<本文>
1. 再処理の起源と意義
ウランの
核分裂の発見は、Hahn,O., Strassmann, F., Meitner, L.によるものであった(1939年)が、その連鎖反応の可能性から、1940年代には米国等で核分裂連鎖反応の軍事利用が追及された。天然ウラン中の核分裂性核種
235U(熱中性子による核分裂反応断面積;577バーン)の同位体組成が0.7%と低いので、高濃度の
235Uを生産するには、高度な同位体濃縮技術と莫大なエネルギーを必要とした。一方、同位体組成99%の
238Uが熱中性子を吸収すると
239Uが生成する(中性子吸収断面積;2.73バーン)。
239Uは、連続したβ
-壊変により新しい核種
239Npそして
239Puに変化する。
238U(n,γ)
239U [β
-半減期23.5分] →
239Np [β
-半減期2.36日] →
239Pu
この
239Puも核分裂連鎖反応を可能とする事が判明して、
239Puの軍事利用が注目されるようになった。その結果、原子炉で中性子照射(燃焼)したウラン(U)から、プルトニウム(Pu)を精製分離−回収する方法が、Seaborg, G. らによって開発された(リン酸ビスマス共沈法)。このPuの化学分離法が「再処理」の起源である。後の軍事用再処理では、PuのみならずUの有効利用のための分離回収も行われた。1970年代の米ソ冷戦終了後も、いくつかの国で軍事用再処理は行われている。
人類の長期で有力なエネルギー源として原子力発電が実現したが、その第一ステップは技術的に実証された熱中性子炉が牽引した。熱中性子炉の中では、上記反応により非核分裂性の
238Uから
239Puが効率的に生成するので、ウラン資源の有効利用の観点から、熱中性子炉で燃焼させた核燃料(
使用済燃料[SF]と云う)から
239Puを取り出して、高速中性子炉で燃焼させる「
核燃料サイクル」の概念が確立した。巧みに設計された高速炉では、核分裂反応で消費するUやPuよりも多くの
239Puを(
238Uから)生成する。この
高速増殖炉は、人類が必要なエネルギーを1,000年以上にわたって提供出来るので、夢の原子炉と呼ばれた。
図1に示した核燃料サイクルを完成するためには、SFから、高速炉に装荷するPuと残留Uを分離回収するプロセスを完成しなければならない。この重要な化学工程が再処理であり、軍事用再処理と共通する技術なので、機密性の高い技術とされてきた。原子力発電事業における再処理は商用再処理とも云われ、高い経済性と安全性が求められる。
SF中には、UとPu、及びPuが中性子を吸収して生成した超プルトニウム元素(TPE)、そして多くの
核分裂生成物(
FP)元素が含まれる。再処理では、これらの成分を溶液に溶かし出す。そこからUとPuを回収した残りの大部分の元素(核種)は、高レベル放射性廃棄物として処理される;その過程で希ガスのような気体は大気中に放出される。現在は、
高レベル廃棄物は
ガラス固化体に変換されて保管されている。高レベル廃棄物ガラス固化体は、SF自体に比べ長期間の安定性に優れ、体積も数分の一に減少するので(注1)、長期間の保管/処分に適している。再処理は、このように廃棄物処理・処分の観点からも有意義である。
高速炉ではU,Pu以外にTPE(SF中にはアメリシウム[Am]、キュリウム[Cm]が含まれている)も燃焼することから、20世紀後半になって、それを利用した廃棄物処分概念;核種分離・変換法、が提案された。すなわち、高レベル廃棄物の地層処分では、その中に含まれるTPEの半減期が非常に永いために、廃棄物の高い放射能毒性(ここでは、ピッチブレンド・ウラン鉱石の毒性よりも大きいと云う意味である)は数万年以上も続く。そこで、TPEをSFから分離回収して高速炉で燃やせば、残りの高レベル廃棄物の毒性は約千年後に十分低くなる(
図2)。この事は、地層処分時におけるガラス固化体及びその中に含まれる放射性核種のふるまいに関する種々の解析あるいは処分場の性能評価の対象期間を、約千年間に短縮することを意味する。さらに、地層処分後の千年間では、
90Srと
