<本文>
1.はじめに
混合酸化物(MOX:Mixed Oxide Fuel)燃料は、1963年にベルギーのBR−3炉(PWR、1万kW)で初装荷されて以来、フランス、ドイツ、スイス、ベルギーなどの欧州諸国を中心に過去30余年にわたり利用されてきており、すでに約5,290体の実績がある(
図1)。今や成熟した商業技術とみなされ、現時点で最も確実な
プルトニウム利用方法となっている。
2006年12月末時点で、フランスが21基(内、装荷期間終了1基)、ドイツが15基(内、装荷期間終了3基)、米国が7基(内、装荷期間終了1基)、ベルギーが3基(内、装荷期間終了1基)、スイスが3基、日本が2基(装荷期間終了)など、合計57基の原子力発電所でMOX燃料が装荷されている。これに加えて、2006年12月末時点でMOX燃料の装荷認可を受けている原子力発電所は、スイス2基、スウェーデン3基、日本5基の合計10基である。世界のMOX燃料利用の現状を
表1−1および
表1−2、また使用実績を
表2−1および
表2−2に示す。
2.各国のプルサーマルの現状と今後の展開(文献3、4、5参照)
(1)フランス
フランス電力公社(EDF)は、1984年に90万kW級PWRでのプルトニウム・リサイクルを決定し、技術的、行政的に障害の少ない16基90万kW級PWRでのMOX燃料装荷許可を取得した。1987年、サンローラン炉にMOX燃料を装荷し、プルトニウムの商業利用を開始した。その後、1998年にさらに4基のMOX燃料装荷許可を取得、PWR全58基のうち20基でMOX燃料を使用するプルトニウム・リサイクルの体制を築いた。
現在、MOX燃料装荷炉心はハイブリッドの3分の1炉心管理で運転、MOX燃料の
原子炉への装荷体数は、16体/年・炉が標準である。
プルトニウム富化度は7.1%、
燃焼度は平均38,000MWd/トン(最高42,000MWd/トン)。MOX燃料は、1,800体(180炉年)以上の利用実績があり、ウラン燃料と同じ運転および安全状態が確保できている。
EDFは、2004〜2005年にMOX燃料の平均燃焼度を38,000〜48,000MWd/トン(最高燃焼度52,000MWd/トン)に増加する許可を取得し、
二酸化ウランの燃焼度と同等にすることで二酸化ウラン燃料と区別することなく単純な4分の1炉心管理で運転する「MOXパリティプロジェクト」を計画している。
フランス原子力庁(CEA)では、将来的に使用済みMOX燃料のマルチリサイクル利用も視野に入れ、新しい燃料や次世代燃料サイクルの研究開発も行っている。また、フランスではMOX燃料を装荷して原子炉の負荷追従試験が行われている。
(2)ドイツ
1960年代から軽水炉でのプルトニウム・リサイクルが試みられ、フランスと並んで、多くのMOX燃料を装荷した実績を持っている。現在、ドイツで運転中の17基の軽水炉のうち、MOX燃料装荷許可を取得している原子炉はPWR8基とBWR2基で、実際にプルトニウム・リサイクルが行われている。MOX燃料の炉内装荷率は、30%を超え最大50%までの装荷率で許可されているものが多い。
ドイツ国内ではプルトニウム利用について、多くの議論がなされている。1994年に
原子力法が改正され、使用済み燃料の直接処分がバックエンドのオプションの一つとして認められ経済性の観点からも、MOX燃料リサイクルに対して必ずしも積極的でなかったドイツの電力会社は、使用済み燃料の
中間貯蔵の路線を強めることになった。
2001年連邦政府と大手電力4社は、脱原子力協定に正式署名した。新原子力法では、2005年7月1日をもってドイツの原子力発電所で発生した使用済み燃料を
再処理のため、引き渡すことを禁止することや、再処理工場から引き取るべき放射性廃棄物の秩序正しい廃棄措置と、使用済み燃料の無害な利用についての証明を要求している。特に再処理によって発生したプルトニウムについては、原子力発電所への再装荷が保証されていることを証明しなければならない。
また、原子力発電所の運転者に、使用済み燃料を最終処分場へ搬入するまで発電所サイトまたは近接地に
中間貯蔵施設を建設し、保管する義務を負うことを規定している。電力会社は、サイト内使用済み燃料乾式貯蔵施設12か所の建設を連邦放射線防護庁(BFS)に申請し、2002年末には2か所の操業許可を取得した。
(3)スイス
再処理リサイクルの経験を蓄積しているが、これまでプルトニウム利用に関する政府の公式な政策は出ておらず、電力会社のプルトニウム・リサイクル計画がスイスの路線を決定していた。すなわち、イギリス原子燃料会社(BNFL)の酸化物燃料再処理工場(THORP)再処理プラントとのベースロード契約によって回収される数トンオーダーのプルトニウムはMOX燃料に加工され、国内電力4社の原子炉5基のうち3基(ベツナウ1、2号機とゲスゲン炉)のPWRで利用している。
2000年ベツナウ1号機の運転停止期間中に、BNFL製MOX燃料集合体4体に軽微な欠陥が確認されている。また、2001年にゲスゲン炉から取り出したMOX燃料集合体20体のうち8体は、57,000MWd/トンの高燃焼度を達成している。
1999年、閣議が提出した新原子力法案は、原子力モラトリアムを提案していたが、2003年5月18日の国民投票により、運転中の5基の閉鎖と新規建設の凍結延長は否決された。一方、使用済み燃料の再処理については、現契約の切れる2006年7月以降10年間は凍結されることになった。
(4)イギリス
