらためて示し、電力事業者に実施スケジュールの策定を求めた。電気事業連合会は、同年12月電力9社と日本原子力発電、Jパワー(電源開発)、日本原燃の社長で構成する「プルサーマル推進連絡協議会」を開催し、2010年度までに合計16〜18基の原子力発電所でのプルサーマル実施を目指している現行目標(表1)の堅持を確認したと発表した。あわせて、実施へ向けた各社別の取り組み状況と今後の予定を公表した。その矢先8月9日に関西電力美浜3号機で起きた死亡事故で、福井県が一時凍結を表明したことで、関西電力のプルサーマル計画の推進は不透明な状況となっている。高浜発電所同様、福井県内の日本原子力発電敦賀2号機のプルサーマル計画も前途は不透明である。
 一方、2006年3月に九州電力玄海3号機(2005年9月安全審査終了)および2006年10月に四国電力伊方3号機(2006年3月安全審査終了)のプルサーマル計画について、それぞれ安全協定に基づく地元の事前了解がなされ、2010年度を目途とするプルサーマルの実現に向けて進展があった。なお、中部電力浜岡4号機のプルサーマル計画は、地元の了解を得て、2006年3月に安全審査を申請した。国においても、エネルギー基本計画(2003年10月閣議決定)や原子力政策大綱(2005年10月閣議決定)などにおいて、プルサーマルを着実に推進することとしており、シンポジウムの開催等、住民の理解と協力を得るための取り組みを積極的に実施している。なお、東京電力は、立地地域の信頼回復に努めることを基本に、保有する原子力発電所の3〜4基で実施の意向である。
 Jパワー(旧電源開発)は、大間原子力発電所(初装荷として炉心の1/3程度以下を装荷し、段階的に、世界初の全炉心MOX燃料装荷する改良型BWR、138万3000kW)の安全審査を2004年3月に申請し、現在安全審査中であるが、2010年度にMOX燃料を装荷し、2011年度に運転開始する予定である。
2.わが国におけるプルサーマル実績
 わが国におけるMOX燃料の軽水炉利用のための研究は、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)で製造したMOX燃料集合体2体を1986年に原子力発電敦賀1号機(BWR)に、また1988年には関西電力美浜1号機(PWR)にMOX燃料集合体4体(うち、国産MOX燃料2体)を装荷して、少数体規模実証試験が行われた(図1)。
 敦賀1号機では、1986年7月に照射を開始し、1990年1月に照射を終了するまで3サイクル間照射し、燃料集合体燃焼度で約26,000MWd/tを達成している。美浜1号機では、1988年4月に照射を開始し、1991年12月に照射を終了するまで同じく3サイクル間照射し、燃料集合体燃焼度で約23,000MWd/tを達成している。表2および表3にそれぞれの照射試験に使用された燃料集合体の仕様を示す。
 いずれも燃料取り出し後の照射後試験により、燃料棒外観、酸化膜厚さ、伸び、燃料棒断面金相、FPガス放出率等についての詳細調査が実施されており、プルサ−マル燃料の健全性と運転の安全性が実証されている(表4)。
 これと並行して、熱中性子炉型式の一種であるわが国独自の重水減速軽水冷却炉の新型転換炉(ATR)「ふげん」が1979年本格運転を開始した。1981年以来大量のMOX燃料が装荷され、2000年度末でMOX燃料の装荷体数は累積で726体に達した。「ふげん」は2003年3月29日運転を終了した。
 なお、2004年12月時点のMOX燃料装荷の世界の使用実績は、軽水炉プラント数では、フランス21基、ドイツが15基、米国が6基、ベルギーとスイスが3基、イタリア、日本およびインドが2基など合計56基、装荷体数では、フランスが2,270体、ドイツが1,828体、ベルギー305体、スイス304体、アメリカ91体、イタリア70体、インド10体、オランダ7体、日本6体など合計4,894体である。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
表1 わが国のプルサーマル計画
表1  わが国のプルサーマル計画
表2 敦賀1号機(BWR)先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表2  敦賀1号機(BWR)先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表3 美浜1号機(PWR)先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表3  美浜1号機(PWR)先行照射MOX燃料集合体の基本仕様
表4 少数体実証計画における照射後試験項目
表4  少数体実証計画における照射後試験項目
図1 日本における軽水炉でのMOX燃料使用実績
図1  日本における軽水炉でのMOX燃料使用実績

<関連タイトル>
フルMOX-ABWRの炉心設計 (02-08-02-07)
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)
混合酸化物(MOX)燃料とその軽水炉への利用 (04-09-02-03)
日本のプルトニウム利用計画 (04-09-02-11)

<参考文献>
(1)電気事業連合会ホームページ:原子力への取り組み、プレスリリース
(2)原子力委員会(編):原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(1994年6月24日)
(3)原子力委員会(編):原子力白書 平成15年版、大蔵省印刷局(2003年8月)、p.143-144
(4)原子力委員会(編):原子力白書 平成10年版、大蔵省印刷局(1998年8月)、p.187-194
(5)日刊工業出版プロダクション:原子力施設立地点、原子力eye、vol.46(1)、94、2000年1月号およびvol.46(2)、84、2000年2月号
(6)(財)日本原子力安全協会:実務テキストシリーズ No.3、軽水炉燃料のふるまい 第4版(1998年7月)
(7)(社)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2005年版 総論(2004年10月)、p.32-36
(8)(社)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2004年版 各論(2003年11月)、p.133-139
(9)(社)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2000/2001年版(2000年10月)、p.144-147
(10)資源エネルギー庁ホームページ:原子力政策の現状について
(11)(社)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 1999/2000年版(1999年10月)、p.108
(12)関西電力ホームページ:
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