137Csが主要な放射線(発熱)源であり、これら核種をも分離し、独自の処理又は保管を行えば、残りの廃棄物はもう高レベル廃棄物とは云えない。このような様々な核種の分離も含む新しい再処理は、U,Puの他にTPEというエネルギー資源の有効利用(これは元のウラン資源のほぼ完全な利用である)を導く。さらに、廃棄物処分という「地層への人的負荷」を軽減するので、将来世代への負の遺産を低減し、コストの削減と安全性の向上、そして環境への負荷の低減ができるとされている。
(注1):再処理では、高レベル廃棄物以外にも、様々な形態、放射能レベルの廃棄物を生じることに注意すべきである。
2.再処理法の変遷
初期の軍事用再処理では、まだ特性が十分に解っていないPuの分離・精製が目的であったので、化学分析法の主流であった沈殿法が検討され、米国ではリン酸ビスマス沈殿法(1944年、Hanford T-Plant, B-Plant)が、旧ソ連ではウラニル酢酸塩沈殿法(1948年、Chelyabinsk-40, Plant B)が採用された。これらはバッチ法であり、Uは回収されず、廃棄物発生量も多かったので、大量処理には不適であった。米国では間もなく、連続処理が可能な
溶媒抽出法に代わった(1951年、Hanford REDOX-Plant)。英国でも独自に溶媒抽出法が開発され、BUTEXプロセスが採用された(1952年、Windscale B204)。REDOX法はmethyl isobutyl ketone(hexone)溶媒を、またBUTEX法はdiethylene glycol dibutyl ether溶媒を用いる。どちらの溶媒もU, Puの硝酸塩を選択的に溶かすが、U, Puの抽出率を増すためには、水溶液の硝酸イオン(NO
3-)濃度を上げる必要があった(塩析効果)。これらの溶媒は硝酸によって酸分解し易いので、塩析剤としては硝酸ではなく、硝酸アルミニウム等が用いられた。その結果、これらの金属塩を多量に含んだ廃液が生じ、硝酸に強い抽出溶媒が探求された。硝酸はリサイクル使用出来るので、廃液量を飛躍的に減少させることが出来る。米国では、耐酸性に優れた
リン酸トリブチル:(C
4H
9O)
3P=O、(
TBP)が次の候補となった(
図3)。TBPはマンハッタン計画の中で検討された多くの抽出溶媒の中の一つであったが、アイオワ州立大学のSpedding, F. 教授のグループが、米国化学会の学会誌にTh(IV)、Ce(IV)等の抽出に利用できることを発表して見直された(Warf, J.C.ら1949年)。TBPの特徴は、希釈溶媒に薄めることにより、抽出性能が良くなることである。現在、ほとんどの再処理施設で用いられているPUREX法(
ピューレックス法)は、ケロシンまたはn−パラフィン等に希釈したTBPを抽出溶媒として用いる(
表1)。工学的PUREX法(向流多段方式のフローシート)は、GE社のKnolls Atomic Power Lab.(KAPL)及びOak Ridge National Lab.(ORNL)において開発された。
PUREXの名称は、Plutonium and Uranium Recovery by Extractionに由来する。
リン酸ビスマス沈殿法あるいはPUREX溶媒抽出法の原理的知見は、実験室規模で見いだされた。これらの方法を工学プラントにまでスケールアップするには、試験施設(パイロット施設)を造って、様々な試験を行わなければならない。試験の主な目的をあげると、
(1)想定するプロセスの実現可能性を確認する。
(2)生産工場の設計と運転に必要な定量的工学データを取得する。
(3)小規模な開発作業では認知されない化学的、工学的問題点を明らかにする。
(4)より大規模な評価に必要な、ある量の製品を供給する。
いくつかの具体例を
表2に示す。ORNLがその為に重要な役割を果たしたが、ORNLのリン酸ビスマスプロセスでは、米国で最初の数十グラムのPuを沈殿分離した。照射済みウラン金属1トンには、通常、約250グラムのPuが含まれている。
1950年代には軍事用大型施設が次々と建設された(1954年 Savannah River Plant, 1956年 Hanford Purex Plant, 1958年
UP-1)。その後の商用再処理施設は全てPUREX法に基づいている。1960年代以降、商用再処理施設が次々と欧米各国で建設されるようになった(
表3-1、