BNFLのTHORPとセラフィールドMOX燃料製造加工施設(SMP)では、国内外の使用済み燃料を受け入れ商業レベルの再処理とMOX加工を行っているが、イギリス国内での
核燃料サイクルは確立していない。国内マグノックス炉の使用済み燃料再処理により、国内に民生用プルトニウムが蓄積している。
政府のプルトニウム管理政策は未決定であり、意見募集中である。プルトニウムにエネルギー源として一定の価値を認めつつも、
余剰プルトニウムを廃棄物とみなす提案もある。
(5)スウェーデン
現状では使用済み燃料の直接処分をバックエンド・オプションとしている。しかし、再処理が
バックエンド政策の要とされた1960年代から1976年頃にかけイギリスに輸送し貯蔵されてきた使用済み燃料は、国内でのさまざまな検討を経て、最終的には1997年から再処理が実施されてきた。
1998年、オスカーシャイム発電会社(OKG)は、140トンの使用済み燃料から取り出したプルトニウムを用いたMOX燃料の使用許可申請をスウェーデン原子力発電監督局に提出し、政府は2002年末MOX燃料の装荷を承認した。MOX燃料は、イギリスのSMPで加工後、2007年頃にはOKG発電所で装荷される予定である。オスカーシャイム1号機、2号機および3号機については、MOX燃料装荷が認可されているが、2006年末の時点では未だ装荷されていない。
(6)ベルギー
1970年代初めから1980年代後半にかけ、政府は産業界に対して使用済み燃料の再処理および回収された物質のリサイクルを採用するよう要請、1993年には分離プルトニウムのMOX燃料利用を決定した。1963年から実験炉BR3(PWR)で、MOX燃料試験が開始され、1995年には許可を取得している国内のPWR2基で、MOX燃料集合体が初装荷されている。
しかし、2002年政府は脱原子力法案を閣議採択し、議会は2003年法案を可決した。新規原子力発電所の建設と再処理を凍結、さらに既存の原子力発電所を運転開始後40年で廃止するとしている。ベルギーにおけるMOX燃料の装荷計画は、フランス原子燃料会社(COGEMA)(現AREVA NC社)への再処理委託により回収されたすべてのプルトニウムをリサイクル利用するとしているが、先行きは不透明である。2003年5月の総選挙において緑の党が敗退し、入閣しなかったため、脱原子力政策を見直す動きが2004年以降、活発になっている。
(7)MOX燃料の加工能力
MOX燃料の製造は、1950年後半〜60年代にかけ、ヨーロッパ、アメリカで高速増殖炉燃料として研究開発が開始された。1970年代に入ると、フランス原子力庁(CEA)がカダラツシュで、ベルギー・ベルゴニュークリア(BN)社がモル・デッセルで、ドイツ・KWU/ALKEMがハナウで、わが国では核燃料サイクル開発事業団(現、日本原子力研究開発機構)の東海事業所で、それぞれ10〜35トン/年規模のMOX燃料製造パイロットプラントの操業を開始している。1990年代には、フランス、イギリスで商業段階に入り、100トン/年規模のプラントの建設が開始された。フランスにCOGEMA(現AREVA NC社)のMELOX燃料製造工場、イギリスにBNFLのMOX実証施設(MDF、1999年商業運転終了)とSMPなどがある。
また、ロシア、インドでは、FBR、
沸騰水型原子炉(BWR)用に小規模のMOX燃料を製造している。わが国では、日本原燃(株)(JNFL)が六ヶ所村にJ−MOXプラント(130トン/年)を建設する計画を進めている。JNFLは2005年4月、青森県ならびに六ヶ所村と「MOX燃料加工施設の立地への協力に関する基本協定」を締結、また、経済産業省へ核燃料物質加工事業許可申請書を提出した。(2007年2月および5月、同補正書を提出)
現在、世界の累積生産量は約1,800トンといわれている。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
日本におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-03)
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)
海外のプルトニウム燃料製造施設 (04-09-01-06)
日本のプルトニウム利用計画 (04-09-02-11)
<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2006年次報告(2007年4月)、p.29
(2)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力・エネルギー」図面集 2007(2007年2月)、7−21、p.165、電気事業連合会:、21/29
(3)日本原子力産業会議:原子力年鑑 各論 2004年版(2003年11月)、p.135−137
(4)日本原子力産業会議:原子力年鑑 各論 2005年版(2004年10月)、p.336−338
(5)日本原子力産業会議:原子力年鑑2006年版(2005年11月)、p.64−67
(6)日刊工業新聞社:特集「プルサーマル始動へ」、海外におけるプルサーマル事情、プルサーマルの課題、原子力eye、Vol.4 No.4(1999年4月号)、p.16−23
(7)ENERGY 2005−6、40−62(2005)
(8)日本原燃(株)ホームページ:
(9)(財)エネルギー総合工学研究所:平成17年度核燃料サイクル関連技術調査報告書、IAE−051103−1