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<概要>
 原子力の平和利用を進める上で、厳正な安全規制を実施することはもちろんであるが、国民の理解と信頼をさらに深めるために、できる限り国民との意志の疎通を図ることが不可欠である。このため、我が国では、主要な原子力施設の設置に当たり、地元住民等に対する施設内容などの説明とそれに対する意見を聴くための公開ヒアリング及びその結果を当該原子力施設の設置計画に反映する制度が整えられている。また、公開ヒアリングの結果は報告書として公開されている。
 公開ヒアリングには第1次と第2次があり、第1次公開ヒアリングは行政庁が主催し、その後に開催される第2次公開ヒアリングは原子力安全委員会が主催する。なお、研究開発段階にある発電用原子炉や再処理事業については第1次公開ヒアリングが省略され、試験研究用原子炉については公開ヒアリングが開催されていない。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている原子力発電所の設置に当たって行う地元住民への公開ヒアリングに関する考え方や具体的な手順等についても原子力規制委員会により見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革によって廃止された。
<更新年月>
2012年02月   

<本文>
1.公開ヒアリングの概要
 原子力施設の安全を確保し、原子力利用に関する国民の理解と信頼を深めるためには、国民との十分な意志疎通を図ることが必要不可欠である。このため、主要な原子力施設の設置に当たり、地元などの理解や協力を得ることを目的とした公開ヒアリングを開催する制度が確立されている。公開ヒアリングには第1次公開ヒアリングと第2次公開ヒアリングがある。第1次公開ヒアリングは行政庁(経済産業省)が主催し、第2次公開ヒアリングは原子力安全委員会が主催する。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織の原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 第1次公開ヒアリングについては、昭和54年1月の通商産業省(現経済産業省)省議決定「原子力発電所の立地に係る公開ヒアリングの実施について」及び「原子力発電所の立地に係る公開ヒアリングの実施要綱」等に、その詳細が定められている。
 第2次公開ヒアリングについては、「原子力安全委員会の当面の施策について」(昭和57年11月25日一部改正)、「原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について」(平成2年11月1日改正)、「公開ヒアリング等の実施方法について」(昭和57年11月25日原子力安全委員会了承)及び「原子力安全委員会委員長談話」(昭和57年11月25日)に、その実施方針などが示されている。
2.公開ヒアリングの位置付け
 第1次公開ヒアリングは、経済産業省による「原子力発電所の立地に係る公開ヒアリングの実施に関する規程」(平成13年3月)に基づき実施され、第2次公開ヒアリングは、原子力安全委員会による「原子力安全委員会の当面の施策について」(昭和57年11月一部改正)等に基づき実施される。
 原子力施設の設置に関しては、「計画地点」の選定から「原子炉設置許可」までの計画段階において、立地可能性調査や環境影響評価等の手続きが必要であり、経済産業省が当該原子力発電所の設置に係る諸問題について、地元住民の理解を得るとともに、その意見を聴くことを目的として、関係者の協力のもと第1次公開ヒアリングが開催される。
 一方、経済産業省が行った原子炉設置(変更)許可申請に対する安全審査(1次審査)の結果について、最新の科学技術的知見に基づき客観的な観点から安全審査(2次審査)が原子力安全委員会により行われる。原子力安全委員会は、実用発電用原子炉施設等の主要原子力施設の設置に係る安全審査について調査審議を行うに当たり、当該施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し、これを参酌することを目的として第2次公開ヒアリングが開催される。
 図1は原子力発電所の設置計画から運転開始までに必要となる主要な手続きを示したものである。また、図2は原子力発電所の計画段階から廃止措置段階までの流れにおける公開ヒアリングの位置付けを示したものである。研究開発段階で発電に供するもの及び再処理事業については第1次公開ヒアリングが省かれ、第2次公開ヒアリングのみ実施されている(図3参照)。第1次公開ヒアリングでは、新増設する原子力施設の様々な問題について意見を聴くこと、第2次公開ヒアリングでは施設の安全性に関して意見を聴くことが主要な目的である(表1参照)。なお、試験研究炉及び研究開発段階炉のうち発電に供しないものは設置についての公開ヒアリングは省かれる。