表3-2)。商用発電炉では、経済性の追求から装荷燃料の燃焼度の増大が図られる。軍事利用における照射済み燃料(金属ウラン)では、生成するプルトニウムの95%以上を
239Puとするために、燃焼度を200〜1,000MWD/トンUと低く押さえる。製品PuのFP除染係数は、核弾頭性能の要件から、〜109が要求された。一方商用
軽水炉の場合、燃料(UO
2)の燃焼度を45,000 〜55,000MWD/トンUと高めている。その結果、燃料中に生成するPuのみならず核分裂生成物の量も非常に多くなり、再処理分離プロセスにおいては(U, Pu製品に対して)核分裂生成物の極めて高い除去性能が要求される。さらに、処理容量の大規模化や発生する廃棄物量の低減化も重要な課題である。初期のリン酸ビスマス沈殿法からPUREX法への移行による廃棄物量低減化の例を
図4に示す。
我が国の再処理技術開発は、こういった背景のもと、1965年には旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)にPUREX工程のパイロット施設が建設され、1969年までに約600kgのSF処理により約200gのPuを分離した。処理工程の構成図を
図5に示す。1971年からフランス、サン・ゴバン社の主導で旧動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)東海再処理工場の建設が始まり、1974年に完成した。しかし、米国の事前合意を得るために長期間の交渉を要し、ホット運転は1977年に始まった。
世界全体のこれ迄の再処理実績をみると、軍事利用では約80万トンの照射済みウランが再処理され、民生用SFは約10万トンが再処理された。再処理されずに貯蔵されている民生用SFは、現在約20万トンである。我が国では、東海再処理工場において1,116トンのSFが処理された。
核種分離・核変換概念に基づく核燃料サイクルにおける再処理は、先進的(advanced)分離プロセスとも呼ばれ、世界的に様々なプロセスが開発されてきた。その主な特徴は、
1)強い
核拡散抵抗性が求められ、特にPu、Npの単独分離は避ける。
2)アクチノイドの有効利用とそれらの廃棄物への混入を避けるため、全ての超ウラン元素(TRU)を分離回収する。
3)主な発熱源である
90Srと
137Csを分離回収する。
4)非常に寿命の長い
99Tc,
129I,
135Cs等のFP核種も分離する。
そのため、従来のTBP-PUREX法にとらわれないで、新規抽出剤の開発や、新たな処理方法の開発が世界的に広く行われている。
3.再処理の要素プロセス
3.1 溶解工程
通常、発電炉の燃料要素はウランを被覆管で密封してある。U燃料としては、ウラン金属や二酸化ウランが用いられる。例えば、Pu生産用グラファイト炉では、U金属−アルミニウム被覆管、Magnox炉では、U金属−Magnox被覆管(Magnoxは、マグネシウム99.9%、ベリリウム0.1%の合金で、名前は Magnesium non-oxdizingに由来する)、軽水炉では、UO
2ペレット−Zircalloy被覆管が用いられている。Zircalloyは、98%以上のジルコニウムにスズ、クロム、鉄、ニッケル、ハフニウム等が含まれる。燃料を溶解するにはまず脱被覆が必要であり、被覆管を溶解したり、機械的に取り除いたりする。軽水炉燃料では、剪断機を用いて燃料棒を数センチ長さに切断する。その後、燃料棒の剪断片を溶解槽に入れてUO
2のみを熱硝酸で溶解する。溶解槽は、我が国の東海再処理工場や英国のTHORP工場では、バッチ(回分)式溶解槽が用いられ、フランスLa Hague工場や日本の六ヶ所再処理工場では、連続溶解装置(水車型)が用いられている。UO
2ペレットの硝酸による溶解反応は次式で表され、a, b, c, dの値は硝酸濃度や温度に依存して変わる。
UO
2 + aHNO
3 → UO
2(NO
3)
2 + bNO + cNO
2 + dH
2O
3.2 清澄工程
