<本文>
1.軽水炉使用済燃料再処理技術の開発
エネルギー資源の乏しいわが国は、
原子力発電所から発生する使用済燃料を再処理し、回収されたウランおよびプルトニウムを有効利用する核燃料サイクルの確立を図ることを基本的考え方とする。再処理施設は、その「かなめ」となる。核燃料サイクル概念図を
図1に示す。
日本の再処理施設の最初の運転は、1977年(昭和52年)9月に茨城県東海村にある動力炉・核燃料開発事業団(動燃)(現、日本原子力研究開発機構)東海再処理施設において、日本原子力研究所(原研)(現、日本原子力研究開発機構)動力試験炉(JPDR)の使用済燃料を用いたせん断から開始した。その後、平均
燃焼度28,000MWd/tの国内軽水炉の使用済燃料等の処理運転を通じて、(1)機械的前処理と
溶媒抽出(ピューレックス方式)の組み合わせの実用性、(2)ウランとプルトニウムの製品の品質仕様の充足、(3)放射能の環境への放出量の低減管理、等を実証してきた。また、運転途中で発生した酸回収蒸発缶・酸回収精留塔および濃縮ウラン溶解槽の故障、その他のトラブルへの対処を通じて、材料開発・改良技術、
除染技術、補修・点検技術の分野においても成果を上げ、2006年(平成18年)3月には、約30年に及ぶ電気事業者との契約に基づく役務処理を完遂した。
一方、日本原燃株式会社(日本原燃、JNFL)は、青森県上北郡六ヶ所村を拠点に、旧動燃人形峠事業所の
ウラン濃縮と東海事業所の再処理の両パイロットプラントの実績を元に、商業利用を目的とした大型核燃料サイクル施設の操業を行う。電気事業連合会所属の電気事業者(沖縄電力を除く)と日本原子力発電の出資により、1980年に日本原燃サービス株式会社として設立され、1992年に日本原燃産業株式会社と合併し、日本原燃が発足した。核燃料サイクル施設には再処理工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センターが含まれる(
図2参照)。
年間800トンUの処理能力をもつ六ヶ所再処理工場はフランスのSGN社(COGEMA社を経て現AREVA NC社)の技術導入により1993年(平成5年)に着工、2007年(平成19年)の操業を目指す。2006年3月末からアクティブ試験を開始しており、各工程では実際の使用済燃料を使用した運転性能確認試験が実施されている。
なお、東海再処理施設は、使用済燃料再処理の自主技術の確立を目指す上で、再処理技術の国内定着および技術開発基盤の育成など所期の目標を達成し、今後、新型転換炉「ふげん」のMOX使用済燃料、
高燃焼度燃料、
原子力船「むつ」の使用済燃料の再処理技術の実証、廃棄物処理技術の開発(ガラス固化処理技術の高度化、低レベル放射性廃棄物の減容化、安定化技術開発)等の高度研究開発と、六ヶ所再処理工場における再処理技術の活用支援(設計およびコンサルティング、技術情報の提供、技術者の研修など)が大きな役割となる。
1.1東海再処理工場建設までの経緯(
表1参照)
1955年代(昭和30年代)の始め、国内再処理の必要性と、再処理技術の確立、パイロット・プラントの建設について、原子力開発利用長期計画(原子力長計)は、基礎的研究と中間試験は原研が、パイロット規模(処理量200kg−500kgU/日)のプラントは原子燃料公社(原燃公社)に分担させるという方針であった。1961年(昭和36年)春の海外再処理調査団の報告などをふまえ、1962年(昭和37年)の原子力委員会再処理専門部会は、パイロット・プラントにかえて、実用規模再処理工場(処理量700kg−1tU/日)を外国からの技術導入によって、1968年(昭和43年)頃に建設することを決定した。
原燃公社は、この決定を受けて欧米の諸技術を比較検討した。1963年(昭和38年)イギリスのNCP(ニュークリア・ケミカル・プラント)社に再処理施設の予備設計を発注し、1966年(昭和41年)にはフランスのSGN(サンゴバン・テクニーク・ヌーベル)社に詳細設計を依頼した。1967年(昭和42年)10月、原燃公社の業務・組織は新しく設立された動力炉・核燃料開発事業団(動燃)に引継がれ、再処理施設に関する詳細設計はSGN社において続行された。1969年(昭和44年)1月、約3年有余の年月を経て詳細設計が完了した。
安全審査は、1968年(昭和43年)8月より原子力委員会再処理施設安全審査専門部会において開始され、設計の基本・環境への影響などについて審査がなされ、1970年(昭和45年)1月に内閣総理大臣の承認を受けた。その後、建設関係について認可を得、同年12月、SGN(サンゴバン)社および日揮株式会社と再処理工場主要施設の建設契約を締結、東海事業所のサイトでわが国最初の再処理工場建設のプロジェクトがスタートした。
東海再処理工場建設は、予定地隣接の米軍射爆場の返還、排気・排水に関する原子力委員会による安全性の確認等のいくつかの問題を解決しながら、1971年(昭和46年)6月に建設は着手、1974年(昭和49年)10月に設備工事および通水試験を終了、1975年(昭和50年)3月には化学試験を終了、同年9月からウラン試験を開始した。ウラン試験は、工程ごとに実施した第1次試験、改造後の第2次試験および第3次試験で構成され、1977年(昭和52年)3月に終了した。ウラン試験結果は科学技術庁原子力安全局長に報告され、核燃料安全専門審査会再処理部会において1977年(昭和52年)4月4日にはウラン試験の所期の目的を達成した。なお、ウラン試験を経てホット試験を開始するに当たって、核不拡散に対して強硬な姿勢をとる米国政府と平和利用政策を全面に押す日本との間で、首脳レベルの交渉、専門家による日米合同調査などへ、再三の交渉を重ねて合意が得られ、再処理工場運転に関する日米共同決定を見るに至っている。
