<概要>
立地が計画された
原子力発電所の周辺環境の調査は二段階で行われている。その一つは
環境影響調査で、予定地点に発電所が建設された場合の影響を、発電所の安全性だけでなく、他産業への影響、住民の生活に及ぼす影響等を広い視野から調査、評価を行う必要があり、「環境影響評価方法書」、「環境影響評価準備書」、「環境影響評価書」が経済産業省において審査される。
もう一つは設置許可申請書添付書類六の記載内容に関するもので、
安全評価のデータとなる調査である。これは「敷地」、「気象」、「地盤」、「水理」、「地震」、「社会環境」の6項目に分類されている。このうち「気象」と「地震」は安全評価上最重要項目であり、詳しい調査が行われる。
(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力
安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として
原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。上記事故を受けて原子力政策の転換が行われつつあり、原子力発電の動向は不透明な状況にあるが、環境影響評価を含め立地に係る手続きは原子力規制委員会が所掌することが決まっている。
<更新年月>
2007年09月
<本文>
原子力発電所の環境影響評価に係る
環境審査については、昭和52年に「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」を省議決定し、発電所の環境影響評価制度の整備・充実を図ってきた。その後、平成9年に環境影響評価法が新規に制定されたことに伴い、
電気事業法も整備し、法令に基づく発電所の環境審査がスタートした。より一層きめ細かな審査を行うため、環境省告示に定める「環境影響評価の基本的事項」の一部改正を受けて、発電所アセス省令を改正して「環境影響評価項目等選定指針」、「環境保全措置指針」等が見直されている。さらに、原子力発電所の立地における環境保全に役立てるため、「発電所に係る環境影響評価の手引」では、環境影響評価法及び電気事業法に規定する発電所の環境影響評価の手続きについて記載するとともに、発電所アセス省令で定める参考項目及び参考手法について解説されている。
1.環境影響評価
原子力発電所の立地に関しては、
原子炉設置許可(
安全審査)を申請する前に、その発電所の建設、運転に伴う環境への影響を調査・評価する必要がある。環境影響は発電所の安全性も含めて、その他産業への影響、住民の生活に及ぼす影響、景観からレクリエーション等に及ぼす影響等について、電気事業者は広い視野からの影響を調査する。
図1に立地、設計、建設段階における安全規制の流れを、
図2に原子力発電所立地に関する環境影響評価の手続きを示す。
経済産業省は電気事業法第46条の規定に基づき事業者から提出された環境影響評価方法書(方法書)の審査、環境影響評価準備書(準備書)の審査、環境影響評価書(評価書)の審査及び環境影響評価に際し必要な技術手法等の検討(これらを環境審査と総称している)を環境審査顧問会の助言を得て行っている。
環境影響準備書及び評価書に必要な環境要素、審査の指針については、「発電所に係る環境影響評価の手引(平成19年1月改訂、経済産業省
原子力安全・保安院)」に示されている。準備書及び評価書の審査は、「発電所の設置又は変更の工事の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選択するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」に規定する事業特性に応じて適切に区分された影響要因ごとに、環境要素に区分される選定項目について行う。それら指針の概要について
表1に示す。
以上のような内容に基づく環境影響評価手続きにより、これまでに電源開発調査審議会及び環境審査顧問会原子力部会で行われた原子力発電所の立地に伴う環境影響審査の一覧を
表2に示す。
2.原子炉設置許可申請のための環境調査
原子力発電所の設置に当っては、事前に国の厳重な安全審査を受けなければならない。安全審査の基本的な考え方は、その敷地が、
原子力施設との関連において、事故の要因となるような危険性がないことを確認することである。したがって敷地周辺環境の状況を把握することは重要であり、このための調査は、結果が安全評価に直接反映するので、「環境影響評価」よりさらに厳密性が要求される。
調査は、以下の必要条件を満たすことを基本的な考え方として審査を行う。
(1)大きな事故の誘引となるような事象が過去はもちろん、将来も発生する可能性がないこと。また、災害を拡大するような事象も少ないこと。
(2)原子炉の敷地には、その周辺も含め、必要に応じて公衆に対して適切な措置を講じることのできる環境にあること。
具体的な確認事項は以下の通りである。
a.敷地
敷地の地理的位置、広さ、敷地境界などの調査結果から周辺公衆との離隔の確保を判断する。
b.気象
敷地及び周辺の事前気象観測による風向、風速、積雪などを調査する。また、安全解析では風向、風速などを調べて統計処理を行い、大気拡散などを解析する。
c.地盤
敷地の地盤について試掘坑調査などを行い、地盤の性状を把握し、これらに基づいて地盤が十分に安定していることを確認する。
d.水理
敷地において
津波や洪水による影響を受けないことを確認する。
e.地震
敷地周辺における過去の地震や
活断層の調査結果などにより、耐震設計に考慮する地震を選定する。
f.社会環境
周辺の人口分布、産業活動、交通運輸などを調査し、原子力発電所の安全性に影響がないことを判断する。
<図/表>
<関連タイトル>
環境影響評価法 (01-08-01-03)
原子力安全条約(原子力の安全に関する条約:Convention on Nuclear Safety) (13-03-01-08)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局原子力調査室(監修):改訂7版原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版(1993年2月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):火力原子力発電所における関連諸法規とその適用、火力原子力発電技術協会(昭和63年6月)
(3)経済産業省:発電所 環境アセスメント情報サービス
(4)原子力安全・保安院:設計・建設段階の安全規制
(5)原子力安全・保安院:発電所に係る環境影響評価の手引(平成19年1月改訂)
(6)原子力安全・保安院:環境審査顧問会、原子力部会、議事要旨