SF中には多くのFP元素が様々な化学形、形態で存在するので、硝酸で燃料を溶解した後に溶解しなかった残渣が残る。この不溶解残渣の量とその組成は、溶解した燃料の種類や燃焼度、溶解条件に依存する。これらは、通常微細な粒子を含むので、次の溶媒抽出工程に入ると、液々界面に吸着・蓄積して二相分離を妨害して運転トラブルや分離性能の劣化を起こす、または溶媒の局所的な放射線損傷を誘起する。そのため、抽出工程の前段で不溶解残渣を除去する清澄工程があり、遠心分離機が使われる。
3.3 分離工程
ここでは、溶媒抽出工程を例に説明する。溶媒抽出工程の単位プロセスは、供給液(フィード)から抽出溶媒へ「目的成分」を抽出する抽出ステップ、抽出した成分を含む溶媒中に抽出された「目的外の成分」を洗い落す洗浄ステップ、抽出した成分を含む溶媒から「目的成分」を水溶液中に戻す逆抽出ステップより成る。この3つのステップから成る工程を1サイクルと云う。
図6に1サイクルの向流型溶媒抽出工程を示す。再処理では、目的のU製品とPu製品を得るために、複数のサイクルが組み合わされている。PUREX(TBP)プロセスの場合、次の三つの目的を持つサイクルを組み合わせる、
1)SF溶解液からUとPuのみを共抽出して、大部分のFPから分離する「共除染工程」。
2)UとPuの相互分離を行う「分配工程」。
2)分離されたU及びPuをそれぞれ精製する「精製工程」。
1)と2)は、1サイクルで両方の目的を果たす場合と別々のサイクルとする場合がある。
3)の精製工程の場合、初期の再処理工場では、UとPuそれぞれのフラクションについて、2サイクルの精製操作を行うことで製品の基準性能を満たしていた。その結果、全工程は合計で5又は6サイクルの抽出工程から構成された。その後、抽出器性能の向上、溶媒の性能管理技術の向上、工程条件の最適化、及び工程管理技術の進歩によって抽出サイクルの性能が向上し、例えば六ヶ所再処理工場の分離工程は3サイクルの工程から成る。今後も技術開発はサイクル工程数の低減化に向かうであろう。
U, PuのTBPによる抽出反応は次式で表される、
UO
22+ + 2NO
3- + 2TBP → UO
2(NO
3)
2・2TBP
Pu
4+ + 4NO
3- + 2TBP→Pu(NO
3)
4・2TBP
UとPuの相互分離(分配工程)は、Puを抽出される4価;Pu
4+から抽出され難い3価;Pu
3+に還元することで達成できる。この還元操作には、ウラナス;U
4+等の還元試薬を用いる方法、あるいは電極反応を用いる電解法が知られている。
商用再処理工場の分離工程においては最高の性能が要請され、そのための技術対応には次のものがある。
1)解析用シミュレーションコードの開発とその応用によるフローシートの最適化
2)抽出器等工程機器の性能アップによる処理容量や分離性能の向上(パルスカラム、遠心抽出器、溶媒洗浄・回収技術、高精度液送システム等)
3)廃棄物量の低減のための、塩フリーな化学試薬、電解法、リサイクル方式の採用。
4)高度な工程監視・制御システムによる工程異常の低減。
解析用シミュレーションコードは、最適な工程条件を求める上で必須の道具である。これ迄に多くのPUREX工程解析コードが開発されてきたが、1960年代初期に開発された計算コードの主な特徴を比較して、
表4に示す。
高放射線場にある溶媒抽出工程では、抽出溶媒は絶えず放射線分解を起こす。問題は、TBPの分解と希釈溶媒の分解に分けて考えられ、前者ではTBPのブチル鎖が切れて生成するリン酸ジブチル(DBP)とリン酸モノブチル(MBP)の有害な効果が大きく、後者では希釈剤の物性変化等が知られている。劣化した抽出溶媒の性能を回復するために、NaOHやNa塩水溶液による洗浄、酸による洗浄、及び溶媒の蒸留法による精製が行われている。これら操作の効率は、抽出工程の分離や除染の性能に大きく影響する。
3.4 製品加工工程
分離工程からは、U, Puの硝酸水溶液が得られる。その後の輸送や燃料への処理の視点から、通常はこれらを濃縮・脱硝・加熱処理して酸化物(UO
3, PuO
2)とする。
最近、国際的に強い要請となった核拡散抵抗性を増すため、純粋なPuの単離製品を生成しない工程が開発された。例えばU, Puそれぞれの硝酸溶液を混合してから脱硝する方法(日本原子力研究開発機構;JAEAのマイクロ波加熱脱硝法)、及び抽出工程からU+Pu(+Np)の混合体として逆抽出する方法(AREVA社のCOEX法、Energy Solutions社のNUEX法)がある。