3.公開ヒアリングの実施内容
 第1次公開ヒアリングでは、対象となる原子力施設の設置者(原子力発電所の場合は電気事業者)が説明者となって施設内容などの説明を行う。これは、国の審議会(総合資源エネルギー調査会・電源開発分科会)が電源開発基本計画案について審査する前に、原子力発電所の設置等に係る諸問題について地元住民から意見を聴くためのものである。
 第2次公開ヒアリングでは、行政庁(原子力発電所の場合は経済産業省)が説明者となって安全評価の結果を説明する。具体的には、原子力発電所の建設に関して経済産業省から説明があり、続いて、地元の人を中心として学識者などを加えた意見陳述人による意見の陳述及び質問がなされ、それぞれに経済産業省から見解が述べられる。
 何れの公開ヒアリングも基本的には地元に会場が設けられ傍聴が可能である。また、公開ヒアリングの期日、場所、応募方法などはその都度官報に告示される。公開ヒアリングに関係する資料は、経済産業省、文部科学省、立地県の県庁、地元及び周辺市町村役場などにおいて、官報告示の日から縦覧できる。公開ヒアリングの状況は、速やかに報告としてとりまとめられ公表される。また、原子力安全委員会が安全審査の結果を内閣総理大臣に答申する際に、公開ヒアリングに際し提起された意見等の参酌状況についてとりまとめたものも公表される。
 なお、上述したような対話方式による公開ヒアリングが困難な場合には、地元において安全審査に関する担当官庁の説明会を開いた後、地元住民から文書による意見の提出を求めるなど、適切な意見聴取の方法がとられている。
4.公開ヒアリングの開催実績
 平成23年12月末現在、第1次公開ヒアリングは23回、第2次公開ヒアリングは28回開催されている。陳述人は第1次公開ヒアリングでは15名〜73名であり、第2次公開ヒアリングでは8名〜32名である。また、傍聴人は第2次公開ヒアリングで最大で934人(高速増殖原型炉もんじゅ)を記録している。第1次及び第2次公開ヒアリングの開催実績を表2及び表3に示す。
(前回更新:2002年5月)
<図/表>
表1 原子力発電所の第1次公開ヒアリングと第2次公開ヒアリングの違い
表1  原子力発電所の第1次公開ヒアリングと第2次公開ヒアリングの違い
表2 第1次公開ヒアリングの開催実績一覧
表2  第1次公開ヒアリングの開催実績一覧
表3 第2次公開ヒアリングの開催実績一覧
表3  第2次公開ヒアリングの開催実績一覧
図1 原子力発電所立地手続きの概要(川内原子力発電所3号機の例)
図1  原子力発電所立地手続きの概要(川内原子力発電所3号機の例)
図2 実用発電用原子炉施設の計画段階から廃止措置段階までの流れ
図2  実用発電用原子炉施設の計画段階から廃止措置段階までの流れ
図3 再処理事業の設置段階から廃止措置段階までの流れ
図3  再処理事業の設置段階から廃止措置段階までの流れ

<関連タイトル>
公開ヒアリング等の実施方法について(1982年11月) (10-03-02-12)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)
原子力施設の安全確保を図るための基本的考え方 (11-01-01-05)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2009年) (11-01-01-07)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):平成13年版 原子力安全白書(平成14年4月)、

(2)原子力安全委員会(編):平成21年版 原子力安全白書、第3編 原子力安全確保のための諸活動(平成22年4月)
(3)原子力安全委員会ホームページ:原子力施設の安全審査について、

(4)経済産業省ホームページ: 九州電力(株)川内原子力発電所3号機の設置に係る第一次公開ヒアリングの開催のお知らせ
(5)(社)火力原子力発電技術協会(編):火力原子力発電所における関連諸法規とその適用、(1988年6月初版)、p.3-16
(6)原子力安全委員会:公開ヒアリング開催実績(平成20年7月末現在)、

(7)経済産業省 資源エネルギー庁:九州電力(株)川内原子力発電所3号機の設置に係る公開ヒアリング報告書(平成22年7月)、

(8)原子力安全委員会:公開ヒアリングの状況報告[東京電力株式会社東通原子力発電所の原子炉の設置]平成22年10月
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