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<概要>
 1945年、米国ハンフォードで原子爆弾製造を目的としてプルトニウム生産炉照射燃料を化学分別沈澱法で再処理し、プルトニウムを分離した。1940年代末、湿式および乾式の各種再処理法が研究されたが、安定性と経済性に優れたピューレックス (溶媒抽出) 法が多く用いられるようになった。発電用原子炉の増加に対応してピューレックス法を採用した再処理工場が建設された。経済性の向上を目指した軽水炉燃料の燃焼度の向上に応じ、使用済燃料中の比放射能およびプルトニウムの含有量が増大し、これに対応して再処理技術の改良が重ねられてきた。
<更新年月>
1999年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 再処理技術は、1944年米国で原子爆弾製造を目的にプルトニウム生産炉の燃料からプルトニウムを回収することからスタートした経緯があり、核拡散防止の観点からもウラン濃縮技術と並んで国際的に機密に属する技術である。このように、再処理技術開発は軍事目的から出発したが、その後の平和利用を目的とした発電用原子炉開発に対応し、再処理技術も変遷してきた。技術開発の変遷経過は次の四期に分けることができる。
(1) 第一期 (1940年代)
1945年、プルトニウム爆弾製造目的で米国ハンフォードのプルトニウム生産炉(ガス炉)で照射した天然の金属ウランから、プルトニウムを回収する施設の運転が開始された。照射燃料の燃焼度は 500MWd/t 程度で、プルトニウムの含有量は僅か100ppm程度であった。
 ウランを回収する必要はなく、高品位のプルトニウム239を単独分離することを目的として化学分別沈澱法が採用された。
この化学分別沈澱法は、リン酸ビスマスを沈澱担体としてプルトニウムを共沈分離し、さらにフッ化ランタンを沈澱担体として、プルトニウムの沈澱精製を繰り返す方法である。此の方法は処理操作が複雑で、薬品の多量の添加とウランを回収しないことにより放射性廃棄物量が増大することに難点があった。
(2) 第二期(1950 〜1960年代前半)
 化学分別沈澱法に代わる種々の再処理技術の研究が進められた。
 種々の溶媒抽出法が米国原子力研究所で研究され、ハンフォードにおいてヘキソンを抽出剤とするレドックス法、サバンナリバーにおいてジブチルカルビトールを抽出剤とするブテックス法およびオークリッジにおいて燐酸トリブチル(TBP) を抽出剤とするピューレックス(PUREX)法が開発され、それぞれ、パイロットプラント規模の試験が行われた。
 このほか、液体金属抽出法、溶融塩抽出法、溶融塩電解法、高温化学法、ハロゲン化物揮発法等の乾式再処理法が米国を中心に研究されたが、工程上の装置、機器に使用する材料に耐蝕性に富んだものが得られず、また、製品の純度、安全性にも問題がありこれらの研究は中断された。
 一方、軍事用ガス炉を改善して、燃焼度を向上( 〜3,000MWd/t) させ、軍事用プルトニウムを回収しながら発電することが英国と仏国で実用化された。これらガス炉の使用済燃料再処理に溶媒抽出法が採用されるようになり、この手法の中でも、安定性、安全性および経済性に優れたピューレックス法が再処理技術の主流となり、仏国(1958年)、英国(1964年)でガス炉燃料の溶媒抽出法の再処理施設が稼働しはじめた。
(3) 第三期(1960 年代後半〜現在)
軍事用プルトニウム生産を考えず、原子力発電の経済性向上を目的とした軽水炉が米国で開発された。また、カナダでも重水減速冷却炉が商業規模で実用化されたが、現在では軽水炉が世界における原子力発電炉の主流となった。かくして、軽水炉の使用済燃料から回収されるウラン、プルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」の端緒が開かれ、再処理が核燃料サイクル上で重要な役割を占めることとなった。
軽水炉燃料には3%濃縮ウランが用いられ、天然ウラン燃料のガス炉と比べ燃焼度も約10倍の 30,000MWd/t程度となり、プルトニウムおよび核分裂生成物の含有量も1桁増大した。ガス炉の燃料再処理に採用されたピューレックス法は、軽水炉燃料再処理にも引き継がれた。ベルギー(1966年)、ドイツ(1971年)、仏国(1976年)および日本(1981年)で軽水炉燃料用再処理施設が建設され、操業を開始した。
 しかしながら、軽水炉使用済燃料の比放射能とプルトニウム含有量の著しい増加によって、ガス炉使用済燃料では問題のなかったピューレックス再処理工程に種々の難点が現れ、各再処理工場にトラブルが発生し、稼働率も低下したので、工程および装置機器に関して下記に示すような改善がなされてきた。
(a) 不溶性核分裂生成物 (ルテニウム、パラジウム、ロジウム等の白金族元素) の増大に伴うトラブルが発生したが、効率的な分離器 (パルスフイルター、遠心清澄器) の開発が進められている。
 (b) 比放射能の増大に伴い、避けることのできない抽出溶媒の放射線劣化を防止するために、接触時間の短い溶媒抽出器 (パルスカラム、遠心抽出器) の開発が進められた。
 (c) プルトニウム濃度が高くなり、臨界制御上からの制約が特に厳しい溶解工程における中性子吸収材の採用および連続溶解槽の開発が進められている。
 (d) 揮発性の核分裂生成物(ヨウ素など)の効率的分離、ガラス固化処理などの放射性廃棄物に関する新技術開発が進められてきた。
(4) 第四期(今後)
 軽水炉燃料は、今後も燃焼度が高くなり、プルトニウムの含有量も増加する傾向は続くと思われる。また、高速炉の実用化も2030年頃と想定されているが、燃焼度が高くプルトニウム富化度の高くなった燃料の再処理にピューレックス法を適用するには、溶媒の放射線劣化防止に難点がある。この難点を再処理工程および装置の改善により克服するか、湿式法を避けて乾式再処理法を開発するか、いずれにしても今後の技術開発が必要である。
<関連タイトル>
軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
世界の再処理工場 (04-07-01-07)
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
再処理廃棄物の特性 (04-07-02-05)
高レベル廃液の処理 (04-07-02-07)

<参考文献>
(1)清瀬量平: 原子力化学工学(第3分冊)使用済燃料とプルトニウムの化学工学;(第4分冊) 燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学 (1983)。
(2)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会(平成2年6月)
(3)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)
(4)科学技術調原子力局(監修):原子力ポケットブック1994年版、日本原子力産業会議(1994)
(5)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 平成6年版、平成6年11月
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