1.2東海再処理工場の運転と実績
1977年(昭和52年)9月22日、東海再処理工場は、原研の動力試験炉(JPDR)の使用済燃料を用いて、最初のせん断を開始した。ホット試験は、JPDR試験・BWR試験・PWR試験・総合試験に分けて実施され、1980年(昭和55年)12月2日核燃料安全専門審査会再処理部会において、ホット試験は所期の目的を達成したと認められた。一方、1979年(昭和54年)12月、
原子炉等規制法の改正施行により、従来の「施設検査」に加えて、新たに再処理施設の「性能」についての検査(使用前検査)を行い、東海再処理工場は1981年(昭和56年)1月から本格操業運転を迎えた。東海再処理工場では、1977年(昭和52年)9月22日から2006年(平成18年)3月末までに1,116トンの使用済燃料を処理しており、その内訳はJPDR:約9t、BWR:約644t、PWR:約376t、ATR(UO2):約68t、ATR(MOX):約20tである。これまでの運転実績を
図3に示す。
この間、酸回収蒸発缶・溶解槽・酸回収精留塔等の大型機器の腐食トラブルや、燃料導入コンベアの機械的トラブル等の機器の交換・補修、工程や設備の改良・改造、環境への放出放射能低減化のためのクリプトン回収技術開発施設の建設など、予防保全の観点から計3回の計画停止期間を設けて設備の信頼性、稼働率の向上を図った。1997年(平成9年)3月、アスファルト固化処理施設の火災・爆発事故が発生により、東海再処理施設は運転を停止した。その後、安全性確認、安全性向上のための改善措置を行った後、茨城県および東海村の了解を得て、2000年(平成12年)11月に運転を再開した。東海再処理工場の主工程説明図を
図4に、主要な技術開発項目を
表2に示す。
1985年(昭和60年)からの種々の改造・改善により東海再処理工場の運転は安定した。しかし、「ふげん」・「もんじゅ」・「常陽」燃料用プルトニウムの供給のために処理量を増加させる必要が生じた。東海再処理工場の設計処理量は最大0.7トン/日であり認可上の年間最大処理量は210トン/年であるが、保守作業・
定期検査・核物質在庫調査(PIT)のため、年間の運転日は170日と計算され、運転中の稼働率は60%とすると年間の処理量は70トンとなっていた。施設の稼働率をあげることを目的に計画停止期間が設けられ、主要工程、および機器設備に改善改良が行われた(第1回計画停止:1988年度(昭和63年度)〜1989年(平成元年)、第2回計画停止:1992年(平成4年度)〜1993年(平成5年)、第3回計画停止:1998年(平成10年)〜1999年(平成11年)。第1回計画停止により、以降年間処理90トン体制に近づくなど、一定の成果が挙げられた。
また、高速炉使用済燃料は、プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)で、軽水炉と比べて燃焼度が高く、プルトニウムや
核分裂生成物(FP)の含有率も高く、
燃料棒の形状も異なることから、東海再処理工場では1975年代(昭和50年代)から軽水炉再処理で実績のある湿式の「チョップ・アンド・リーチ/
ピューレックス法」を改良した、使用済燃料に応じたプロセス条件の設定、プロセス条件の開発などの研究も進められた。
2. 六ヶ所再処理工場操業開始の現状
現在、日本原燃・六ヶ所再処理工場では操業前の機器の動作確認、性能の確認、機器の故障修理、また、試験を通じた運転手順書の確認、運転員や保修員の技術力の向上など、段階的に試験運転を行っている。操業前試験は通水作動試験(2001年〜2004年)、化学試験(2002年〜2006年)、ウラン試験(2004年〜2006年)、アクティブ試験(2006年〜2007年)にわけられ、2006年3月31日からアクティブ試験が開始された。アクティブ試験では使用済燃料の種類・燃焼度・冷却期間を考慮して5つのステップが設けられ、段階的に取扱量が増やされる。核分裂生成物の分離性能、ウランとプルトニウムの分配性能、環境への放出放射能量、放射性廃棄物および固体廃棄物の処理能力などの確認、施設の
安全機能および機器・設備の性能、工場全体の安全機能および運転性能の確認を行う (
図5参照)。なお、試験ではPWR燃料・約210トン(約460体)、BWR燃料・約220トン(約1,250体)、合計約430トンが使用済燃料として使用される予定で、2007年(平成19年)8月、本格操業開始を目指している。
<図/表>
<関連タイトル>
再処理の概要 (04-07-01-01)
軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
再処理技術開発の変遷(歴史) (04-07-01-04)
再処理技術の現状 (04-07-01-06)
東海再処理工場 (04-07-03-06)
六ヶ所再処理工場 (04-07-03-07)
日本の原子力発電開発の歴史 (16-03-04-01)
日本のウラン探鉱の歴史 (16-03-04-02)
<参考文献>
(1)JAEA 再処理技術開発センター:「役務運転」から「研究開発運転」へー東海再処理施設新たな再処理研究開発の展開へー
(2)動力炉・核燃料開発事業団:動燃30年史
(3)電気事業連合会:原子力・エネルギー図面集 2005−2006 第7章「原子燃料サイクル」
(4)動力炉・核燃料開発事業団:よみがえるエネルギー「使用済み核燃料の再処理」(1994年11月(改))
(5)日本原燃株式会社:
http://www.jnfl.co.jp/
(6)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 核燃料サイクル技術開発部門:
http://www.jaea.go.jp/04/cycle/index.html