<本文>
1.はじめに
電気事業者(以下、事業者)は、原子力発電所の設計、建設、運転・管理に対する一義的な責任を有し(原子力基本法第14条)、国は、事業者による原子力発電所の設計、建設、運転・管理に対して、安全が確保できていることを電気事業法、「
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、
原子炉等規制法)」および関連する政令、規則等(以下、法令)に基づく審査や許可、認可(以下、許認可)、検査などを通じ、段階的な規制を行うことによって確認している。
原子力発電所の立地選定から運転開始までには、用地取得、事前の陸、海、空にわたる広範な調査作業、港湾建設等海洋関連作業、原子炉設置許可、電気工作物許可、工事計画認可、使用前検査など様々な法的手続きに基づいて進められる。
すべての原子力発電所は、環境影響評価(環境アセスメント)の一般則である環境影響評価法の対象とされ(同法第2条第2項)、事業者は、原子炉設置許可申請を行う前に、環境影響評価を行わねばならない。環境影響評価における原子力発電所固有の手続きについては電気事業法による規定に基づいて国が関与する。運転開始後も原子炉等規制法、電気事業法等の法令に基づき、
定期事業者検査や
保安検査などによって安全性が確認される。以下にそれぞれの段階ごとに係る法令について示す。
2.立地地点選定
原子力発電所の立地地点の選定には、十分な面積の用地が確保できること、器材搬入のための港湾施設が確保できること、必要な冷却水等が確保できること、地盤が強固であることの条件を考慮して選定し、原子力発電所の安全も含めてその他産業の影響、住民の生活に及ぼす影響等、広い視野からの影響を調査する。調査には、
図1に示す法令のうち関係する法令の手続きに従って、農地、山林、海洋、港湾等に立ち入り、観測設備等を設置することも必要となる。事業者は、電気事業法の定める手続きに従い、環境影響評価の方法を記載した環境影響評価方法書(以下、方法書)を作成し、経済産業省への届出を行うとともに関係地方公共団体に送付、公告・縦覧を行い、地方公共団体、住民等からの意見を求める。経済産業大臣は、知事や住民等の意見を勘案、配慮して方法書を審査(
環境審査)し、必要な事項を勧告する。事業者はこれらの手続きを踏まえて環境影響評価を行い、それらの結果を記載した環境影響評価準備書を作成し、方法書と同様な手続きと再度の検討を重ねて、環境影響評価書を作成し、経済産業大臣および環境大臣に送付し、環境審査に供する。双方の大臣の意見を踏まえて最終評価書を作成し(評価書の補正)、地方公共団体への送付、公告・縦覧を経て事業の実施(原子炉設置許可申請等)が可能となる。
原子力発電所の地点選定から建設準備、建設、運転までの手続きを
図2に示す。
3.建設準備・建設
事業者から原子炉設置許可申請が出されると、原子力安全・保安院は、原子炉設置許可申請が同法に定められた許可基準に適合しているか
安全審査を行う(原子炉等規制法第23条他)。この結果は、原子力安全委員会に諮問し、原子力安全委員会で審査が行われる(ダブルチェック)。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
その後、原子力安全・保安院は、原子力安全委員会からの意見を十分尊重し原子炉の設置許可を行う。設置許可を受けた事業者は工事計画認可申請を行い、原子力発電所の設計の詳細について経済産業大臣の認可を受けた後、工事を開始する(電気事業法第7条)。この後も、原子力安全・保安院は、工事の工程ごとの使用前検査や燃料体の検査を実施する。
運転開始にあたって、事業者は原子力発電所の運転の際に遵守すべき事項や、従業員の保安教育の実施方針など原子力発電所の保安のための基本的な事項を記載した
保安規定を定め、保安規定認可申請を行い、運転を始める前に認可を受けなければならない(原子炉等規制法第37条)。
4.運転
原子力発電所の自主点検問題等の問題を踏まえ、品質保証体制・保守管理活動の強化、定期事業者検査制度の導入、設備の健全性評価の導入、工事計画認可対象の明確化など、主として運転段階の安全規制を強化するため、2002年12月に、電気事業法および原子炉等規制法が改正され、独立行政法人原子力安全基盤機構が成立し、2003年10月1日から施行された。改正後の運転段階の安全規制の流れを
図3に示す。
新しく導入された定期事業者検査(電気事業法第55条など)は、運転開始後、事業者によって定期的に行われる。この検査では、設備の健全性評価を実施しその結果を国に報告することが義務づけられた。また、原子力安全・保安院は安全上特に重要な設備・機能について
定期検査(電気事業法第54条など)を行い、技術基準への適合性を確認している。原子力発電所の立地地域には、
原子力保安検査官が常駐し、原子力発電所内の巡視点検や事業者とのヒヤリング等を実施するとともに、事業者が保安規定を遵守しているかどうか確認する年4回の保安検査(原子炉等規制法第37条第5項など)を行っている。
また、事業者には、運転時に行った定期的な試験などの記録を保管することが義務付けられているほか、運転に関する主要な事項に関しては定期的に、事故・トラブルが発生した時は直ちに原子力安全・保安院に報告しなければならない。原子力安全・保安院は、運転段階においても、認可や検査などの実施状況については、四半期ごとに、事故・トラブルの発生や原因調査結果・再発防止策については随時、原子力安全委員会に報告を行っている。
なお、2008年8月には、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の一部の改正によって、安全を一層向上させる観点からの、点検時の機器の状態を踏まえた保全方法の継続的な改善を促す等の保全プログラムを基礎とする検査制度が導入され、事業者の保安規定変更認可申請および国による認可を通じて、保全プログラムに基づく保全の充実、
高経年化対策の強化等が図られることとなった。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電所の立地サイト周辺地勢 (02-02-01-01)
原子力発電所立地に関する環境調査 (02-02-01-02)
原子力発電所建設のための手続き (02-02-02-01)
原子力発電所立地に関する地盤・地震調査 (02-02-05-01)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
公開ヒアリング (11-01-01-03)
原子力施設の設置(変更)に係る安全審査 (11-01-01-04)
自治体と原子力事業所との安全協定 (11-01-05-01)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局(監修):原子力規制関係法令集 2008年版、大成出版社(2008年9月)
(2)原子力安全・保安院ホームページ:
(3)電気事業連合会ホームページ:
http://www.fepc.or.jp/index.html
(4)電気事業連合会:2008年版原子力エネルギー図面集
(5)原子力安全基盤機構:日本における原子力安全規制の概要