4.再処理の課題
SFの再処理という操作は、当初は軍事用Pu製造技術として機密扱いであったが、現在は、分離技術自体は比較的良く知られている。しかし、軍事用Puを得ようとする際に用いられるであろう事も事実である。再処理工程は、軽水炉等上流の発電炉の型式及び燃焼度など運転方式の影響を受ける。そして、燃料体中に閉じ込められていたU, Pu及びFPを開放(一部の放射能は環境中に放出)し、新たな燃料と放射性廃棄物を生じる。高燃焼度SFから得られるPu製品は、軍事用には適さないが、テロの目的に用いられる可能性はある。この様な特徴を有する再処理という操作は、純粋な科学技術上の問題(遠隔化、自動化、安全性等)と同時に、国のエネルギー政策とその戦略、取り出されるPuの特殊核物質としてのポテンシャルに対する視点、地球環境保護との関係、そしてIAEAや米国(国際情勢)の影響、等を多面的かつ必然的に受ける。従って、再処理は、それぞれの国が21世紀における持続的な(sustainable)発展を目指して、その国独自の方法で進める選択肢の中の一つと言える。以下にその中のいくつかの要素について説明する。
4.1 世界情勢との関係
我が国の商用発電炉は全て米国起源の軽水炉であり、そこで使う低濃縮ウラン燃料及び生じたSFの再処理は、これ迄、米国の核物質政策の関与を強く受けてきた。その米国の政策自体は、政権の交代等の影響により二転三転してきた。
表5-1、
表5-2に、米国再処理政策の変遷をまとめた。我が国はIAEAの活動を積極的にサポートしており、IAEAの核物質管理の諸提案も重視している。
4.2 核物質管理・
核不拡散
発電炉で使用している〜5%の低濃縮ウランは、軍事利用・核拡散上は価値が低いので、従来通りの核物質管理で今後も対応できると考えられる。一方、SFの再処理によって分離されたPuについては、それが兵器級Pu(
239Pu >94%)でなくても、非平和利用のポテンシャルが大きいために、保障措置の厳しい実施が求められる。もちろん、SFの再処理自体を禁止する政策をとる米国の関与は大きい。再処理を実施する場合の技術課題には、
1)再処理工場・工程内における
核物質計量管理システムの性能が、IAEAの基準を満たしている事。すなわち、核物質の計量を適時に行える事、その際の計量誤差等によって生じるPu不明量(MUFと呼ばれる)が有意量(8kg)を超えない事、そして処理フロー内から、Puが探知されずに抜き取られない設計、等が要求される。
2)再処理の分離法自体が、大きな核拡散抵抗性(proliferation resistance)を有している事。例えば、Puが常にUあるいは強い放射性核種と共存することによって接近・運搬/核兵器への転用を困難にする、等の方式が考えられている。
3)核セキュリティ対策が十分である事。例えば、内外からのテロ攻撃を想定し、それに対して堅牢な施設の設計と、優れた監視等の防護システムが要求される。
4.3 安全確保の重要性
再処理では、核燃料物質を含む多量の放射性物質が工程内に分散して存在するので、何らかの原因でそれらが環境に放出されると、周辺住民に大きな放射線影響をもたらす。従って、どの様な異常時においても、そういった物質を徹底して閉じ込める事(密閉系)が大原則である。装置・機器は、放射能レベルに応じて分割・管理された建家、区域内において、密封性の高い構造体の中に置かれている。高密封の構造体には、グローブボックスや重遮へいのコンクリートセルがある。区域内の空気は負圧管理され、気流は常に放射能レベルが低い区画から高い区画に向かって流れるようになっている。換気は、各区域に応じた
<図/表>
<関連タイトル>
軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
再処理技術開発の変遷(歴史) (04-07-01-04)
再処理の経済性 (04-07-01-05)
再処理技術の現状 (04-07-01-06)
世界の再処理工場 (04-07-01-07)
再処理の安全と規制 (04-07-01-08)
新型転換炉(ATR)燃料の再処理 (04-07-01-09)
<参考文献>
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